理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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最終章 黒い羽と青のそら

にっちもさっちも 1

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 まるで何事もなかったかのように、ユージーンは食堂に姿を現した。
 歩き方は、以前と、あまり変わっていない。
 そのせいで、マルクに「もたもたするな!」と、よくどやされている。
 ユージーンも、足早に歩こうとはしているようだった。
 さりとて、長年の習慣というのは、なかなか抜けないものなのだ。
 
 イスにも、ゆったりと腰かけている。
 隣には、テオが席についていた。
 いかにも「貧乏くじを引きました」という顔をしている。
 
「む。大公は、おらんのか?」
「最近、忙しいんだよ」
 
 誰かさんが王子様を辞めてしまったから。
 とは、言わない。
 
 ユージーンにも、ユージーンなりの理屈があるのだろうし、生半可な気持ちで辞めたのでもない。
 具体的な理由は聞いていなかったが、仕事ぶりを見ていれば、わかる。
 宰相になりたい、との気持ちだけは本物だ。
 
(それに、この山場を乗り切れば……お父さまが宰相を辞められるんだもんね)
 
 レティシアは、国王が内閣総理大臣なら、宰相は官房長官みたいなものだろう、との印象を持っていた。
 テレビで記者会見する姿を見ていた頃、大変そうだな、と思ったことがある。
 政治に関しては、ほとんど興味はなかったものの、大臣たちのまとめ役的な感じなのだろうと認識していた。
 現代日本では、辞任するのは簡単そうに見えたが、この世界では「ポスト宰相」がおらず、辞めるのに苦労する。
 ユージーンが「ポスト宰相」となり、父が辞任できるのなら、それに越したことはない。
 なにしろ、父はずっと辞めたがっている。
 
「そうか。大公にも話があったのだが、しかたあるまい。時に、なぜグレイは席につかんのだ? これは、どういう組み合わせか?」
 
 レティシアは、運ばれてきた料理に手をつけつつ、身構えた。
 
(出たよ、来たよ。早速だよ。隣にテオがいるっていうのに、なぜグレイ? どんだけ気に入ってんだよ。グレイが大変過ぎだわ。倒れるわ)
 
 内心の思いは隠して、ちゃんと説明することにする。
 適当なことを言えば、あとで自分が苦しむだけだからだ。
 
「グレイとサリー、それにマルクとラリーは、仕事の関係で、朝当番って決まってるんだよ。昼間は、お客様も来るし、商人の人たちの出入りもあるからね。グレイとサリーは、その相手をしないといけないでしょ?」
「その合間に、お前の勉強につきあわされている、ということか」
 
 うっと、呻きそうになる。
 レティシアだって、忙しい時間帯に、2人に「つきあわせて」申し訳ない、とは思っていた。
 それにしても、いつの間に、そんな情報を仕入れていたのかと、呆れる。
 
「つきあわされているのではない。おつきあいさせていただいているんだ」
「わかっている。立場上、そう言わざるを得ぬのだろ」
「ま、まぁ、私も、つきあわせて悪いなーって、思ってるんだけどさ。グレイは、なんでも知ってるから頼っちゃうんだよね」
 
 うむ、とユージーンが鷹揚にうなずいた。
 こういうところも、変わっていない。
 そして、ナイフとフォークの扱いは、見事だった。
 なにやら負けた気になる。
 
「そうだな。執事などさせておくには、惜しいくらい、グレイは有能だ」
 
 へえ、と思った。
 やはりユージーンはグレイを気に入っている、というか、認めている。
 人を褒めるところなど見たことがなかったので、少し驚いてしまった。
 
「だが、当番でない者が口を差し挟むのは感心せぬな。それでは、ほかの者に示しがつかんぞ、グレイ」
 
 ユージーンの言うことは、いちいち「間違っては」いないところが厄介だ。
 言われたグレイも言い返したそうにしながらも、口を閉じている。
 
「お前が、よけいなこと言うからだろ」
「よけいなこととはなんだ、テオ」
「つきあわされている、とかさ。本当に忙しい時は、グレイだって、そう言うさ。それでレティシア様が怒るかたじゃねぇことくらいわかってんだから」
「そうなのか? レティシア」
「あ、うん」
 
 テオに、ばしっと言われ、ユージーンは納得したらしい。
 蒸し返して来ようとはしなかった。
 ユージーンの場合、本人が納得しさえすれば、大人しくなる。
 そこは「まだしも」の部分だった。
 
「それはそうと、さっき来た王宮魔術師のことなのだがな」
「あ~……うん……なに?」
 
 彼女、ライラに対して、ユージーンは、ひどく腹を立てている。
 一応、今は、おさまっているようだけれども。
 
「できるだけ早急に、追いはらいたいと思っている」
「でも、帰ってなかった?」
「また来る。だいたい敷地内におらぬだけで、帰ってはおらん」
「お前が、もう来るなって言っても、来るのか?」
 
 テオの問いに、ユージーンが、うなずいた。
 ライラが、自分のやり方で警護する、と言っていたのを思い出す。
 とすると、ユージーンの言うように、王宮に帰ってはいないのだろう。
 
「追いはらうって言ってもさ。敷地内じゃないなら、彼女の勝手じゃん? こっちは、口が出せないんじゃないの?」
「そうだ。だから、こちらが外に出ればよい」
 
 視界の隅で、グレイとサリーが、サッと顔色を変えたのに気づく。
 それが、なぜなのか、レティシアには、わからなかった。
 
「どういうこと?」
「あの女を釣り出すために、お前が外に出ればよい、と言っている」
「ちょっ……おい! それって、レティシア様を餌にするってことじゃねぇか!」
「その通りだ」
 
 なんとまあ、ド直球であることか。
 
 グレイとサリー、それに給仕をしていたアリシアやマリエッタも、表情を固くして、ユージーンを背後から睨んでいる。
 それが、見えてしまうレティシアとしては、なんとも言えない気分だ。
 
「お前の客なんだから、お前が始末つけろよな! レティシア様に、ご迷惑をおかけするんじゃねぇよ!」
「テオの言う通りだ。見過ごしにできることではないからな。ここは口を挟ませてもらうぞ!」
「王宮魔術師に近づくなんて危険じゃないの! そういう危険なことはさせられないわ!」
 
 テオもグレイもサリーも、断固反対というふうだった。
 アリシアとマリエッタは無言だったが、否定的な顔つきをしている。
 
「やかましいっ!!」
 
 だんっ!!
 
 ユージーンが、ナイフを握ったまま、右手をテーブルに叩きつけた。
 びっくりして、レティシアも動きを止める。
 フォークに刺していたレタスが、皿に、ぱた…と落ちた。
 
「お前たちは、王宮魔術師を知らぬから、そのようなことが言えるのだ。あの女は、レティシアを狙ってくる。屋敷にいようがいまいが、関係ない」
「は……? なんで、私? 彼女は、あなたを王宮に戻したいんでしょ?」
「あの女が言っていただろ。俺が、お前に、ご執心だとな」
「否定すればいいじゃん」
 
 言ったとたん、ユージーンが、なぜか呻く。
 ナイフとフォークを握りしめ、少しうなだれてから、ぐぐっと顔を上げた。
 
「そのようなことは、無駄だ。俺やお前が、どう思っているかではない。奴らが、どう思うかだ。勝手に理屈をつけて、勝手なことをする」
「お前、元王太子なのに、なんにもできねぇのかよ」
 
 テオが、またしてもザクっと切り込む。
 ユージーンは、苦い顔をしていた。
 おそらく、できないから、ライラは、この屋敷まで来られたのだ。
 どこぞの公爵家の名前も出していたし。
 
「父……国王とて、まつりごとでは、権力を振るうことはできん。政は、貴族が仕切っているのでな」
「でも、だからって、なんでレティシア様を外に……」
「早急にカタをつけておかねば……ジョーが狙われる可能性が高まる」
 
 ぴくっと、レティシアの耳が反応する。
 瞬間的に、悟った。
 ジョーは、ザカリーの想い人だ。
 ザカリーに即位させたくない者たちにすれば、ジョーを狙うのが手っ取り早い、と考えるかもしれない。
 たとえば、さらって人質にしようだとか。
 
「お前ならば、ジョーに囮をさせるような真似は、好まぬだろうと思ってな」
「そうだね。それは、絶対に嫌だよ」
 
 もうひとつ、ユージーンが、なぜレティシアを囮にと考えたのか、その理由も、わかった。
 
「外に出る時は、お祖父さまも一緒ってことなんでしょ?」
「そうだ」
「わかった。でも、お祖父さまに相談してから決める。それで、いい?」
 
 祖父は、レティシアを囮に使うことに、いい顔はしないだろう。
 が、祖父だけに「カタをつけさせる」のを、レティシアは、良しとはできないのだった。
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