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最終章 彼女の会話はとめどない
確信の確認 3
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ぶわっと赤い炎が上がる。
アヴィオは、面白くもなさそうな顔をしていた。
ほか4種族の長は、一瞬で噴き上がった炎に驚いている。
案の定、真っ先にフィッツの元に駆けて来たのは、ダイスだ。
「なんだ? なんで、あんなことになるんだ?」
「火の出る粉を使っただけだろう。そんなに驚くことか」
炎を扱うコルコのアヴィオからすれば、物足りないと感じるかもしれない。
炎の強さだけで言うなら、コルコの炎のほうが強いのだ。
銃弾さえ熔かす炎は、簡単に人を灰にしてしまえる。
だが、前回の戦で、比率から言えば、コルコは最も多くの犠牲を出していた。
対人戦で有効なのは認めるが、あくまでも、それは1対1の時だ。
(数、それに速度の問題だな。大勢に囲まれると、コルコは分が悪い)
そして、素早く動く標的を狙い撃ちするのも、コルコには難しかった。
コルコは、点を的にする戦いかたをする。
同じコルコ族同士でも、連携はしない。
そのため、大勢に取り囲まれ、相手に動き回られると攻撃しにくくなるのだ。
どんなに強い炎だろうと、当たらなければ無意味。
無駄に魔力を消費するだけだった。
自分の身を守ることに徹し、状況によって逃げていれば、もっと犠牲は少なくてすんでいる。
銃弾を熔かせる炎を操れるのは、コルコの利と言えた。
ただし、それも自分の身に纏えるからであり、ほかのものを守れはしない。
動いている銃弾を狙って熔かすことができないからだ。
コルコの魔力攻撃では、銃弾の速度に、追いつけなかった。
実際に、実験してみたので、わかっている。
フィッツがいるのは、イホラの領地との境に近い、コルコの領地だ。
前に集まって以来、5日目になる。
フィッツは、ファニ以外の領地の地図を作り終えていた。
最後がコルコで、昨日も来ていたのだ。
地図作りとともに、実験などをするのに良さそうな場所を探している。
少し拓けた、だが、周りに家がない岩場。
コルコだけではなく、連携した動きを教えるため、ほかの長も呼び集めた。
フィッツの中には、すでに策ができあがっている。
だが、魔物たちの動きなくしては、成功しない。
「正しくは、火のつく粉です」
粉自体は、なんでもよかった。
とはいえ、やはり燃え易いもののほうが、失敗は少ない。
そのため、フィッツは、動力石を粉にして持ってきている。
壁を造る装置のある洞にあった動力石だ。
石のままでは使えないため、加工する機械もあるはずだと、装置を辿り、それを見つけ出した。
(これがなくても、あの小麦粉のようなものでも代用はできたが……冬場に食材を減らすのは避けたいからな。姫様の食事の量に関わる)
という理由で、動力石の粉を使うことにしたのだ。
洞には十分なだけの動力石があったし、粉にするだけなら、時間もかからない。
あえて食材を減らす必要はないと判断している。
「火がつくって、そりゃあ、アヴィオがつけたんだろ?」
「どちらが先かという話ですよ。つけたのではなく、引火したということです」
「順番からすると、アヴィオの火が先にあり、私が粉をまき散らし、その粉に火が勝手についた、ということか」
「そういうことです」
ナニャの説明に、うなずいてみせた。
使いかた次第ではあるが、動力石は熱を生じ易い。
人間が、粉を溶液にして銃の動力源にしているのも「熱」が必要だからだ。
「俺たちの炎のほうか、ずっと強い。あんな攻撃に意味はあるのか?」
「爆発の利は、面で攻撃ができるところです」
「面ってのは、地面のことだろ?」
「まったく違います。簡単に言えば、1人の人物を確実に抹殺するのと施設の破壊とでは、有効な攻撃方法が異なる、ということですよ」
ダイスは、首をかしげつつ「点と面」との言葉を繰り返している。
アヴィオは、不本意そうではあるが、ナニャと視線を交わしていた。
コルコだけの力では「面」の攻撃ができないことを理解したのだ。
イホラは風や水という「面」の攻撃が得意ではある。
だが、コルコほどの威力はなかった。
それを、ナニャも理解している。
コルコと連携することで、互いを補え合えるのだ。
平時ならともかく、戦時では「仲が悪い」だのとは言っていられない。
「この実験は、小規模なものだったが」
「イホラとコルコの連携次第で、かなり大きな爆発を起こせるようになります」
この爆発においてはコルコの炎の温度、イホラの風による動力粉の散布が威力を決定づける。
少しでも狂いが生じると、爆発さえしないことも有り得るのだ。
「コルコ15体にイホラ25葉の組み合わせで、5部隊ほど作ってください」
「……そっちはどうする?」
「私に異論はない。しかし……お前のところのものとは相性がある」
「互いに選抜して、そのあとから組み合わせを決めるか」
「それがよさそうだ」
フィッツは、内心、好き嫌いなんて、どうでもいいと思っている。
そんなことより、力の調和を優先されるべきなのだが、相性にこだわる者がいるのも知っていた。
なまじソリの合わないもの同士を組ませてしくじるよりは、多少、威力が落ちたとしても、確実性を担保するほうが重要だ。
なので、口は挟まなかった。
ほかの魔物たちの戦いかたについては、ほとんどのことが決まっている。
あとは訓練し、より精度を高めるのみだ。
人とは違い、魔力は魔物の本能。
そのせいか、人の熟練速度よりも、その成長は速かった。
フィッツの想定していた半月もあれば「精鋭」部隊が作れる。
フィッツは、残った魔物に向き直った。
緑の鱗に覆われ、がっちりとした体、大きな口と尾を持つ魔物。
ガリダの長、ザイード。
ザイードもフィッツの意図を察しているのか、こちらを見ている。
のんびりした様子は、カモフラージュだと、フィッツは、感じていた。
大きな魔力を、ザイードは秘めている。
周囲への配慮から隠しているに過ぎないのだ。
だが、ザイードは、今度の「先制攻撃」では要になる。
なんとなく、とか、だいたいといった力の把握ですませる気はなかった。
おそらく、ザイードも似たようなことを考えている。
フィッツの力を認めていながらも、どこまでできるのか知りたがっているのだ。
「アヴィオよ、この辺りは誰も使っておらぬのだったな?」
「岩場が崩れても、地面が裂けても、誰も困りやしないさ。ただ、後片付けはして帰れよ? 岩をゴロゴロ転がされたままじゃな。あとが面倒だ」
「そうだの。それは配慮いたす」
ふわっと空気が変わる。
瞬間、長たちが、バッとザイードから距離を取った。
フィッツは魔力を使えないが、強い圧迫感を体に受けている。
見えなくても、ザイードの大きな魔力に、影響を受けているらしい。
「これが本気、というわけではありませんよね?」
魔力の重圧を感じてはいても、直接、害になるものではなかった。
威圧はできるだろうが、攻撃と言えるものではない。
だが、ザイードの「本気」は、絶対に把握しておかなければならないのだ。
殺されるつもりはないが、殺す気でかかって来てもらわなければ困る。
「その程度で姫様を守ることは、まず不可能です。よく人の国に行こうという気になれましたね」
煽っているつもりも、挑発しているつもりも、フィッツにはなかった。
思ったことを口にしている。
カサンドラが、ザイードを「心配」する理由を述べているのだ。
戦車試合の日のことを、フィッツは鮮明に覚えている。
カサンドラは、フィッツの心配など、まったくしていなかった。
それが、とても誇らしかったのだ。
彼女を守護するに足る者であると認めてもらえていると、実感できた。
守るべき相手に心配されるなんて有り得ない。
カサンドラは「死ぬな」と言うが、死ねば彼女を守れなくなるからだ。
フィッツにしても、それは恥だと感じている。
どうしようもなくなればいたしかたないにしても、そうならないように手を打つのが、自分の役目だった。
愚かさと弱さが死を招く。
カサンドラの「命を賭すな」との言葉にある教訓だ。
目的を果たす前に、ザイードが死ぬ程度であれば、足手まといになる。
置いて行ったほうが、まだしも魔物の国の防衛になるだろう。
代わりに、頭数を増やさなければならないのは不利に繋がるが、しかたない。
ザイードを失うことは、防衛的な意味で、痛手になる。
「それでは、本気でまいろう」
さらに、ぐっと体に圧力がかかった。
周りの空気も重くなっている。
ぶわっと、大きな風の渦が巻いた。
フィッツは、その中でも平然と立っている。
目の前で、ザイードの体が大蛇のようなものに変わっていた。
見上げるほど大きい。
4つの脚、頭には牡鹿のような角が2本。
空に飛翔し、とぐろを巻いている。
「手加減は不要ですが、あなたはやりにくいでしょうから」
フィッツは、自分から仕掛けた。
フィッツがザイードの力を知らないのと同様、ザイードもフィッツを知らない。
互いに手加減をしたり、様子見したりするのは時間の無駄でしかないのだ。
軽く後ろに飛びながら、足首につけていた短距離用の小型の銃を取る。
銃弾は発射されず、シュンシュンという軽い音が響いた。
ザイードが、尾で顔の辺りをはらう仕草を見せる。
黒い目の奥にある金の瞳孔が狭まった。
その瞳を狙ったように見えただろうが、体で防がれるのは想定済みだ。
「この前の銃とは違うじゃねぇか?!」
ダイスの言う通り、フィッツが使ったのは一般的な銃ではない。
撃ち込んだのは「針型」のもので、ザイードの尾に突き立っている。
だが、思ったより数が少なく、自分の腕に不満を覚えた。
ふと、ある男の顔が思い浮かぶ。
ベンジャミン・サレス。
彼の腕なら、すべて命中していたに違いない。
近距離銃の扱いに対しては、自分よりも上だった。
鱗のわずかな隙間を狙ったのだが、フィッツは、いくつか外している。
手元の装置を入れた瞬間、「針型」の弾が炎を噴いた。
「人の中には、私より銃の扱いに慣れた者もいるのですよ?」
自らの尾についた炎を、ザイードが消す。
瞬く間に空が曇り、大きな雨粒が落ちてきた。
アヴィオは、面白くもなさそうな顔をしていた。
ほか4種族の長は、一瞬で噴き上がった炎に驚いている。
案の定、真っ先にフィッツの元に駆けて来たのは、ダイスだ。
「なんだ? なんで、あんなことになるんだ?」
「火の出る粉を使っただけだろう。そんなに驚くことか」
炎を扱うコルコのアヴィオからすれば、物足りないと感じるかもしれない。
炎の強さだけで言うなら、コルコの炎のほうが強いのだ。
銃弾さえ熔かす炎は、簡単に人を灰にしてしまえる。
だが、前回の戦で、比率から言えば、コルコは最も多くの犠牲を出していた。
対人戦で有効なのは認めるが、あくまでも、それは1対1の時だ。
(数、それに速度の問題だな。大勢に囲まれると、コルコは分が悪い)
そして、素早く動く標的を狙い撃ちするのも、コルコには難しかった。
コルコは、点を的にする戦いかたをする。
同じコルコ族同士でも、連携はしない。
そのため、大勢に取り囲まれ、相手に動き回られると攻撃しにくくなるのだ。
どんなに強い炎だろうと、当たらなければ無意味。
無駄に魔力を消費するだけだった。
自分の身を守ることに徹し、状況によって逃げていれば、もっと犠牲は少なくてすんでいる。
銃弾を熔かせる炎を操れるのは、コルコの利と言えた。
ただし、それも自分の身に纏えるからであり、ほかのものを守れはしない。
動いている銃弾を狙って熔かすことができないからだ。
コルコの魔力攻撃では、銃弾の速度に、追いつけなかった。
実際に、実験してみたので、わかっている。
フィッツがいるのは、イホラの領地との境に近い、コルコの領地だ。
前に集まって以来、5日目になる。
フィッツは、ファニ以外の領地の地図を作り終えていた。
最後がコルコで、昨日も来ていたのだ。
地図作りとともに、実験などをするのに良さそうな場所を探している。
少し拓けた、だが、周りに家がない岩場。
コルコだけではなく、連携した動きを教えるため、ほかの長も呼び集めた。
フィッツの中には、すでに策ができあがっている。
だが、魔物たちの動きなくしては、成功しない。
「正しくは、火のつく粉です」
粉自体は、なんでもよかった。
とはいえ、やはり燃え易いもののほうが、失敗は少ない。
そのため、フィッツは、動力石を粉にして持ってきている。
壁を造る装置のある洞にあった動力石だ。
石のままでは使えないため、加工する機械もあるはずだと、装置を辿り、それを見つけ出した。
(これがなくても、あの小麦粉のようなものでも代用はできたが……冬場に食材を減らすのは避けたいからな。姫様の食事の量に関わる)
という理由で、動力石の粉を使うことにしたのだ。
洞には十分なだけの動力石があったし、粉にするだけなら、時間もかからない。
あえて食材を減らす必要はないと判断している。
「火がつくって、そりゃあ、アヴィオがつけたんだろ?」
「どちらが先かという話ですよ。つけたのではなく、引火したということです」
「順番からすると、アヴィオの火が先にあり、私が粉をまき散らし、その粉に火が勝手についた、ということか」
「そういうことです」
ナニャの説明に、うなずいてみせた。
使いかた次第ではあるが、動力石は熱を生じ易い。
人間が、粉を溶液にして銃の動力源にしているのも「熱」が必要だからだ。
「俺たちの炎のほうか、ずっと強い。あんな攻撃に意味はあるのか?」
「爆発の利は、面で攻撃ができるところです」
「面ってのは、地面のことだろ?」
「まったく違います。簡単に言えば、1人の人物を確実に抹殺するのと施設の破壊とでは、有効な攻撃方法が異なる、ということですよ」
ダイスは、首をかしげつつ「点と面」との言葉を繰り返している。
アヴィオは、不本意そうではあるが、ナニャと視線を交わしていた。
コルコだけの力では「面」の攻撃ができないことを理解したのだ。
イホラは風や水という「面」の攻撃が得意ではある。
だが、コルコほどの威力はなかった。
それを、ナニャも理解している。
コルコと連携することで、互いを補え合えるのだ。
平時ならともかく、戦時では「仲が悪い」だのとは言っていられない。
「この実験は、小規模なものだったが」
「イホラとコルコの連携次第で、かなり大きな爆発を起こせるようになります」
この爆発においてはコルコの炎の温度、イホラの風による動力粉の散布が威力を決定づける。
少しでも狂いが生じると、爆発さえしないことも有り得るのだ。
「コルコ15体にイホラ25葉の組み合わせで、5部隊ほど作ってください」
「……そっちはどうする?」
「私に異論はない。しかし……お前のところのものとは相性がある」
「互いに選抜して、そのあとから組み合わせを決めるか」
「それがよさそうだ」
フィッツは、内心、好き嫌いなんて、どうでもいいと思っている。
そんなことより、力の調和を優先されるべきなのだが、相性にこだわる者がいるのも知っていた。
なまじソリの合わないもの同士を組ませてしくじるよりは、多少、威力が落ちたとしても、確実性を担保するほうが重要だ。
なので、口は挟まなかった。
ほかの魔物たちの戦いかたについては、ほとんどのことが決まっている。
あとは訓練し、より精度を高めるのみだ。
人とは違い、魔力は魔物の本能。
そのせいか、人の熟練速度よりも、その成長は速かった。
フィッツの想定していた半月もあれば「精鋭」部隊が作れる。
フィッツは、残った魔物に向き直った。
緑の鱗に覆われ、がっちりとした体、大きな口と尾を持つ魔物。
ガリダの長、ザイード。
ザイードもフィッツの意図を察しているのか、こちらを見ている。
のんびりした様子は、カモフラージュだと、フィッツは、感じていた。
大きな魔力を、ザイードは秘めている。
周囲への配慮から隠しているに過ぎないのだ。
だが、ザイードは、今度の「先制攻撃」では要になる。
なんとなく、とか、だいたいといった力の把握ですませる気はなかった。
おそらく、ザイードも似たようなことを考えている。
フィッツの力を認めていながらも、どこまでできるのか知りたがっているのだ。
「アヴィオよ、この辺りは誰も使っておらぬのだったな?」
「岩場が崩れても、地面が裂けても、誰も困りやしないさ。ただ、後片付けはして帰れよ? 岩をゴロゴロ転がされたままじゃな。あとが面倒だ」
「そうだの。それは配慮いたす」
ふわっと空気が変わる。
瞬間、長たちが、バッとザイードから距離を取った。
フィッツは魔力を使えないが、強い圧迫感を体に受けている。
見えなくても、ザイードの大きな魔力に、影響を受けているらしい。
「これが本気、というわけではありませんよね?」
魔力の重圧を感じてはいても、直接、害になるものではなかった。
威圧はできるだろうが、攻撃と言えるものではない。
だが、ザイードの「本気」は、絶対に把握しておかなければならないのだ。
殺されるつもりはないが、殺す気でかかって来てもらわなければ困る。
「その程度で姫様を守ることは、まず不可能です。よく人の国に行こうという気になれましたね」
煽っているつもりも、挑発しているつもりも、フィッツにはなかった。
思ったことを口にしている。
カサンドラが、ザイードを「心配」する理由を述べているのだ。
戦車試合の日のことを、フィッツは鮮明に覚えている。
カサンドラは、フィッツの心配など、まったくしていなかった。
それが、とても誇らしかったのだ。
彼女を守護するに足る者であると認めてもらえていると、実感できた。
守るべき相手に心配されるなんて有り得ない。
カサンドラは「死ぬな」と言うが、死ねば彼女を守れなくなるからだ。
フィッツにしても、それは恥だと感じている。
どうしようもなくなればいたしかたないにしても、そうならないように手を打つのが、自分の役目だった。
愚かさと弱さが死を招く。
カサンドラの「命を賭すな」との言葉にある教訓だ。
目的を果たす前に、ザイードが死ぬ程度であれば、足手まといになる。
置いて行ったほうが、まだしも魔物の国の防衛になるだろう。
代わりに、頭数を増やさなければならないのは不利に繋がるが、しかたない。
ザイードを失うことは、防衛的な意味で、痛手になる。
「それでは、本気でまいろう」
さらに、ぐっと体に圧力がかかった。
周りの空気も重くなっている。
ぶわっと、大きな風の渦が巻いた。
フィッツは、その中でも平然と立っている。
目の前で、ザイードの体が大蛇のようなものに変わっていた。
見上げるほど大きい。
4つの脚、頭には牡鹿のような角が2本。
空に飛翔し、とぐろを巻いている。
「手加減は不要ですが、あなたはやりにくいでしょうから」
フィッツは、自分から仕掛けた。
フィッツがザイードの力を知らないのと同様、ザイードもフィッツを知らない。
互いに手加減をしたり、様子見したりするのは時間の無駄でしかないのだ。
軽く後ろに飛びながら、足首につけていた短距離用の小型の銃を取る。
銃弾は発射されず、シュンシュンという軽い音が響いた。
ザイードが、尾で顔の辺りをはらう仕草を見せる。
黒い目の奥にある金の瞳孔が狭まった。
その瞳を狙ったように見えただろうが、体で防がれるのは想定済みだ。
「この前の銃とは違うじゃねぇか?!」
ダイスの言う通り、フィッツが使ったのは一般的な銃ではない。
撃ち込んだのは「針型」のもので、ザイードの尾に突き立っている。
だが、思ったより数が少なく、自分の腕に不満を覚えた。
ふと、ある男の顔が思い浮かぶ。
ベンジャミン・サレス。
彼の腕なら、すべて命中していたに違いない。
近距離銃の扱いに対しては、自分よりも上だった。
鱗のわずかな隙間を狙ったのだが、フィッツは、いくつか外している。
手元の装置を入れた瞬間、「針型」の弾が炎を噴いた。
「人の中には、私より銃の扱いに慣れた者もいるのですよ?」
自らの尾についた炎を、ザイードが消す。
瞬く間に空が曇り、大きな雨粒が落ちてきた。
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