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第一章:とんずら丈雲
静かな、暖かな、強かな花
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規則正しくも荒れる息。小気味良く拍子を取って響く爪。聞こえる音がそれだけになった時になって、初めて由依花が口を開いた。
「誰もいないです。この辺りで少し休みましょう」
とにかく焦っていた私の思考に清涼な水を注ぐが如く、彼雌の声は耳に快かった。熱に浮いていた頭の中を冷まされてみて、ようやく追っ手の音がないことに気づいたのだった。それと同時に、全身に負った傷の痛み、特に自分でも爪を入れた左脇腹の痛みが、ぶり返して私を襲ったのである。足を止めたが最後、もう動くことは出来なかった。横倒しに倒れると、そのまま由依花を一目見ることも能わず、意識は深淵の闇に落ちていった。
どのくらい経ったのかはあずかり知らぬが、次に目を覚ました時、由依花はまだ隣にいた。私の後ろ足の爪の付け根を懸命に舐めてくれているところだった。
「手当てを、してくれたのか」
かすれた声をかけると、由依花ははっと顔を上げて、私と視線を合わせた。
「お気付きになったのですね。でも、もう少し寝たままでいてください」
そうして、彼雌はまた体をうずめると、今度は左脇腹の一番ひどい傷あたりをそっと舐め始めた。傷を直接触れないようにしているようだったが、それでも沁みることに変わりはない、私はぐっと我慢をして、また痛みで気絶しないように努めた。
やがて私が喘がなくなってきたのを由依花は耳ざとく聞きつけ、傷の手当てを終わらせた。首を曲げて見てみれば、大きなあくびをひとつしていた。私が見ていることに気づいたのか、由依花はぷいとそっぽを向いて、ふるふると体を震わせながら全身を伸ばしていた。私はなんと声を掛けるか迷った。
「巻き込んでしまった。申し訳ない」
「なぜ謝るのです。丈雲さんは、私を助けてくださったのでしょう」
彼雌の声は眠たげで、変な艶めかしさを帯びていた。睡魔に襲われてとろんとした目をこちらに向けた。そしてもう一度、あくびをしたが、今度は先ほどよりも小さく可愛らしい。前足を添えながら、まぶたを閉じると、すき間を縫って涙が一粒零れた。
「ありがとうございます。守ってくださった御姿、素敵でした」
心臓が大きく跳ねたが、次に脈打つ頃にはもう由依花は体をくるりと丸めていた。
「こちらこそ、手当てをありがとう」
静かな寝息に合わせて、私もささやくように礼をいった。
「どこかの家を頼ることの、なにが支障なのですか」
由依花は苛立ちを隠すことなくいった。母親の由香里よりもさらに凄みのある剣幕である。こんな一面があることを今まで知らなかったが、私も押し負けるわけにはいかなかった。
「亮雲が手段を選ばないのはこの間の件で知っての通りだ。盤桜家よりも小さな家を巻き込めば、その家は確実に潰されてしまうぞ」
私は辛抱強く主張を繰り返した。由依花が目を覚まして、今後のことを相談し始めてから、すでに三度目のことである。私が一度関東を出て、ほとぼりが冷めるまで待つべきだといった途端、由依花は猛然と反対した。
由依花は聡いが、どうにも目先を重視するきらいがあった。また、関東チュダイの中で一、二を争う名家である盤桜家の中ですくすくと育ってきた彼雌は、弱小一家の苦しい立場を慮るという考え方もなかった。どこかの家に一時匿われ、すぐに由香里と合流すべきというのが彼雌の主張だった。
「その家は盤桜家が守ればよいだけの話。今、丈雲さんと亮雲さんの事情をよく知っていて、かつ味方になってくれるのは、確実に盤桜家、ひいては母の由香里です。母と協力をするのが一番安全ではありませんか」
「正論ではあるが、必ずしも成功する道とは限らない。まず、こんな面倒事に協力しようという者がいるかどうかが怪しい。傷だらけの行方不明チュダイがいきなり玄関にやってきてみろ、お前は匿うというのか」
「ええ、当然です」
由依花はきっぱりといってのけた。目にもひげにも一点の迷いがない。心が広く高潔な性格であることは尊敬に値するが、今は話をややこしくするだけだった。
「嗚呼、あなたはそうかもしれない。世間があなたのように美しい心意気の持ち主ばかりなら、私も逃げようなどとはいわないのだ。秤山や盤桜のように大きいわけではない家は、存続のために仁義を捨てることなどままある。悪くいえば腰抜けなのだから」
彼雌の刺すような義勇の目線から逃げるように、私は頭を抱えた。美しい花の棘はどんな時でも鋭いものだが、惚れた雌から刺される棘は、毒があるかと思うほどに痛い。
「助けを求めれば手を差し伸べてくれる鼠がいるかもしれないのに、話を聞く前から諦めている。腰が抜けているのは、丈雲さん、あなたの方ではないのですか」
まるで冷徹な声だった。私の首に跳びついてきたあのチュダイとは、全く別鼠であった。
結局、折衷案としてまずは滝緒家に身を寄せるということになった。亮雲が暗躍しても潰せそうもない大きな家で、私の事情も知っていて、ほぼ確実に匿ってくれる。由依花の主張と私の考えを共に満たす、申し分のない場所である。問題は、亮雲も私が滝緒秋伍を頼ることを予想するだろうということだ。
「そうと決まれば、のんびりはしていられない。すぐに秋伍のところへ向かおう」
しかし由依花は、また首を横に振った。
「待ってください。せっかくこちらも二匹いるのです、まっすぐ滝緒家に向かうことはありません」
驚いて止まろうとした頭とは裏腹に、私の足はすでに走り出そうと地面を蹴ったところだった。体と頭の食い違いが突然すぎて、結果私は前にころりと一回転することになった。
「滝緒家に行くことの、今度は何が駄目だというのだ」
無様なところを見られたのが恥ずかしく、私はつっけんどんにいった。由依花はそんな私を気にする風もなく、つかつかと歩み寄って、私の前足を取った。
「陽動です。亮雲さんは、丈雲さんと私が行動を共にしていると思っているはず。だからまずは、私が滝緒家とは別方向に向かって、わざと目立って姿をさらします。そうすれば、滝緒家の周りで張っている亮雲さんのお仲間が、きっと手薄になる。そこで、丈雲さんが」
「駄目だ」
全てをいい終わらせる前に、私は由依花の言葉をさえぎった。取られた前足をひっくり返して、今度は私が由依花の前足をぎゅっと握った。
「危険すぎる。あなたにとっても、私にとっても。万が一、あなたが亮雲に捕えられたら」
「気にせずお逃げください。私が亮雲さんに命まで害されることはありません」
「それでは駄目なのだ、あなたには傷ひとつ負ってほしくない」
「しかし、陽動がなければ滝緒家の周りは敵だらけでしょう」
「それでもだ。あなたは私にとって大切な花なのだから、実を結ぶ前に散らせるわけには」
私は口をつぐんだ。由依花が目を見開いたあと頬を染めたのを見て、なにを口走っていたか悟ったからである。慌ててそらした私の目を、由依花が首を曲げてのぞき込んできた。
「こんな時に愛の告白だなんて、少し、ずるいですよ。離れたくなくなってしまいます」
いたずらっぽく笑う由依花が、私の前足をまたくるりと包みなおして、頬に当てた。
「それならなおさら、私を陽動に使ってください。大切な花には、日を当てるものですよ」
二匹で歩く道を知ってしまうと、たった一匹で歩む時はとても心細いものである。私はとぼとぼと滝緒家の方へ歩いていた。
由依花はどうしても陽動作戦をするべきだといいはり、私の反対を押し切って駆け出して行ってしまった。追いかけようとしたが、盤桜家での闘争の傷はまだ癒えておらず、逃げ出した時のように焦っていない今となっては、全力で走ることも敵わなかった。由依花は一時も振り返らずに、声だけで「また滝緒家の近くで会いましょう!」とだけいって寄こした。そうして私が脇腹の痛みに耐えかねて足を止めると、もう後はどこへ向かったかも知れなくなった。
まったく、具体的にどこで落ち合うかや、失敗したらどうするかといった相談は何一つしていないままである。一匹ぽっちになった私は、仕方がないので滝緒家を目指すことにして、由依花とは逆の方向に歩き始めたのだった。
それにしても、由依花のあの態度は、いったいどういうことであろうか。口を滑らせたとはいえ、一応は愛の告白だと伝わったのだ。そして、幼少の頃以来ほとんど会話もしていなかった私が、いきなりそんなことを宣ったのに、受け入れられたと考えて良いのだろうか。彼雌は、ずるいといった。彼雌は、離れたくなくなるといった。彼雌は、自らを大切な花と呼んだ。しかし彼雌は、事実私のそばを離れたのである。どことも知れぬところで、亮雲の追手を惑わすために危険な目に遭おうとしている。それを止めることは、私の言葉では出来なかったのだ。
悶々と思い悩みながら道を歩いていると、すっと隣を鼠の影が通り抜けていった。いつの間にか、他の鼠ともちらほらすれ違うような道に出ていたのだ。私は慌てて物陰に飛び込んだ。亮雲の息のかかった者や、闇懸賞のことを知った荒くれ者がいないとも限らない。出来るだけ鼠目に触れることは避けなければならない。この道を通ることは断念して、遠回りになるが別の道を選ぶことにした。
しかし、そうして、遠回り、遠回りを繰り返しているうちに、周りはどんどん見知らぬ景色になり、ついには全く道に迷ってしまったのである。おそらく滝緒家がある方向へ闇雲に進んでみたものの、やはり出るのは全く記憶にない道ばかりで、焦れば焦るほど正しい方向はどちらか分からなくなってしまった。
腹の虫が鳴いた時、ついに私は歩くのを止めた。認めたくはないが、完全に迷い鼠となっていた。
「誰もいないです。この辺りで少し休みましょう」
とにかく焦っていた私の思考に清涼な水を注ぐが如く、彼雌の声は耳に快かった。熱に浮いていた頭の中を冷まされてみて、ようやく追っ手の音がないことに気づいたのだった。それと同時に、全身に負った傷の痛み、特に自分でも爪を入れた左脇腹の痛みが、ぶり返して私を襲ったのである。足を止めたが最後、もう動くことは出来なかった。横倒しに倒れると、そのまま由依花を一目見ることも能わず、意識は深淵の闇に落ちていった。
どのくらい経ったのかはあずかり知らぬが、次に目を覚ました時、由依花はまだ隣にいた。私の後ろ足の爪の付け根を懸命に舐めてくれているところだった。
「手当てを、してくれたのか」
かすれた声をかけると、由依花ははっと顔を上げて、私と視線を合わせた。
「お気付きになったのですね。でも、もう少し寝たままでいてください」
そうして、彼雌はまた体をうずめると、今度は左脇腹の一番ひどい傷あたりをそっと舐め始めた。傷を直接触れないようにしているようだったが、それでも沁みることに変わりはない、私はぐっと我慢をして、また痛みで気絶しないように努めた。
やがて私が喘がなくなってきたのを由依花は耳ざとく聞きつけ、傷の手当てを終わらせた。首を曲げて見てみれば、大きなあくびをひとつしていた。私が見ていることに気づいたのか、由依花はぷいとそっぽを向いて、ふるふると体を震わせながら全身を伸ばしていた。私はなんと声を掛けるか迷った。
「巻き込んでしまった。申し訳ない」
「なぜ謝るのです。丈雲さんは、私を助けてくださったのでしょう」
彼雌の声は眠たげで、変な艶めかしさを帯びていた。睡魔に襲われてとろんとした目をこちらに向けた。そしてもう一度、あくびをしたが、今度は先ほどよりも小さく可愛らしい。前足を添えながら、まぶたを閉じると、すき間を縫って涙が一粒零れた。
「ありがとうございます。守ってくださった御姿、素敵でした」
心臓が大きく跳ねたが、次に脈打つ頃にはもう由依花は体をくるりと丸めていた。
「こちらこそ、手当てをありがとう」
静かな寝息に合わせて、私もささやくように礼をいった。
「どこかの家を頼ることの、なにが支障なのですか」
由依花は苛立ちを隠すことなくいった。母親の由香里よりもさらに凄みのある剣幕である。こんな一面があることを今まで知らなかったが、私も押し負けるわけにはいかなかった。
「亮雲が手段を選ばないのはこの間の件で知っての通りだ。盤桜家よりも小さな家を巻き込めば、その家は確実に潰されてしまうぞ」
私は辛抱強く主張を繰り返した。由依花が目を覚まして、今後のことを相談し始めてから、すでに三度目のことである。私が一度関東を出て、ほとぼりが冷めるまで待つべきだといった途端、由依花は猛然と反対した。
由依花は聡いが、どうにも目先を重視するきらいがあった。また、関東チュダイの中で一、二を争う名家である盤桜家の中ですくすくと育ってきた彼雌は、弱小一家の苦しい立場を慮るという考え方もなかった。どこかの家に一時匿われ、すぐに由香里と合流すべきというのが彼雌の主張だった。
「その家は盤桜家が守ればよいだけの話。今、丈雲さんと亮雲さんの事情をよく知っていて、かつ味方になってくれるのは、確実に盤桜家、ひいては母の由香里です。母と協力をするのが一番安全ではありませんか」
「正論ではあるが、必ずしも成功する道とは限らない。まず、こんな面倒事に協力しようという者がいるかどうかが怪しい。傷だらけの行方不明チュダイがいきなり玄関にやってきてみろ、お前は匿うというのか」
「ええ、当然です」
由依花はきっぱりといってのけた。目にもひげにも一点の迷いがない。心が広く高潔な性格であることは尊敬に値するが、今は話をややこしくするだけだった。
「嗚呼、あなたはそうかもしれない。世間があなたのように美しい心意気の持ち主ばかりなら、私も逃げようなどとはいわないのだ。秤山や盤桜のように大きいわけではない家は、存続のために仁義を捨てることなどままある。悪くいえば腰抜けなのだから」
彼雌の刺すような義勇の目線から逃げるように、私は頭を抱えた。美しい花の棘はどんな時でも鋭いものだが、惚れた雌から刺される棘は、毒があるかと思うほどに痛い。
「助けを求めれば手を差し伸べてくれる鼠がいるかもしれないのに、話を聞く前から諦めている。腰が抜けているのは、丈雲さん、あなたの方ではないのですか」
まるで冷徹な声だった。私の首に跳びついてきたあのチュダイとは、全く別鼠であった。
結局、折衷案としてまずは滝緒家に身を寄せるということになった。亮雲が暗躍しても潰せそうもない大きな家で、私の事情も知っていて、ほぼ確実に匿ってくれる。由依花の主張と私の考えを共に満たす、申し分のない場所である。問題は、亮雲も私が滝緒秋伍を頼ることを予想するだろうということだ。
「そうと決まれば、のんびりはしていられない。すぐに秋伍のところへ向かおう」
しかし由依花は、また首を横に振った。
「待ってください。せっかくこちらも二匹いるのです、まっすぐ滝緒家に向かうことはありません」
驚いて止まろうとした頭とは裏腹に、私の足はすでに走り出そうと地面を蹴ったところだった。体と頭の食い違いが突然すぎて、結果私は前にころりと一回転することになった。
「滝緒家に行くことの、今度は何が駄目だというのだ」
無様なところを見られたのが恥ずかしく、私はつっけんどんにいった。由依花はそんな私を気にする風もなく、つかつかと歩み寄って、私の前足を取った。
「陽動です。亮雲さんは、丈雲さんと私が行動を共にしていると思っているはず。だからまずは、私が滝緒家とは別方向に向かって、わざと目立って姿をさらします。そうすれば、滝緒家の周りで張っている亮雲さんのお仲間が、きっと手薄になる。そこで、丈雲さんが」
「駄目だ」
全てをいい終わらせる前に、私は由依花の言葉をさえぎった。取られた前足をひっくり返して、今度は私が由依花の前足をぎゅっと握った。
「危険すぎる。あなたにとっても、私にとっても。万が一、あなたが亮雲に捕えられたら」
「気にせずお逃げください。私が亮雲さんに命まで害されることはありません」
「それでは駄目なのだ、あなたには傷ひとつ負ってほしくない」
「しかし、陽動がなければ滝緒家の周りは敵だらけでしょう」
「それでもだ。あなたは私にとって大切な花なのだから、実を結ぶ前に散らせるわけには」
私は口をつぐんだ。由依花が目を見開いたあと頬を染めたのを見て、なにを口走っていたか悟ったからである。慌ててそらした私の目を、由依花が首を曲げてのぞき込んできた。
「こんな時に愛の告白だなんて、少し、ずるいですよ。離れたくなくなってしまいます」
いたずらっぽく笑う由依花が、私の前足をまたくるりと包みなおして、頬に当てた。
「それならなおさら、私を陽動に使ってください。大切な花には、日を当てるものですよ」
二匹で歩く道を知ってしまうと、たった一匹で歩む時はとても心細いものである。私はとぼとぼと滝緒家の方へ歩いていた。
由依花はどうしても陽動作戦をするべきだといいはり、私の反対を押し切って駆け出して行ってしまった。追いかけようとしたが、盤桜家での闘争の傷はまだ癒えておらず、逃げ出した時のように焦っていない今となっては、全力で走ることも敵わなかった。由依花は一時も振り返らずに、声だけで「また滝緒家の近くで会いましょう!」とだけいって寄こした。そうして私が脇腹の痛みに耐えかねて足を止めると、もう後はどこへ向かったかも知れなくなった。
まったく、具体的にどこで落ち合うかや、失敗したらどうするかといった相談は何一つしていないままである。一匹ぽっちになった私は、仕方がないので滝緒家を目指すことにして、由依花とは逆の方向に歩き始めたのだった。
それにしても、由依花のあの態度は、いったいどういうことであろうか。口を滑らせたとはいえ、一応は愛の告白だと伝わったのだ。そして、幼少の頃以来ほとんど会話もしていなかった私が、いきなりそんなことを宣ったのに、受け入れられたと考えて良いのだろうか。彼雌は、ずるいといった。彼雌は、離れたくなくなるといった。彼雌は、自らを大切な花と呼んだ。しかし彼雌は、事実私のそばを離れたのである。どことも知れぬところで、亮雲の追手を惑わすために危険な目に遭おうとしている。それを止めることは、私の言葉では出来なかったのだ。
悶々と思い悩みながら道を歩いていると、すっと隣を鼠の影が通り抜けていった。いつの間にか、他の鼠ともちらほらすれ違うような道に出ていたのだ。私は慌てて物陰に飛び込んだ。亮雲の息のかかった者や、闇懸賞のことを知った荒くれ者がいないとも限らない。出来るだけ鼠目に触れることは避けなければならない。この道を通ることは断念して、遠回りになるが別の道を選ぶことにした。
しかし、そうして、遠回り、遠回りを繰り返しているうちに、周りはどんどん見知らぬ景色になり、ついには全く道に迷ってしまったのである。おそらく滝緒家がある方向へ闇雲に進んでみたものの、やはり出るのは全く記憶にない道ばかりで、焦れば焦るほど正しい方向はどちらか分からなくなってしまった。
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