【完結】色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第二部

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「確認したが書類に問題はない。ファンクラブの創設を受理する」
「ありがとうございま~す」

 放課後、俺と秋名は生徒会室で汐と対面していた。改めて入った生徒会室は二つのデスクを除いて担当者が座っており、以前の誰もいなかった生徒会室よりもずっと柔らかい雰囲気になっている。
 重厚感のあるアンティークデスクは一番奥の春樹の席を中心に、左右サイドに分かれて並んでおり、誰も座っていないのは春樹の席と斜め前、汐の真向かいに位置するデスクの二つだけだ。誰のものかわからないデスクにはボールペン一つすら置かれておらず、不自然なくらい綺麗だった。

「わざわざファンクラブなんて作らなくても生徒会に入るなら面倒事にならんよう対応したぞ」

 汐は眼鏡の鼻あてを押し上げながらファンクラブ設立の書類を眺めている。眼鏡のせいか、真面目で硬質な印象を持つ汐の顔はさらに近寄りがたさを増していた。

「この生徒会はみな優秀と聞く、俺がいて迷惑をかけたら元も子もあるまいよ」

 俺の発言に生徒会の面々はまんざらじゃないとニコニコしているのに、目の前の汐だけは厳しい顔つきのまま変わらなかった。

「いるだけで迷惑になどなるか。内申や人脈作りだけが目的なら断っている。しかし貴様は困っている人間だろう? それなら話は別だ。俺達生徒会執行部は学校運営に直接携わっているわけではないが、学校をより良くするために活動する責務がある。それは生徒を守ることも含まれているんだ」

 汐は相変わらず真面目だ。相手が誰であってもきちんと最後まで面倒を見てくれるであろう安心感がある。汐の言葉に近くに居た後輩達は頬を染め、目をキラキラさせて汐を見ていた。傍にいる後輩達には慕われていそうだが、懐に入らないうちはこの男の良さもあまりわからないだろう。惜しい男である。

「俺はちと事情があってな、いつ何があるかわからぬ身だ。あまり面倒をかけたくない。許せ」
「……そうか。おまえは確か家が……いや……なんでもない。人のプライバシーに土足で踏み入るのはマナー違反だな」

 すまない、となぜか汐に謝られて俺は首を傾げる。まわりを見ると皆沈痛な表情で俯いていた。隣にいる秋名だけが肩を震わせ、笑うのを堪えている。

 あぁ、そういえば俺はなんだか壮大な事情を抱えて日本に帰化した設定になっていたのだった。荒唐無稽な噂は汐にまで伝わっていたらしい。

「皆、おはよう」

 扉が開き、生徒会室に入ってきたのは青い顔をした春樹だった。もう放課後だというのに、わざわざ学校に来たらしい。仕事がある、と言っていたが学生の身分で無理をしなければならぬほどこの生徒会は忙しいのだろうか。

「早良、おはようという時間ではないぞ。もう放課後だ。来なくていい」
「仕事があるよ」
「お前にしかできない仕事などないぞ。お前の代わりは俺でもできる。それに、そろそろかなめも戻ってくるんだ」
「それならいつ僕が死んでも安心だね」
「……そういう意味じゃない」

 汐は眉間に皺を寄せて頭を横に振った。春樹は『わかっているよ』とだけ告げて俺の傍にやって来る。穏やかな笑顔なのに、顔が青白いので一層儚げに見えた。触れたら雪のように融けてしまいそうだ。

「今日も病院にいたのか?」
「あぁ、うん。最近ずっとで嫌になるよ……」

 俺は手を伸ばし、恐る恐る春樹の頬に触れた。外はもう暖かくなっているというのに、触れた頬はとても冷たい。

 春樹はここのところずっと病院通いで、あまり学校にいなかった。いっそ入院すれば良いのにと言えば、春樹は笑顔を消し、眉間に皺を寄せてしまう。

「嫌だよ。そうしたら……君に会えない」
「死ぬよりはマシじゃないのか?」
「君に会えないのは死と同義だよ」
「おい早良、やめてやれ。重いぞ」

 汐のツッコミに秋名や生徒会のメンバー達も苦笑いしている。

(しかし……本当に顔色が悪いな……)

 頬を触れていた手を今度は首に移動してみるが、優しく触れただけでは脈が測りづらいほど弱くなっている。これは相当辛そうだ。
 その場しのぎだが、少しだけ治癒を施す。春樹は手を俺の手の上に重ね、ほうと息を吐く。本当なら体液を伴った治癒が一番効くのだが、秋名から公衆の面前でキスするなと怒られている。人前ではこれが精一杯だ。

「あぁ、温かいな……静海くんの手、落ち着く」
「そうか。無理はするなよ」
「うん……そういえば、二人はどうしてここにいるの?」

 秋名は春樹に『これこれ!』と嬉しそうに汐の持っている紙を指差した。大きくファンクラブ創設申込書と書かれた紙に春樹は目を瞬かせる。

「静海くんのファンクラブ作ったの? いいね。僕も入りたい」
「いや、会長が入っちゃ駄目でしょ」
「え? 駄目なの?」

 ファンクラブを持っている人間が他人のファンクラブに入ってはいけないのだろうか?
 詳しくは知らないが秋名も汐も微妙な顔をしているところを見ると、彼らにとっては常識を逸脱する行為のようだ。

「規定はないよね? 汐」
「無いが、普通は入らないんじゃないか?」
「そうなの? ……でも入りたいな。白州くん良いでしょ?」
「いや、他のファンクラブ持ってる人が入ったらわけわかんなくなるよ。却下却下」
「えー……ねぇ、静海くん。僕が入っちゃ駄目かな?」

 春樹は俺の手をぎゅっと握り、ずいと顔を近付けてきた。美しい顔が眩いほど煌めいている。顔面が武器になるのを知っているがゆえの行動だ。普通の男だったら即落ちだが生憎俺は普通ではない。だから少ししかぐらつかない。

「……駄目なようだな。まぁ春樹のファンクラブが無くなった時には入ってくれ」
「汐、ファンクラブの解散ってどうするんだっけ?」
「おい、冗談でもやめろ! 面倒事がまた増える!」

 春樹のファンクラブ会長は汐が担当しているらしく、解散なんてしたら面倒になるからやめろと春樹を叱っていた。春樹は叱られながら嫌そうに顔を歪めていて、二人を見ているうちに思春期の息子と母親を思い浮かべてしまった。勿論汐が母親だ。……割烹着でお願いしたいところだな。

「駄目だって」
「なら仕方ないな。でも、もしお前が本気で入りたくなったら言ってくれ。浚いに行こう」

 俺が春樹の耳元で囁くと、春樹は鼠色の目を見開き、頬を染めた。

 そうして攫ったついでに秋名のためにファンクラブも潰してしまおう。俺は春樹を手に入れ、秋名は憂さ晴らしができる。そして俺達二人は目立つことをするなとイウディネからお仕置きプレイを強要されるだろう。あぁ、良い。一人増えるだけでエロのバリエーションがガンガン増えるぞ! これからどんどん増やせばさらにいろんなことが……。
 
「あ、そろそろ俺達時間だわ。有、エロいこと考えてないで行くぞー!」
「いたっ!? 痛いぞ秋名!」
「じゃねー」

 秋名にはなぜか俺の考えていることが筒抜けだ。ペシ! と頭を叩かれ、ガードするように後頭部を抑える。そのままぐいぐいと秋名に背中を押され、生徒会室を後にした。



 その後、秋名とファンクラブに入ってくれた面々に挨拶をし、俺のファンクラブは無事設立できたらしい。秋名はいつの間にか会誌を作っていて、皆それを開いて口々に感嘆の声を上げていた。

 俺も見せてもらったが、ファンクラブのルールや、俺の身長、体重、好きな菓子や今ハマっているアニメ、週末の献立まで事細かに記載されている。どうやら俺の知らないところで秋名はイウディネと連絡を取り合っているようだ。

 しかし、聞かれればちゃんとアニメの解説も事細かくするというのに、なぜ秋名は直接俺にではなくイウディネに聞くのだろうか。何だかすごく寂しくなった。








======================================

~秋名と有が出ていった後の生徒会室~


「汐」
「ん? どうかしたか?」
「僕今妊娠してない? 大丈夫?」
「ブッ!? す、するわけがないだろ!?」
「だよね。吃驚した。静海くんが格好良すぎて孕むかと思った」
「……もう一度病院に行け、脳みそも見てもらって来い」


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