理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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最終章 黒い羽と青のそら

愛称は家族限定 3

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 ジークは、彼の孫娘から離れていくユージーンを追う。
 彼女の視界から離れたところで、降下した。
 
「む。ジークか」
 
 この辺りは、中庭の木が生い茂っていた。
 周囲から見えにくいし、人の気配がないのも確認している。
 ユージーンについて飛ぶのも面倒なので、肩に、ちょこんと、とまった。
 烏姿で、もちろん姿は消している。
 女魔術師を追いはらったので、魔術を使っても問題はない。
 仮に、誰かに見られても、独り言をぶつぶつ言っているユージーンの「頭がおかしくなった」と思われるだけだ。
 
(また怒らせてたみてーだな)
「怒っているのは、俺だ。まったく!」
(しかたねーだろ? 外に出たのだって、この前が初めてだったんだぞ)
「……確かにな。俺の考えが、甘過ぎたのやもしれん」
 
 ユージーンは怒りをおさめたらしいが、代わりに少し、しょげている。
 声に覇気がなかった。
 ジークは、色恋沙汰には興味がない。
 もとより、人は嫌いなのだ。
 
(お前、弟からオレの話、聞いてるか?)
 
 ユージーンの近くに来たのは、会話を楽しむためではなかった。
 前々から、確認しておきたいと思っていたことがあり、それを思い出したからに過ぎない。
 
「なにも聞いておらん。なんだ、ザカリーは、お前のことを知っているのか?」
(姿は、見せちゃいねーよ。けど、お前の弟は、オレに気づいてるな。魔術の腕、ありゃ、相当なもんだ。お前と違って)
「大公もジークも、なぜ、いつも余計なひと言をつけるのだ」
(だって、本当なんだぜ? お前の弟がすげえってのはサ)
 
 王宮に行く際、ジークは、ザカリーの点門てんもんを抜けている。
 普通、点門を抜けられるのは、1度に4人、多くても5人が限界だ。
 その人数が抜ける間、門を維持することは、とても難しい。
 上級魔術師でも点門を多用しないのは、魔力量の消耗が激しいからだ。
 しかも、ひとつ間違えば、とんでもないところに門を開きかねず、あげく戻って来られない、などということに、なりかねないからでもある。
 
 平然と、点門を使う者など、ジークは、ほとんど知らない。
 彼と、サイラス、それにユージーンの弟くらいだ。
 彼らは、まるで部屋の扉を開くのと同じくらいの気軽さで、点門を使う。
 もっともサイラスは、もういないのだけれども。
 
「ザカリーの血筋ゆえかもしれんな」
(ああ、お前とは、血が繋がってねーんだっけ?)
 
 うむ、とユージーンがうなずいた。
 ユージーンの夢見の術を解く際、ジークもそばにいたのだ。
 だから、ユージーンと弟に、血縁関係がないことは知っている。
 
「ザカリーには、今の魔術師長と、王族の血が少しばかり入っている」
(そーいうの、オレには、よくわかんねーけど、その血があるから器が大きいってことなのか?)
「おそらくな」
 
 ふぅん、と思った。
 ジークは、血筋というものに、実感がない。
 気づいた時には、すでに特殊な力を持っていたからだ。
 不思議ともなんとも思わなかった。
 周りにいる者たちに使えない力だなんて、知らなかった。
 
(血が繋がってなくても、弟なんだろ?)
「そうだ。そのようなものは、どうでもよい。ザカリーはザカリーでしかないし、俺は、ずっとザカリーを弟だと思ってきた。今さら血が繋がっておらんとわかっても、弟という認識を変えられはせぬ」
(でも、貴族って、血にこだわる奴、多いじゃねーか)
「俺とて、こだわっておらんわけではない」
 
 ユージーンが、矛盾したことを言う。
 血が繋がっていなくても、弟は弟。
 そう言った端から、血にこだわりもある、という意味がわからない。
 
「こだわっているのは、俺の血だ」
(そっか。それなら、わかる)
 
 彼にも、そういうところがあった。
 ほかの誰の血にもこだわらないのに、彼自身の血にだけは、こだわっている。
 それは、彼の力が大きく、独特だからだろう。
 受け継いでいる孫娘のことを、気にかけている理由にも、それがある。
 
「俺は、与える者としての、役割を果たさねばならん。国の平和と安寧のために、途絶えさせることはできんのだ。だが、それは俺だけの話で、ザカリーとは関係がない」
 
 ほんの少しユージーンを、気の毒に思った。
 彼には、彼の血を受け継いでいる孫娘と、彼の力を与えられたジークがいる。
 が、ユージーンには、誰もいない。
 いるとすれば、父である国王だけだが、あまり仲は良くなさそうだ。
 少なくとも身近な存在でないのは、確かだった。
 
(血が繋がってなくても、弟とは仲が良さそーだな)
「兄弟とは、そういうものなのだろう。俺にも、よくわからんのだ」
(は? なんでだよ。仲良くしてるじゃねーか)
「今まで、俺に家族はいなかった」
 
 ユージーンの言葉に、ジークは戸惑う。
 それが仕草に出て、ユージーンの肩を、カッカッと爪先で掻いた。
 
「父には、愛されておらんと思っていたし、母ともザカリーとも、まともに話したことは、なかったのでな。家族など不要だと、俺は、ずっと考えてきた」
 
 ジークは、今もそう思っている。
 毎日、食事を与え、服を着替えさせてくれ、寝る前に昔話をしてくれる存在は、あった。
 それは、とてもあたり前に「そこにいる」と思える者たちだった。
 手を離されるなんて思いもせず、あの日まで、ただ当たり前の日常を、ジークは、過ごしている。
 雪山に置いて行かれた時も、命が尽きる直前まで彼らの手を信じていたほどだ。
 
(今は、不要じゃねーのか?)
「わからん。ただ、いないよりはいたほうが、良い気分になれる、ということには気づいた」
(良い気分、ねえ。かすみみてえな答えだな)
「だから、さっきも言ったのだ。そのようなものなのだろう、とな」
 
 家族を不要と思ってきたせいで、明確にはできないらしい。
 具体的にはわからないが、良い気分になれるから、切り捨てずにいる。
 たぶん、そんなところなのだ。
 やはり、ジークに実感はないのだけれども。
 
(血にこだわらねーのは、そういうことか)
「そういうことだ」
 
 ジークは、思い出す。
 彼に助けられたあと、彼から言われた言葉だ。
 
 ジークに似た者がいる、と言われた。
 血縁関係にある者だろうから会いたければ会わせると、そうも言われている。
 が、その時にはもう、ジークの心は凍えていた。
 あたり前にいたはずの者たちは、勝手に消えることがある。
 自分には、家族などいない、そう思った。
 そのため、彼以外と関わりになる気はなくしており、彼の提案を断っている。
 
 手を伸ばしたからと言って、必ずしも握ってもらえるとは限らない。
 それを、ジークは幼くして知ったのだ。
 
(お前、よく懲りねーよな)
「どういう意味だ?」
(サイラスだよ)
 
 利用されるだけされて、最後には捨てられて。
 
 なのに、未だユージーンは、サイラスに、こだわり続けている。
 ジークからすれば、間の抜けた話だ。
 サイラスにこだわりさえしなければ、王太子をやっていけるのに。
 
「俺は、今の俺を気に入っている」
(サイラスがいなきゃ、両親に愛されて、ぬくぬく王太子やってられただろ)
「だからこそだ。サイラスに育てられ、今の俺がある」
 
 具体的にはわからなかったが、なんとなく感じるものはあった。
 ジークに家族はいない。
 いたはずの血縁関係者より、彼を選んだ。
 そして、ジークも、今の自分を気に入っている。
 たとえ過去に戻れたとしても、同じ道を選ぶに決まっていた。
 
(サイラス、いなくなっちまって、残念だったな)
「ああ、残念だった。とてもな」
 
 それでも、あれはあれで良かったのだと、ユージーンは思っているのだろう。
 時々、思い出して泣いたりしていることを、ジークは知っていた。
 が、あえて、それは言わずにおく。
 ジークが彼の手を離せずにいるのと同じように、ユージーンも、サイラスの手をいつまでも離せないと、わかっていたからだ。
 
「む。ジーク、なにをする」
(なんかイラっとしたから、嫌がらせしたのサ)
「ジーク!」
 
 パッと、ジークは飛び立つ。
 声もとどかないくらい上空へと、一気に急上昇。
 
 ユージーンの指は、すっかり治っているだろう。
 不要な包帯も、ほどいてやった。
 何か下でユージーンが叫んでいる。
 治癒したことに対する文句に違いない。
 が、どうでもよかった。
 
 ジークは、ジークのやりたいようにする。
 今までもそうだったし、これからもだ。
 
(本当に、あいつって、間が抜けてるぜ)
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