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【side:燈哉】あるαの真実。
入学式前後のトラブルは、羽琉を力でねじ伏せることで解決したはずだった。
もともと仲真の家に請われて結んだ関係だ。それならばしっかりとマーキングして自分の存在を周りに知らしめて、羽琉も、俺自身も身動きが取れなくなればいいと。
そして、その時が来たら番い、お互いに離れることができなくなればいいと思っていた。
涼夏のことだって、羽琉のほのかに香るフェロモンと似ていたから惹かれたというのは嘘じゃない。
涼夏のフェロモンが強くなれば強くなるほど羽琉の淡いフェロモンは隠れ、そのフェロモンを感じることができるのが自分だけになればいいとすら思っていた。
羽琉との関係に悩みながらも離れることはできず、羽琉を俺に縛りつけるために、俺自身を羽琉に縛り付けるために強いマーキングを施す。その行為が羽琉を消耗させ、俺自身の心も消耗させる。
同じ教室で過ごす伊織の視線が痛い。
遠くからでも感じる政文の何か言いたげな視線が鬱陶しい。
羽琉と過ごしていても以前のような笑顔を見せてくれないことにだって気付いていた。だけど、羽琉のことを手放すことはできない。
羽琉に対する愛情は受け止められることなく漏れていく。そして、受け止められることのない愛情は日に日に枯渇していく。
そう、羽琉は俺の愛情なんて必要としていなかったんだ。
庇護してくれる者への依存。
身を守るための媚び。
強いαに寄生する本能。
幼い頃に声をかけたのは純粋な気持ちから。声をかけられた羽琉だって、その時から俺を利用しようとしていたわけじゃないはずだ。
放っておかれた存在の自分を、【弱いΩ】としてショーケースに入れられて遠巻きにされていた自分を【羽琉】として認識してくれる存在。
伊織や政文から羽琉は聖域だったと教えられたことがあった。
入退院を繰り返し、たまにしか出席しない羽琉に対して腫れ物に触るように接した担任は、クラスメイトにも同じ接し方を求めた。
羽琉君は特別だから。
そんな風に扱うせいで話しかけることはできなかったし、話しかけてはいけないと思っていたと。
クラスの違う俺はそんなことも知らず、戸外遊びの間だけ羽琉のことを気にかける存在。自分を気遣い、自分の遊びを中断してまで話しかけてくれる同級生。
孤独だった羽琉はやがて俺に依存するようになり、俺は俺で自分に笑顔を見せてくれることが嬉しくて羽琉に対して庇護欲を駆り立てられる。
そんな中で行われた顔合わせはふたりの関係を決めてしまうものだった。
身体の弱いΩとそれを庇護するα。
俺がαの片鱗を見せていたことで成り立つ関係。
だけど、本当のところは将来のことを考えて守られてきた存在に対し、将来のことを考えて忌避されていた存在に対し、土足で踏み込んでしまったために成立してしまった関係。
羽琉が幼稚舎に入った頃から特別扱いされていたのには理由があったらしい。
それは、家格が高ければ高いほど知っていたのだけど、俺の家のように低くはないけれど高くもない家格だと真偽の程を確かめることもできない噂話。
仲真のΩはαに寄生することでしか普通の生活を送ることができない。
それは羽琉の父がそうだったせいで実しやかに流れ続ける噂。
弱い存在だった男性Ωの羽琉の父だけど、羽琉の父親と番うことによって通常の生活を送れるようになったのだと実しやかに囁かれる噂。
それまでは登校しても保健室で過ごすことが大半で、たまにクラスに顔を出してもすぐに保健室に逆戻りするか、早退してしまう、そんな存在。
それが羽琉の父親と過ごすようになったせいで少しずつ教室にいる時間が長くなり、番ったことにより人並み、とまではいかないけれどそれなりに生活することができるようになったらしい。
番ったことで教室で過ごす時間が長くなった、ということは学生のうちに番ったということだろう。
それを知っていて自分の子どもを仲真のΩのパートナーとして差し出そうと思う親はどれだけいるだろう。
性差が確定して、精神的にも成長した中でパートナーを選び、番になることを選ぶのならそれは互いの意思によるもので、反対する理由さえなければ認めることができるだろう。だけど、俺のように自分の意思かどうかも分からないまま番候補として認定され、家格の差から異論を述べることもできず確定してしまった関係。
尤も、うちの親の場合仲真と縁を繋げることができるのは喜ばしいことで、俺と羽琉が仲良くしているのなら異論なんてないという感じだったけれど…。
そもそも俺を欠席させてまで会合に同伴するのだって、仲真の家よりも劣る家格を人脈を広げることで補おうとしてのことだ。
そのせいで羽琉との距離を自覚したのだから本末転倒だと笑えてしまう。
今、本当は羽琉のことが好きなわけじゃないし、番となることを躊躇している、そんなことを伝えたところで両親がいい顔をしないことなんて理解している。
羽琉の隣に立っても恥ずかしくないようにとしてきた努力も、築いてきた立ち位置も、仲真から離れることによってその効力の大半を失うだろう。
羽琉の隣に立つには、仲真のΩの番となるには必要だった多くの事が無駄にならないにしても、必要の無かったことも多く出てくるはずだ。
「ねえ、いつも難しい顔してるけど毎日楽しい?」
登下校を共にするようになって少ししてから涼夏に言われた言葉。
自分の目論見を素直に伝え、その行いを謝罪した時に言われたのは「燈哉君、だいぶ拗らせてるよね」だった。
「オレも自分はαだと思ってた時にはパートナーのこと何とかして人から隠そうと思ってたからその気持ちは理解できるよ。
カムフラージュのためにとか、よくよく考えると腹立つけど」
「悪かった」
「眉間に皺、寄ってる」
揶揄うような響きを含ませた言葉と共に、自分の眉間を人差し指でなぞる。俺に触れることで香りが残ることを気にして距離を取る涼夏が羽琉のことを気にしているのは明らかだ。
眉間の皺を指摘されて表情を緩めるように努力してみれけれど、気付けば難しい顔になっているようで「ほら、眉間、眉間」と駅までの道中で何度も言われてしまう。
「オレは偽物だったけど、自分がαだと思ってた時のこと考えると燈哉君の行動を理解できないこともないよ。
今もΩって判定は出たけど、どっちかと言えば考え方はαよりだと思うし。
入学式の日は不安だったし、αに庇護されれば学校生活も楽になるかと思って流されたけど、今なら逃げてたよ、きっと」
「逃げるんだ?」
「当たり前だよ、燈哉君の周り、面倒すぎるって。
守られるのが当然のΩと、パートナーいるくせに人のΩに執着するα。
それに、逃げたいくせに逃げられなくて力でΩをねじ伏せようとするαって、みんな相当拗らせてない?」
最後に言ったαはきっと俺のことだろう。腹立たしい思いはあるものの、どれも概ね事実なのだから否定する事ができない。
「そもそも羽琉君って、燈哉君のことどう思ってるの?
燈哉君は羽琉君と番って添い遂げる気なんだよね、この先」
そう言った涼夏の言葉に返答に困る。
羽琉と番になり添い遂げるのは既定路線だった。自分は羽琉のことが好きだと思っていたし、羽琉も俺のことが好きだと信じて疑うことはなかった。
だけど、羽琉が俺の願いを拒否して伊織に頼ると言い出した時にその気持ちを疑うようになった。
俺にだけ向けてくれると思っていた笑顔は伊織や政文にも向けられていた。
伊織や政文と過ごすようになると、それに乗じて交友関係が増え笑顔が増える。
正直、面白くなかった。
もともと仲真の家に請われて結んだ関係だ。それならばしっかりとマーキングして自分の存在を周りに知らしめて、羽琉も、俺自身も身動きが取れなくなればいいと。
そして、その時が来たら番い、お互いに離れることができなくなればいいと思っていた。
涼夏のことだって、羽琉のほのかに香るフェロモンと似ていたから惹かれたというのは嘘じゃない。
涼夏のフェロモンが強くなれば強くなるほど羽琉の淡いフェロモンは隠れ、そのフェロモンを感じることができるのが自分だけになればいいとすら思っていた。
羽琉との関係に悩みながらも離れることはできず、羽琉を俺に縛りつけるために、俺自身を羽琉に縛り付けるために強いマーキングを施す。その行為が羽琉を消耗させ、俺自身の心も消耗させる。
同じ教室で過ごす伊織の視線が痛い。
遠くからでも感じる政文の何か言いたげな視線が鬱陶しい。
羽琉と過ごしていても以前のような笑顔を見せてくれないことにだって気付いていた。だけど、羽琉のことを手放すことはできない。
羽琉に対する愛情は受け止められることなく漏れていく。そして、受け止められることのない愛情は日に日に枯渇していく。
そう、羽琉は俺の愛情なんて必要としていなかったんだ。
庇護してくれる者への依存。
身を守るための媚び。
強いαに寄生する本能。
幼い頃に声をかけたのは純粋な気持ちから。声をかけられた羽琉だって、その時から俺を利用しようとしていたわけじゃないはずだ。
放っておかれた存在の自分を、【弱いΩ】としてショーケースに入れられて遠巻きにされていた自分を【羽琉】として認識してくれる存在。
伊織や政文から羽琉は聖域だったと教えられたことがあった。
入退院を繰り返し、たまにしか出席しない羽琉に対して腫れ物に触るように接した担任は、クラスメイトにも同じ接し方を求めた。
羽琉君は特別だから。
そんな風に扱うせいで話しかけることはできなかったし、話しかけてはいけないと思っていたと。
クラスの違う俺はそんなことも知らず、戸外遊びの間だけ羽琉のことを気にかける存在。自分を気遣い、自分の遊びを中断してまで話しかけてくれる同級生。
孤独だった羽琉はやがて俺に依存するようになり、俺は俺で自分に笑顔を見せてくれることが嬉しくて羽琉に対して庇護欲を駆り立てられる。
そんな中で行われた顔合わせはふたりの関係を決めてしまうものだった。
身体の弱いΩとそれを庇護するα。
俺がαの片鱗を見せていたことで成り立つ関係。
だけど、本当のところは将来のことを考えて守られてきた存在に対し、将来のことを考えて忌避されていた存在に対し、土足で踏み込んでしまったために成立してしまった関係。
羽琉が幼稚舎に入った頃から特別扱いされていたのには理由があったらしい。
それは、家格が高ければ高いほど知っていたのだけど、俺の家のように低くはないけれど高くもない家格だと真偽の程を確かめることもできない噂話。
仲真のΩはαに寄生することでしか普通の生活を送ることができない。
それは羽琉の父がそうだったせいで実しやかに流れ続ける噂。
弱い存在だった男性Ωの羽琉の父だけど、羽琉の父親と番うことによって通常の生活を送れるようになったのだと実しやかに囁かれる噂。
それまでは登校しても保健室で過ごすことが大半で、たまにクラスに顔を出してもすぐに保健室に逆戻りするか、早退してしまう、そんな存在。
それが羽琉の父親と過ごすようになったせいで少しずつ教室にいる時間が長くなり、番ったことにより人並み、とまではいかないけれどそれなりに生活することができるようになったらしい。
番ったことで教室で過ごす時間が長くなった、ということは学生のうちに番ったということだろう。
それを知っていて自分の子どもを仲真のΩのパートナーとして差し出そうと思う親はどれだけいるだろう。
性差が確定して、精神的にも成長した中でパートナーを選び、番になることを選ぶのならそれは互いの意思によるもので、反対する理由さえなければ認めることができるだろう。だけど、俺のように自分の意思かどうかも分からないまま番候補として認定され、家格の差から異論を述べることもできず確定してしまった関係。
尤も、うちの親の場合仲真と縁を繋げることができるのは喜ばしいことで、俺と羽琉が仲良くしているのなら異論なんてないという感じだったけれど…。
そもそも俺を欠席させてまで会合に同伴するのだって、仲真の家よりも劣る家格を人脈を広げることで補おうとしてのことだ。
そのせいで羽琉との距離を自覚したのだから本末転倒だと笑えてしまう。
今、本当は羽琉のことが好きなわけじゃないし、番となることを躊躇している、そんなことを伝えたところで両親がいい顔をしないことなんて理解している。
羽琉の隣に立っても恥ずかしくないようにとしてきた努力も、築いてきた立ち位置も、仲真から離れることによってその効力の大半を失うだろう。
羽琉の隣に立つには、仲真のΩの番となるには必要だった多くの事が無駄にならないにしても、必要の無かったことも多く出てくるはずだ。
「ねえ、いつも難しい顔してるけど毎日楽しい?」
登下校を共にするようになって少ししてから涼夏に言われた言葉。
自分の目論見を素直に伝え、その行いを謝罪した時に言われたのは「燈哉君、だいぶ拗らせてるよね」だった。
「オレも自分はαだと思ってた時にはパートナーのこと何とかして人から隠そうと思ってたからその気持ちは理解できるよ。
カムフラージュのためにとか、よくよく考えると腹立つけど」
「悪かった」
「眉間に皺、寄ってる」
揶揄うような響きを含ませた言葉と共に、自分の眉間を人差し指でなぞる。俺に触れることで香りが残ることを気にして距離を取る涼夏が羽琉のことを気にしているのは明らかだ。
眉間の皺を指摘されて表情を緩めるように努力してみれけれど、気付けば難しい顔になっているようで「ほら、眉間、眉間」と駅までの道中で何度も言われてしまう。
「オレは偽物だったけど、自分がαだと思ってた時のこと考えると燈哉君の行動を理解できないこともないよ。
今もΩって判定は出たけど、どっちかと言えば考え方はαよりだと思うし。
入学式の日は不安だったし、αに庇護されれば学校生活も楽になるかと思って流されたけど、今なら逃げてたよ、きっと」
「逃げるんだ?」
「当たり前だよ、燈哉君の周り、面倒すぎるって。
守られるのが当然のΩと、パートナーいるくせに人のΩに執着するα。
それに、逃げたいくせに逃げられなくて力でΩをねじ伏せようとするαって、みんな相当拗らせてない?」
最後に言ったαはきっと俺のことだろう。腹立たしい思いはあるものの、どれも概ね事実なのだから否定する事ができない。
「そもそも羽琉君って、燈哉君のことどう思ってるの?
燈哉君は羽琉君と番って添い遂げる気なんだよね、この先」
そう言った涼夏の言葉に返答に困る。
羽琉と番になり添い遂げるのは既定路線だった。自分は羽琉のことが好きだと思っていたし、羽琉も俺のことが好きだと信じて疑うことはなかった。
だけど、羽琉が俺の願いを拒否して伊織に頼ると言い出した時にその気持ちを疑うようになった。
俺にだけ向けてくれると思っていた笑顔は伊織や政文にも向けられていた。
伊織や政文と過ごすようになると、それに乗じて交友関係が増え笑顔が増える。
正直、面白くなかった。
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