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本編
6:休日の戯れ ※
ヴィトの授業は毎日四時間、六日続けて一日休むを繰り返しており、今日はその休みにあたる。ジルヴァラも羽を伸ばすと思いきや、朝食を食べた後はひたすら机に向かい、山のように積まれた書類と仕事を片付けていた。
「よぉ、来たぜ」
「……来たぜじゃない。貴様はヴィトの護衛だろう?」
「今はハウデンと一緒なんだよ」
「なるほど。貴様は邪魔者か」
「ひでぇ」
ノックどころか窓から入ってきたヴァルトにジルヴァラは白い額を指で押さえた。
ヴァルトがこうやって休み時間にジルヴァラの元に訪れるのは初めてではない。その度に何度も正座をさせ足が痺れるまで説教を続けたが、ヴァルトは何度でも同じことを繰り返す。もはや説教をする時間こそ無駄なのだとジルヴァラは諦観していた。
ヴァルトはジルヴァラが文句を言いつつも鍵をかけずにいることを知っているので実に機嫌がいい。ヴァルトは行儀悪くジルヴァラの執務机に乗り上げた。
「二人の邪魔をしにいくなら付き合うぜ?」
「貴様と違い、ハウデンは物の分別がついている。俺の生徒を危険にさらすわけがない」
「あっぶねぇ!! 何だ俺の生徒って!? すっかり骨抜きになってんじゃねぇか!」
ヴィトの猫かぶりに騙されんじゃねぇ! とヴァルトはジルヴァラの肩を掴む。ジルヴァラは自分を番にしたヴァルトほど騙されやすくないと心の中で毒づき、胸がチクリと痛んだ。ヴァルトに申し訳ないなどと思う日が来るとは……。
ジルヴァラを番にすると宣言してから、ヴァルトはジルヴァラの邪魔をしつつも愛情表現を欠かさずにいる。昨今は一夫多妻も少なくないというのに、好いていたはずのヴィトにはちょっかいをかけず、ジルヴァラだけを見つめていた。嬉しくないと言ったらもう嘘になる。それくらいに絆されてしまっていた。
「なぁ、ヴィトの教育進んでるんだろ? もうハウデンに任せればいいんじゃねぇか?」
「ハウデンは長から仕事を与えられているだろう。まぁ、ヴィトの保護も仕事だが……」
「お前、未だにハウデンの仕事も手伝ってるんだってな?」
ヴァルトにジトっとした目で見られるが、ジルヴァラは責められる謂れはないと溜息をつく。
「そうだな。婚約者ではなくなって取り上げられてしまうかと思ったが、継続して任せて貰えることになったんだ」
「……あぁ! お前はハウデンじゃなくて仕事が好きなんだな!?」
そうかそうかとヴァルトは急に上機嫌になる。別にハウデンも普通に好きなのだが、言うと面倒なことになりそうなのでジルヴァラは黙っておくことにした。
「仕事はまぁ、好きだな。こんな自分でも頼ってもらえるのは嬉しい」
他の竜と番ってハウデンの婚約者を降りた後、どれほど糾弾されるかと身構えていたが、意外にもジルヴァラの評価はさほど下がっていない。相手が黒竜族では抗えないというのも、ハウデンとの仲もさほど良いものではなかったからだろう。何より今ジルヴァラに抜けられると悲鳴を上げて倒れる文官達が多数いることが大きい。今もひっきりなしに書類がまわってくるのを、ジルヴァラは嬉々としてさばいていた。
「仕事馬鹿ってやつか」
「誰が馬鹿だ……んっ……やめろ! このスケベ!」
「おっと、あぶねぇ」
唇に素早くキスをされジルヴァラは反射的に殴りかかる。しかしヴァルトは何てことはないと余裕でジルヴァラを避け、その拳を軽々と手で受け止めていた。にぎにぎと優しく拳を弄ばれ、より腹立たしい。ジルヴァラは大きく腕を振ってヴァルトの手から逃れる。
「なぁ、腹減らねぇ?」
「減らない」
「もう昼だ。お前、朝飯食ったきりだろ?」
「貴様が無理矢理俺にものを食わそうとするのが嫌だから食べる気がしないんだ!」
「苦しそうにしてるお前の顔、たまんねぇんだよな。……冗談だよ冗談。そんな顔すんな」
とても冗談に見えない恍惚とした顔で言われても、とジルヴァラは変態を見る目でヴァルトを見た。慌てて否定するヴァルトの笑顔は輝かんばかりに整っていて、逆にうさんくさい。
「俺は腹が減った」
「貴様だけ食べにいけばいいだろう」
「……わかった」
「!」
ヴァルトはジルヴァラの肩を引き寄せて首筋に舌を這わす。うねった熱い肉に咽喉を舐めあげられると、驚きと得も知れぬ感覚に身体が強張って動かなくなる。
「ヴァルトッ……! 待て、こらッ!」
「待ってると日が暮れそうなんだよ」
止める気はないと、ヴァルトはジルヴァラの顎を掴んで口付けた。薄いジルヴァラの唇に舌を這わせて差し込むと、ジルヴァラの舌を吸って唾液を注ぐ。上顎を舐められ、歯列を舌でなぞられ、ジルヴァラは与えられる快楽から逃げ切れず、意識はふわふわと覚束なくなっていった。
「ぁっ!? ほ、本当に待ってくれッ……駄目だッ」
ヴァルトの手が太腿に触れ、ジルヴァラは顔を反らして抗議する。恐る恐る自分の股間を見れば布ごしでもわかるほど、性器が硬くなり布を押し上げていた。
「ぁ、ぅあッ……こんな場所で……何を考えているんだ貴様はッ!?」
「だからいいんじゃねぇか。静かにしてろよ」
ヴァルトはジルヴァラのズボンを下着ごと下ろすと膝を押さえてジルヴァラの股間に顔を埋める。ひっ、と驚きと困惑が混ざったような声がジルヴァラの喉から溢れた。
「ぁ、あッ! う、嘘ッ……!」
ジルヴァラの性器を熱い粘膜が包み込む。ヴァルトに口淫されているという事実にジルヴァラは目を見開いて身体を震わせた。逃げなければと思うのに、急所も膝も押さえられていて逃げることができない。ぎしぎしと椅子が軋む嫌な音が部屋に響いていた。
「っはぁ、気持ちよさそうな顔してんなぁ、ジル」
「こ、こういうのは雌がするんじゃないのか!?」
ジルヴァラは実際の経験はないものの、閨指導を受けており知識だけは多い。所謂耳年増だ。舌や咥内で性器を愛撫する方法もその時に教えられていたが、それは雌が雄を興奮させるためにするものだと聞いていたのに、話が違う。
「別に好いた相手だったら雄も雌もどっちでもよくねぇか?」
「うッ、そ、そういうものなのか……?」
「まぁ、雌がするもんだって思ってんなら今度俺にもしてくれよ」
「……」
ジルヴァラの返事も聞かず「待ってるぜ」と笑いながらヴァルトは再び何の躊躇いもなく行為を再開する。好いた相手なら、という言葉がやけに頭に残って離れない。
ヴァルトが自分を好いている……? 本当に?
「っはぁ、あッ……」
ヴァルトがもし本当にジルヴァラを好いているならと想像するだけで、ジルヴァラはそわそわと落ち着かず、胸が苦しくなる。けれど決して嫌な苦しさではない。
「ヴァルトッ……ん、そこ、あんまり、ぁッ……」
性器の裏や雁首に舌を這わせられると強烈な快楽に意識が明滅する。ヴァルトの黒い髪を撫でると、止まるどころか愛撫の勢いが増し、ジルヴァラの腰が快楽を強請るように揺れ始めた。
「っぁ、ん……ッ……っはぁ、ヴァルトッ、もぅ……が、まんが……ぁッ」
射精が近付き太腿が強ばる。離れてくれとヴァルトの頭を押すが、ヴァルトは決して唇を離さず、それどころかジルヴァラの性器に唾液を絡ませきつく吸い上げた。
「ひ、ぁッ! なんで……ッ! はなしてッ……!」
我慢しようと抵抗しても、強烈な快楽に頭を支配され射精のことしか考えられなくなる。逃げ出そうにも足を押さえられて動くことが叶わず、強制的に快楽を与え続けられることにひどく興奮してしまう。
「もっ……でる、からッ……! たのむ、からッ……ヴァルト、ッ……ッッ――――!!」
口端から涎を零し、ヴァルトの名を切なげに呼ぶと応えるように激しい愛撫が何度も何度もジルヴァラを追い詰めた。こみ上げてくる快楽の波に抗えない。ジルヴァラは背筋を反らし、身体を弛緩させながらヴァルトの口の中に精液を注ぎ込む。
「ん……」
ヴァルトは大きな喉仏を動かし、ジルヴァラの精液を飲み込む。性器から精液を丹念に舐めとった後「にげぇんだなこれ」と眉間に皺をよせ唇から舌を出していた。
「……だから離せと言っただろう」
「は? お前精液の味知ってるのか?」
ヴァルトの瞳孔が爬虫類のように縦に伸びる。こうやって小さなことに嫉妬し、殺気を放つのはもはや日常茶飯事だ。ジルヴァラは慣れたとばかりに呆れた顔で首を振る。
「苦いと聞いたことがあるんだ」
「あぁ、聞いただけか」
なら良い、とヴァルトは満足そうな笑みを浮かべており、瞳孔は一瞬で元に戻っていた。変わり身が大変早い男である。
これはもはやただの勘だが、ヴァルトを嫉妬させすぎるととんでもないことになりそうな気がした。
「そんで飯食いに行くか? それとも続きをするか? どっちがいい?」
「……食べにいく」
「いい子だ」
子供にするように頭を撫でられ、ジルヴァラは不機嫌そうに眉間に皺を刻む。けれどやめさせようとも、やめろとも言わないので、ヴァルトは笑みを噛み殺しながら丁寧にジルヴァラの頭を撫でた。
「ヴァルト」
「ん?」
「……口をゆすがないのか?」
ジルヴァラはヴァルトの唇をちらちらと見つめる。自分の性器を愛撫していた舌や口が気になって仕方がない。できれば早く、今すぐ、即座に口をゆすいできて欲しかった。
「ん? あぁ別にこのまま飯に行ってもいいだろ?」
「なッ!? き、汚いだろう!?」
「いや、お前のだぞ? 汚くねぇよ」
どういう理屈だとジルヴァラは信じられないものを見る目でヴァルトを見た。このままでは本当に嗽(うがい)すらしないのではないか。ジルヴァラはわざとらしい溜息をついた。
「……。そうか。キスをしたかったのだが、貴様が口をゆすぎもしないなら無理だな。残念だ」
「は? おい、待て。待てよ! そこにいろ! 絶対に動くなよ!?」
ヴァルトはジルヴァラに指を指して厳命すると慌てて洗面所に向かって走っていった。普段勝手に奪っていくのに、自分からのキスがそんなに嬉しいだなんて。単純だな、とジルヴァラは肩を竦ませる。
そんな気分ではなくなったといえばキスなどする必要がない。自分にだって悪知恵くらいまわるのだ。ちょっとした普段の仕返しだとジルヴァラはヴァルトを待たずに気分良く食堂へと向かう。
しかし追いつかれたヴァルトに公衆の面前で唇を奪われるのはあと数分後のことだった。
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