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喜びと戸惑いと
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サージェスは、フェリアを抱きかかえたまま、王城の客室に案内されるままに入った。寝台にフェリアを寝かせたサージェスは大きな息を吐く。
フェリアの倒れる姿を見た時にサージェスは心臓が止まりそうになる程の衝撃を受けていた。
薄々自分でも感じていたが、その時はっきりと自覚した。
──ああ、俺は、フェリアを愛しているんだな…。
サージェスは、サンドラとの恋を失った時、もう誰かを愛する事など出来ないと思っていた。周りの皆が時が過ぎれば、思い出になって嫌な事も忘れられる。と言っていたが、サージェスの心に大きなシミとなってじわじわ広がっていく。彼にとって今では何故、あれ程愚直で頑なにサンドラに固執していたのか分からない。一つだけ言えることは意地になっていたということだけだ。
そんな時、王命でフェリアを妻に迎える事になった。誰もが知っている賭け事の賞品ではなく。彼女は王家が用意した「トロフィーワイフ」だったのだ。
サージェスもまた王命とは関係なくフェリアを娶る事に異を唱えるつもりはなく、寧ろ贖罪の為にもそうしなければという自責の念があった。
フェリアの両親が死んだのは公爵家の街道整備の遅れからによるものだった。しかも、今この国の発展を助けている『エナジー石』と呼ばれる石は、普通の方法では簡単に見つけられなかった。その為、専門の学者が国土を隈なく調査していた。
その学者の一人にフェリアの父親がいた。今では当たり前の様にサージェスの領地で様々な用途に加工されているが、その原石を見つける為に多くの人の手と命が費やされた。勿論フェリアの両親もその中に含まれている。
急ぎの仕事を頼んだものの長雨によって、土砂災害が起きる可能性を無視するかのように公爵家の仕事を優先した彼らは、現場に向かう途中の山道で被害にあった。
馬車は土砂に呑まれ、何週間もの救出作業の結果、一月後には無残な姿では発見された。夫のスチュワートは下流の川岸に妻のマリアは馬車の中で圧迫死。
当時フェリアは10才ほどだっただろうか。留守がちな両親の帰宅が遅いのはいつものこと。今回も新しい発見でもして寄り道をしているのだろうと。幼いフェリアは思っていた。その内いつもの様に「ごめん、ごめん。フェリアの事を忘れていた訳ではないんだ。つい発掘に夢中になっちゃって、許してくれる?」「フェリアの好きな物をお土産に沢山買ってきたのよ。一緒に選びましょう」優しい父と母がフェリアをそう言って宥めてくれるはずだと信じていた。
しかし、『悲報』と言う名の一通の通知が来ただけでフェリアの元に届けられただけだった。葬儀の時に両親の墓の前でわんわん泣いていた少女を見てサージェスは心が痛んだ。
坑道に続く山道を早めに整備すべきだという家臣の声を制したのは、サンドラの父だった。自分の娘の将来の為に領地の中心部に力を注ぐ方が将来の為になると父公爵に進言した。父は判断を見誤った。事故は起きるべきして起きたのだ。
彼らが心血を注いだ石の需要のお蔭で公爵家は再興できた。今の公爵家の財源は全てフェリアの両親の犠牲の上に成り立っている。
サージェスは、フェリアの顔色が徐々に薄紅色に戻っている事に安堵した。
「公爵様。奥方様の診察結果をお知らせします」
「ああ…」
「実は……」
宮廷医からの診断結果にサージェスは目を見開いて驚いた。喜びが浮かんだ瞳は次第に陰りが差した。
(俺にとっては嬉しいが…今の状況で果たして彼女は喜んでくれるのだろうか?)
サージェスは、不安な気持ちが押し寄せてきて、フェリアの手を握りしめていた。
コンコン…。
サージェス達の客間の扉を叩く音が聞こえた。「どうぞ」サージェスの返事を聞くと入って来たのは、王太子フェリウスだった。
「サージェス。夫人の具合はどうだい?」
「少し休ませれば大丈夫だろう」
「なら、式典が始まるから一緒にいこうか」
「わかった。俺は会場に戻るから、暫く様子を見ていてくれ」
サージェスは、一緒に付いてきた宮女と侍従にフェリアを頼んで部屋を出た。
フェリアの倒れる姿を見た時にサージェスは心臓が止まりそうになる程の衝撃を受けていた。
薄々自分でも感じていたが、その時はっきりと自覚した。
──ああ、俺は、フェリアを愛しているんだな…。
サージェスは、サンドラとの恋を失った時、もう誰かを愛する事など出来ないと思っていた。周りの皆が時が過ぎれば、思い出になって嫌な事も忘れられる。と言っていたが、サージェスの心に大きなシミとなってじわじわ広がっていく。彼にとって今では何故、あれ程愚直で頑なにサンドラに固執していたのか分からない。一つだけ言えることは意地になっていたということだけだ。
そんな時、王命でフェリアを妻に迎える事になった。誰もが知っている賭け事の賞品ではなく。彼女は王家が用意した「トロフィーワイフ」だったのだ。
サージェスもまた王命とは関係なくフェリアを娶る事に異を唱えるつもりはなく、寧ろ贖罪の為にもそうしなければという自責の念があった。
フェリアの両親が死んだのは公爵家の街道整備の遅れからによるものだった。しかも、今この国の発展を助けている『エナジー石』と呼ばれる石は、普通の方法では簡単に見つけられなかった。その為、専門の学者が国土を隈なく調査していた。
その学者の一人にフェリアの父親がいた。今では当たり前の様にサージェスの領地で様々な用途に加工されているが、その原石を見つける為に多くの人の手と命が費やされた。勿論フェリアの両親もその中に含まれている。
急ぎの仕事を頼んだものの長雨によって、土砂災害が起きる可能性を無視するかのように公爵家の仕事を優先した彼らは、現場に向かう途中の山道で被害にあった。
馬車は土砂に呑まれ、何週間もの救出作業の結果、一月後には無残な姿では発見された。夫のスチュワートは下流の川岸に妻のマリアは馬車の中で圧迫死。
当時フェリアは10才ほどだっただろうか。留守がちな両親の帰宅が遅いのはいつものこと。今回も新しい発見でもして寄り道をしているのだろうと。幼いフェリアは思っていた。その内いつもの様に「ごめん、ごめん。フェリアの事を忘れていた訳ではないんだ。つい発掘に夢中になっちゃって、許してくれる?」「フェリアの好きな物をお土産に沢山買ってきたのよ。一緒に選びましょう」優しい父と母がフェリアをそう言って宥めてくれるはずだと信じていた。
しかし、『悲報』と言う名の一通の通知が来ただけでフェリアの元に届けられただけだった。葬儀の時に両親の墓の前でわんわん泣いていた少女を見てサージェスは心が痛んだ。
坑道に続く山道を早めに整備すべきだという家臣の声を制したのは、サンドラの父だった。自分の娘の将来の為に領地の中心部に力を注ぐ方が将来の為になると父公爵に進言した。父は判断を見誤った。事故は起きるべきして起きたのだ。
彼らが心血を注いだ石の需要のお蔭で公爵家は再興できた。今の公爵家の財源は全てフェリアの両親の犠牲の上に成り立っている。
サージェスは、フェリアの顔色が徐々に薄紅色に戻っている事に安堵した。
「公爵様。奥方様の診察結果をお知らせします」
「ああ…」
「実は……」
宮廷医からの診断結果にサージェスは目を見開いて驚いた。喜びが浮かんだ瞳は次第に陰りが差した。
(俺にとっては嬉しいが…今の状況で果たして彼女は喜んでくれるのだろうか?)
サージェスは、不安な気持ちが押し寄せてきて、フェリアの手を握りしめていた。
コンコン…。
サージェス達の客間の扉を叩く音が聞こえた。「どうぞ」サージェスの返事を聞くと入って来たのは、王太子フェリウスだった。
「サージェス。夫人の具合はどうだい?」
「少し休ませれば大丈夫だろう」
「なら、式典が始まるから一緒にいこうか」
「わかった。俺は会場に戻るから、暫く様子を見ていてくれ」
サージェスは、一緒に付いてきた宮女と侍従にフェリアを頼んで部屋を出た。
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