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断たれた願い 2
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静流と彼の付き合いは高校に入るまで続いていたようだが、ある日を境に静流から彼の匂いがしなくなった。
「あれ、いいの?」
校内で仲睦まじい様子のカップルの片方は、あの彼だった。周りは気不味げに静流を見ているのに当の本人は「仲良しだよね」と笑うだけで、無理をしている様子も全くない。
学内では〈静流の唯一は彼ではなかったようだ〉という話が流れ、静流の元には彼の場所に取って代わろうと言う相手が殺到した。
それはΩだけでなくαやβも含まれなかなか異常な状況だったが、静流は全く動じず気がついた時には隣に女性Ωがいる事が多くなっていた。
次に相手となったのは女性Ωだった。
「今回は本気?」
やめておけばいいのに好奇心で聞いてしまった。
「虫除け」
面白そうに答える静流はまたしても俺の想像の斜め上で、不特定多数の相手と後腐れの無いようにヒートを過ごしていた彼女は、その中の勘違いしたαに付き纏われて困っていてその相手よりも上位の静流に助けを求めてきたからそれを受けたと。
「付き纏いαに刺されたりするなよ」
思わず言ってしまった。
いくら妬んでいる相手でも静流はやっぱり友達だ。出来れば変なことに巻き込まれてほしくない。
そんな中で俺の待ち望んだ時がやっと訪れる。
光流が正式にΩだと診断され、俺の立場は〈婚約者候補〉から〈婚約者〉となったのだ。婚約者候補なのに素知らぬ顔で婚約者として振る舞うことに罪悪感を感じる必要もなくなる。そして、光流にヒートが訪れればパートナーとして過ごす事ができるのだ。
俺だって健全な高校生なのだ。
そして、αなのだ。
〈その時〉が来れば咎められることなく光流と過ごす事を許される権利を手に入れたのだ。
静流はと言えば彼女とは案外長く続いていたが、2年の冬休みに入る頃には終わっていた。
辻崎家でクリスマスを過ごしていた時に「クリスマスなのに良いの?」と聞いた俺に平然と「婚約するらしいよ」と答えた静流は少し怖いと思った。
「好きじゃなかったのか?」
本気で疑問に思い聞いてみた。前の彼にしても身体を重ねた相手に〈情〉は無いのだろうか?
未練とか、執着とか、そんな感情はこの男には無いのだろうか?
「う~ん、嫌いではなかったよ。もしもの時には番になってもいいとも思ってたし。でもそれ以上でもそれ以下でもない」
さっぱりしたものだった。
もしも俺が静流の立場だったら、そう考えるのは無駄なことだった。俺は光流にしか興味がないし、光流以外に欲情した事はない。近くに〈最上級のΩ〉がいるのだ。よそ見している隙に奪われるわけにはいかない。
「また新しい相手を探すのか?」
虚しくはないのだろうか?
「もうこんな事はやめるよ。
光流が高校に来た時に俺が〈そう〉だったなら光流もって馬鹿が居ないとも限らないし」
そう言った静流は平気そうだったけれど、それでも〈責任をとってもいい〉とまで思えた相手に去られた事で何も感じないわけではないはずだ。この時の静流が本心で言ってたのかどうかはわからないけれど、この時の返答が違ったのならば俺はもっと素直に自分の気持ちを伝える事ができたのかもしれない。
光流に対する執着。
光流に対する愛執。
静流から〈誰か〉に対するそんな想いを感じる事ができたのならば共有する事ができたかもしれない感情。
絡まり過ぎたオレの光流に対する想いは解かれる術もなく、ますます俺を雁字搦めにしていく。
光流を取り込んでしまおう。
早く光流を取り込まなければ…。
共有することのできない想いは日々募っていく。
そして4月。
光流が高校に入ってからはますます目が離せなくなった。
幼い頃から人の目を引く容姿だった光流はこの頃になるとΩ独特の〈庇護欲〉を駆り立てるような弱々しさを携え、相乗するようにΩだと正式に診断が出たと知れ渡ると今まで様子を見ていたαが何かと近付いてくるようになったのだ。
それでも〈婚約者〉の肩書は抑止力として有効だった。
静流の影に隠れがちだとはいえ、俺とて〈辻崎家〉に選ばれる程度には高位なのだ。この日のために社交で顔も売ってきた。
そして何よりも光流が俺に対する好意を隠さなかった事が1番の抑止力となっていた。
俺が光流の周りから人を排除したせいか、光流が俺から離れないようにと色々と〈助言〉したせいか、以前に比べて表情が乏しくなってしまったせいで作り物めいた表情が俺と静流の前でだけ緩むのだ。嬉しそうに、楽しそうに、まるで花が開くかのような笑みを浮かべ俺たちの名前を呼ぶ。
「護君」
「静流君」
誰もが羨んでいるのがわかる。
そして、光流が誰のものかを見せつけるのだ。
そう言えば以前は静流のことを〈しぃ君〉と読んでいたが、俺がふざけて「静流がしぃ君なら俺はまぁ君?」と言ったせいで静流がヤキモチを妬いてしまい、結果2人とも愛称で呼ぶことをやめてしまった経緯がある。
〈しぃ君〉と呼ぶ優しい声で〈まぁ君〉と呼んで欲しかった気もするけれど、この先長い年月を一緒に過ごすのだ。
呼び方はきっとその時々で変わっていくのだろう。
番となればその関係性にも変化が出るだろう。
結婚すれば、子どもが産まれれば。
この先の人生は、楽しいことしかないと思っていたのに…。
「あれ、いいの?」
校内で仲睦まじい様子のカップルの片方は、あの彼だった。周りは気不味げに静流を見ているのに当の本人は「仲良しだよね」と笑うだけで、無理をしている様子も全くない。
学内では〈静流の唯一は彼ではなかったようだ〉という話が流れ、静流の元には彼の場所に取って代わろうと言う相手が殺到した。
それはΩだけでなくαやβも含まれなかなか異常な状況だったが、静流は全く動じず気がついた時には隣に女性Ωがいる事が多くなっていた。
次に相手となったのは女性Ωだった。
「今回は本気?」
やめておけばいいのに好奇心で聞いてしまった。
「虫除け」
面白そうに答える静流はまたしても俺の想像の斜め上で、不特定多数の相手と後腐れの無いようにヒートを過ごしていた彼女は、その中の勘違いしたαに付き纏われて困っていてその相手よりも上位の静流に助けを求めてきたからそれを受けたと。
「付き纏いαに刺されたりするなよ」
思わず言ってしまった。
いくら妬んでいる相手でも静流はやっぱり友達だ。出来れば変なことに巻き込まれてほしくない。
そんな中で俺の待ち望んだ時がやっと訪れる。
光流が正式にΩだと診断され、俺の立場は〈婚約者候補〉から〈婚約者〉となったのだ。婚約者候補なのに素知らぬ顔で婚約者として振る舞うことに罪悪感を感じる必要もなくなる。そして、光流にヒートが訪れればパートナーとして過ごす事ができるのだ。
俺だって健全な高校生なのだ。
そして、αなのだ。
〈その時〉が来れば咎められることなく光流と過ごす事を許される権利を手に入れたのだ。
静流はと言えば彼女とは案外長く続いていたが、2年の冬休みに入る頃には終わっていた。
辻崎家でクリスマスを過ごしていた時に「クリスマスなのに良いの?」と聞いた俺に平然と「婚約するらしいよ」と答えた静流は少し怖いと思った。
「好きじゃなかったのか?」
本気で疑問に思い聞いてみた。前の彼にしても身体を重ねた相手に〈情〉は無いのだろうか?
未練とか、執着とか、そんな感情はこの男には無いのだろうか?
「う~ん、嫌いではなかったよ。もしもの時には番になってもいいとも思ってたし。でもそれ以上でもそれ以下でもない」
さっぱりしたものだった。
もしも俺が静流の立場だったら、そう考えるのは無駄なことだった。俺は光流にしか興味がないし、光流以外に欲情した事はない。近くに〈最上級のΩ〉がいるのだ。よそ見している隙に奪われるわけにはいかない。
「また新しい相手を探すのか?」
虚しくはないのだろうか?
「もうこんな事はやめるよ。
光流が高校に来た時に俺が〈そう〉だったなら光流もって馬鹿が居ないとも限らないし」
そう言った静流は平気そうだったけれど、それでも〈責任をとってもいい〉とまで思えた相手に去られた事で何も感じないわけではないはずだ。この時の静流が本心で言ってたのかどうかはわからないけれど、この時の返答が違ったのならば俺はもっと素直に自分の気持ちを伝える事ができたのかもしれない。
光流に対する執着。
光流に対する愛執。
静流から〈誰か〉に対するそんな想いを感じる事ができたのならば共有する事ができたかもしれない感情。
絡まり過ぎたオレの光流に対する想いは解かれる術もなく、ますます俺を雁字搦めにしていく。
光流を取り込んでしまおう。
早く光流を取り込まなければ…。
共有することのできない想いは日々募っていく。
そして4月。
光流が高校に入ってからはますます目が離せなくなった。
幼い頃から人の目を引く容姿だった光流はこの頃になるとΩ独特の〈庇護欲〉を駆り立てるような弱々しさを携え、相乗するようにΩだと正式に診断が出たと知れ渡ると今まで様子を見ていたαが何かと近付いてくるようになったのだ。
それでも〈婚約者〉の肩書は抑止力として有効だった。
静流の影に隠れがちだとはいえ、俺とて〈辻崎家〉に選ばれる程度には高位なのだ。この日のために社交で顔も売ってきた。
そして何よりも光流が俺に対する好意を隠さなかった事が1番の抑止力となっていた。
俺が光流の周りから人を排除したせいか、光流が俺から離れないようにと色々と〈助言〉したせいか、以前に比べて表情が乏しくなってしまったせいで作り物めいた表情が俺と静流の前でだけ緩むのだ。嬉しそうに、楽しそうに、まるで花が開くかのような笑みを浮かべ俺たちの名前を呼ぶ。
「護君」
「静流君」
誰もが羨んでいるのがわかる。
そして、光流が誰のものかを見せつけるのだ。
そう言えば以前は静流のことを〈しぃ君〉と読んでいたが、俺がふざけて「静流がしぃ君なら俺はまぁ君?」と言ったせいで静流がヤキモチを妬いてしまい、結果2人とも愛称で呼ぶことをやめてしまった経緯がある。
〈しぃ君〉と呼ぶ優しい声で〈まぁ君〉と呼んで欲しかった気もするけれど、この先長い年月を一緒に過ごすのだ。
呼び方はきっとその時々で変わっていくのだろう。
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結婚すれば、子どもが産まれれば。
この先の人生は、楽しいことしかないと思っていたのに…。
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