上 下
27 / 51

27.優柔不断

しおりを挟む
 これは、どういう状況なんだ。
 シエルキューテと戦ってるってことは、こいつらも僕と同じシーリスの…?

「何しているのカリム。早くその女を取り押さえなさい!」

「貴方! まさか、あの魔物の仲間なの!」

 取り押さえる…。そんな事したら、シエルキューテ達はこの人達を殺すんじゃ…。

「あー焦れったい!! あたしが殺るよ!!」

 メデューサが女の人へと差し迫る。
 咄嗟に、メデューサから女の人を庇い。鍔迫り合いの状態に持ち込んだ。

『カリム君、何をしているんだ? その行動の意味は理解しているんだろうな。』

「いや…、でも殺す必要は無いと思うんだ。」

 目の前のメデューサは鬼の形相で僕を睨んできた。

「シエルキューテ!! あんたの眷属殺してもいいよなぁ!! 完全に敵対してんだからさぁ!!」

「ダメよ。カリムは私が説得するわ。」

 説得? 人を殺す手伝いをしろって事か。そんなのは毛頭から無理な話だよ。

「《氷刃》。」

 後ろの女の人が魔術を放ってきた。僕はギリギリでその魔術を回避したが、メデューサにはその魔術がもろに直撃した。だが、かすり傷程度の傷しか受けていないようだ。

「ミーネ姉ちゃん! あの人は庇ってくれた人だよ。」

「うっさい。とにかく、今はあいつを囮にして逃げるわよ。」

 そう言い、あの三人組はダンジョンの入口に向かって走り去って行った。

「逃がすかぁあああ!!」

 そう叫ぶメデューサの前に僕は立ち塞がる。

「邪魔だ!! 退け!!」

「すみません。退けません。」

 そう言った直後、問答無用で殴り飛ばされる。
 殴ったのはメデューサではなくシエルキューテだった。

「バーラ、ここは私が。」

 メデューサは僕を尻目に逃げた三人を追いかけて行く。

「カリム、大人しくしていなさい。」

「大人しくする気なんて無いよ。あの三人をどうする気なんだ?」

「追いかけてでも仕留めるわ。…というか、何故そこまでしてあの三人組を庇うのかしら。意味が分からないわ。」

「やっぱり人殺しも、それを見過ごすのも僕には無理なんだよ。」

「…人を殺せたから安心したのだけれど、少し見ない内に随分と情けなくなったのね。
 お喋りはもう良いわ。レミィ、カリムを拘束しなさい。」

 そう言われた瞬間、首に微かな電流のような刺激が走る。意識はそのままで身体の感覚が無くなり、ほんの微塵も動かせなくなった。

「カリムさん。奥の部屋で一緒に休むのですよ。」

 腕を持たれ、引き摺られ、何も抵抗出来ずになすがまま何処かの部屋まで運ばれた。


◇□◇□◇□◇


 とあるダンジョンの道中。

『戻ったか、バーラ。』

「おう、だが三人は逃がしちまった。氷の壁で道が塞がれてたんだ。」

『そんな事は言われなくても分かる。それよりも小僧についてだ。』

 シエルキューテが口を開く。

「カリムは私が何とかするわ。」

『もういい。あの小僧は使い物にならない。あわよくば器にとでも思っていたが、結局はまともに人も殺せない半端な餓鬼だった。あれじゃ器にすらなれない。』

「それも含めて私が何とかするわ。」

『妄言も大概にしろシエルキューテ。あの木偶の坊を具体的にどうする気だ? それとも、カリムに情でも芽生えたか?』

「い、いえ、情なんか湧いていないわ。」

『ならそれを証明しろ。お前がカリムの魔力を回収しろ。』

「…器にするのでは無かったのかしら。」

『さっき言っただろ。あの餓鬼は器にすらなれない。もう不要なんだよ。あのまま放置するのは勿体ない。だからせめて魔力だけは回収しろ。』

「…分かったわ。」

 そう言い残し、シエルキューテはカリムの元へと向かった。

『バーラ。』

「おう。なんだ魔王様。」

『裏切り者はお前が殺せ。』


◇□◇□◇□◇


 まだ少し痺れるが身体の感覚が少しは戻ってきた。だが、猿轡をつけられ目隠しもされ手足も拘束され、身動ぎ一つ取れない状態で拘束されている。
 目の前には何かの気配を感じる。恐らくはレミィだろう。これから僕はどうなってしまうんだろう…。

 レミィの気配とは別の足音が此方に近付いてくる。

「あ! シエルキューテ様です。どうしたのです?」

 レミィの声がそう反応する。

「レミィ。あなたはもう帰っていいわよ。」

「断るのです。カリムさんを見張る命令を受けているのです。」

「だから、その命令を解除するのよ。貴方はもう帰っていいの。」

「断るのです。魔王様からの命令なのです。」

「魔王様の…そう。もう隠せないのね。」

 何か岩のような硬いものが砕けたかのような音が響いた。
 その後に僕の目隠しが外される。

 目の前にはシエルキューテが居て、その後ろではレミィが壁にめり込み気絶していた。

「カリム。逃げるわよ。」

 そう言い、僕に付けられていた拘束具を乱暴に破壊し取り除いた。

「一体、何が?」

「いいから今は地上に逃げるのよ。着いて来なさい。」

 そのまま手を引かれてダンジョンの入口へと向かって走らされた。
しおりを挟む

処理中です...