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第一章
番外編 ※第一王子⑥
貴族学園に通う事になった俺は、幼い頃に会った少女の姿を探した。程なくお目当てに少女は見つかったが、同時に学園内の在り得ない光景を目の当たりにする。
「ふふ、あの方、今日も殿下に相手にされなかったようね。これなら婚約解消も時間の問題ではなくって」
「本当よね。公爵家に生まれただけで他国の血を引いている余所者なのに殿下の婚約者なんてずうずうしいわ」
「それにあの噂聞いたか?」
「どんな噂だ」
「例の殿下の妹君が亡くなられた件に公爵令嬢が関わっていたとか」
「まあ、在り得るよな。殿下に近付く令嬢を悉く排除していたものな」
「酷い者は、怪我までさせられたときいたぞ」
「本当かよ。ひでーな。殿下も何でまだ婚約者にしているんだ」
「それなんだけど、最近殿下にはお気に入りの令嬢がいるらしい」
「誰だよそれ」
「ほら、例の公爵家の妹さ」
「ああ、天使のような容姿で可愛いと評判の美少女か」
「そうそう、その令嬢だよ。たしか名前をジュリア様っていうんだって」
「ヒューッ、早く会ってみたいな」
「もうじき入学式があるからその時会えるさ」
「もしかしたら、殿下も妹の方に乗り返るつもりなのかもな」
「ありえる。どっちにしてもあの女はおしまいだよ」
ヒソヒソと囁くようにあちこちから似たような誹謗中傷を耳にした。
詳しく聞けば、ベアトリーチェは母の葬儀の後に父である公爵が喪も明けぬ間に、別邸に囲っていた平民の妻と庶子を引き入れたらしい。
王太子妃教育と学園を両立するだけでも大変な事なのに…。
俺があの時、レオンハルト閣下の訃報を知らせなければ、彼女の母は死なずに済んだかもしれない。なら、今の現状を作り出したのも俺の所為なのだと再び後悔した。
確かにいくつかの事柄は、客観的に見てもベアトリーチェの行いは褒められたものではない。
だとしても、何故、彼女だけが責められなければいけないのだろうか。
弟も同罪ではないか。
俺の中で、どんどんと弟への不信感が募っていく。
そんな時に学園の図書館で彼女の姿を見かけた。
学年が違うので、廊下をすれ違う事もままならない。
本来なら、婚約者である弟を訪ねてきてもいいのに、それすらもない。いや出来ない様だった。
弟の側近がそれを阻んでいる様で、見かける彼女は何時も一人でいた。
どうやら、図書館は生徒会室に行くために通る道順になっているらしく。時折頬を赤く染めて、焦がれる様な目線を弟に向けている彼女を見た。
不毛だな。
そんな一言が俺の頭を掠めた。
無意識に思い浮かんだ言葉は、自分に対してか彼女に対してか分からなかった。
ある日、図書館でいつもの様に陰から彼女を見守っているつもりだったが、後ろから柔らかな優しい声が聞こえてきた。
「あの…すみませんが、その棚にある本が取りたいんですが」
「ああ、すまない。邪魔になっていたのか」
「いえ、わたしが急に読みたくなったので」
少し下がって、彼女に場所を譲ると、少し高い位置にあり、一生懸命に背伸びして取ろうとしていた。
「どれだ。取ってやるよ。これか」
「その隣の本です」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
そういってペコリと頭を下げた彼女は、噂されているような横暴で傲慢な令嬢には見えなかった。洗礼された淑女の様な雰囲気さえ醸し出しているのに…。どうしてそんな噂が先行しているのか不思議な程だった。
それから、数日経った頃、今度は俺に彼女の方から声をかけて来た。
「先日は有難うございました。これ、お礼です。良かったら使って下さい」
そう言って、俺に刺繍したハンカチを手渡した。
だが、そのハンカチを見て、俺は少し複雑な気分になった。
そこに刺繍されている花は蘭で国の象徴花だった。
そして何となくイニシャルを刺繍して糸を解いたような跡があった。
きっと、これは先ほど行われた行事の際に弟に渡そうとした物だったのだろう。
行き場を失くしたハンカチは結局俺の元に来た。
レイモンドの『R』それはかつての俺の名だ。
偶然とはいえ、彼女からその名を刺繍したハンカチを受け取る事になろうとは、想像してもなかった。
だが、それをきっかけに俺と彼女に接点が出来た事は間違いない。
それは、俺にとって束の間の幸せな時間だった事だけは間違いない。
「ふふ、あの方、今日も殿下に相手にされなかったようね。これなら婚約解消も時間の問題ではなくって」
「本当よね。公爵家に生まれただけで他国の血を引いている余所者なのに殿下の婚約者なんてずうずうしいわ」
「それにあの噂聞いたか?」
「どんな噂だ」
「例の殿下の妹君が亡くなられた件に公爵令嬢が関わっていたとか」
「まあ、在り得るよな。殿下に近付く令嬢を悉く排除していたものな」
「酷い者は、怪我までさせられたときいたぞ」
「本当かよ。ひでーな。殿下も何でまだ婚約者にしているんだ」
「それなんだけど、最近殿下にはお気に入りの令嬢がいるらしい」
「誰だよそれ」
「ほら、例の公爵家の妹さ」
「ああ、天使のような容姿で可愛いと評判の美少女か」
「そうそう、その令嬢だよ。たしか名前をジュリア様っていうんだって」
「ヒューッ、早く会ってみたいな」
「もうじき入学式があるからその時会えるさ」
「もしかしたら、殿下も妹の方に乗り返るつもりなのかもな」
「ありえる。どっちにしてもあの女はおしまいだよ」
ヒソヒソと囁くようにあちこちから似たような誹謗中傷を耳にした。
詳しく聞けば、ベアトリーチェは母の葬儀の後に父である公爵が喪も明けぬ間に、別邸に囲っていた平民の妻と庶子を引き入れたらしい。
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確かにいくつかの事柄は、客観的に見てもベアトリーチェの行いは褒められたものではない。
だとしても、何故、彼女だけが責められなければいけないのだろうか。
弟も同罪ではないか。
俺の中で、どんどんと弟への不信感が募っていく。
そんな時に学園の図書館で彼女の姿を見かけた。
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本来なら、婚約者である弟を訪ねてきてもいいのに、それすらもない。いや出来ない様だった。
弟の側近がそれを阻んでいる様で、見かける彼女は何時も一人でいた。
どうやら、図書館は生徒会室に行くために通る道順になっているらしく。時折頬を赤く染めて、焦がれる様な目線を弟に向けている彼女を見た。
不毛だな。
そんな一言が俺の頭を掠めた。
無意識に思い浮かんだ言葉は、自分に対してか彼女に対してか分からなかった。
ある日、図書館でいつもの様に陰から彼女を見守っているつもりだったが、後ろから柔らかな優しい声が聞こえてきた。
「あの…すみませんが、その棚にある本が取りたいんですが」
「ああ、すまない。邪魔になっていたのか」
「いえ、わたしが急に読みたくなったので」
少し下がって、彼女に場所を譲ると、少し高い位置にあり、一生懸命に背伸びして取ろうとしていた。
「どれだ。取ってやるよ。これか」
「その隣の本です」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
そういってペコリと頭を下げた彼女は、噂されているような横暴で傲慢な令嬢には見えなかった。洗礼された淑女の様な雰囲気さえ醸し出しているのに…。どうしてそんな噂が先行しているのか不思議な程だった。
それから、数日経った頃、今度は俺に彼女の方から声をかけて来た。
「先日は有難うございました。これ、お礼です。良かったら使って下さい」
そう言って、俺に刺繍したハンカチを手渡した。
だが、そのハンカチを見て、俺は少し複雑な気分になった。
そこに刺繍されている花は蘭で国の象徴花だった。
そして何となくイニシャルを刺繍して糸を解いたような跡があった。
きっと、これは先ほど行われた行事の際に弟に渡そうとした物だったのだろう。
行き場を失くしたハンカチは結局俺の元に来た。
レイモンドの『R』それはかつての俺の名だ。
偶然とはいえ、彼女からその名を刺繍したハンカチを受け取る事になろうとは、想像してもなかった。
だが、それをきっかけに俺と彼女に接点が出来た事は間違いない。
それは、俺にとって束の間の幸せな時間だった事だけは間違いない。
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