【完結】色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第三部

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 俺は叔父上の車で学校まで届けられた。ここは教師や春樹しか使っていないので来るのは久々だ。すでに三時間目が終わりそうな頃合いだったので、次の休み時間までは待機することにした。自販機で飲み物を買い、玄関近くのベンチに座って鞄の中から携帯ゲームを取り出した。

 今攻略中のゲームはシリーズも10作以上でている王道RPGだ。今回も安定の面白さを提供してくれている。ゲームを起動させ、消音のままゲームをする。

 街を出てすぐに敵が衝突し、戦闘画面に移行した。敵は俺の大嫌いな毒を使うモンスターだ。羽根が生えた美しい天使のようなモンスターなのだが、全体の色が毒をイメージさせる紫と緑だ。俺は戦闘をスタートさせ、モンスターと対峙する。たたかう、にげる、と表記され、戦うを選んだ。

「毒を孕んだ天使か……」

 海月のようだ、と思う。海月は俺にとって、ちょっと面倒な相手である。羽持ちな上に俺や夏、春樹にもちょっかいをかけた。いわば邪魔者だ。しかし邪魔だからといって、この戦闘のように殺してしまえばいいというのはあまりに乱暴だ。話し合いをするとか、何とか穏便にすますことはできないだろうか。

 皆に相談すべきかも悩んだが、俺が相談してもイウディネと春樹は叔父上に賛同する気がした。あの二人は俺にちょっかいをかける者に容赦が無い。かといって秋名と夏と俺では叔父上やイウディネ、春樹に対抗できる気もしない。うーん。これ詰んでやいまいか?

「お、毒状態にならなかったな」

 モンスターは2ターンほどで呆気なく倒された。経験値と金が表示され、俺は次の目的地へとキャラクターを動かす。海月が死んでも俺はこうやって生きていくのだろう。

「戦わず、逃がすにしてもな……」

 魔界なら叔父上もいないし安全かもしれない。しかし魔界へ行くにはゲートを通らねばならないのだ。その管理は叔父上がしている。すり抜けられる裏技でもなければ帰ることはできない。
 魔界が駄目なら人間界を転々とする手もある。それも叔父上が見逃してくれれば、という前提が必要だが……。

 ぼんやりしていれば終業の鐘が鳴った。ゲームをセーブした後、バッグにしまう。そろそろ教室に戻ろう。いや、まずは職員室に向かうべきだろうか。空き缶を捨て、職員室を目指す。

「あ、いた。ちょっと! 静海有!」
「ん?」

 廊下を歩いていると名前を呼ばれ、足を止める。
 振り返れば梅雨がにやにやしながら俺を見ていた。

「梅雨?」
「ごめんねぇ、白州先輩取っちゃって」
「秋名は俺のだぞ?」
「はぁ? 知らないの? 白州先輩今は俺と付き合ってるの」
「そうか。付き合うのは好きにしていいが、秋名が俺のものなのは変わらんぞ」
「頭悪すぎ……まぁ学年ビリの頭じゃわかんないか」
「何だと!?」
「何? 怒ったの?」
「俺はビリだったのか!?」
「……」

 確かにテストの点数は殆ど一桁だったし、ビリと言われても納得できる。そうか、俺は本格的に馬鹿だったんだな。今ならさすがにビリじゃないのではなかろうか。覚えてすぐ忘れてしまうけれど、勉強してすぐのテストならビリにはならないと自負できる。(ただし良い順位かどうかは定かではない)

「……本当に馬鹿だね。救えない」

 梅雨が呆れ果てた、と言わんばかりの顔をしていた。俺は反論したくとも救えないほど馬鹿なのは事実なので何も言い返せない。でも俺だって、ちょっとは救われようと勉強しているのだぞ……!

「あ、そうだ。馬鹿な静海先輩にいいこと教えてあげる」
「おぉ、何だ?」
「……」

 もしや救える方法を教えてくれるのだろうかと思わず笑顔になる。しかし梅雨は俺とは反対に嫌な顔をしていた。不機嫌そうに俺を睨みつけている。
 本人は嫌がるだろうが梅雨は顔に表情が現れやすいくて面白い。ベッドでの表現も豊かなのだろう。

「白州先輩から伝言。放課後、一人で美術準備室に来て欲しいんだって」
「なぜ?」
「別れ話するんじゃないの? 白州先輩優しいなぁ、放置せずにちゃんとはっきりさせてくれるんだもん。勿論、僕のためにだけど」

 取り巻き連れていったら恥かくだけだよ、と梅雨は鼻で笑う。

「ほんっとう、白州先輩は素敵だなぁ。さすが僕の彼氏だよねぇ!」

 梅雨は自分が一番愛されているのだと俺に言い聞かせようとする。
 俺達が人間であれば、不安に思い心が揺れたり、少女漫画やドラマのようにすれ違ったりして愛を深めていくのだろう。しかし、残念ながら俺達は人間じゃないのでそのくくりには入らない。

 しかも色々知っている身としては、今の梅雨がどうにも痛々しく見えてしまう。何だろう。漫画やアニメにハマった頃、ちょっとした出来心で必殺技ノートを作っていたのを、数年経って見つけたみたいな……。そんな複雑な気持ちになる。恥ずかしい!

「これ、貸してあげる。マスターキーだから無くさないでよ。そんで終わったら白州先輩に渡して。これ一枚しかないんだからパクったりしないでよね」

 差し出された黒いカードを受け取る。カードには英字でマスターキーと書かれていた。このカードがあれば入れない場所はないのだという。これがあればこの学校のどこでもセックスし放題なわけか。盗むなと言われる価値はあるな。

「あぁ、わかったぞ。というか、梅雨はなぜこんなカードを持っているんだ?」
「理事長を父親に持つと融通がきくの」

 出処は父親か。父親は随分梅雨に甘いようだ。俺はカードをポケットに入れて教室へと歩き出す。バイバイ~と梅雨が上機嫌で手を振ってくれた。

「ばーか」

 何か聞こえた気がして振り返ったが、梅雨はスキップしそうな足取りでどこかへ行こうとしていた。その後姿に俺は首を傾げる。秋名がわざわざ梅雨を通すなんて面倒をするわけがないので、まぁ罠だろうな。

「……虎穴に入らずんば……何を得ないんだったか?」

 俺の頭はすっかり勉強を拒否している。
 これでは順位もブービー賞がいいところかもしれない。






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