【完結】竜の誤算と偏愛と

なかじ

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本編

4:はじめての授業

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 ヴィトの教育はジルヴァラの執務室で行われることになった。勉強机が運び込まれてもジルヴァラの部屋は問題なく広い。ジルヴァラが夜通し読んで最適解とした書物はヴィトにもあっていたらしく、ヴィトは興味深そうに読みながらジルヴァラの講義に耳を傾けている。

「竜人について貴様はどれくらい知っている?」
「えーと、獣人族やエルフ族と同じ亜人に属していて、その中でも最強ってことぐらいですかね」
「フン。貴様の言う通り竜人は人族の中でも最強だ。他の追随を許さない。強大な魔物を倒した逸話も多いぞ。人の中で育っている貴様なら、荒唐無稽な噂も山程耳にしているだろう?」
「あ~! ありましたね。火を吹いてマグマに潜り、火山で宝を守ってるって聞きましたよ! あはは!」
「そんな暑苦しいところを泳ぐのはヴァルト達、黒竜族だけだ」
「えぇ……荒唐無稽だと思ってたのに事実なの?」

 ヴィトは愕然として扉の奥を見つめた。現在ヴァルトはジルヴァラに構いすぎて部屋を追い出され、扉の外でヴィトの護衛をしている。ジルヴァラに本気で怒られ、追い出された時のしょんぼりした様子は叱られた大型犬のようだった。とても火を吹いてマグマを遊泳しているとは思えない。

「俺達は最強だが、他の種族に敵わないものもある」
「え!? そうなんですか?」
「あぁ、数だ。圧倒的に俺達は子供が生まれにくい」

 竜人は子供の数が年々減ってきていることが問題となっている。研究者の多い銀竜族が必死に原因を突き止めようとしているが、未だ良い成果をあげられていない。

「……そういえばこの国、女性を見かけませんよね?」
「人間や他種族のような雌のことを指しているのだとしたら、この国にはいない。この国では全員ペニスがついているから、お前の感覚で言えば皆雄だ」
「え、えええええええ!?!?」
「なんで貴様はそんな基本的な話を知らんのだ……」

 ヴィトの絶叫にジルヴァラは呆れたと言わんばかりに顔を顰めた。なぜ誰も教えていないのか、どうしてこいつは疑問に感じなかったのかと言いたいことは沢山あるが、それでは講義が進まないので何とか堪える。

「竜人の子作りは肛門性交で片方の雄を雌化させるところから始める。とはいえ、人間の雌にある乳房や、腹で子を育てるための子宮ができるわけではない。定期的に性交渉し、雌化していくと卵管と卵巣が徐々に体の中に作られるわけだ。排卵に関しては……」
「ま、待って、ちょっと情報量が多くてパニックになってきた」

 ヴィトは雄同士の性交を全く予想していなかったのか、今にも目を回しそうなほど混乱していた。いつも飄々としていた彼らしくない姿に、ジルヴァラはフンと鼻を鳴らし、意地悪く笑う。

「……。排卵に関しては雌化した状態で発情期を迎えることにより行われる。発情期はだいたい冬の終わりから春にかけて、番っている竜族は一週間から二週間は家から出て来ずしきりに性交渉を行う。それでも実際に子供が生まれる確率は極めて低く……」
「あぁもう俺をいじめるの楽しそうだなぁ!!」

 指摘されたとおり、ヴィトが混乱している姿を見るのはとてつもなく楽しかった。ジルヴァラの講義はヴィトが喚こうが強制執行され、講義終了時のヴィトは彼自身の髪のように真っ白に燃え尽きていた。

「つまりヤり続けてるとどっちかが雌になって子供ができるってことかぁ。そんで一度でもヤッた=番ったことになるね……。あれ? でもそうなると強姦されたらそいつの雌になるんじゃ……?」
「そうだな」
「え!? それって犯罪じゃん!?」
「雌にされるのが嫌なら相手を殺す気で倒すしかないし、負けたら潔くそいつの雌になるしかない」
「ひ、ひぇ……考え方が戦闘民族すぎる……」
「婚約者がいたり、番っている竜は暗黙の了解で手を出さないことになっているが、誰しもがそのルールを守るわけではないからな。力のある竜はある程度の無茶が許される」

 遺伝子を残すのも弱肉強食だ。良い竜の判断基準は昔から変わらない。美しいか強いかである。どちらもない竜の遺伝子など箸にも棒にもかからない。

「うーん……今の竜人ってそんなに少ないんですかね?」
「全盛期の半分だと言われているな」
「え!? どうして!?」
「自業自得というか、お前たち白竜族が滅んだことが大きく起因している」
「俺達?」
「白竜族は他竜族に比べて多産だった。多いと10人産んだ竜もいたらしい」
「ちょっとした催しができるレベルで頑張っちゃったの????」

 頑張っちゃったのである。慈愛の白竜と呼ばれた白竜族は種族の中でも特に人数が多かった。それは竜人の中でも多産だったからだと言われている。そんな彼らがなぜ絶滅してしまったのか、ヴィトは頬杖をつきながらジルヴァラを見つめた。

「慈愛の白竜ねぇ……」
「古い歴史の書物には『運命の番は白竜に有る』とよく出てくる」
「運命の番?」
「ただ体と命を繋げる番ではなく、心から愛して絆を深めることのできる番をそう呼ぶらしい。恋しあう恋人同士の決り文句でもあるな。その昔、白竜族はその運命の番と称される竜が多くいたらしい。その上多産だ。……皆が白竜族を取り合ったのだ」

 白竜族を欲した他種族は半ば略奪するように彼らを連れ去った。優しく争い事を好まぬ性分の白竜族はろくな抵抗もできず数を減らした上に、子をなかなか孕まなくなったと記録に残されている。

「白竜族は他竜族から逃げるために人間の国で隠れて過ごし、その血を薄めていたが滅んでいたわけではなかったのだろう。貴様がその証拠だ」
「俺、殆ど人間なんじゃないですか? まわりの竜みたいに強い気がしないんですけど……」
「竜人の戦いを見たことがあるのか?」
「朝にハウデン様とヴァルトが嬉々として修練場で地獄作ってましたね。も~その場はぐっちゃぐちゃで……」
「あの馬鹿どもまたやったのか……!?」

 ジルヴァラが悪態をついて扉を睨むとヴァルトが逃げ出したのかガタンと大きな音がする。
 ヴィトはハウデンを馬鹿と称するジルヴァラを見て意外そうな顔をしていた。ハウデンの婚約者だった頃のジルヴァラはハウデン至上主義で、雄を立てる言動しかしなかったからである。しかし今となってはもはや遠慮する必要はない。どちらも馬鹿だとはっきり言える。

「城の修繕費が馬鹿にならんぞ。何が楽しくて殺し合うように戦うのか。全く理解できん。あの戦闘狂どもめ」
「ジルヴァラ様は戦うの好きじゃないの?」
「俺は野蛮なことは好きじゃない。銀竜の戦闘相手は基本書類や研究だ」
「竜人もいろいろなんだな……」

 銀竜は武の研鑽ではなく知の研鑽を積んだ竜の子孫とされている。戦闘能力は低いが発明や研究に心血を注いでいた。例に漏れず、ジルヴァラの親類には世捨て人のように研究に没頭する者も少なくない。権力を欲する父が彼らを放っておくのは一定以上の成果を彼らがあげるからである。(研究に夢中で話を全く聞かない問題児が多いからというのもある)

「貴様は人と混じっているせいか、力はどの竜よりも劣る。しかし繁殖力目当てや運命の番を求めた他竜族に襲撃、犯されればどうなるかわかるな?」
「つ、番にされる……」
「そうだ。危機感を持て。雄だけではなく雌にも気をつけろ。跨がられて腰を振られるぞ」
「うへぇ」

 番がいたとしても、それは危険度が低いだけで絶対の確証を得るわけではない。不本意な番ができたジルヴァラであっても十分危険なはずだ。口には出せないが、自分はこっそりヴィトとヴァルトを既成事実でくっつけようとした悪人である。適当な理由をあげてふさわしくないと自己申告をした。にも関わらずジルヴァラが教師をしているのは、父親に睨まれて頷かざるをえなかったせいである。

 何より当のヴィトが「ジルヴァラ様が一番良さそう」とオッケーを出したのが大きい。思い出してよりイライラする。何と危機感のない男だ。

「この城にいる限りは俺達や金竜族が貴様を守る。特に数が少ない金竜族にとって、貴様は何よりの宝だ。だから優しくされているのであって、決してハウデンが貴様たった一人に固執し、依怙贔屓しているわけではない!」
「はいはい。なるほどね~」
「話を聞け!」

 いつの間にか敬語も消えているヴィトに、ジルヴァラは目を吊り上げて怒鳴った。感情がむき出しになったジルヴァラを見て、あはは、とヴィトが楽しそうに笑っている。

「それじゃあ先生! 続きをお願いします」
「誰が先生だ!? いや、俺は先生であっているのか……」

 ヴィトは愛嬌のある顔をしており、気安い友人のような振る舞いをされるとつい気を許しそうになってしまう。婚約者はそうやって誑かされたのかとジルヴァラは唸りながら授業を進め、ヴィトは肩を震わせながら笑うのを我慢していた。



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