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敦志編
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〈いつになったら連絡してくるの?〉
痺れを切らして連絡してしまった。
時也と食事に行く約束をしたのは体感的にはずいぶん前なのだけどよくよく考えれば1月と少しくらいだろうか?
すぐに連絡が来ると思い待っていたのに電話どころか、メッセージのひとつも無いため催促するようにして送ってしまったメッセージ。
折り返しで来たメッセージは〈何の連絡?〉と意を決して送った俺をガックリとさせるものだった。
忙しいのかと、余裕が無いのかとメッセージを送るのを我慢していた自分が馬鹿みたいに思えて取り敢えず電話をかけてみる。メッセージでやり取りするよりもさっさと約束を取り付けたほうが良さそうだ。
『どうしたの?』
聞こえてきた第一声に思わずため息を吐いてしまう。俺の我慢は何だったのか…。
「飲もうって約束したよね?」
責めるような声色にならないように気をつけて返事を返す。自分のことに関しては鈍感なくせに人の顔色の変化には敏感な時也だから、少しでも不機嫌なそぶりを見せたら萎縮してしまうかもしれない。
『いつ?』
「モールで会った時」
そこまで言ってやっと気付いたのか、電話の向こうで〈あっ、〉と小さな声が聞こえる。本気で忘れていたのだろう。
『ごめん、色々あって忘れてた』
「色々?」
小さな声でゴニョゴニョと言い訳するように言うせいで何かあったのかと心配して声が硬くなってしまったのは自分でも気付いていた。もしかして三浦から何か連絡が来たのだろうか。
『うん。あの次の日に社長とゆっくり話す機会があって、色々と考えさせられることが多くてそのことばかり考えてたから…』
そこで言葉が止まったけれど、俺が懸念していたような内容ではなくて少しだけホッとする。だけど、俺との会話を忘れるほどの話とはどんな話なのかが気になってしまう。
付き合ってもいない、そもそも卒業してからほとんど顔を合わせていない相手に対して少しばかり過剰ではないか、と我ながら呆れるものの詮索したくて仕方がない。
「会社で何かあった?」
『仕事の事じゃなくて…人間関係?
世の中の渡りかた?』
「なに、それ」
それでも時也の声は柔らかくて、心配するような内容では無さそうだと安堵する。楽しそうに話す様子からして良い話だったのだろう。感情が声にすぐに出てしまうところは学生時代のまま変わっていないのだろうか?それとも、相手が俺だからだろうか?
後者ならば嬉しいのにな、と思いながら会話を続けるけれど、その声色に釣られて自分も同じように声色が変わっているだなんて自分では全く気付いていなかった。それを指摘されるのはもう少し後なのだけど、どうやら先輩はだいぶ前、それこそ学生時代からそうだと気付いていたらしい。女の勘は恐ろしい。
だけど、それを聞けば事ある毎に、時也に何か変化がある度に俺に連絡が来るのも納得がいった。
〈嬉しい報告が聞きたい〉と言われたのはまだ暑い9月頃。あれから少し時間が経ってしまったけれど、良い報告をすることができるのは何時になるのだろう。
「時也にとって楽しい話だった?」
その声色の理由を知りたくて少し詰めてみるけれど、返ってきた答えは予想を裏切るものだった。
『そうだね。
今まで自分がどれだけ目先のことに、自分の周りの狭い範囲にだけに囚われてたのか気付かされた』
「そうなんだ。
じゃあ、その話を詳しく聞くためにも時間作ってもらおうかな?」
予想とは違う答えだったけれど何だか前向きな答えにこちらの緊張も解れる。
改めて予定を確認すると、何も予定は無いからいつでもいいとサラリと答えられ、改めて色々なことを考え過ぎていて自分が情けなくなる。
「予定がないからもっと早く連絡すれば良かった」
こんな事なら遠慮するんじゃなかった、とついつい愚痴が出る。時也のことになるとつい考え過ぎる自分を何とかしなければ先が思いやられる。
『ごめん』
「別に謝らなくていいよ。
色々聞きたいこととか、話したいこともあるから楽しみにしてる」
それだけ告げて通話を終了する。
取り敢えず金曜日に時也の住む町の駅で待ち合わせをしただけでも上出来だろう。
積もる話は沢山ある。
聞きたいこと、話したいこと、俺の気持ち、時也の気持ち。
三浦のことは話したほうがいいのだろうか?
あの日、時也からグループメッセージがあった時に念のためにと三浦とも時也とも関わりのある友人、三浦の良心とも言える相手に時也のメッセージを伝えておいた。こちらのグループ以外で時也の話を聞き出そうとするのならこの友人しかいないだろうと予測してのことだ。
念のためと思っての事だったけれど、何の音沙汰もなかったから杞憂だったのかと思っていたけれど、先輩と話したあの日の数日後にその友人から電話が入り、三浦の話を聞いた。
時也が居なくなったとかなり落ち込んでいたこと。
居なくなったことに気付いた時には連絡手段は残っていたのに、自分の部屋に戻るまでのわずかな時間にそれらが全て断たれた事。
急いで俺に連絡をした時に告げられた言葉とその時の態度。
そして、その時に俺が告げた言葉。
「あいつ、時也と付き合ってるのバレてないと思ってたみたいだよ?」
そして話してくれたその時の様子。
かなり反省していると、本当に大切な相手は時也だとやっと気付いたようだと言われたけれど、正直それがどうしたとしか思わなかった。
時也から直接聞かされることはとうとう無かったけれど、この友人から「一也と時也、付き合うみたいだけどお前それで良いの?」と言われた時には〈やられた〉と悔しい思いをした。
時也の気持ちを考えて様子を伺っているうちに、時也の気持ちよりも自分の想いを優先した三浦に先を越されてしまったらしい。
それでも時也が三浦を選んだのなら仕方ないと諦めたはずの想いだったけれど、今度は諦める気はない。ただ、すぐに連絡をできなかったのはやっぱり〈付け込みたくない〉という思いからだった。
以前、少しだけ話してくれた内容から家族と仲が悪いわけでもないのに自分から壁を作っている事は気付いていた。そのせいか、親しい間柄になると相手に依存に近い関わり方をするようになってしまうのは三浦の前に付き合っていた相手の影響なのか、思うように接することができない家族の代わりを無意識に求めているのか。
学生時代も時也を気にかけ、ナイト気取りだった俺だけど、それに気付いてからは距離の取り方を気を付けた。誰かに弄られても必要以上に庇うことはせず、度を越していると思った時だけ助け舟を出す。俺のことを信頼してくれればそれで満足だった。
俺が〈付け込みたくない〉と自分の頑なな気持ちを貫いている間に誰かに奪われたら、そう思わないでも無いけれど、そもそも自分の想いを伝えたことのない相手に対して〈奪われた〉という表現はおかしいだろうと自問自答する。それこそ、先輩にこんな気持ちを知られたら〈ごちゃごちゃ言ってないでさっさと時也と付き合ってしまえ〉と発破を掛けられるのだろうけど…。
あの時も、時也から訳ありな様子のメッセージがグループ当てに来た時にも何かあったのだと思い個別に〈大丈夫?〉とメッセージを送ってみた。
何かあれば話してくれるかもしれない、少しだけ期待してのことだったけれど、返ってきたのは〈大丈夫〉と言う意味のスタンプだけだった。
きっと理由を話したくないのだろう。グループの方で心配した何人かが〈何かあった?〉と聞いてもはぐらかすような返信しかないのがその証拠だ。
電話をしてみようか、そう思ったものの拒絶されることが怖くてそれもできない。学生の頃に少しだけ仲良くしていただけの間柄で、対応を間違えて敬遠されてしまったらそれで終わってしまうような仲でしかないのだから。
俺の想いは先輩や三浦の友人の様に気付いている人もいたけれど、多くの人達の目には〈頼りない友人を気にして世話を焼いている〉様に見えていたのだろう。だから、時也にだって気持ちが通じなくて当たり前だ。
時也を初めて見かけたのはある講義で一緒になった時だった。
興味深いけれど教授に癖があり敬遠されがちな講義はそれでもそれなりに人が集まるものだったけれど、内容の良さと教授の人間性がそれに比例するわけではない。と言っても教授が性格が悪いとかではなく、気に入れられてしまうと必要以上に声をかけられるため敬遠されるのだ。
言ってみれば学者馬鹿。
授業に興味はあっても教授には興味が無いどころか、あまりお近づきになりたく無いため席も遠い場所から埋まっていくような講義。それなのにいつも前の方に座る時也は目に付く存在だった。
その日は少しばかり教授の機嫌が悪く、授業の始まりから苛々しているのが丸わかりだったせいで前の方に座る生徒の間にも緊張感が漂っていた。
それがまた気に入らなかったのか、講義を始めると同時にした質問はまだ習っていない、本来ならばその時間に教えられるはずの内容だった。
まだ習っていない内容に教授の納得できるような答えを出す事は不可能だ。
当てられたやつは災難だな、なんて思いながら様子を伺っていたのに当てられた時也は涼しい顔をして答えてしまったのだ。
予習とまではいかないものの、何となくテキストを読んであったため何となくは理解していたけれど、このまま先に進まれては困ったことになる。
教授は時也の答えに満足したようで講義を進めようとするため仕方なく挙手して発言の許可を取る。機嫌が良くなった訳では無いため嫌な顔で発言を許可されたものの、時也が答えた内容は今日習うべき内容であることを伝えると驚いた顔で自分の持っていた資料を確認し、その内容に気付いたのか時也の方を向く。
「どうやらまだ、教えていない内容だったようですが…」
その言葉に緊張が走るものの、誰もどうする事もできず時也の動向を見守る。
「えっと…、先生の講義が興味深くて先が気になってテキストも何度も読んでて…。だから先生の授業がちゃんと理解できるように予習してて…」
しどろもどろになって答える時也だったけれど、教授はその答えが満更でもなかったようで少し機嫌が良くなる。
「それはそれは、良い心構えだと思いますよ。他の皆さんも見習うように、と言いたいところですが割と理解してる方が多いようでしたね」
言いながら俺の顔だけでなく何人かの顔を確認する。声に出さないだけで同じようなリアクションを取っていたのだろう。
「今年は楽しくなりそうです」
自分の間違えを認めつつ、どう収めていいのの考えあぐねていたのだろうけれど、時也の意図せず教授を持ち上げるような言葉に気を良くしたのだろう。そして、教授の間違いに気付いた学生がそれなりの人数いたことにも気を良くしたようだ。
「それでは、あらためて講義を始めます」
そう言って始まった講義はやはり興味深いものだったけれど、それ以上に時也に興味を持ち講義の後で声をかけたのがファーストコンタクト。
この時はまだ時也のことを好きになるなんて、そんな未来は予測していなかったんだ。
痺れを切らして連絡してしまった。
時也と食事に行く約束をしたのは体感的にはずいぶん前なのだけどよくよく考えれば1月と少しくらいだろうか?
すぐに連絡が来ると思い待っていたのに電話どころか、メッセージのひとつも無いため催促するようにして送ってしまったメッセージ。
折り返しで来たメッセージは〈何の連絡?〉と意を決して送った俺をガックリとさせるものだった。
忙しいのかと、余裕が無いのかとメッセージを送るのを我慢していた自分が馬鹿みたいに思えて取り敢えず電話をかけてみる。メッセージでやり取りするよりもさっさと約束を取り付けたほうが良さそうだ。
『どうしたの?』
聞こえてきた第一声に思わずため息を吐いてしまう。俺の我慢は何だったのか…。
「飲もうって約束したよね?」
責めるような声色にならないように気をつけて返事を返す。自分のことに関しては鈍感なくせに人の顔色の変化には敏感な時也だから、少しでも不機嫌なそぶりを見せたら萎縮してしまうかもしれない。
『いつ?』
「モールで会った時」
そこまで言ってやっと気付いたのか、電話の向こうで〈あっ、〉と小さな声が聞こえる。本気で忘れていたのだろう。
『ごめん、色々あって忘れてた』
「色々?」
小さな声でゴニョゴニョと言い訳するように言うせいで何かあったのかと心配して声が硬くなってしまったのは自分でも気付いていた。もしかして三浦から何か連絡が来たのだろうか。
『うん。あの次の日に社長とゆっくり話す機会があって、色々と考えさせられることが多くてそのことばかり考えてたから…』
そこで言葉が止まったけれど、俺が懸念していたような内容ではなくて少しだけホッとする。だけど、俺との会話を忘れるほどの話とはどんな話なのかが気になってしまう。
付き合ってもいない、そもそも卒業してからほとんど顔を合わせていない相手に対して少しばかり過剰ではないか、と我ながら呆れるものの詮索したくて仕方がない。
「会社で何かあった?」
『仕事の事じゃなくて…人間関係?
世の中の渡りかた?』
「なに、それ」
それでも時也の声は柔らかくて、心配するような内容では無さそうだと安堵する。楽しそうに話す様子からして良い話だったのだろう。感情が声にすぐに出てしまうところは学生時代のまま変わっていないのだろうか?それとも、相手が俺だからだろうか?
後者ならば嬉しいのにな、と思いながら会話を続けるけれど、その声色に釣られて自分も同じように声色が変わっているだなんて自分では全く気付いていなかった。それを指摘されるのはもう少し後なのだけど、どうやら先輩はだいぶ前、それこそ学生時代からそうだと気付いていたらしい。女の勘は恐ろしい。
だけど、それを聞けば事ある毎に、時也に何か変化がある度に俺に連絡が来るのも納得がいった。
〈嬉しい報告が聞きたい〉と言われたのはまだ暑い9月頃。あれから少し時間が経ってしまったけれど、良い報告をすることができるのは何時になるのだろう。
「時也にとって楽しい話だった?」
その声色の理由を知りたくて少し詰めてみるけれど、返ってきた答えは予想を裏切るものだった。
『そうだね。
今まで自分がどれだけ目先のことに、自分の周りの狭い範囲にだけに囚われてたのか気付かされた』
「そうなんだ。
じゃあ、その話を詳しく聞くためにも時間作ってもらおうかな?」
予想とは違う答えだったけれど何だか前向きな答えにこちらの緊張も解れる。
改めて予定を確認すると、何も予定は無いからいつでもいいとサラリと答えられ、改めて色々なことを考え過ぎていて自分が情けなくなる。
「予定がないからもっと早く連絡すれば良かった」
こんな事なら遠慮するんじゃなかった、とついつい愚痴が出る。時也のことになるとつい考え過ぎる自分を何とかしなければ先が思いやられる。
『ごめん』
「別に謝らなくていいよ。
色々聞きたいこととか、話したいこともあるから楽しみにしてる」
それだけ告げて通話を終了する。
取り敢えず金曜日に時也の住む町の駅で待ち合わせをしただけでも上出来だろう。
積もる話は沢山ある。
聞きたいこと、話したいこと、俺の気持ち、時也の気持ち。
三浦のことは話したほうがいいのだろうか?
あの日、時也からグループメッセージがあった時に念のためにと三浦とも時也とも関わりのある友人、三浦の良心とも言える相手に時也のメッセージを伝えておいた。こちらのグループ以外で時也の話を聞き出そうとするのならこの友人しかいないだろうと予測してのことだ。
念のためと思っての事だったけれど、何の音沙汰もなかったから杞憂だったのかと思っていたけれど、先輩と話したあの日の数日後にその友人から電話が入り、三浦の話を聞いた。
時也が居なくなったとかなり落ち込んでいたこと。
居なくなったことに気付いた時には連絡手段は残っていたのに、自分の部屋に戻るまでのわずかな時間にそれらが全て断たれた事。
急いで俺に連絡をした時に告げられた言葉とその時の態度。
そして、その時に俺が告げた言葉。
「あいつ、時也と付き合ってるのバレてないと思ってたみたいだよ?」
そして話してくれたその時の様子。
かなり反省していると、本当に大切な相手は時也だとやっと気付いたようだと言われたけれど、正直それがどうしたとしか思わなかった。
時也から直接聞かされることはとうとう無かったけれど、この友人から「一也と時也、付き合うみたいだけどお前それで良いの?」と言われた時には〈やられた〉と悔しい思いをした。
時也の気持ちを考えて様子を伺っているうちに、時也の気持ちよりも自分の想いを優先した三浦に先を越されてしまったらしい。
それでも時也が三浦を選んだのなら仕方ないと諦めたはずの想いだったけれど、今度は諦める気はない。ただ、すぐに連絡をできなかったのはやっぱり〈付け込みたくない〉という思いからだった。
以前、少しだけ話してくれた内容から家族と仲が悪いわけでもないのに自分から壁を作っている事は気付いていた。そのせいか、親しい間柄になると相手に依存に近い関わり方をするようになってしまうのは三浦の前に付き合っていた相手の影響なのか、思うように接することができない家族の代わりを無意識に求めているのか。
学生時代も時也を気にかけ、ナイト気取りだった俺だけど、それに気付いてからは距離の取り方を気を付けた。誰かに弄られても必要以上に庇うことはせず、度を越していると思った時だけ助け舟を出す。俺のことを信頼してくれればそれで満足だった。
俺が〈付け込みたくない〉と自分の頑なな気持ちを貫いている間に誰かに奪われたら、そう思わないでも無いけれど、そもそも自分の想いを伝えたことのない相手に対して〈奪われた〉という表現はおかしいだろうと自問自答する。それこそ、先輩にこんな気持ちを知られたら〈ごちゃごちゃ言ってないでさっさと時也と付き合ってしまえ〉と発破を掛けられるのだろうけど…。
あの時も、時也から訳ありな様子のメッセージがグループ当てに来た時にも何かあったのだと思い個別に〈大丈夫?〉とメッセージを送ってみた。
何かあれば話してくれるかもしれない、少しだけ期待してのことだったけれど、返ってきたのは〈大丈夫〉と言う意味のスタンプだけだった。
きっと理由を話したくないのだろう。グループの方で心配した何人かが〈何かあった?〉と聞いてもはぐらかすような返信しかないのがその証拠だ。
電話をしてみようか、そう思ったものの拒絶されることが怖くてそれもできない。学生の頃に少しだけ仲良くしていただけの間柄で、対応を間違えて敬遠されてしまったらそれで終わってしまうような仲でしかないのだから。
俺の想いは先輩や三浦の友人の様に気付いている人もいたけれど、多くの人達の目には〈頼りない友人を気にして世話を焼いている〉様に見えていたのだろう。だから、時也にだって気持ちが通じなくて当たり前だ。
時也を初めて見かけたのはある講義で一緒になった時だった。
興味深いけれど教授に癖があり敬遠されがちな講義はそれでもそれなりに人が集まるものだったけれど、内容の良さと教授の人間性がそれに比例するわけではない。と言っても教授が性格が悪いとかではなく、気に入れられてしまうと必要以上に声をかけられるため敬遠されるのだ。
言ってみれば学者馬鹿。
授業に興味はあっても教授には興味が無いどころか、あまりお近づきになりたく無いため席も遠い場所から埋まっていくような講義。それなのにいつも前の方に座る時也は目に付く存在だった。
その日は少しばかり教授の機嫌が悪く、授業の始まりから苛々しているのが丸わかりだったせいで前の方に座る生徒の間にも緊張感が漂っていた。
それがまた気に入らなかったのか、講義を始めると同時にした質問はまだ習っていない、本来ならばその時間に教えられるはずの内容だった。
まだ習っていない内容に教授の納得できるような答えを出す事は不可能だ。
当てられたやつは災難だな、なんて思いながら様子を伺っていたのに当てられた時也は涼しい顔をして答えてしまったのだ。
予習とまではいかないものの、何となくテキストを読んであったため何となくは理解していたけれど、このまま先に進まれては困ったことになる。
教授は時也の答えに満足したようで講義を進めようとするため仕方なく挙手して発言の許可を取る。機嫌が良くなった訳では無いため嫌な顔で発言を許可されたものの、時也が答えた内容は今日習うべき内容であることを伝えると驚いた顔で自分の持っていた資料を確認し、その内容に気付いたのか時也の方を向く。
「どうやらまだ、教えていない内容だったようですが…」
その言葉に緊張が走るものの、誰もどうする事もできず時也の動向を見守る。
「えっと…、先生の講義が興味深くて先が気になってテキストも何度も読んでて…。だから先生の授業がちゃんと理解できるように予習してて…」
しどろもどろになって答える時也だったけれど、教授はその答えが満更でもなかったようで少し機嫌が良くなる。
「それはそれは、良い心構えだと思いますよ。他の皆さんも見習うように、と言いたいところですが割と理解してる方が多いようでしたね」
言いながら俺の顔だけでなく何人かの顔を確認する。声に出さないだけで同じようなリアクションを取っていたのだろう。
「今年は楽しくなりそうです」
自分の間違えを認めつつ、どう収めていいのの考えあぐねていたのだろうけれど、時也の意図せず教授を持ち上げるような言葉に気を良くしたのだろう。そして、教授の間違いに気付いた学生がそれなりの人数いたことにも気を良くしたようだ。
「それでは、あらためて講義を始めます」
そう言って始まった講義はやはり興味深いものだったけれど、それ以上に時也に興味を持ち講義の後で声をかけたのがファーストコンタクト。
この時はまだ時也のことを好きになるなんて、そんな未来は予測していなかったんだ。
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