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四角い広間では、残ったシスターたちがゴブリンを迎え撃っていたが、いずれも満身創痍だった。シスターたちが周囲に散らばっているので、風音は『ファイヤードーム』を広間の中央に放ち、広範囲に散らばったゴブリンたちを攻撃する。ゴブリンたちは風音の攻撃に反応し、シスターたちを放置して風音に向かって集まってくる。風音はひたすら『ファイヤードーム』を撃ちまくった。
『さあ、あたしがゴブリンどものヘイトを引きつけている間に、シスターたちは外からゴブリンどもを攻撃しなさい。内外からはさみうちにすれば、ゴブリンどもを殲滅できるわ』
風音に呼応して、シスターたちはゴブリンを包囲するように光属性の攻撃魔法を撃ちまくる。ゴブリンは風音の『ファイヤードーム』でヘイトを引きつけられながら、周囲のシスターたちの攻撃魔法で徐々に体力を削られ、時間をかけながらも殲滅された。シスターたちは思わず歓声をあげる。
『安心するのは、まだまだ早いわよ。神殿がこの有様だと、パラムシルの街がどうなっているのか、心配だわ。すぐに街へ出るわよ』
風音の号令のもと、残ったシスターたちは、疲れた体に鞭打ってパラムシルの街へ出る。
ラウスの神殿から一歩外に出ると、いきなり黒い巨大な鬼、オーガが三匹も襲いかかってきた。鋭い牙と爪でシスターたちを切り裂こうとする。
『まずいわね。さすがに数が多いわ。オーガはレベル25以上だし、ちょっと厄介ね』
風音は舌打ちする。ここでシスターたちを一人たりとも失うわけにはいかない。皆、貴重な光属性魔法の使い手だ。かといって、オーガ三匹と戦うには、風音レベルのプレイヤーがもう一人必要になる。
『そうだ。クラーシン、ヨッフェ、ザスーリッチ、聞こえる? 皆、経験値を稼いでレベルを上げていると思うけど、いくつになった? 聞こえたら応答して』
この三人は、風音がラウスの神殿に入る前に、フレンド登録しておいた、駆け出しのプレイヤーたちだ。
『俺は聞こえたぜ。もうレベル15だ』
『僕もレベル15』
『私もレベル15』
『なら、話が早いわ。レベル15ともなれば、少し強めのモンスターとも戦えるレベルよ。三人とも、フレンド機能であたしの現在位置はわかるわね?』
『皆、わかるよ。フレンド登録してあれば、見られるでしょ』
『なら、あたしのいるラウスの神殿に、ありったけの仲間を引き連れて来て。敵の数が多すぎるわ。このままバラバラに戦っていたら、各個撃破されちゃう。ここにはオーガ三匹がいるから、レベルから考えて、ここが本隊だと思うの。できるだけ大人数でパーティーを組んで、敵を突破しながら来て』
そこで風音はチャットを中断した。
(あとは、あの三人が援軍を率いて来てくれるのに賭けるしかないわ)
そのとき、一人のシスターが、『ぎゃああっ!』という悲鳴とともに地面に横たわる。背中からオーガの鋭い爪が生えているので、背中から一突きだろう。風音は顔が青ざめるのを感じた。だが、そのシスターは不敵に笑うと、声高に叫んだ。
『これぐらい、どうってことはありませんよ……。むしろ……このときを待っていました……。光属性魔法には……自爆があるのをご存知ですか……?』
言うが早いか、そのシスターの体が、まばゆい光に包まれる。オーガはシスターに突き刺した爪を抜こうとするが、爪はまるで貼りついたように、全く抜ける気配がない。オーガの顔に初めて恐怖の色が浮かぶ。
『カザネさん……最後に一緒に戦えて光栄でした……。どうか……必ず魔王を倒してください……。わたしは一足先に……あの世でお待ちいたしております……!』
言い終わると同時に、シスターの体からは白い光が発せられ、風音もオーガも、皆その光に呑みこまれる。風音は、あまりのまばゆさに、思わず目を閉じてしまった。しばらくして、光がおさまった後には、シスターとオーガ一匹の姿が消えているではないか。
(へえ、ゲームのイベントとしては、なかなか活かした演出じゃないの)
風音はまだ、これがゲームだという感覚が抜けず、イベントの一つだと思っていた。これがゲーム内の異変の始まりだとは、気づくことができなかったのだ。
その後は、風音は一人で、残ったオーガ二匹を引き付け、シスターたちがオーガに攻撃魔法を撃ちこむことで、互角にわたり合っている間に、クラーシン、ヨッフェ、ザスーリッチたちが援軍を連れて駆けつけてくれたので、オーガ二匹は時間をかけながらも倒された。依然としてパラムシルの街のあちこちで続いていた戦闘も、オーガ率いる本隊が撃破されたことで、徐々に街の住民が優勢に転じつつあり、侵攻してきたゴブリンなどのモンスターは、ほとんどが駆逐されていった。ゴブリンなどが放火したとみえて、街の至る所では、火の手があがっていたが、住民のバケツリレーで間もなく鎮火されるだろう。風音は戦闘の緊張感が緩んだのと、ゲームで疲れたのとで、「くぁ~……」とあくびをする。
「今日は疲れたわ。このへんでログアウトして、もう寝よう」
風音はログアウトしてパソコンの電源を切ると、眠りについた。
『さあ、あたしがゴブリンどものヘイトを引きつけている間に、シスターたちは外からゴブリンどもを攻撃しなさい。内外からはさみうちにすれば、ゴブリンどもを殲滅できるわ』
風音に呼応して、シスターたちはゴブリンを包囲するように光属性の攻撃魔法を撃ちまくる。ゴブリンは風音の『ファイヤードーム』でヘイトを引きつけられながら、周囲のシスターたちの攻撃魔法で徐々に体力を削られ、時間をかけながらも殲滅された。シスターたちは思わず歓声をあげる。
『安心するのは、まだまだ早いわよ。神殿がこの有様だと、パラムシルの街がどうなっているのか、心配だわ。すぐに街へ出るわよ』
風音の号令のもと、残ったシスターたちは、疲れた体に鞭打ってパラムシルの街へ出る。
ラウスの神殿から一歩外に出ると、いきなり黒い巨大な鬼、オーガが三匹も襲いかかってきた。鋭い牙と爪でシスターたちを切り裂こうとする。
『まずいわね。さすがに数が多いわ。オーガはレベル25以上だし、ちょっと厄介ね』
風音は舌打ちする。ここでシスターたちを一人たりとも失うわけにはいかない。皆、貴重な光属性魔法の使い手だ。かといって、オーガ三匹と戦うには、風音レベルのプレイヤーがもう一人必要になる。
『そうだ。クラーシン、ヨッフェ、ザスーリッチ、聞こえる? 皆、経験値を稼いでレベルを上げていると思うけど、いくつになった? 聞こえたら応答して』
この三人は、風音がラウスの神殿に入る前に、フレンド登録しておいた、駆け出しのプレイヤーたちだ。
『俺は聞こえたぜ。もうレベル15だ』
『僕もレベル15』
『私もレベル15』
『なら、話が早いわ。レベル15ともなれば、少し強めのモンスターとも戦えるレベルよ。三人とも、フレンド機能であたしの現在位置はわかるわね?』
『皆、わかるよ。フレンド登録してあれば、見られるでしょ』
『なら、あたしのいるラウスの神殿に、ありったけの仲間を引き連れて来て。敵の数が多すぎるわ。このままバラバラに戦っていたら、各個撃破されちゃう。ここにはオーガ三匹がいるから、レベルから考えて、ここが本隊だと思うの。できるだけ大人数でパーティーを組んで、敵を突破しながら来て』
そこで風音はチャットを中断した。
(あとは、あの三人が援軍を率いて来てくれるのに賭けるしかないわ)
そのとき、一人のシスターが、『ぎゃああっ!』という悲鳴とともに地面に横たわる。背中からオーガの鋭い爪が生えているので、背中から一突きだろう。風音は顔が青ざめるのを感じた。だが、そのシスターは不敵に笑うと、声高に叫んだ。
『これぐらい、どうってことはありませんよ……。むしろ……このときを待っていました……。光属性魔法には……自爆があるのをご存知ですか……?』
言うが早いか、そのシスターの体が、まばゆい光に包まれる。オーガはシスターに突き刺した爪を抜こうとするが、爪はまるで貼りついたように、全く抜ける気配がない。オーガの顔に初めて恐怖の色が浮かぶ。
『カザネさん……最後に一緒に戦えて光栄でした……。どうか……必ず魔王を倒してください……。わたしは一足先に……あの世でお待ちいたしております……!』
言い終わると同時に、シスターの体からは白い光が発せられ、風音もオーガも、皆その光に呑みこまれる。風音は、あまりのまばゆさに、思わず目を閉じてしまった。しばらくして、光がおさまった後には、シスターとオーガ一匹の姿が消えているではないか。
(へえ、ゲームのイベントとしては、なかなか活かした演出じゃないの)
風音はまだ、これがゲームだという感覚が抜けず、イベントの一つだと思っていた。これがゲーム内の異変の始まりだとは、気づくことができなかったのだ。
その後は、風音は一人で、残ったオーガ二匹を引き付け、シスターたちがオーガに攻撃魔法を撃ちこむことで、互角にわたり合っている間に、クラーシン、ヨッフェ、ザスーリッチたちが援軍を連れて駆けつけてくれたので、オーガ二匹は時間をかけながらも倒された。依然としてパラムシルの街のあちこちで続いていた戦闘も、オーガ率いる本隊が撃破されたことで、徐々に街の住民が優勢に転じつつあり、侵攻してきたゴブリンなどのモンスターは、ほとんどが駆逐されていった。ゴブリンなどが放火したとみえて、街の至る所では、火の手があがっていたが、住民のバケツリレーで間もなく鎮火されるだろう。風音は戦闘の緊張感が緩んだのと、ゲームで疲れたのとで、「くぁ~……」とあくびをする。
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