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数日後、風音はいつものようにオンラインゲームをしていた。もちろん、宿題はそっちのけである。
「風音、宿題やりなさいよ。ウチはちゃんとやってんだからね」
隣の勉強机に数学の問題集を広げて、黙々と解いていた綾音が、あきれたように言う。
「別に良いじゃん。社会に出たら、方程式なんか、何の役に立つって言うのよ?」
「役に立つのよ! 旧日本海軍で大砲を撃つ場合なんかがそうよ。砲弾は放物線を描いて飛ぶんだから、二次方程式ができないと、敵艦に当てられないでしょうが」
「ああ、そういうことね。心配しなくても、あたしは将来は海上自衛隊に入るつもりはないから、大丈夫だって」
風音は面倒くさそうに、再びオンラインゲームに向き直り、いつものようにパーティーの戦士職の背後から攻撃魔法を撃ち続ける。
「やっぱり、あたしは現実よりもゲームのほうが、性に合ってるわ。仲間とワクワクドキドキできるなんて、ゲームの中だけだもん」
だが、その日だけは状況が違った。いきなり、パソコンの画面が白い光に包まれたのだ。白い光は、パソコンの画面からあふれ出し、前に座っていた風音を呑み込んだ。
「うわっ、まぶしい! 何よ、パソコンがバグッたの?」
『バグッたのではない。わしが、ゲームの中の異世界から、呼びかけているためじゃ』
いきなり、風音の脳内に、見知らぬお爺さんの声が聞こえる。
「誰? あたしは、あんたみたいな爺なんか知らないんだけど」
『これは失礼。自己紹介が遅れて、すまんかったのぅ。わしは、この異世界の神、アライドじゃ。実は今、この異世界で異変が発生しておってのぅ。カザネに助けてもらおうと、こうして思念を送ったのじゃ』
ちなみに『カザネ』とは、風音のハンドルネームである。ついでに言えば、綾音のハンドルネームは『アヤネ』だ。
「ちょっと、話が全然見えないんだけど……。アライドは、あたしに具体的に何をさせたいわけ?」
『カザネには、この異世界のどこかに降臨した魔王を見つけ出し、倒してほしいのじゃ。なお、猶予は三ヵ月しかない。三ヵ月後には、魔王が異世界のみならず、地球上にも降臨し、地球全体が闇に呑まれるでのぅ。じゃあ、頼んだぞ。大魔法使いどの……』
そこで、お爺さんの声は途絶えた。同時に白い光もおさまり、パソコンの画面は、元のオンラインゲームに戻っている。
「ねえ、今の爺の声、綾音にも聞こえた?」
「うん。はっきり聞こえた……。ウチら二人に聞こえたってことは、幻聴じゃないよね」
「そうと決まれば、あたしはこれから三ヵ月間、引きこもって夢のオンラインゲーム三昧の生活に突入するわよ。中学校なんてクソ食らえだ! 地球の危機だってのに、あんなとこ、行ってる暇なんてあるかぁ!」
「……なら、勝手にすれば? とりあえず、ウチはそんなヨタ話なんか信じないから、中学校には行くよ。だって、もし地球が無事だったなら、高校受験の頃になって内申点が足りずに苦労するのは自分だからね? わかってんの?」
風音は相かわらずオンラインゲームを、綾音は黙々と勉強をやり続けた
「風音、宿題やりなさいよ。ウチはちゃんとやってんだからね」
隣の勉強机に数学の問題集を広げて、黙々と解いていた綾音が、あきれたように言う。
「別に良いじゃん。社会に出たら、方程式なんか、何の役に立つって言うのよ?」
「役に立つのよ! 旧日本海軍で大砲を撃つ場合なんかがそうよ。砲弾は放物線を描いて飛ぶんだから、二次方程式ができないと、敵艦に当てられないでしょうが」
「ああ、そういうことね。心配しなくても、あたしは将来は海上自衛隊に入るつもりはないから、大丈夫だって」
風音は面倒くさそうに、再びオンラインゲームに向き直り、いつものようにパーティーの戦士職の背後から攻撃魔法を撃ち続ける。
「やっぱり、あたしは現実よりもゲームのほうが、性に合ってるわ。仲間とワクワクドキドキできるなんて、ゲームの中だけだもん」
だが、その日だけは状況が違った。いきなり、パソコンの画面が白い光に包まれたのだ。白い光は、パソコンの画面からあふれ出し、前に座っていた風音を呑み込んだ。
「うわっ、まぶしい! 何よ、パソコンがバグッたの?」
『バグッたのではない。わしが、ゲームの中の異世界から、呼びかけているためじゃ』
いきなり、風音の脳内に、見知らぬお爺さんの声が聞こえる。
「誰? あたしは、あんたみたいな爺なんか知らないんだけど」
『これは失礼。自己紹介が遅れて、すまんかったのぅ。わしは、この異世界の神、アライドじゃ。実は今、この異世界で異変が発生しておってのぅ。カザネに助けてもらおうと、こうして思念を送ったのじゃ』
ちなみに『カザネ』とは、風音のハンドルネームである。ついでに言えば、綾音のハンドルネームは『アヤネ』だ。
「ちょっと、話が全然見えないんだけど……。アライドは、あたしに具体的に何をさせたいわけ?」
『カザネには、この異世界のどこかに降臨した魔王を見つけ出し、倒してほしいのじゃ。なお、猶予は三ヵ月しかない。三ヵ月後には、魔王が異世界のみならず、地球上にも降臨し、地球全体が闇に呑まれるでのぅ。じゃあ、頼んだぞ。大魔法使いどの……』
そこで、お爺さんの声は途絶えた。同時に白い光もおさまり、パソコンの画面は、元のオンラインゲームに戻っている。
「ねえ、今の爺の声、綾音にも聞こえた?」
「うん。はっきり聞こえた……。ウチら二人に聞こえたってことは、幻聴じゃないよね」
「そうと決まれば、あたしはこれから三ヵ月間、引きこもって夢のオンラインゲーム三昧の生活に突入するわよ。中学校なんてクソ食らえだ! 地球の危機だってのに、あんなとこ、行ってる暇なんてあるかぁ!」
「……なら、勝手にすれば? とりあえず、ウチはそんなヨタ話なんか信じないから、中学校には行くよ。だって、もし地球が無事だったなら、高校受験の頃になって内申点が足りずに苦労するのは自分だからね? わかってんの?」
風音は相かわらずオンラインゲームを、綾音は黙々と勉強をやり続けた
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