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明日に備えて
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仕事が終わった。
今日は里子さんが紹介してくれた美容院に行く日だ。
そして、明日は営業部を異動する日。
今の気持ちは…。
内勤の仕事は楽しかった。
田所さんと付き合って瑠美ちゃんと出会って、最後はみんなから良いように思われなくなってしまったけど、それでも沢山の事を教えてもらった大切な場所だ。
異動する日はちゃんと身なりを整えてしっかり感謝を伝えよう。
仕事を終えると営業部の課長が声をかけてくれた。
「平井さん、あの、ちょっと良いかな?」
「あ、この後予定を入れてるので少しだけなら大丈夫です。」
課長はきょろきょろ周りを見渡して誰も聞いていないことを確かめる。
「あのね、明日が平井さんの異動の日だよね。」
「そうですね。10月1日と清水部長と確認しました。明日はしっかり皆さんに挨拶する予定です。今まで皆に知らせずに見守っていてくださった課長に感謝しています。」
私は深々とお辞儀をした。
課長は押しが弱くていつも営業部長への忖度と部下への突き上げで大変そうだった。
悪い人ではない。むしろ優しい人だからそれが優柔不断に見えてしまうんだ。
課長を見ると中間管理職が本当に大変だということを実感してしまう。
「あの、課長。お体に気を付けてくださいね。」
「ひ、平井さん。ありがとう。今まで私の力不足で君には色々苦労があったと思う。本当に申し訳なかった。最後に聞かせてもらって良いかな?」
「何でしょう?」
「この営業部に居続けることも今ならできる。
デザイン課はこれから外注で人員も予算も削減を検討されているような部署だ。
営業部に居るほうがずっと安全だよ。近藤さんとの事は色々あるのかもしれないけど彼女もいつまでここに居るか分からない。異動を考え直すというのはどうだろう?」
「それは、私にこの営業部に残るかどうかと聞いていますか?」
「そうだね。君のような優秀な部下はなかなかいない。引き留めたいんだ。」
「…。そう言って頂いて嬉しいです。けれど、もう決めました。異動後は未知の領域で苦労も多いと思います。けど、挑戦してみたいんです。なので、明日予定通り異動させていただきます。」
「…。そうか。いや、ここ最近の平井さんを見ていると芯のような内面が強くなっている気がしたんだが、予想は当たっていたよ。ああ、若いって良いな。いや、自分が後悔しないように聞いてみたんだ。ごめんね新しい門出に水を差すようなことを言って。」
「課長…。課長もまだまだお若いです。管理職の大変さもあると思いますがどうか無理をしないでくださいね。」
「うん…。うん。ありがとう。平井さんが居なくなるのは寂しいけど自業自得という面もあるからね。次に優秀な部下が来たらこうならないようにちゃんと接するよ。平井さんも新境地で頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。時々営業部にはお世話になると思います。その時は新作の飴玉差し入れに来ますね。」
「ああ、楽しみにしているよ。ごめん話はそれだけだ。用があったのに引き留めて悪かったね。じゃあ明日異動の発表を予定通り行うね。お疲れさまでした。」
「はい。よろしくお願いします。お疲れさまでした。」
もう一度深くお辞儀をして私は退社した。
退社した足で美容室に向かう。
担当してくれた美容師さんは里子さんの担当もされているオーナーだった。
「あなたがマコちゃんね。ああ、里子さんが言ってた通り美人さんね。これは担当のモチベーションが上がるわ。」
オーナーは男の人だけど少しお姉風の人だった。外見はスマートで綺麗な顔をしている。
けど、腕はムキムキと筋肉が目立ち何だか異次元な感じだった。
「ああ、怖がらないでね。カット技術は確かだから。えっと、髪の毛あんまり手入れできてなかったみたいね。毛先が痛んでるしただただ伸ばしっぱなしになってたって感じね。」
「そ、そうです。」
「責めてないわよ。これからうんと可愛く魅力的にするんだから。やりがいがあるわ。」
「よろしくお願いします。」
「任せといて!」
2時間後、だらしなく伸び続けていた髪の毛は綺麗にカラーリングされつやつやに生まれ変わっていた。
毛先をアイロンで緩く巻いて私の顔に合うよう華やかすぎず、でも上品なヘアスタイルにしてもらった。
自分で再現できるようにとアイロンの使い方も時間をかけて教えてもらえた。
昔、使っていたこともあるから途中からコツをつかむことが出来て安心した。
初めはアタフタしていたけど…。
「はあ~、すごく可愛い。我ながら本当に素晴らしい技術だわ。ほれぼれしちゃう。まあマコちゃんの素材がかなりいいってのもあるけど。」
「ありがとうございます。これ、本当に私?」鏡に映った自分を覗き込む。
「そうよ、これが本当のあなた。これからは沢山自分に時間と手間と愛情をかけてあげてね。」
「…。はい。そうします。嬉しいです…こんなに綺麗にしてもらって…。」
鏡の前の自分を見ると、これまでお洒落なんて関係なく無我夢中になって節約して田所さんに尽くしてきた日々が少し流れ去っていく感覚になった。
新しい私。私の好きになる私…。
「もう、色々苦労があったのかしら?大丈夫よこれだけ素敵になったんだもの、これからは良い事ばっかりなんだから。」
「そうですね。がんばります。本当にありがとうございます。」
里子さんに送る用の写真もオーナーに撮ってもらい、帰りには美容サロン用のシャンプー、トリートメントとヘアアイロンも購入した。
最近色々購入しているけど、これは私の大切なもの達だもの。
食費もあまりかからないし前月分の支出が本当に少なかったんだよね。
貯金も余裕で出来たし同棲解消して良い事ばかりが起こるんだけど。
「ありがとうございました。明日大切な一日になるんです。ここで綺麗にしてもらえて本当に良かったです。これからもお願いできますか?」
「もっちろんよ!いつでも来てちょうだい!待ってるわ!あ、マコちゃんに良い人が居たらその人も是非連れて来てちょうだいね。」オーナーが腕をムキムキさせながらウィンクする。
「は、ははは…。当分そんな人は現れないですけど、私だけでもお願いしますね。あっ、自虐じゃないんです。綺麗にしてもらって、仕事をめいいっぱい頑張りたいから恋愛はしばらくいらないって思いが更に強くなりました。パワーアップです。」
「ん~何か分からないけど良い事ね!応援してる!パワー注入!」
オーナーはムキムキの腕を組んで手を銃に見立てて私にエネルギーを渡してくれた。
個性的だけど、素敵な人だったな。
帰り道、デパートの大きな窓に自分の姿が映る度新しい自分が映っていてすごく気持ちが良かった。
田所さんと別れたときにあんなに重かった気持ちと体が今すごく軽い。
よし!帰ったらぽんちゃんに癒されて明日に備えてパックするぞ!
今日は里子さんが紹介してくれた美容院に行く日だ。
そして、明日は営業部を異動する日。
今の気持ちは…。
内勤の仕事は楽しかった。
田所さんと付き合って瑠美ちゃんと出会って、最後はみんなから良いように思われなくなってしまったけど、それでも沢山の事を教えてもらった大切な場所だ。
異動する日はちゃんと身なりを整えてしっかり感謝を伝えよう。
仕事を終えると営業部の課長が声をかけてくれた。
「平井さん、あの、ちょっと良いかな?」
「あ、この後予定を入れてるので少しだけなら大丈夫です。」
課長はきょろきょろ周りを見渡して誰も聞いていないことを確かめる。
「あのね、明日が平井さんの異動の日だよね。」
「そうですね。10月1日と清水部長と確認しました。明日はしっかり皆さんに挨拶する予定です。今まで皆に知らせずに見守っていてくださった課長に感謝しています。」
私は深々とお辞儀をした。
課長は押しが弱くていつも営業部長への忖度と部下への突き上げで大変そうだった。
悪い人ではない。むしろ優しい人だからそれが優柔不断に見えてしまうんだ。
課長を見ると中間管理職が本当に大変だということを実感してしまう。
「あの、課長。お体に気を付けてくださいね。」
「ひ、平井さん。ありがとう。今まで私の力不足で君には色々苦労があったと思う。本当に申し訳なかった。最後に聞かせてもらって良いかな?」
「何でしょう?」
「この営業部に居続けることも今ならできる。
デザイン課はこれから外注で人員も予算も削減を検討されているような部署だ。
営業部に居るほうがずっと安全だよ。近藤さんとの事は色々あるのかもしれないけど彼女もいつまでここに居るか分からない。異動を考え直すというのはどうだろう?」
「それは、私にこの営業部に残るかどうかと聞いていますか?」
「そうだね。君のような優秀な部下はなかなかいない。引き留めたいんだ。」
「…。そう言って頂いて嬉しいです。けれど、もう決めました。異動後は未知の領域で苦労も多いと思います。けど、挑戦してみたいんです。なので、明日予定通り異動させていただきます。」
「…。そうか。いや、ここ最近の平井さんを見ていると芯のような内面が強くなっている気がしたんだが、予想は当たっていたよ。ああ、若いって良いな。いや、自分が後悔しないように聞いてみたんだ。ごめんね新しい門出に水を差すようなことを言って。」
「課長…。課長もまだまだお若いです。管理職の大変さもあると思いますがどうか無理をしないでくださいね。」
「うん…。うん。ありがとう。平井さんが居なくなるのは寂しいけど自業自得という面もあるからね。次に優秀な部下が来たらこうならないようにちゃんと接するよ。平井さんも新境地で頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。時々営業部にはお世話になると思います。その時は新作の飴玉差し入れに来ますね。」
「ああ、楽しみにしているよ。ごめん話はそれだけだ。用があったのに引き留めて悪かったね。じゃあ明日異動の発表を予定通り行うね。お疲れさまでした。」
「はい。よろしくお願いします。お疲れさまでした。」
もう一度深くお辞儀をして私は退社した。
退社した足で美容室に向かう。
担当してくれた美容師さんは里子さんの担当もされているオーナーだった。
「あなたがマコちゃんね。ああ、里子さんが言ってた通り美人さんね。これは担当のモチベーションが上がるわ。」
オーナーは男の人だけど少しお姉風の人だった。外見はスマートで綺麗な顔をしている。
けど、腕はムキムキと筋肉が目立ち何だか異次元な感じだった。
「ああ、怖がらないでね。カット技術は確かだから。えっと、髪の毛あんまり手入れできてなかったみたいね。毛先が痛んでるしただただ伸ばしっぱなしになってたって感じね。」
「そ、そうです。」
「責めてないわよ。これからうんと可愛く魅力的にするんだから。やりがいがあるわ。」
「よろしくお願いします。」
「任せといて!」
2時間後、だらしなく伸び続けていた髪の毛は綺麗にカラーリングされつやつやに生まれ変わっていた。
毛先をアイロンで緩く巻いて私の顔に合うよう華やかすぎず、でも上品なヘアスタイルにしてもらった。
自分で再現できるようにとアイロンの使い方も時間をかけて教えてもらえた。
昔、使っていたこともあるから途中からコツをつかむことが出来て安心した。
初めはアタフタしていたけど…。
「はあ~、すごく可愛い。我ながら本当に素晴らしい技術だわ。ほれぼれしちゃう。まあマコちゃんの素材がかなりいいってのもあるけど。」
「ありがとうございます。これ、本当に私?」鏡に映った自分を覗き込む。
「そうよ、これが本当のあなた。これからは沢山自分に時間と手間と愛情をかけてあげてね。」
「…。はい。そうします。嬉しいです…こんなに綺麗にしてもらって…。」
鏡の前の自分を見ると、これまでお洒落なんて関係なく無我夢中になって節約して田所さんに尽くしてきた日々が少し流れ去っていく感覚になった。
新しい私。私の好きになる私…。
「もう、色々苦労があったのかしら?大丈夫よこれだけ素敵になったんだもの、これからは良い事ばっかりなんだから。」
「そうですね。がんばります。本当にありがとうございます。」
里子さんに送る用の写真もオーナーに撮ってもらい、帰りには美容サロン用のシャンプー、トリートメントとヘアアイロンも購入した。
最近色々購入しているけど、これは私の大切なもの達だもの。
食費もあまりかからないし前月分の支出が本当に少なかったんだよね。
貯金も余裕で出来たし同棲解消して良い事ばかりが起こるんだけど。
「ありがとうございました。明日大切な一日になるんです。ここで綺麗にしてもらえて本当に良かったです。これからもお願いできますか?」
「もっちろんよ!いつでも来てちょうだい!待ってるわ!あ、マコちゃんに良い人が居たらその人も是非連れて来てちょうだいね。」オーナーが腕をムキムキさせながらウィンクする。
「は、ははは…。当分そんな人は現れないですけど、私だけでもお願いしますね。あっ、自虐じゃないんです。綺麗にしてもらって、仕事をめいいっぱい頑張りたいから恋愛はしばらくいらないって思いが更に強くなりました。パワーアップです。」
「ん~何か分からないけど良い事ね!応援してる!パワー注入!」
オーナーはムキムキの腕を組んで手を銃に見立てて私にエネルギーを渡してくれた。
個性的だけど、素敵な人だったな。
帰り道、デパートの大きな窓に自分の姿が映る度新しい自分が映っていてすごく気持ちが良かった。
田所さんと別れたときにあんなに重かった気持ちと体が今すごく軽い。
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