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第二章
買い物
百貨店に着くと、大勢の買い物客で賑わっている。
「すごい行列ね」
「本当…何があるのかしら」
フェリシアとベアトリーチェは、今日の目的を忘れて行列の先を見て驚いた。
「な…なんで、貴方がそこにいるのよ」
「仕方がないだろう。先輩から頼まれたんだ。今日は当直だから、非番の俺が代わりに並んでいる」
チッと舌打ちした姿が憎らしいと思ったが、彼は今日は休暇なのに先輩騎士の頼みごとを押し付けられたらしい。
「なんだ?何かあったのか」
「特に何もありませんから」
レオンハルトがベアトリーチェに何事かと訊ねてきた。だが、ベアトリーチェはレオンハルトの手に持っている物の方が気になってそちらに視線が釘つけになってしまう。
「あーーーーっ…なんで…」
咄嗟にそれを見つけたロッドが大声で叫んだ。
ロッドは、最近ベアトリーチェの護衛に付いた『ゴロツキ』である。
勿論本当のゴロツキではないが、ベアトリーチェを主家の令嬢として扱わない事からベアトリーチェの中では『ゴロツキ』扱いなのだ。
「ああ、これの事か。うちの若手の騎士達へのボーナス代わりに注文しておいた物だが…」
それがどうかしたかと言わんばかりにレオンハルトは頭を捻ってみせた。
ロッドが並んでいたのはまさにそのためのものだった。
本日発売の箱庭ゲームの新作。
その為に非番に先輩命令で態々行列並んでいた。
今フロンティアでは絶大な人気を誇っているゲーム。
本のような形で、開くと物語の中に入って実際にプレイできるという代物。
ベアトリーチェは初めてその箱庭ゲームを体験した時の事を思い出していた。
その時は、お店にあった『体験コーナ』に置かれている試供ゲームを体験してみたのが…。
大変な目に遭ったことを未だに覚えている。
箱庭ゲームのタイトルは『恐怖の館』だった。
今思えばお試しなのに、どうしてそんなものを体験コーナに置いていたのか不思議なほどで、フェリシアとそのゲームに入り込んで、次々と出てくるお化けに追いかけられた記憶しかない。
どういったストーリーだったのかは、全く覚えておらず、ただひたすた怖いだけのものだった。二人が逃げ惑っている内に時間内にゴールにたどり着けなかったから、強制的にゲームオーバーとなって、元の世界に放り出された。
だから、ベアトリーチェは箱庭ゲームが嫌いになった。
その新発売の箱庭ゲームをほくほく顔で買いあさっている父レオンハルトに冷たい視線をお見舞いしていると、リリエンヌが睨みつけるように、
「またコレクションを増やすおつもりなのですか」
と小言を言い始めた。
既にレオンハルトの部屋にはたくさんの箱庭ゲームがクローゼットを占拠している。その内、邸内にゲーム専用の倉庫を建てそうな勢いなのだ。
それに、ベアトリーチェとフェリシアがそのゲームの所為で、その夜眠れず両親の部屋に突撃して以来、二人は別々の部屋があるにも拘わらず、今も一緒に寝ている。もう子供でもないのにとリリエンヌは母親らしい心配をしていた。
リリエンヌに叱られてレオンハルトは、ばつが悪そうに
「すまないがこれを皆に渡しておいてくれ」
とロッドに押し付けた。
ロッドはこれで、お役御免になったとばかりにその場を去ろうとしたが、
「そう言えば、今日はあいつはいないからな」
と揶揄うようにベアトリーチェの耳元で囁いた。
あいつとは、最近護衛に付いたデミオン・クレージュのことだ。
ロッドが立ち去ると、ベアトリーチェは侍女のサリナにこっそりと耳打ちした。
「サリナ。さっきの店に行って予約していた物を取りに行ってくれない?これが予約カードよ」
ベアトリーチェは、サリナに用を頼んで、さりげなくお目立ての書籍店に入って行った。
学園で使う指定の本を探していると、サリナが帰って来て、
「お嬢様。こちらがそうです」
そう言って、頼んでいた物を渡してくれた。
プレゼント用に包装されたものを見てベアトリーチェは思わず笑みが零れた。
「随分と嬉しそうですね」
「な…なんでもないわよ」
「そうですか」
サリナは嬉しそうな赤くなり恥ずかしそうなベアトリーチェの様子に、アルカイドでの生活から抜け出せた事を素直に喜んでいた。
サリナは「喜んでくれるといいですね」と小さな声で呟いた。
その呟きはベアトリーチェには届かなかったが、幸せそうな主の様子に満足していた。
大方の買い物が終わったベアトリーチェ達は、向かいにある空中庭園の中のレストランで昼食を摂ることにした。
そこは野外ステージが間近で見える特別な飲食店で、予約がないと入れない店。
「はあ~、お腹がきゅうきゅう鳴ってて恥ずかしかった」
とフェリシアは、案内されたレストランの席でだらけていると、ドーム型の野外ステージの天井が開いて、今日の催し物が発表された。
休日限定のパフォーマンス大会が開かれており、今日は人気投票の発表日だったらしく、街行く人々も足を止めて見ている。
ドーム型の天井が四方八方に飛び散って、空中ボードに乗った司会者が「今月のトップ3を発表しまーす」という声で、皆が上を見上げている。
毎月、このパフォーマンス大会の1位から3位までに入ると賞金が出るので、お小遣い稼ぎや臨時収入の為に参加する人が多い。
勿論、年齢制限もなるので、13才以下の人は出れない。
「あれ…?」
フェリシアが何かを見つけたようで、ステージの方を指さした。
ベアトリーチェが指さされた方を見ると、そこにはステージに上がっているある人物がいた。
──デミオンだ…。
「ああ、あいつも参加していたのか」
「お父様は知っていたんですか?」
「まあ、レジェスから聞いていたんだが、いくつものバイトを掛け持ちしているらしい。この大会の賞金は破格だからなあ。出てもおかしくないだろう。それであんなに剣舞を頑張っていたんだなあ…」
「剣舞…?」
「ああ、あのグループの歌に合わせて、後ろで剣舞を披露しているんだと聞いた事がある。何回か挑戦したが落選ばかりしていて、今回を最後に出ないと言っていたらしいんだが…」
そうなのかとベアトリーチェは、自分だけ何も知らされていない疎外感がぬぐえなかった。
その上、ステージに立っているデミオンは隣にいる派手な女の子と仲良く談笑している様に見える。
ベアトリーチェの中に醜い嫉妬の様な感情が現れた時、左の薬指から黒い霧が洩れだし始めていた。
「ベティ…。大丈夫か」
慌てたレオンハルトが癒しの術をかけると直ぐに収まったが、
「どうやら、負の感情に左右されるようだな」
ちらりとレオンハルトはベアトリーチェの表情を読み取ろうとした。ベアトリーチェは、誰にも気付かれない様に平常心を保とうと、また心に蓋をしたのだ。
毎日のように見る夢に出てくる大人になった自分の様にならない様にと…。
ステージで、入賞者に賞金と楯が贈られている。
「えーっ、今日がお誕生日なんですか?」
「はい、そうなんです。ですから、祝ってやってください」
と、デミオンの誕生日のことを親しげに話している派手な髪の美少女を羨ましく眺めていた。
(わたしも誕生日プレゼントを用意したけれど、こんな大きな大会の賞金とじゃあ比べらものにならないよね)
ベアトリーチェはデミオンに用意したプレゼントの袋をきつく握った。
クシャッという音と共にベアトリーチェの心にも罅が入った様に感じたのだった。
最後まで見たくないベアトリーチェは、食事が終わったら「疲れたから帰りたい」と我儘を言って帰宅を急がせた。
ステージからデミオンが宮中庭園のレストランの方を見ているとも知らずに…。
「すごい行列ね」
「本当…何があるのかしら」
フェリシアとベアトリーチェは、今日の目的を忘れて行列の先を見て驚いた。
「な…なんで、貴方がそこにいるのよ」
「仕方がないだろう。先輩から頼まれたんだ。今日は当直だから、非番の俺が代わりに並んでいる」
チッと舌打ちした姿が憎らしいと思ったが、彼は今日は休暇なのに先輩騎士の頼みごとを押し付けられたらしい。
「なんだ?何かあったのか」
「特に何もありませんから」
レオンハルトがベアトリーチェに何事かと訊ねてきた。だが、ベアトリーチェはレオンハルトの手に持っている物の方が気になってそちらに視線が釘つけになってしまう。
「あーーーーっ…なんで…」
咄嗟にそれを見つけたロッドが大声で叫んだ。
ロッドは、最近ベアトリーチェの護衛に付いた『ゴロツキ』である。
勿論本当のゴロツキではないが、ベアトリーチェを主家の令嬢として扱わない事からベアトリーチェの中では『ゴロツキ』扱いなのだ。
「ああ、これの事か。うちの若手の騎士達へのボーナス代わりに注文しておいた物だが…」
それがどうかしたかと言わんばかりにレオンハルトは頭を捻ってみせた。
ロッドが並んでいたのはまさにそのためのものだった。
本日発売の箱庭ゲームの新作。
その為に非番に先輩命令で態々行列並んでいた。
今フロンティアでは絶大な人気を誇っているゲーム。
本のような形で、開くと物語の中に入って実際にプレイできるという代物。
ベアトリーチェは初めてその箱庭ゲームを体験した時の事を思い出していた。
その時は、お店にあった『体験コーナ』に置かれている試供ゲームを体験してみたのが…。
大変な目に遭ったことを未だに覚えている。
箱庭ゲームのタイトルは『恐怖の館』だった。
今思えばお試しなのに、どうしてそんなものを体験コーナに置いていたのか不思議なほどで、フェリシアとそのゲームに入り込んで、次々と出てくるお化けに追いかけられた記憶しかない。
どういったストーリーだったのかは、全く覚えておらず、ただひたすた怖いだけのものだった。二人が逃げ惑っている内に時間内にゴールにたどり着けなかったから、強制的にゲームオーバーとなって、元の世界に放り出された。
だから、ベアトリーチェは箱庭ゲームが嫌いになった。
その新発売の箱庭ゲームをほくほく顔で買いあさっている父レオンハルトに冷たい視線をお見舞いしていると、リリエンヌが睨みつけるように、
「またコレクションを増やすおつもりなのですか」
と小言を言い始めた。
既にレオンハルトの部屋にはたくさんの箱庭ゲームがクローゼットを占拠している。その内、邸内にゲーム専用の倉庫を建てそうな勢いなのだ。
それに、ベアトリーチェとフェリシアがそのゲームの所為で、その夜眠れず両親の部屋に突撃して以来、二人は別々の部屋があるにも拘わらず、今も一緒に寝ている。もう子供でもないのにとリリエンヌは母親らしい心配をしていた。
リリエンヌに叱られてレオンハルトは、ばつが悪そうに
「すまないがこれを皆に渡しておいてくれ」
とロッドに押し付けた。
ロッドはこれで、お役御免になったとばかりにその場を去ろうとしたが、
「そう言えば、今日はあいつはいないからな」
と揶揄うようにベアトリーチェの耳元で囁いた。
あいつとは、最近護衛に付いたデミオン・クレージュのことだ。
ロッドが立ち去ると、ベアトリーチェは侍女のサリナにこっそりと耳打ちした。
「サリナ。さっきの店に行って予約していた物を取りに行ってくれない?これが予約カードよ」
ベアトリーチェは、サリナに用を頼んで、さりげなくお目立ての書籍店に入って行った。
学園で使う指定の本を探していると、サリナが帰って来て、
「お嬢様。こちらがそうです」
そう言って、頼んでいた物を渡してくれた。
プレゼント用に包装されたものを見てベアトリーチェは思わず笑みが零れた。
「随分と嬉しそうですね」
「な…なんでもないわよ」
「そうですか」
サリナは嬉しそうな赤くなり恥ずかしそうなベアトリーチェの様子に、アルカイドでの生活から抜け出せた事を素直に喜んでいた。
サリナは「喜んでくれるといいですね」と小さな声で呟いた。
その呟きはベアトリーチェには届かなかったが、幸せそうな主の様子に満足していた。
大方の買い物が終わったベアトリーチェ達は、向かいにある空中庭園の中のレストランで昼食を摂ることにした。
そこは野外ステージが間近で見える特別な飲食店で、予約がないと入れない店。
「はあ~、お腹がきゅうきゅう鳴ってて恥ずかしかった」
とフェリシアは、案内されたレストランの席でだらけていると、ドーム型の野外ステージの天井が開いて、今日の催し物が発表された。
休日限定のパフォーマンス大会が開かれており、今日は人気投票の発表日だったらしく、街行く人々も足を止めて見ている。
ドーム型の天井が四方八方に飛び散って、空中ボードに乗った司会者が「今月のトップ3を発表しまーす」という声で、皆が上を見上げている。
毎月、このパフォーマンス大会の1位から3位までに入ると賞金が出るので、お小遣い稼ぎや臨時収入の為に参加する人が多い。
勿論、年齢制限もなるので、13才以下の人は出れない。
「あれ…?」
フェリシアが何かを見つけたようで、ステージの方を指さした。
ベアトリーチェが指さされた方を見ると、そこにはステージに上がっているある人物がいた。
──デミオンだ…。
「ああ、あいつも参加していたのか」
「お父様は知っていたんですか?」
「まあ、レジェスから聞いていたんだが、いくつものバイトを掛け持ちしているらしい。この大会の賞金は破格だからなあ。出てもおかしくないだろう。それであんなに剣舞を頑張っていたんだなあ…」
「剣舞…?」
「ああ、あのグループの歌に合わせて、後ろで剣舞を披露しているんだと聞いた事がある。何回か挑戦したが落選ばかりしていて、今回を最後に出ないと言っていたらしいんだが…」
そうなのかとベアトリーチェは、自分だけ何も知らされていない疎外感がぬぐえなかった。
その上、ステージに立っているデミオンは隣にいる派手な女の子と仲良く談笑している様に見える。
ベアトリーチェの中に醜い嫉妬の様な感情が現れた時、左の薬指から黒い霧が洩れだし始めていた。
「ベティ…。大丈夫か」
慌てたレオンハルトが癒しの術をかけると直ぐに収まったが、
「どうやら、負の感情に左右されるようだな」
ちらりとレオンハルトはベアトリーチェの表情を読み取ろうとした。ベアトリーチェは、誰にも気付かれない様に平常心を保とうと、また心に蓋をしたのだ。
毎日のように見る夢に出てくる大人になった自分の様にならない様にと…。
ステージで、入賞者に賞金と楯が贈られている。
「えーっ、今日がお誕生日なんですか?」
「はい、そうなんです。ですから、祝ってやってください」
と、デミオンの誕生日のことを親しげに話している派手な髪の美少女を羨ましく眺めていた。
(わたしも誕生日プレゼントを用意したけれど、こんな大きな大会の賞金とじゃあ比べらものにならないよね)
ベアトリーチェはデミオンに用意したプレゼントの袋をきつく握った。
クシャッという音と共にベアトリーチェの心にも罅が入った様に感じたのだった。
最後まで見たくないベアトリーチェは、食事が終わったら「疲れたから帰りたい」と我儘を言って帰宅を急がせた。
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