夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第3話 慣れない戦い

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異世界で…いや、生まれて初めて行うことになる本格的な戦闘に、正直少しだけビビっていた。
ナビさんの情報だと、まだ遠いらしいけど、確実にこちらに向かって来ていると…

(ナビさん、敵の種類と数は?)

『回答提示。種類数共に不明、情報が不足しています。』

まじか…ナビさんで分からないとか…
異世界で、まだ何時間も経ってないけど、ナビさんの情報は結構あてにしていた。
それが得られないとなると、正直厳しいような気がしてきた。

『行動提案。敵性体を目視する事で、対象個体の識別は可能です。また、対象をストレージリング内で解析することで、不足情報を補完することが出来ます。』

目視しないと分からないってことか…

優子マメ、さっき渡したストレージリングをこっちに。それと今すぐ向こうの岩場に移動だ。」

「え?出発するんじゃないの?」

キョトンとしながらぬいぐるみを抱える優子マメ、現状が分かってないから仕方ないんだろうけど…
見たこともない魔物モンスター魔獣ビーストがいる星だぞ?少し危機感が足りな過ぎる。

魔物モンスターが来るんだよ!下手すると2人共死ぬぞ!頼むから急いでくれ!」

「え?わ、分かった。」

急いでストレージリングを出し、岩場にかけて行く優子マメを見送り、地面に落ちたストレージを回収。
中からこんな時のために持ち込んだ、大型のコンバットナイフを取り出す。

「武器はこれでいいか…後は何か防具になりそうなもの…」

ナイフを鞘ごとベルトに挿して、次に防具に使えそうなものを選び始める。
リストを順に眺めてみるが、そもそも現代日本で普通に生活して行く中で、盾や鎧なんかの防具が必要な状況なんてものはない。
持ってきたものの中にも、都合よくシールド的なものなんてなく、せめて代わりになりそうな物をと探していく。

「さて、どうするか…お?」

リストの中に、鉄製の旋棍トンファーがあるのを見つけた。
これならいけるかもと思い、ストレージから取り出してみる。
左手の上に出現したそれは、いつなんのために買ったのか思い出せないが、鉄製のものなら、籠手ガントレットシールドの代わりに防具として使えるだろうと思う。

利き手はナイフを持つため、左手に持ってみたが、不思議と手に馴染み取り回しも良さそうに感じた。

「これならいけるか…ナビさん、相手との距離は?」

『回答提示。およそ1.5km、南方向の森林からまもなく出現します。』

「近い…のか?」

GYAWOAAAAAAAAAAA!!!!

「うお!何の声だ?ナビさん!」

『回答提示。方向から推測、敵性体である可能性が高いです。』

まじか…これが魔物モンスターの声…
自分では気づいていなかったが、声を聞いただけで足が震えてしまっていた。
こんな状態で勝てるのか…?逃げた方が良いんじゃないか…?

『状況報告。目視可能です。』

ナビさんの声で、下がっていた視線を上に上げると、遠くに動くものが見えた。
おそらく魔物モンスターだと思われる動くものは、森から出てこちらに一直線に向かってくる。
まだ遠くて、何かは全然わからない。

『情報提供。接近中の個体は、狼型の特異変異体です。個体名は追跡狼チェルフ、危険度はEクラスと推定。小型の魔物モンスターではありますが、魔物化に伴い追跡能力、主に嗅覚と聴覚が強化されているため、発見された場合の逃走は難しいと進言します。』

ナビさんから接近してくるのは、残念ながら魔物モンスターだと知らされる。
異世界に行く時点で覚悟はしていたつもりだったが、初遭遇がこんなに早くなるとは思わなかったため、どうにも落ち着かない。
ナイフと旋棍トンファーを握る手に、無意識に力が入ってしまっていた…

「よし…やってやる!」

『緊急報告。きます。』

ナビさんの声を聞き、武器を構えた状態で顔を上げて魔物モンスターに向き合…あれ?どk…

『右です!』

GUGAAAAAA!!!

ほんの少し目を離しただけなのに、まだまだ遠くにいたはずの追跡狼チェルフという魔物モンスターは、俺の右側から飛びかかってきた。
咄嗟にナイフを相手に向け、なんとか迎撃を試みるが、振り下ろされた前足に当たり、勢いよく薙ぎ払われてしまう。

ガキン!

鈍い音が聞こえたと思うと、右手の感覚がなくなってしまった。

この時ナイフは俺の手を離れて、少し離れた地面に突き刺さっていた。
追跡狼チェルフの爪で弾き飛ばされたのだと後で分かったが、この時は何が起きたのかすら分からなかった…

着地した追跡狼チェルフは、その勢いのまま地面を削って土煙を上げていく。
奇襲に失敗したからなのか、追跡狼チェルフはそのまま後ろに飛び退き距離を取ると、グルルと唸り声をあげて牙を剥く。
小型の魔物モンスターらしいが、異常に大きく発達した頭部と、感じたことのない威圧感から、見た目以上に追跡狼チェルフを大きく感じてしまう。

(なんだこれ!なんだこれ!なんだこれ!)

痺れる右手は殆ど動かせなくなっているため、左手の旋棍トンファーを相手に向けて構えるが、痛みと焦りで手や顔からは汗が吹き出し、恐怖感が全身に震えと虚脱感をもたらしている。
冷たい汗が背中を伝っていくのもはっきり感じ取れた…

(痛い痛い!こんなの腕折れるっての!何これ!?マジ何なの!)

俺の焦りを感じ取ったのか、追跡狼チェルフはジリジリと間合いを詰めてきていた。
その大きな顔は、なぜか笑っているようにも見えたが、多分恐怖で脳がそう見せているだけだろう。

(ヤバすぎだろ!こんなのマジで勝てるのかよ!)

さっきと同じような攻撃を食らえば、今度は耐えられる自信はない。
そもそもあんなでかい頭で噛み付かれたら、こんな鉄の棒みたいなもので防げるとは思えない…

恐怖と焦りで思考が鈍る…

少しづつ近寄ってくる相手に押される形で、無意識にジリジリと後退していくが、その距離は徐々に詰まってくる。

(どうする?どうしたらいい!?)

『行動提案。敵生体をストレージリングに収納する事を提案します。』

…は?
ナビさんからのまさかの一言に、驚きを隠せずに足が止まってしまう。
それを隙だと思ったのか、追跡狼チェルフが唸り声をあげて飛びかかってきた。

GURRRAAAA!!

反射的に身を守ろうと、左手の旋棍トンファーを盾のように相手に翳すが、これがどれだけ意味のある事なのかはわからない。

(こんなところで終わるのか…)

追跡狼チェルフが開いた大口が、やけにゆっくり迫って来るように感じた…
コマ送りのように、口の中に並んだ鋭い牙や、その牙から垂れているヨダレの一滴まで、全てしっかり見えているのは不思議な感覚だが、時間と共にどんどん恐怖感が増して来る…

(いやだ…いやだ…いやだ!まだ生きたい!新しい世界にせっかく来たのに、こんなすぐに終わってたまるか!!!)

思考停止に陥る一歩手前で、自分の中の生きたいという欲求がブレーキをかけた。
そしてナビさんの「ストレージリングに収納しろ」という言葉を思い出す。
それは、体を守るように突き出していた左手に、追跡狼チェルフの鋭い牙が旋棍トンファー越しに触れる瞬間だった。

「うぐぁ!!ストア!!」

追跡狼チェルフの牙は、旋棍トンファーの上を超え、腕の肉にいとも容易く食い込んでいく。
皮が裂け、肉がえぐれていく激痛に、意識が持って行かれそうになる。
それでも、ギリギリのタイミングで収納の呪文を唱える事ができた。

「はぁ…はぁ…はぁ…痛って…」

牙に貫かれた腕からは、ダクダクと血が流れ出るが、なんとか食い千切られることは避けられたようで、ギリギリ繋がっているようだ…
腕に食いついた追跡狼チェルフは、ストレージリングに一瞬で吸い込まれ、もう目の前に魔物モンスターはいない。

もし、もうほんの少しでも躊躇していたり、痛みに怯んでいたなら、左腕は食い千切られていたと思う。

…と、急に足に力が入らなくなり、その場にヘタリと座ってしまった。

怖かった…
そう…初めての戦闘は、物凄く怖かったんだ…

ーーーー
初戦闘終了
戦闘と呼んでいいのか分かりませんが…
やりたい事は出来たと思います。

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