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送迎
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「え?私が営業部に出戻りって事ですか?」
デザイン課課長から話があると言われた。
デザイン課は別室なんて殆どない。
スキャンする部屋とみんなが作業するデスクフロア仕切りもないので話は全員に筒抜け状態だ。
全員と言っても山根君と滝川さんだけど。
2人とも心配になって覗きに来てくれている。
「い、いやね。違うんだよ。出戻りっているのは違うんだ。ちょっとね事情があって営業部に内勤のパートさんを補充したんだって。けどね、けどね、上手く業務の引継ぎができないってことで、ちょー――っとだけ平井さんに期間限定で教えに来て欲しいなって依頼が来てさ…。」
「課長、平井さんはデザイン課の人間です。これからこっちの仕事も覚えてもらう時期なんですよ。」山根君が後ろから援護してくれた。
「そうなんだ、そうなんだけーど。営業部長も人事部長も上司命令ってことで、しがない課長の俺は断れなかったんだよー。ごめんー平井さん。こんなにこのフロア整理してスタイリッシュな空間にしてくれた矢先にこんな無理な命令されて。あのばか営業課長が部長軍団に泣きついたらしいんだよ。あいつはいっつも手遅れになって気が付く馬鹿なんだよ。同期だけど。」
「新しいパートの方困ってるんですか?」
「そうみたい。結構若い女の子でさ、就業経験がなくて俺もチラッと見たけどザ・温室育ちって感じの子。良い言い方で純真、真っ白?悪く言うと世間知らずって感じなんだ。」
後ろで滝川さんがせき込む音が聞こえた。
「…そうですか…。」
「平井さん断った方が良いよ。危険だよ。」
「危険?営業部は危険なのか?まあ、最近雰囲気は悪いらしいが。」
「俺、平井さんがここに異動して来るとき迎えに行ったら男性社員の田所さんに殴られそうになってたんです。」
「え?殴られる?」
「本人は違うって言ってたけど触るのもどうかと思いますよ。」
「え~けど営業の田所君は最近近藤さんっていう新人の子と付き合って同棲してるらしいよ。品質管理の課長に聞いたけど。」
「課長、すごい情報通…。」滝川さんが褒めていない言い方をしている。
「はあ?田所は平井さんと住んでるんでしょ?なんで近藤瑠美が出てくるんだ?!」
「え?どういうこと?何の話?」課長は目を大きくした。
「うえ!何でもありません…。」
「私、行きます。私的な感情で仕事を選ぶのいけないですよね。それに人事の清水部長にも頼まれているならなおさらです。けど…。」
「けど?何平井さん何でも言って。」
「私の所属はデザイン課ですよね。デザイン課から助っ人に行く認識で合ってますか?」
「もちろんだよ!当り前じゃないか。引継ぎが終わっても終わらなくても期限を決めよう。そうだ3週間が限界だ!それに君のデスクはこのデザイン課だ。午前10時から12時までと13時から16時までそれ以外はデザイン課で業務だ。それを決めておかなくちゃ平井さんを取り込んできそうだからな。
これくらいは俺だって部長軍団に言ってやるさ!」
「よろしくお願いします。明日からその時間帯で営業部に行けばいいですか?」
「お、俺!平井さん送り迎えします!」
「え?山根君送り迎えって保育園じゃないんだから。社内移動だよ?」課長の頭上に?の文字が見えそうな表情だ。
「約束の時間すぎてもあそこの男どもあの手この手で平井さんを引き留めようとするはずです。営業課長だって怪しいですよ。良いんですか?平井さんがあんな下衆の巣窟にずっと閉じ込められるのを許すんですか?」
「下衆の巣窟って…。」滝川さんがつぶやく。
「それはいけない。いけないに決まってるだろ。」
「あ、あの課長。私成人してます。送迎とか社内移動で必要ないですよ。」
「いいや!そうだな!山根君、約束の時間になったら早急平井さんをデザイン課に戻すよう送迎をしなさい。上司命令だ。」
「もちろんです。」
「山根君、大丈夫だってば。山根君が私の送迎してたらその間山根君の業務進まないでしょ?」
「平井さんが無事かどうか確認できない方が仕事できません。大丈夫です俺みたいにきもい男が横に居たら平井さんの迷惑になるだろうから後ろから隠れながら送迎するので。」
「それ、逆に怖いだろ。」滝川さんの突っ込みが入る。
「俺の為にも、平井さんを送迎させてください。」
「そうだよ、平井さん。そうしよう。」課長も真剣な顔だ。
「…。分かりました。ありがとう。じゃあすぐ戻れるように早歩きで移動しようかな。山根君横に並んでね。」
「は、はい。安全第一です。」
「何だか、山根君、お母さんみたい。」心配そうに私を見ている山根君が母親の表情と何故か重なってしまった。
「本当だ。山根君大きなお母さんだハハハ。」
「課長もそれに乗らないでくださいよ。」
こうやって私は山根君の送迎のもと営業部に期間限定で業務の引継ぎを引き受けることになった。
デザイン課課長から話があると言われた。
デザイン課は別室なんて殆どない。
スキャンする部屋とみんなが作業するデスクフロア仕切りもないので話は全員に筒抜け状態だ。
全員と言っても山根君と滝川さんだけど。
2人とも心配になって覗きに来てくれている。
「い、いやね。違うんだよ。出戻りっているのは違うんだ。ちょっとね事情があって営業部に内勤のパートさんを補充したんだって。けどね、けどね、上手く業務の引継ぎができないってことで、ちょー――っとだけ平井さんに期間限定で教えに来て欲しいなって依頼が来てさ…。」
「課長、平井さんはデザイン課の人間です。これからこっちの仕事も覚えてもらう時期なんですよ。」山根君が後ろから援護してくれた。
「そうなんだ、そうなんだけーど。営業部長も人事部長も上司命令ってことで、しがない課長の俺は断れなかったんだよー。ごめんー平井さん。こんなにこのフロア整理してスタイリッシュな空間にしてくれた矢先にこんな無理な命令されて。あのばか営業課長が部長軍団に泣きついたらしいんだよ。あいつはいっつも手遅れになって気が付く馬鹿なんだよ。同期だけど。」
「新しいパートの方困ってるんですか?」
「そうみたい。結構若い女の子でさ、就業経験がなくて俺もチラッと見たけどザ・温室育ちって感じの子。良い言い方で純真、真っ白?悪く言うと世間知らずって感じなんだ。」
後ろで滝川さんがせき込む音が聞こえた。
「…そうですか…。」
「平井さん断った方が良いよ。危険だよ。」
「危険?営業部は危険なのか?まあ、最近雰囲気は悪いらしいが。」
「俺、平井さんがここに異動して来るとき迎えに行ったら男性社員の田所さんに殴られそうになってたんです。」
「え?殴られる?」
「本人は違うって言ってたけど触るのもどうかと思いますよ。」
「え~けど営業の田所君は最近近藤さんっていう新人の子と付き合って同棲してるらしいよ。品質管理の課長に聞いたけど。」
「課長、すごい情報通…。」滝川さんが褒めていない言い方をしている。
「はあ?田所は平井さんと住んでるんでしょ?なんで近藤瑠美が出てくるんだ?!」
「え?どういうこと?何の話?」課長は目を大きくした。
「うえ!何でもありません…。」
「私、行きます。私的な感情で仕事を選ぶのいけないですよね。それに人事の清水部長にも頼まれているならなおさらです。けど…。」
「けど?何平井さん何でも言って。」
「私の所属はデザイン課ですよね。デザイン課から助っ人に行く認識で合ってますか?」
「もちろんだよ!当り前じゃないか。引継ぎが終わっても終わらなくても期限を決めよう。そうだ3週間が限界だ!それに君のデスクはこのデザイン課だ。午前10時から12時までと13時から16時までそれ以外はデザイン課で業務だ。それを決めておかなくちゃ平井さんを取り込んできそうだからな。
これくらいは俺だって部長軍団に言ってやるさ!」
「よろしくお願いします。明日からその時間帯で営業部に行けばいいですか?」
「お、俺!平井さん送り迎えします!」
「え?山根君送り迎えって保育園じゃないんだから。社内移動だよ?」課長の頭上に?の文字が見えそうな表情だ。
「約束の時間すぎてもあそこの男どもあの手この手で平井さんを引き留めようとするはずです。営業課長だって怪しいですよ。良いんですか?平井さんがあんな下衆の巣窟にずっと閉じ込められるのを許すんですか?」
「下衆の巣窟って…。」滝川さんがつぶやく。
「それはいけない。いけないに決まってるだろ。」
「あ、あの課長。私成人してます。送迎とか社内移動で必要ないですよ。」
「いいや!そうだな!山根君、約束の時間になったら早急平井さんをデザイン課に戻すよう送迎をしなさい。上司命令だ。」
「もちろんです。」
「山根君、大丈夫だってば。山根君が私の送迎してたらその間山根君の業務進まないでしょ?」
「平井さんが無事かどうか確認できない方が仕事できません。大丈夫です俺みたいにきもい男が横に居たら平井さんの迷惑になるだろうから後ろから隠れながら送迎するので。」
「それ、逆に怖いだろ。」滝川さんの突っ込みが入る。
「俺の為にも、平井さんを送迎させてください。」
「そうだよ、平井さん。そうしよう。」課長も真剣な顔だ。
「…。分かりました。ありがとう。じゃあすぐ戻れるように早歩きで移動しようかな。山根君横に並んでね。」
「は、はい。安全第一です。」
「何だか、山根君、お母さんみたい。」心配そうに私を見ている山根君が母親の表情と何故か重なってしまった。
「本当だ。山根君大きなお母さんだハハハ。」
「課長もそれに乗らないでくださいよ。」
こうやって私は山根君の送迎のもと営業部に期間限定で業務の引継ぎを引き受けることになった。
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