かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた

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第33話 魔法の天才

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 ヒカリの捕らえられている部屋の前で、エドは必死に扉を力ずくで開けようとしていた。ヒカリも内側から押すようにして協力する。

「ふんぐー!」

 エドの力んだ声が聞こえてくる。すると、遠くから敵の集団が再び近づいてきているのが、声や音でわかった。

「まずい! 早くしないと!」

 エドは焦った様子で言った。

「ねー! 近くに鍵とか落ちてないよね?」

 ヒカリは急いで問いかける。

「んなもんねえよ! さすがに、こいつらもそんなアホじゃねえだろ!」

 エドは焦った様子で言った後、扉を力ずくで開けるのをやめたようだ。

「あー。なんかこう、針金とかあれば開けられるのかなー。この鍵穴に合う何かが……。って、鍵付いてんじゃん! あいつらそんなアホだったわ!」

 エドは急いで鍵を開けて扉を開き、部屋の中に入った。エドは部屋に入るとすぐにヒカリを抱きしめた。エドは何も言わなかった。廊下の方を敵の集団が無事に通り過ぎたのがわかったが、それでもエドは黙ったままヒカリを抱きしめる。ヒカリは内心不安だった思いが溢れてきた。でも、エドがこうやって抱きしめてくれているので、その不安な思いはどこかに溶けていったような気がした。

「無事でよかった。怖かっただろ。……ちゃんと守れなくてごめんな」

 エドは優しく語りかけた。

「ううん。助けに来てくれてありがとう」

 ヒカリは落ち着いてそう言った。

「魔女玉は取られちゃった」

 ヒカリは少しうつむきながら言う。

「あぁ。取り返そう。こんな奴らに渡していいものじゃない」

 エドはそう言うとヒカリから優しく離れた。ヒカリは離れて見えたエドの真剣な目を見て、心がすごく落ち着いてくるのがわかった。

「さて! どうやってここを出るかな。といっても、魔法が使えねえから、走って逃げることしか思いつかねえ!」

 エドは困った表情を浮かべて言う。

「いやいや、どうにか隠れながら無難にいこうよ! 走って逃げるなんて、もしも敵に見つかった時だけだよ!」

 ヒカリは必死に伝えた。するとその時、部屋の扉の向こう側に誰かが来たのがわかった。エドはヒカリの前に立って構える。

「この船の鍵は……」

 部屋の向こう側から声が聞こえた。すると、次の瞬間、勢いよく扉が開いた。

「さしっぱなしが基本なんだー!」
「すっごく不用心!」

 扉が開くと全身獣のような人が叫びながら登場した。ヒカリとエドはまさかの発言にツッコミを入れずにはいられなかった。こげ茶色の体毛に灰色の短パン、鋭い牙と爪を持ち合わせた獣のような人。この姿も魔法なのだろうか。

「見慣れない顔だな」

 獣のような人はエドを見てつぶやく。エドは戸惑っているような表情を見せた後、何か良いアイデアを閃いたような顔をした。

「……き、昨日、こちらに来たばかりの新人です! 自分の部屋がわからなくなり、間違えてこの部屋に入ってしまいました! 申し訳ございません!」

 エドは機転を利かせたつもりなのだろう。でも、そんな理由が通用するわけないだろうと、ヒカリは心の中でツッコミを入れてしまう。

「……はぁ?」

 獣のような人は少し目つきが変わった。さすがに通用しなかったようだ。

「新人は上の階だぞ! ちゃんと説明会で聞いてなかったな!」

 獣のような人は叱りつけるように言った。まさか通用するとは思わなかったので、ヒカリは心の中で喜びの舞を踊った。

「俺も寝てたからわかる! うん。うん。眠くなるんだよなー。もしかして、俺のことも知らないんだな。俺はオリバーっていって、一応は幹部の一人だ。覚えておくように。とりあえず、ここの部屋には近づくなよ。俺が怒られるからさ」

 オリバーは完全にエドを新人だと思い込んでいた。

「はい。すいません」

 エドはそう言って部屋を出ていこうとする。ヒカリはエドだけ助かっても意味がないと、焦ってしまった。すると、エドはオリバーの前で立ち止まる。

「あっ! そうだ隊長!」

 エドは意味もなく敬礼しながらオリバーに話しかける。

「隊長! ……うふふ。まだ何かあるのか?」

 オリバーは隊長と呼ばれて喜んでいるようだ。すると、エドがヒカリを指差した。

「あの女、お漏らししてましたので、トイレに連れて行った方がいいんではないですか?」

 エドはすごいことを言った。ヒカリはお漏らしをしていなかったので、危機的な状況だとはいえ恥ずかしいことを言われて、心の中では少し怒ってしまった。

「それは、大変だ! 早くトイレに連れて行って新しい下着に着替えさせよう!」

 オリバーはすごく優しい人のようだ。

「この部屋に入ってしまった罰として、私がこの娘を連れていきますので、隊長はこちらでお持ちいただけますか?」

 エドはそう言った。

「そうだな! 任せたぞ! できるだけ早く戻って来いよ!」

 オリバーはエドがヒカリを部屋から連れ出すことを認めた。

「はい! ほら、行くぞ!」

 エドは敬礼しながら返事をして、ヒカリを部屋から連れ出した。ついに、部屋から出ることができたヒカリとエドだった。

 その時、突然ほうきに乗った一人の魔法使いが、勢いよくオリバーの前に立ちはだかった。

「待ったー!」

 ヒカリはすごく聞き覚えのある声に驚いて目をやると、なんとそこにいたのはローブ姿のシホだった。まさかの魔女姿のシホに戸惑った。もうシホは魔法を使えないはずなのに、どうして使えるのか不思議だった。

「誰だ、お前は?」

 オリバーはシホに問いかけた。そこにエドが急いで割り込んだ。

「隊長! 実はこいつも――」
「――私はシホ! この人と同じくヒカリちゃんを助けに来た! ……さぁ、始めましょう」

 エドの言い訳もむなしく散り、シホは思いっきり真実を伝えた。

「なっ! お前、だましたな!」

 オリバーはエドを指差し焦った様子で言った。

「だまされる方が悪いんだよ!」

 エドは偽ることをやめ、正直に言い放った。

「くそ! なめやがって!」

 オリバーは怒った様子でエドに向かっていく。エドが焦って後ろに下がると、エドとオリバーの間にシホが割り込んだ。

「あなたの相手は私よ!」

 シホは勇ましくオリバーに立ち向かった。

「シホさん、なんで魔女に?」

 ヒカリは状況が理解できず、直接シホに問いかけた。

「マリーさんから『本当に大切なものを守る時だけ魔女玉を使っていい』って言われててさ。ここで使わなきゃ、いつだよって思ってね!」

 シホは笑顔でそう言った。

「魔女玉? お前、魔女見習いか。俺もなめられたもんだ。魔女見習いごときが、俺に勝てるわけないだろうが!」

 オリバーは怒った様子でシホに襲いかかった。

「ちょっと、エド! どうしよう!」

 ヒカリはシホを心配してエドに駆け寄った。

「大丈夫だ。……見てろ」

 エドは落ち着いた様子だった。ヒカリはオリバーとシホの戦いに視線を移した。すると、オリバーの鋭い爪攻撃に対して、シホは床板を宙に浮かして、それを盾のように扱い攻撃を受け止めていた。それからシホは、数枚の床板や壁板をオリバー目がけて投げつける。しかし、オリバーの動きはとても素早く、全てかわされてしまう。その後、シホとオリバーは少し距離をとったまま、じっと睨み合う。

「すごい」

 ヒカリはシホがあまりにも戦うのが強かったので、見とれてしまった。

「マリーが言ってたんだ。シホは『魔法の天才』だよって」

 エドは安心した様子でそう言った。

「天才……」

 ヒカリはシホがそれほどまですごい実力者だと知らず、驚いてしまった。

 それから、シホとオリバーは再び戦いを始めた。強いはずのオリバーと、まともに戦えているシホはとにかくかっこよかった。

「くっ! なかなかやるな! お前、本当に魔女見習いか?」

 オリバーはシホの攻撃を避け、後ろに下がりながら言った。

「『元』だけどね!」

 シホは少しだけ笑みを浮かべてそう言った。

「なんだそれ! 魔女見習いでもないのか! ……バ、バ、バカにしやがってー!」

 オリバーは気が狂ったような様子で、シホに襲いかかった。

「かかった!」

 シホは笑顔でそう言うと、散らばった床板と壁板の二枚を動かし、思いっきりオリバーを空中で挟みつけ、そのまま数メートル先の丁字路の壁まで勢いよく追いやった。オリバーは胴を床板と壁板で押さえつけられて身動きがとれないようだ。

「ぐはっ! ……っく。動けない」

 オリバーはそう言った後、歩いてくるシホを見ておびえてしまったのか、突然震えだした。おそらく、シホが大きめの床板を、まるでチェーンソーのように高速回転させて、近づいてきたからだ。さらに、シホは高速回転させた床板を壁に当てて、火花を散らしながら迫るという、まるでホラー映画のような恐ろしい行動をとっていた。そして、シホはオリバーの目の前に立ち止まる。

「とどめよ。首にお別れ言いなさい」

 シホはオリバーを見下ろしながら言った。それは、とても恐ろしい表情だった。

「ひっ!」

 オリバーは目を大きく開いて涙を流していた。

「……時間切れ」

 シホはそう言って高速回転させた床板を、勢いよくオリバーに投げつけた。その瞬間、大きな音がして煙が立ち上がり、状況がわからなくなった。煙が落ち着いてからよく見ると、オリバーの頭上ギリギリに床板が突き刺さっていた。オリバーは、どうやら気絶しているようだ。

「ふう」

 シホはその場に座り込んだ。ヒカリとエドはシホに駆け寄った。

「シホさん! すごいです!」

 ヒカリはシホの手を握りながら言った。

「すごいなシホ! めっちゃ怖かったけど……」

 エドもシホの肩に手を添えて言った。

「うん! 頑張ったよ!」

 シホは笑顔でそう言った。その瞬間、ヒカリ・エド・シホの三人は、違う場所に移動させられた。周りを見ると薄暗くて広い部屋の中だった。よく見ると奥にある椅子に誰かが座っていた。
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