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繭
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あれは残暑が厳しい夏の日曜日だった。
午前中に部活を終え帰宅し、扇風機の前でうたた寝をしていたスバルは、網戸に張り付いたセミの鳴き声で目を覚ました。
「あっつ…」
母に頼まれていた打ち水をしに、桶と柄杓を持って外へ出たスバルは、むせ返るような暑さに太陽を睨めつけながら水を撒いた。
「うわっ…」
「冷たいっ…!」
声にハッとして下を見ると、滲んでしまった、アスファルトにチョークで描かれた落書きと、滴り落ちる水を拭う2人の少年がいた。
狭い町内では、大体の住人が顔見知りだ。
初めて見る顔の少年達に、スバルは申し訳なさそうに声をかけた。
「ごめん!ちょっと待ってて!」
慌てて家に飛び込んだスバルは、洗い立てのタオルと共に再び現れた。
「はじめまして…だよね?」
タオルを渡しながら、スバルは問いかけた。
日差しを避けるためか、目深に被ったキャップから覗く、ストレートの黒髪に、口元の黒子が印象的な少年。
それより少し背の低い、日に透けるような、柔らかな栗色の髪の少年。
恐らく年の頃は11や12くらいであろうか。黒髪の少年は、少し不機嫌そうに「ショウ」と名乗った。
背の高いスバルに見下ろされ、栗色の髪の少年は、少し怯えたように「…ユキだよ」と答えてくれた。
「スバルです、よろしく。水かけちゃって本当にごめんね。」
ユキが怯えたのに気づいたスバルは、アスファルトにしゃがみ込み、少年達に目線を合わせた。
「この辺りに住んでるの?」
スバルの問いに、ショウは最近隣に越してきたこと、女手一人で2人を育ててくれていた母を亡くし、叔母家族に引き取られ一緒に暮らしていること、叔母夫妻が土日も仕事であること、2人で留守番をしていたことをポツリと話してくれた。
「そっか…まだこの辺に詳しくないから、家の前でお絵かきしてたんだね。」
「うん。スバルも、お留守番?」
ユキはそう問いかけ、頷いたスバルに、少し自慢げに、首から下げた鍵を見せてくれた。
「ユキたち、鍵持ってるんだよ!」
「外に出る時は、きちんと鍵してね、って叔母さんが言ってたから。」
「ちゃんとお留守番できて偉いね。…そうだ、ショウ、ユキ、お詫びと言っちゃなんだけど、よかったら、町内を紹介しようか?」
もちろん、ご家族に電話してからね、と付け加えると、ショウとユキは嬉しそうに頷いた。
ショウは首にかけていた、子供用の小さな携帯を操り、叔母へ電話をかけた。
「もしもし、ショウだけど…隣のおうちのスバルと遊んでもいい?…うん、町内からは出ないよ。」
代わってくれる?とジェスチャーをしたスバルに、ショウは携帯のストラップを首から外し、手渡した。
「もしもし、ショウちゃんとユキちゃんのご家族ですか?はじめまして、隣に住んでるスバルと言います。突然すみません。ご家族のどなたかが戻られるまで、2人に町内を紹介させてもらえないでしょうか?」
突然現れたスバルに、叔母は少し驚いた声色だったが、こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ありません、2人をよろしくお願いします、と快く受け入れてくれた。
「おばさん、良いって言ってた?」
ユキは少し心配そうにスバルの瞳を見つめた。
「うん、良いって。」
スバルがそう答えると、2人は目を見合わせ、嬉しそうにスバルに手を伸ばした。
「まずは、カレー粉山に行こうか!」
差し出された手を握り、2人の歩調に合わせて、スバルはいつもよりゆっくりと歩き出した。
*******
到着した小さな丘は、赤い土で出来ていて、乾いた部分を削るとカレー粉のように見える事から、子供達の間ではカレー粉山と呼ばれている。
「よくここでおままごとをして遊んでたんだ。」
ショウは少し大きな木の葉を摘み皿に見立てて、倒木の上に並べた。
ユキは、スバルに教わった穴場で野苺を摘み、葉っぱの皿に並べた。
スバルは笹の葉をくるりと丸め、コップがわりにし、小川で汲んだ水を2人に手渡した。
「さて、だれがお母さんかな?」
スバルがそう問うと、2人はスバルを指差した。
「じゃあお父さんは?」
この問いには、2人とも自分を指差した為、スバルは2人の旦那さんと遊ぶことになった。
*******
楽しかった夏休みが終わり、スバルは本格的に受験の準備に勤しむこととなった。
高校からは、弓道部の強豪校に行きたい、と考えるようになってから、部活にも勉学にも力を入れていた。
そのせいもあり、2人の少年と遊ぶことは自然と減っていた。
あの2人ならきっと、沢山同年代の友達ができていることだろう。
そう言い聞かせ、スバルは目の前の課題にだけ集中した。
*******
結果発表の日。
スバルは混み合う掲示板の前で、少し背伸びをして自分の番号を探した。
「87…87……あった!!!」
喜びのあまり握りしめてしまった受験票を伸ばしながら、震える手で両親に電話をかけた。
そうか…よくやったな、と褒めてくれた父の声は、嬉しそうで、少し寂しそうでもあった。
それもそのはず、スバルの目指した高校は県外にあり、入学してからは盆と正月以外はずっと寮で生活することとなるのだ。
休みには帰るんだから、そんなに心配しないで、とスバルは父親を励ました。
発表まではどうにも気持ちが落ち着かず、精神統一が必要な弓道をしている時も、いまいち集中しきれなかった。
これでようやく、卒業まで安心して弓道に打ち込める。
スバルは、弓道タコが出来てすっかり硬くなった手を握りしめた。
********
小春日和と呼ぶには、まだ寒さの残る3月。
ギリギリになってようやく支度を終えたスバルは、重たいボストンバッグを持ち、外まで見送ると言う両親を宥めてから、玄関を出た。
「「スバル!!!」」
綺麗にユニゾンした声と共に、見事なタックルを決められ、スバルは尻餅をついた。
ボストンバッグがクッションになり、間一髪、スバルは尻に再び蒙古斑が出来るのを回避した。
「いてて…ショウ!ユキ!危ないじゃないか!」
懐へ飛び込んで来た2人を受け止め、スバルは笑みを堪えながら嗜めた。
なぜなら2人とも涙でグシャグシャの顔でスバルを睨んでいたからだ。
「スバル、いなくなっちゃうの?もう会えないの…?」
ユキのポロポロとこぼれ落ちる涙を拭いながら、俯くショウの頭を撫でた。
「いなくならないよ。盆と正月は帰ってくるし、大学を卒業したら戻ってくる。」
「…スバル、約束して…スバルはずっと、ショウ達の家族だよね?」
しゃくり上げながら、声を振り絞ったショウは、真剣な眼差しでそう問いかけた。
「家族…そうだね。ショウとユキが大きくなっても忘れていなかったら、また一緒に遊ぼう。」
絶対だよ、約束だよ、と迫る2人と順番に指切りをした後、スバルは2人に別れを告げ、駅へと歩いた。
名残惜しさを感じ振り返ると、2人はいつまでも手を振っていた。
スバルは大きく両手を振ると、踵を返し、振り返ることなく駅へと進んだ。
*******
高校を卒業し、そのまま付属の大学へと進学したスバルは、就職機に、休みもバイト&部活三昧でなかなか帰らなかった地元へ戻ることとなった。
地元に帰ると言っても、寮で一人暮らしの快適さを知ってしまったスバルは、実家に通える距離のアパートを借りたのだ。
両親には、アパートの前の家主が引っ越すまでは実家に居候し、それから新生活を始めるつもりだと伝えておいた。
帰る日を地元の友人に伝えると、せっかくだから、プチ同窓会をしよう、と盛り上がってしまった。
行ってみれば楽しいもので、懐かしい顔ぶれを見ているうちに、あっという間に夜になってしまった。
ハッピーアワーが始まる5時から飲んでいたはずなのに、もう夜の8時過ぎだ。
名残惜しそうな友人達に、今度からはすぐ会えるよと手を振り、帰路についた。
自宅の門扉を開けようと手を伸ばすと、隣の住人だろうか、同じタイミングで帰ってきた女子高生と目があった。
「こんばんは」
口元に黒子のある、艶やかな黒髪が美しい少女だ。
自分が地元を離れている間に、知らない顔ぶれが増えたんだろうな…そう思いつつ、挨拶をしないのも感じが悪かろうと、声をかけた。
「…スバル?」
女子高生は震える声で呟いた。
チャイムを鳴らしたにも関わらず、なかなか入ってこないのを不思議に思ったのか、隣の家のドアが開き、同じくらいの年の、柔らかくウェーブのかかった栗色の髪の少女が顔を出した。
「ショウちゃん、どうしたの?」
心配そうに声をかけた少女は、たしかに『ショウ』と呼んだ。
「もしかして…ショウとユキ…?」
酔いが回っているのか、あの夏の少年たちと面影を重ねてしまい、スバルはそう呟いていた。
「「…スバル!」」
名前を呼ばれたかと思うと、2人は勢いよくスバルの胸に飛び込んで来た。
あの日と同じく、スバルは尻餅をつきながらも、2人をしっかりと受け止めた。
「スバル…ユキ達、ずっと待ってたんだよ!」
「あの日の約束…忘れてないよね?」
スバルは2人の潤んだ瞳を見つめながら、照れ臭そうに頬を掻いた。
「家族…だよね?忘れないよ。」
2人を引っ張り起こすと、尻餅をついたためについた土を、ポケットから出したハンカチで払い落とした。
「今度はお隣さんじゃないけど…またこの町に暮らすことになりました。よろしくね。」
初めて会ったあの日と同じように、2人に両の手を差し出すと、2人は手を引き寄せてスバルの両頬にキスをした。
「「今度はスバルが旦那さんだからね!」」
満面の笑みで声を揃えた2人を見つめながら、楽しいはずの新生活に、一抹の不安を感じたのは言うまでもない。
午前中に部活を終え帰宅し、扇風機の前でうたた寝をしていたスバルは、網戸に張り付いたセミの鳴き声で目を覚ました。
「あっつ…」
母に頼まれていた打ち水をしに、桶と柄杓を持って外へ出たスバルは、むせ返るような暑さに太陽を睨めつけながら水を撒いた。
「うわっ…」
「冷たいっ…!」
声にハッとして下を見ると、滲んでしまった、アスファルトにチョークで描かれた落書きと、滴り落ちる水を拭う2人の少年がいた。
狭い町内では、大体の住人が顔見知りだ。
初めて見る顔の少年達に、スバルは申し訳なさそうに声をかけた。
「ごめん!ちょっと待ってて!」
慌てて家に飛び込んだスバルは、洗い立てのタオルと共に再び現れた。
「はじめまして…だよね?」
タオルを渡しながら、スバルは問いかけた。
日差しを避けるためか、目深に被ったキャップから覗く、ストレートの黒髪に、口元の黒子が印象的な少年。
それより少し背の低い、日に透けるような、柔らかな栗色の髪の少年。
恐らく年の頃は11や12くらいであろうか。黒髪の少年は、少し不機嫌そうに「ショウ」と名乗った。
背の高いスバルに見下ろされ、栗色の髪の少年は、少し怯えたように「…ユキだよ」と答えてくれた。
「スバルです、よろしく。水かけちゃって本当にごめんね。」
ユキが怯えたのに気づいたスバルは、アスファルトにしゃがみ込み、少年達に目線を合わせた。
「この辺りに住んでるの?」
スバルの問いに、ショウは最近隣に越してきたこと、女手一人で2人を育ててくれていた母を亡くし、叔母家族に引き取られ一緒に暮らしていること、叔母夫妻が土日も仕事であること、2人で留守番をしていたことをポツリと話してくれた。
「そっか…まだこの辺に詳しくないから、家の前でお絵かきしてたんだね。」
「うん。スバルも、お留守番?」
ユキはそう問いかけ、頷いたスバルに、少し自慢げに、首から下げた鍵を見せてくれた。
「ユキたち、鍵持ってるんだよ!」
「外に出る時は、きちんと鍵してね、って叔母さんが言ってたから。」
「ちゃんとお留守番できて偉いね。…そうだ、ショウ、ユキ、お詫びと言っちゃなんだけど、よかったら、町内を紹介しようか?」
もちろん、ご家族に電話してからね、と付け加えると、ショウとユキは嬉しそうに頷いた。
ショウは首にかけていた、子供用の小さな携帯を操り、叔母へ電話をかけた。
「もしもし、ショウだけど…隣のおうちのスバルと遊んでもいい?…うん、町内からは出ないよ。」
代わってくれる?とジェスチャーをしたスバルに、ショウは携帯のストラップを首から外し、手渡した。
「もしもし、ショウちゃんとユキちゃんのご家族ですか?はじめまして、隣に住んでるスバルと言います。突然すみません。ご家族のどなたかが戻られるまで、2人に町内を紹介させてもらえないでしょうか?」
突然現れたスバルに、叔母は少し驚いた声色だったが、こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ありません、2人をよろしくお願いします、と快く受け入れてくれた。
「おばさん、良いって言ってた?」
ユキは少し心配そうにスバルの瞳を見つめた。
「うん、良いって。」
スバルがそう答えると、2人は目を見合わせ、嬉しそうにスバルに手を伸ばした。
「まずは、カレー粉山に行こうか!」
差し出された手を握り、2人の歩調に合わせて、スバルはいつもよりゆっくりと歩き出した。
*******
到着した小さな丘は、赤い土で出来ていて、乾いた部分を削るとカレー粉のように見える事から、子供達の間ではカレー粉山と呼ばれている。
「よくここでおままごとをして遊んでたんだ。」
ショウは少し大きな木の葉を摘み皿に見立てて、倒木の上に並べた。
ユキは、スバルに教わった穴場で野苺を摘み、葉っぱの皿に並べた。
スバルは笹の葉をくるりと丸め、コップがわりにし、小川で汲んだ水を2人に手渡した。
「さて、だれがお母さんかな?」
スバルがそう問うと、2人はスバルを指差した。
「じゃあお父さんは?」
この問いには、2人とも自分を指差した為、スバルは2人の旦那さんと遊ぶことになった。
*******
楽しかった夏休みが終わり、スバルは本格的に受験の準備に勤しむこととなった。
高校からは、弓道部の強豪校に行きたい、と考えるようになってから、部活にも勉学にも力を入れていた。
そのせいもあり、2人の少年と遊ぶことは自然と減っていた。
あの2人ならきっと、沢山同年代の友達ができていることだろう。
そう言い聞かせ、スバルは目の前の課題にだけ集中した。
*******
結果発表の日。
スバルは混み合う掲示板の前で、少し背伸びをして自分の番号を探した。
「87…87……あった!!!」
喜びのあまり握りしめてしまった受験票を伸ばしながら、震える手で両親に電話をかけた。
そうか…よくやったな、と褒めてくれた父の声は、嬉しそうで、少し寂しそうでもあった。
それもそのはず、スバルの目指した高校は県外にあり、入学してからは盆と正月以外はずっと寮で生活することとなるのだ。
休みには帰るんだから、そんなに心配しないで、とスバルは父親を励ました。
発表まではどうにも気持ちが落ち着かず、精神統一が必要な弓道をしている時も、いまいち集中しきれなかった。
これでようやく、卒業まで安心して弓道に打ち込める。
スバルは、弓道タコが出来てすっかり硬くなった手を握りしめた。
********
小春日和と呼ぶには、まだ寒さの残る3月。
ギリギリになってようやく支度を終えたスバルは、重たいボストンバッグを持ち、外まで見送ると言う両親を宥めてから、玄関を出た。
「「スバル!!!」」
綺麗にユニゾンした声と共に、見事なタックルを決められ、スバルは尻餅をついた。
ボストンバッグがクッションになり、間一髪、スバルは尻に再び蒙古斑が出来るのを回避した。
「いてて…ショウ!ユキ!危ないじゃないか!」
懐へ飛び込んで来た2人を受け止め、スバルは笑みを堪えながら嗜めた。
なぜなら2人とも涙でグシャグシャの顔でスバルを睨んでいたからだ。
「スバル、いなくなっちゃうの?もう会えないの…?」
ユキのポロポロとこぼれ落ちる涙を拭いながら、俯くショウの頭を撫でた。
「いなくならないよ。盆と正月は帰ってくるし、大学を卒業したら戻ってくる。」
「…スバル、約束して…スバルはずっと、ショウ達の家族だよね?」
しゃくり上げながら、声を振り絞ったショウは、真剣な眼差しでそう問いかけた。
「家族…そうだね。ショウとユキが大きくなっても忘れていなかったら、また一緒に遊ぼう。」
絶対だよ、約束だよ、と迫る2人と順番に指切りをした後、スバルは2人に別れを告げ、駅へと歩いた。
名残惜しさを感じ振り返ると、2人はいつまでも手を振っていた。
スバルは大きく両手を振ると、踵を返し、振り返ることなく駅へと進んだ。
*******
高校を卒業し、そのまま付属の大学へと進学したスバルは、就職機に、休みもバイト&部活三昧でなかなか帰らなかった地元へ戻ることとなった。
地元に帰ると言っても、寮で一人暮らしの快適さを知ってしまったスバルは、実家に通える距離のアパートを借りたのだ。
両親には、アパートの前の家主が引っ越すまでは実家に居候し、それから新生活を始めるつもりだと伝えておいた。
帰る日を地元の友人に伝えると、せっかくだから、プチ同窓会をしよう、と盛り上がってしまった。
行ってみれば楽しいもので、懐かしい顔ぶれを見ているうちに、あっという間に夜になってしまった。
ハッピーアワーが始まる5時から飲んでいたはずなのに、もう夜の8時過ぎだ。
名残惜しそうな友人達に、今度からはすぐ会えるよと手を振り、帰路についた。
自宅の門扉を開けようと手を伸ばすと、隣の住人だろうか、同じタイミングで帰ってきた女子高生と目があった。
「こんばんは」
口元に黒子のある、艶やかな黒髪が美しい少女だ。
自分が地元を離れている間に、知らない顔ぶれが増えたんだろうな…そう思いつつ、挨拶をしないのも感じが悪かろうと、声をかけた。
「…スバル?」
女子高生は震える声で呟いた。
チャイムを鳴らしたにも関わらず、なかなか入ってこないのを不思議に思ったのか、隣の家のドアが開き、同じくらいの年の、柔らかくウェーブのかかった栗色の髪の少女が顔を出した。
「ショウちゃん、どうしたの?」
心配そうに声をかけた少女は、たしかに『ショウ』と呼んだ。
「もしかして…ショウとユキ…?」
酔いが回っているのか、あの夏の少年たちと面影を重ねてしまい、スバルはそう呟いていた。
「「…スバル!」」
名前を呼ばれたかと思うと、2人は勢いよくスバルの胸に飛び込んで来た。
あの日と同じく、スバルは尻餅をつきながらも、2人をしっかりと受け止めた。
「スバル…ユキ達、ずっと待ってたんだよ!」
「あの日の約束…忘れてないよね?」
スバルは2人の潤んだ瞳を見つめながら、照れ臭そうに頬を掻いた。
「家族…だよね?忘れないよ。」
2人を引っ張り起こすと、尻餅をついたためについた土を、ポケットから出したハンカチで払い落とした。
「今度はお隣さんじゃないけど…またこの町に暮らすことになりました。よろしくね。」
初めて会ったあの日と同じように、2人に両の手を差し出すと、2人は手を引き寄せてスバルの両頬にキスをした。
「「今度はスバルが旦那さんだからね!」」
満面の笑みで声を揃えた2人を見つめながら、楽しいはずの新生活に、一抹の不安を感じたのは言うまでもない。
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