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第2章 彼女の話は通じない
欠落の心はいかばかり 3
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ゼノクルは、いい気分で歩いている。
腕にはシャノンを抱きかかえていた。
ラフロのおかげで、すっかり元通りだ。
耳はひょこんと立っているし、尾は、くるんと巻いている。
撤退してきた兵たちは、リニメアと一緒に置いてきた。
同行するだのなんだのとうるさかったが、部下思いの「指揮官」の言うことに、彼らは最終的に納得している。
もちろん、その間、シャノンは隠れさせていた。
兵たちが見えなくなってから呼び戻し、こうして歩いているのだ。
帰りは、ロキティスの乗ってきた小型のリニメアを使う予定にしている。
あの「聖魔封じの装置」は駄目になったが、クヴァットには関係ない。
動力源は壊れていなかったし、動きさえすればよかった。
シャノンは、その中に隠せばいいと思っている。
「も、戻るん、ですね……?」
「いいか、シャノン。俺は、娯楽には手は抜かねぇんだ。人の国に帰ったら、やることがあってな。そのためには、証拠ってのが必要なんだよ」
「……やること……証拠……?」
シャノンは、よく出来た玩具ではあるが、賢いとは言い難い。
ロキティスに飼い殺しにされていたので、しかたがないのだ。
とはいえ、そういう「無駄な」知識がないところも気に入っている。
人にしろ魔物にしろ、知恵が過ぎると碌なことにはならない。
「小賢しさがねぇだけ、魔物のほうがマシかもしれねえ。けど、俺は獣くせぇのが嫌いだからな。どっちもどっちだぜ」
「……け、獣……くさい……ですか?」
「いや、大丈夫だ。お前、ちゃんと薬を飲んだろ?」
こくこくと、シャノンがうなずく。
ちゃんと言うことを聞いていたようだ。
もちろん、そうに決まっているが、それはともかく。
「の、飲まないと……生きられないと言ったら……取り上げられません、でした」
「だろうな」
それを見越して、そう言うように、シャノンに指示してあった。
魔物が中間種を見たのは初めてだったはずだ。
だから、中間種の生態など知るわけがない。
死ぬかもしれないと言われれば、疑いもしなかっただろう。
「あいつら、お人好しだからな。ま、人じゃねぇけど」
シャノンの髪を、くしゃくしゃと撫でる。
嬉しそうにするシャノンは、やはり可愛い玩具だ。
言うこともよく聞くし、従順。
耳や尾を切られてすら、ゼノクルの役に立とうとした。
「1日に半分ずつ、飲んでたか?」
それも、シャノンに指示していたことだ。
完全に魔力を抑制してしまうと、魔物たちの「同胞意識」が弱くなる。
だからと言って、本来の魔力量だと警戒されかねない。
シャノンの魔力は少ないほうだが、危険だと見なされれば殺される。
その可能性を、できるだけ排除しておく必要があったため、薬の「半分だけ」を言いつけていた。
「はい……あ、えと……今日は……ご主人様が、いるかもと思って……1個……」
「よくわかったな、偉いじゃねぇか、シャノン」
ゼノクルは、本当に獣くさいのが大嫌いなのだ。
最初に「俺といる時は、1日1回、必ず薬を飲め」と言ってあった。
それを、シャノンは覚えていたらしい。
なんともよく出来た、可愛らしい玩具ではないか。
「そういや、ロッシーが連れて来た奴ら、全員、殺しちまったっけ」
「獣……くさかったから、ですか?」
「当然だろ。あそこに何匹いたと思う? 十匹もいたんだぞ。獣くせぇのなんの。我慢しろってほうが無理だ」
シャノンは、ほかの中間種たちが殺されたことを、なんとも思っていない。
きっと仲間意識なんてないのだ。
ロキティスのシャノンに対する評価は「最低」だった。
が、あの場にいた中間種たちの評価は高かったに違いない。
魔物の国にまで連れて来たのには理由があるのだ。
それなりに腕が立つと、ロキティスは判断していた。
当然だが、最低評価のシャノンとは、扱いも違っていたはずだ。
せいぜい「実験体」程度にしか思われていなかったシャノンと、高評価の中間種たちの間に仲間意識が形成されるわけがない。
殺された中間種にシャノンが同情的でないほうが、むしろ「自然」だと言える。
「…………薬、なくなって……獣くさくなったら……殺して、ください……」
「はあ? まだそんなこと言ってんのか。お前は、俺のもんなんだ。殺したりするもんかよ。なんのために、ロッシーを生け捕りにしたと思う?」
シャノンが小さく首をかしげた。
耳が、ぴくぴくっと動いている。
ちゃんと耳が戻り、動くようになってよかったと、つくづく思った。
魔物は、感情を体で表す。
本能によるところが大きいため、抑制できない。
シャノンが隠し事をするとは思っていないが、いちいち聞くより早い。
感情が目に見えるのは楽なのだ。
「薬の資料も、それを作れる奴も、ロッシーが囲いこんでんだ。で、俺は、考えたわけよ。ロッシーから、そいつらをいただいちまおうってな。けど、俺は、そいつらをかかえ込む気はねぇのさ」
シャノンの尾が、くるんくるんと揺れている。
ゼノクルの話を、まったく理解できていない証拠だった。
だが、そんなことは気にしない。
最後のところだけは理解できると、わかっている。
「そいつらも皇帝サマからすりゃ罪人だ。そんな奴らをかかえ込んでたら、こっちが危ねえ。ロッシーの二の舞なんざ、ごめんだぜ」
わけがわかっていなさそうなシャノンの青い瞳を見て、ニっと笑った。
シャノンが獣くさくなるのは困る。
ロキティスは、ひとつだけ「いいこと」をしたのだ。
「だから、お前の、一生分以上の薬を作らせてから、始末する」
「あ……ありがとう、ございます……ご主人様……」
「いいさ、可愛いお前のためだからよ」
「も、もっと、もっと、ご主人様の、お役に立てるように……頑張ります」
シャノンは、ゼノクルもといクヴァット格別のお気に入りの玩具。
シャノンの「ぜんまい」だけは、巻き続けてやろうと思った。
止まって動かなくなってしまったら、相当に「つまらない」ことになる。
「ご主人様は……王女様を、殺さない、ですよ、ね?」
少し不思議そうに、シャノンが言った。
そう、不思議そうに、言ったのだ。
けして、不満そうに、ではない。
耳や尾を切り飛ばされたにもかかわらず、シャノンからは「恨み」や「憎しみ」というものが感じられずにいる。
自らが、そうした扱いを受ける存在だといった意識の刷り込みは根深いようだ。
(ロッシーめ……あと十回くらい蹴飛ばしときゃよかったぜ)
だが、帝都に戻れば、ロキティスには死ぬより恐ろしいことが待っている。
自分が手を下してしまっては楽しめない。
すでに舞台から弾き落した「駒」など、どうでもいいのだ。
それより、周りの反応が楽しみだった。
「あの小娘には、ここに残ってもらわなきゃならねぇんだ。ま、死んでてもいいんだけどよ。生きてるほうが、なにかと都合がいい」
ゼノクルは、口元を歪めて嗤う。
本当に大掛かりなことになってきた。
この先しばらくは静かになるだろうから、ここは思いきり楽しんでおく場面だ。
「俺は殺して片をつけようなんざ思わねえ。そもそも口封じが必要になった時点で終わってるってことさ」
「ロ、ロキティスは……私のことを……話して……そしたら……」
「シャ~ノン、俺は、娯楽に?」
「手は、抜かない……?」
「わかってるじゃねぇか」
シャノンの頭を、くしゃくしゃと、また撫でる。
ゼノクルがシャノンを「飼って」いると、ロキティスが皇帝に報告するのではないかと心配になったのだろう。
ロキティスを「生きて」帝都に連れて戻るのだから、当然に、そうなる。
ロキティスも罪を逃れようと必死になるはずだ。
ゼノクルを巻き込もうとするのは必然だった。
助けてもらえないのなら、道連れにしようとするに違いない。
そういう性格なのだ、ロキティスは。
「だから、証拠を持って帰る。あんなもん見たら、ロッシーの言うことを信じる奴なんか誰もいやしなくなるっての。比べて、俺は、信任が厚いからよ。兵たちも俺の言うことを見てたみたいに話すぜ」
「見て、ないのに、ですか?」
「そ。見てねぇのに、見てたみてぇに話すのさ。それが人ってもんだ」
それに、ゼノクルには強力な「駒」がある。
たいして面白味もなかったので、使わずに放っておいた駒だ。
「まぁ、ちょっとばかり……気持ち悪ィけど……」
思い出して、うえっと言いたくなるのを我慢する。
これから、その「駒」を使う予定にしていた。
たとえ気持ちの悪い「弟」という駒であっても、舞台を盛り上げるために、必要であれば我慢する。
魔人は「娯楽」に手は抜かないのだ。
「これから、まあまあの見せ場になるからな」
「どんな、見せ場、ですか?」
にやにやしながら、無意識に、シャノンの頭を撫でる。
雑に切られていた髪も、ゼノクルが手をかけた3ヶ月の間に、すっかりきれいに整えられていた。
真っ直ぐな銀髪は、きちんと首元で切りそろえられている。
それも、ゼノクル自ら手掛けたのだ。
まず帝国騎士団をアルフォンソが動かし、大掛かりな輸送を行わせる。
リュドサイオの端、というより、元ラーザの領地の最東端だ。
とにかく金のかかる代物なので、出せるのは3基がいいところだろう。
着弾地点は、ゼノクルが指示することになる。
なにしろ「カサンドラ」を巻き込みでもしたら、目も当てられない。
今回の「偵察」でわかったのは、魔物も折れる気はない、ということだ。
そこに、人間からの無差別攻撃が加えられる。
避難など役には立たない。
着弾箇所にいた魔物は、全員、死ぬ。
間違いなく、死ぬ。
「女も子供も、男も、老いも若きも、獣くせぇ奴らは死ねばいい」
魔物は、いよいよ人を憎むだろう。
折れる気がないなら、戦うことを選ぶに決まっている。
ゼノクルは軽い口調で、その先に待っている事態を、的確に表現した。
「人と魔物の、全面戦争の始まり始まり~」
腕にはシャノンを抱きかかえていた。
ラフロのおかげで、すっかり元通りだ。
耳はひょこんと立っているし、尾は、くるんと巻いている。
撤退してきた兵たちは、リニメアと一緒に置いてきた。
同行するだのなんだのとうるさかったが、部下思いの「指揮官」の言うことに、彼らは最終的に納得している。
もちろん、その間、シャノンは隠れさせていた。
兵たちが見えなくなってから呼び戻し、こうして歩いているのだ。
帰りは、ロキティスの乗ってきた小型のリニメアを使う予定にしている。
あの「聖魔封じの装置」は駄目になったが、クヴァットには関係ない。
動力源は壊れていなかったし、動きさえすればよかった。
シャノンは、その中に隠せばいいと思っている。
「も、戻るん、ですね……?」
「いいか、シャノン。俺は、娯楽には手は抜かねぇんだ。人の国に帰ったら、やることがあってな。そのためには、証拠ってのが必要なんだよ」
「……やること……証拠……?」
シャノンは、よく出来た玩具ではあるが、賢いとは言い難い。
ロキティスに飼い殺しにされていたので、しかたがないのだ。
とはいえ、そういう「無駄な」知識がないところも気に入っている。
人にしろ魔物にしろ、知恵が過ぎると碌なことにはならない。
「小賢しさがねぇだけ、魔物のほうがマシかもしれねえ。けど、俺は獣くせぇのが嫌いだからな。どっちもどっちだぜ」
「……け、獣……くさい……ですか?」
「いや、大丈夫だ。お前、ちゃんと薬を飲んだろ?」
こくこくと、シャノンがうなずく。
ちゃんと言うことを聞いていたようだ。
もちろん、そうに決まっているが、それはともかく。
「の、飲まないと……生きられないと言ったら……取り上げられません、でした」
「だろうな」
それを見越して、そう言うように、シャノンに指示してあった。
魔物が中間種を見たのは初めてだったはずだ。
だから、中間種の生態など知るわけがない。
死ぬかもしれないと言われれば、疑いもしなかっただろう。
「あいつら、お人好しだからな。ま、人じゃねぇけど」
シャノンの髪を、くしゃくしゃと撫でる。
嬉しそうにするシャノンは、やはり可愛い玩具だ。
言うこともよく聞くし、従順。
耳や尾を切られてすら、ゼノクルの役に立とうとした。
「1日に半分ずつ、飲んでたか?」
それも、シャノンに指示していたことだ。
完全に魔力を抑制してしまうと、魔物たちの「同胞意識」が弱くなる。
だからと言って、本来の魔力量だと警戒されかねない。
シャノンの魔力は少ないほうだが、危険だと見なされれば殺される。
その可能性を、できるだけ排除しておく必要があったため、薬の「半分だけ」を言いつけていた。
「はい……あ、えと……今日は……ご主人様が、いるかもと思って……1個……」
「よくわかったな、偉いじゃねぇか、シャノン」
ゼノクルは、本当に獣くさいのが大嫌いなのだ。
最初に「俺といる時は、1日1回、必ず薬を飲め」と言ってあった。
それを、シャノンは覚えていたらしい。
なんともよく出来た、可愛らしい玩具ではないか。
「そういや、ロッシーが連れて来た奴ら、全員、殺しちまったっけ」
「獣……くさかったから、ですか?」
「当然だろ。あそこに何匹いたと思う? 十匹もいたんだぞ。獣くせぇのなんの。我慢しろってほうが無理だ」
シャノンは、ほかの中間種たちが殺されたことを、なんとも思っていない。
きっと仲間意識なんてないのだ。
ロキティスのシャノンに対する評価は「最低」だった。
が、あの場にいた中間種たちの評価は高かったに違いない。
魔物の国にまで連れて来たのには理由があるのだ。
それなりに腕が立つと、ロキティスは判断していた。
当然だが、最低評価のシャノンとは、扱いも違っていたはずだ。
せいぜい「実験体」程度にしか思われていなかったシャノンと、高評価の中間種たちの間に仲間意識が形成されるわけがない。
殺された中間種にシャノンが同情的でないほうが、むしろ「自然」だと言える。
「…………薬、なくなって……獣くさくなったら……殺して、ください……」
「はあ? まだそんなこと言ってんのか。お前は、俺のもんなんだ。殺したりするもんかよ。なんのために、ロッシーを生け捕りにしたと思う?」
シャノンが小さく首をかしげた。
耳が、ぴくぴくっと動いている。
ちゃんと耳が戻り、動くようになってよかったと、つくづく思った。
魔物は、感情を体で表す。
本能によるところが大きいため、抑制できない。
シャノンが隠し事をするとは思っていないが、いちいち聞くより早い。
感情が目に見えるのは楽なのだ。
「薬の資料も、それを作れる奴も、ロッシーが囲いこんでんだ。で、俺は、考えたわけよ。ロッシーから、そいつらをいただいちまおうってな。けど、俺は、そいつらをかかえ込む気はねぇのさ」
シャノンの尾が、くるんくるんと揺れている。
ゼノクルの話を、まったく理解できていない証拠だった。
だが、そんなことは気にしない。
最後のところだけは理解できると、わかっている。
「そいつらも皇帝サマからすりゃ罪人だ。そんな奴らをかかえ込んでたら、こっちが危ねえ。ロッシーの二の舞なんざ、ごめんだぜ」
わけがわかっていなさそうなシャノンの青い瞳を見て、ニっと笑った。
シャノンが獣くさくなるのは困る。
ロキティスは、ひとつだけ「いいこと」をしたのだ。
「だから、お前の、一生分以上の薬を作らせてから、始末する」
「あ……ありがとう、ございます……ご主人様……」
「いいさ、可愛いお前のためだからよ」
「も、もっと、もっと、ご主人様の、お役に立てるように……頑張ります」
シャノンは、ゼノクルもといクヴァット格別のお気に入りの玩具。
シャノンの「ぜんまい」だけは、巻き続けてやろうと思った。
止まって動かなくなってしまったら、相当に「つまらない」ことになる。
「ご主人様は……王女様を、殺さない、ですよ、ね?」
少し不思議そうに、シャノンが言った。
そう、不思議そうに、言ったのだ。
けして、不満そうに、ではない。
耳や尾を切り飛ばされたにもかかわらず、シャノンからは「恨み」や「憎しみ」というものが感じられずにいる。
自らが、そうした扱いを受ける存在だといった意識の刷り込みは根深いようだ。
(ロッシーめ……あと十回くらい蹴飛ばしときゃよかったぜ)
だが、帝都に戻れば、ロキティスには死ぬより恐ろしいことが待っている。
自分が手を下してしまっては楽しめない。
すでに舞台から弾き落した「駒」など、どうでもいいのだ。
それより、周りの反応が楽しみだった。
「あの小娘には、ここに残ってもらわなきゃならねぇんだ。ま、死んでてもいいんだけどよ。生きてるほうが、なにかと都合がいい」
ゼノクルは、口元を歪めて嗤う。
本当に大掛かりなことになってきた。
この先しばらくは静かになるだろうから、ここは思いきり楽しんでおく場面だ。
「俺は殺して片をつけようなんざ思わねえ。そもそも口封じが必要になった時点で終わってるってことさ」
「ロ、ロキティスは……私のことを……話して……そしたら……」
「シャ~ノン、俺は、娯楽に?」
「手は、抜かない……?」
「わかってるじゃねぇか」
シャノンの頭を、くしゃくしゃと、また撫でる。
ゼノクルがシャノンを「飼って」いると、ロキティスが皇帝に報告するのではないかと心配になったのだろう。
ロキティスを「生きて」帝都に連れて戻るのだから、当然に、そうなる。
ロキティスも罪を逃れようと必死になるはずだ。
ゼノクルを巻き込もうとするのは必然だった。
助けてもらえないのなら、道連れにしようとするに違いない。
そういう性格なのだ、ロキティスは。
「だから、証拠を持って帰る。あんなもん見たら、ロッシーの言うことを信じる奴なんか誰もいやしなくなるっての。比べて、俺は、信任が厚いからよ。兵たちも俺の言うことを見てたみたいに話すぜ」
「見て、ないのに、ですか?」
「そ。見てねぇのに、見てたみてぇに話すのさ。それが人ってもんだ」
それに、ゼノクルには強力な「駒」がある。
たいして面白味もなかったので、使わずに放っておいた駒だ。
「まぁ、ちょっとばかり……気持ち悪ィけど……」
思い出して、うえっと言いたくなるのを我慢する。
これから、その「駒」を使う予定にしていた。
たとえ気持ちの悪い「弟」という駒であっても、舞台を盛り上げるために、必要であれば我慢する。
魔人は「娯楽」に手は抜かないのだ。
「これから、まあまあの見せ場になるからな」
「どんな、見せ場、ですか?」
にやにやしながら、無意識に、シャノンの頭を撫でる。
雑に切られていた髪も、ゼノクルが手をかけた3ヶ月の間に、すっかりきれいに整えられていた。
真っ直ぐな銀髪は、きちんと首元で切りそろえられている。
それも、ゼノクル自ら手掛けたのだ。
まず帝国騎士団をアルフォンソが動かし、大掛かりな輸送を行わせる。
リュドサイオの端、というより、元ラーザの領地の最東端だ。
とにかく金のかかる代物なので、出せるのは3基がいいところだろう。
着弾地点は、ゼノクルが指示することになる。
なにしろ「カサンドラ」を巻き込みでもしたら、目も当てられない。
今回の「偵察」でわかったのは、魔物も折れる気はない、ということだ。
そこに、人間からの無差別攻撃が加えられる。
避難など役には立たない。
着弾箇所にいた魔物は、全員、死ぬ。
間違いなく、死ぬ。
「女も子供も、男も、老いも若きも、獣くせぇ奴らは死ねばいい」
魔物は、いよいよ人を憎むだろう。
折れる気がないなら、戦うことを選ぶに決まっている。
ゼノクルは軽い口調で、その先に待っている事態を、的確に表現した。
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