社内恋愛にご注意!!

ミミリン

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初対面の平井さん

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デザインのデータが確定したら、営業にデータをUSBに入れて持っていくことがしばしばある。


特に俺は新人だから先輩の分も任されることが多い。

受け取ってもらえたら書類にサインをもらわないといけないけど、たったこれだけの事でも結構ストレスだった。


営業部に行ってもまず対応してもらえない。

データを確認してもし見落としがや勘違いがあれば後で責任を問われるし、営業と直接関係のない業務に手を止めてまでしたくなっているのが本音だろうな。


挨拶しても無視される。


こっちも仕事だから早く終えたいんだけど…。

これのせいで時間ロスだし無駄な時間だろう。ここの管理職、無能だな。


「すみませ~ん!デザイン課の者ですけど~!すみませ~ん!!」わざとそこにいる営業課長に聞こえるように叫ぶ。目立つのは嫌いだが無駄な時間を過ごすのも嫌なんだよ。


お前が動くのか?お前の無能でやる気のない部下が動くのか?どっちでも良いから早くしろよ。何だ、営業ってこんなしょうもない人間の集まりなのか…。出世したい奴らの集まりって本当だな。

評価されない地味な仕事はしたくないって事か。


俺は違う。出世?いらねーよ。絵をかかせてくれたら何でもいい。それで生活できるんだから十分だ。


「あ~あ、営業さんはやる気ないんですね~。分かりました~、戻って上に報告します。」嫌われても良いし、評判悪くなってもかまわない。事実を報告しよう。くそみたいな連中の集まりだって。



「おいおい、どこ行くんだよデザイン課。」

デザイン課じゃねえ、山根だ。課長がやっと対応する。報告されたら面倒だもんな。


「田所君、ちょとやってあげて。」


「え~、俺ですか?平井さんは?」


「平井さんは今取引先と会議中だからいないんだよ。」

「瑠美ちゃんは?」

「近藤さんも。」

「え~、じゃあ君後で来てよ。」

「…二度手間なんで困ります。どなたの確認とサインでもいいのでお願いします。」


「あ~あ、かったるー。」田所という男は顔や見た目は整っているが明らかに面倒そうに俺に対応する感じの悪い奴だった。


「君さ~、新人だろ?もうちょっと愛想よくしないと干されちゃうよ?知らないから教えてやってるけど。」

余計なお世話だ。仕事をさっさとしない奴に上から目線で言われても何も響かねえよ。


「しかも、図体デカすぎ。ぬりかべじゃん。」クスクス笑う。

早くデータ見てサインしろよ。俺のボディと関係ないだろ。ぬりかべに失礼だし。


「はい!ぬりかべ君。これで完了!借り一つだぞ。今度トラブルがあったらデザイン課で何かしてよ。」


「これ、業務ですよね。借りってどういう意味ですか?そういうシステムなら上司に確認します。俺新人なんでよく分らないし。ぬりかべでもないし。」


「う、嘘だよ。冗談通じない奴だなあ。はい、もうサインしたからもう行って。じゃあね。」
ちょっと焦ったように俺を追い払う。


半分冗談じゃなかっただろ?俺みたいな気弱そうな人間を自分の思い通りになるか見定めて徐々に支配するタイプだなお前。

顔が整っている分女受けは良いんだろうけど俺は騙されない。

分からない振りして距離を取るのが一番だ。


「どうも、ありがとうございました。」ペコっと頭を下げてデザイン課に戻った。


一応全部デザイン課の課長に報告するか。


課長に報告したところでデザイン課は部ほどの規模はないので弱小部署だ。

俺が報告したところで状況は特に変わらず、毎回冷たい対応をされるのが恒例だった。



一度近藤瑠美がいる時に出向いたときがあるが、俺を見るなり「げっ、きも…。」と吐き捨て「課長~、瑠美お腹が痛くて貧血気味なんです~。ちょっとお手洗い行ってきます。」とあからさまに場を離れた。

白々しい奴だな。さっき見たときシャキシャキ動いていたぞ。


げんなりしていたら


「あっデザイン課の新人さん?お疲れ様です。データ持ってきてくれたの?」後ろから優しい声がした。


振り返るとまさに天使が俺の目の前に現れた。


普段から女性は苦手の部類で出来るだけ避けてきた。

だって俺の知っている女性は目元を謎の黒い液体で囲み、まつ毛が不自然なほど長く、ギトギトした唇で上目使いと言われる睨みつけるような目力で圧倒して来る不穏な存在だった。


けど、この人は一目で違うと思った。


そうか、元の顔立ちが整っているんだ。化粧も髪型も服もすべてが地味に仕上げているけど関係ない。

全ての骨格が綺麗で、もっている雰囲気と相まって輝いて見える。


すごく惹かれる絵に出会ったくらいの衝撃だった。


「あ、突然声かけてごめんね。さっき会議が終わって戻ってきたらUSB持ってここにいたから確認と署名かな?と思って。」


「あ…。はい。そうです。これ確認してもらえますか?」


「はい、良いですよ。いつもデザイン課の方が持ってきてくれて助かります。あ、私確認作業で時間かかっちゃうからここ座ってね。あと、これどうぞ。」


彼女は小さな個包装された飴玉を俺にくれた。


「甘い物苦手じゃなかったらだけど。何か私おばちゃんみたいだね。」そう言って優しく笑ってくれた。


「い、いえ。いただきます。」その笑顔に心が揺さぶられる。動揺を隠すようにもらった飴玉を口に放り込む。


「えっと、あ、この前会議で出ていた新製品のデザインだね。うん、すごく素敵。」彼女はてきぱきと画面を一つ一つ確認していく。


「あ、これ会議で変更になった内容がそのままになってる。えっと…。」

俺の方を振り返り名札を探すように目線が動く。


一つ一つの動作に目を奪われる。


「あ、俺山根です。山根遥です。」


「ごめんね、山根君この箇所修正点でコメント入れておいていいかな?」


「はい。すみません。ミスですね。」


「大丈夫。よし、これで全部OKっと。はい、USB返すね。ここにサイン入れたらいいかな?」


「は、はい。ありがとうございます。」爪が短くて優しそうな手…。


「いつも持ってきてもらってありがとう。この作業でデザイン課の方の手間をとらせちゃうから社内データで飛ばす方が良いんじゃないかって営業部会議で提案してみたんだけど既存で良いって言われちゃったの。でも、やっぱり大変だよね。また提案してみるね。」


「あ、ありがとうございます。あの、システム変わるまでよろしくお願いします。」


「うん、こちらこそよろしくお願いします。」


「あの、飴も美味しかったです。」

なんだろう、こんなにわざわざ話を伸ばす必要はないのにこの人と離れがたい…。

俺の相手してる時間この人は内勤業務出来ないから迷惑だよな。


「あ、それ美味しいよね。実は、さっきのがブドウ味で新しくグリーンアップル味が出たんだ。スーパーで安売りしてたから多めに買っちゃった。良かったらどうぞ。」


そう言って、自分のデスクから出した5個ほど俺にまた飴玉をくれた。


なんだ、この嬉しすぎる感情は。


スーパーで安売りって。こんな清楚なお嬢様みたいな人がこのフレーズ言ったらギャップ萌えだろう。

俺、こんなミーハーな思考じゃないんだけどな。


「あ…そうっすか。ありがとうございます。」

ああ、もっと嬉しそうにしろよ俺の顔!普段から表情筋を使っていないから劣化してる。多分声帯も劣化してる。


ぬりかべみたいなただでかくてぼよぼよボディで不愛想とか最悪じゃん…。


「いえいえ、また感想聞かせてね。あ、私の名前伝えてなかった。私は平井マコです。じゃあお互い頑張ろう。」



「は、はい。ありがとうございました。」俺は最後までぼそぼそと喋っていた。
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