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2 棒人間の静かなる攻撃

2-4 後回し

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顔に何か乗せられている。
たぶん…布状のタオルだ。
タオルの上から目のあたりを思い切り押さえつけられる。
肩を持たれて揺らされた。
身体を揺らして起こそうとしているらしいが、身体に力を入れることができなかった。
頭は起きているのに、身体は寝ている。
昔一度体験した金縛りのようだ。

「佐保さん、大丈夫。私が目が覚めたから安心して」
御神の声がする。
急に目と肩への圧力がなくなる。
「千恵さんはしばらくそのままで。
真守はどうなってる?…そう…」
言葉が意識に届き始める。
さっきの圧力は目隠しをされたまま揺り起こされていたらしい。
―俺はどうなってるんだ。
「千恵さんを先に調整しましょう」
真守はもう一度暗闇に落ちた。

真守が意識を取り戻し、ボタンを押してカプセルのカバーを開くと、周囲は真っ暗になっていた。
力が入らない身体に苦労しながら、カプセルから出る。
カプセルに入った時間は午後1時。
いつもなら装置の使用は前後の調整時間を合わせてだいたい1時間程度となる。
時計を見ると午後7時になっていた。
異常なことが起きたことは分かるが、危険を感じるための感覚がまだ寝ている。
真守は、身体を叩いてみた。
触覚はちゃんとある。



「真守、起きたの?
千恵さんは、入院してもらうことになったから」
提携している病院に強制的に入院させたらしい。
リビングの電気の下、説明する御神の調子は悪そうだった。
「あとやっておくことありますか?俺、やっときます」
「もうとっくに全部終わったわよ……仮眠室使うわね」
いつもは、「肉の盾」としてボロボロになった真守が横になる部屋へ向けて御神が歩く。
「千恵さんはね。
身体は大丈夫なんだけど、勝手に自殺されたら困るから、監視してもらえるところに入ってもらったわ。
明日、もう一度入って様子をみましょう」
真守は必死に理解しようとしたが頭がそれを拒否した。
「今日は帰宅してよい。
明日また装置に入る」
その2点だけ分かっていればそれ以外はどうとでもなる。
「かなり無理して離脱したから、真守の身体に後遺症が出たらちゃんとデータ取っておいてね
装置に入っていた間はデータとれてるから、今から何か変化が起きたらちゃんと記録しておくのよ」
恐ろしい台詞を残してドアが閉まる。
「身体に注意を払い、状態を確認して記録しておく」という三つ目の指示を心に刻む。


強制脱出は何度かあるが、今回は別格だったらしい。
真守はのろのろと家に帰る準備を始めた。
冷蔵庫を確認して、御神に何か買ってくるものはないかと声をかけた。
御神は、「ポカリ」とだけ答える。
御神のあの様子だとコンビニへ行くのも難しいだろう。
そういったときにちゃんと気を回しておかないと、あとで「どうして確認してくれなかったのか」と怒られるのは真守だ。
―こういったことに気づけるようになった俺すげー。
と自分を褒めながら真守は頼まれた飲み物を買いに出かけることにした。



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