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that day
紗凪
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「好きだったんだ、大輝のこと。
彼女の存在を知って、傷付くくらいに好きだった」
言えなかった気持ち。
言ってはいけないと思って押さえ込んでいた気持ち。
自分の想いを改めて口にしたせいか、顔に熱が集まるのを自覚する。きっとボクの顔は赤くなっているだろう。
もしも今日が最後の日なら、それならせめて好きな人と心を通わせたい。できることなら心を重ね、身体も重ねたいと思ってしまう。
最後になるとしたら綺麗事なんて言ってられない。
自分の想いを告げ、大輝の気持ちを知り、それなのに気持ちを抑えるなんて馬鹿げてる。
貴哉だって姉を選んだのだし姉だって貴哉を選んだのだから、貴哉が去り、パートナーがいない状態のボクと、彼女が去り、パートナーがいない状態の大輝が想いを遂げても誰かに迷惑をかけることはないのだから。
「オレだって、あの人と付き合うって言われた時に同性でもいいなら身代わりを見つける必要はなかったって後悔した」
そんな最低なことを言った大輝はボクの表情の変化に気付いたのだろう。
「あ、彼女はそのこと知ってたし、そのことで別れたわけじゃないから」
そう言うと彼女が出て行った時のやり取りを教えてくれる。
「彼女、紗凪に会った時にオレが紗凪のこと好きだって気付いたって言ってたよ。まあ、同性だし仕方ないよねって、それで自分を選んだ理由が分かったって」
「理由?」
「彼女を選んだの、紗凪に似てたからなんだ」
さらに最低なことを言った大輝に呆れながらも思い出したのは貴哉のこと。
彼女にボクを重ねた大輝と、ボクに姉を重ねた貴哉。
貴哉が本当は姉を想い続けていたことを思い知らされて傷付いたボクだったけれど、大輝がボクを忘れるためにボクとよく似た彼女を選んだという言葉はボクを喜ばせる。
そして、人の感情なんて所詮自分本位なモノなのだと喜ぶ自分に呆れてしまう。
「彼女、怒ってなかった?」
「全然。
怒るどころかその方が気が楽だって。
彼女は彼女で忘れられない人がいたから都合が良いって」
「でも…付き合ってたんだよね?」
「付き合ってたよ、結婚前提で。
たぶん、こんな噂が無ければそのまま、ね」
その言葉に傷付きそうになるけれど、あの噂が無ければ貴哉は姉の元に行かなかったはずだから、ボクと貴哉の関係も続いていたのだと自分に言い聞かせる。
ボクは自分だけが傷付いたと思っていたけれど、大輝だってボクの行動や言動で傷付くことだってあったのだろう。
そう考えると姉も、貴哉もそれぞれに傷付き、傷付けあっていたということだろうか。
ただ、貴哉が傷付くのは理解できるけれど、姉が傷付いたとは思えなかった。
「紗凪だってあの人がお姉さんのところに行かなければ、あのまま続いていたんじゃない?」
考え込んだボクに向けられた言葉に「そうだね、」と答え、彼女のことをもう一度思い出す。
「貴哉との関係が続いてたら大輝が彼女と別れたって言われても、だったらボクがって言う勇気はなかったかな。
大輝がボクのことそんなふうに思ってたことに全く気付いてなかったし。
きっと新しい彼女をいつ紹介されるのか怯えながら、何も無かったように過ごしてたと思うよ」
「うん、紗凪ならそうするだろうなって思ってた。だから、期待したくないから別れたことも言わなかったし。
あの人と別れて自分を選んで欲しいって言いたかったけど、紗凪の幸せを壊してまで自分が幸せになりたいとは思えなかったしね」
似た状況であっても違う選択があることに気付く。
パートナーを尊重してひとりを選んだ大輝と、パートナーを尊重せずひとりにさせることを選んだ貴哉。
彼女の状況を考えるとパートナーのいる相手に未練を告げにいくのはどうかと思わないこともないけれど、彼女だってこの噂が無ければそんな非常識なことはしなかっただろう。
それに、大輝の口ぶりでは玉砕して、その想いを消化して次に行きたいと言っているのだから口では強いことを言っていても幸せそうなその姿を見て満足するだけなのかもしれない。
その先の相手の選択肢に大輝が入ってちないことが不思議ではあるけれど、彼女は彼女でけじめを付け、次に進むことを選んだのだろう。
玉砕して淋しいと大輝の元に戻ってくることだってできたけれど、逃げ場所を確保したまま次へ進むことはできないと思ったのかもしれない。
姉が噂を利用して貴哉を自分の元に呼び寄せたのとは少し違うと思うのは姉にしても、貴哉にしても逃げ場所を確保しているから。
義兄の言葉を信じるとすれば姉は貴哉とボクの関係を知っていて貴哉を頼ったことになる。姉と彼女との違いはそのことを告げずに良い妻であり、良い母であり、良い嫁であるふりをして、自分の居場所を無くさないままに貴哉を呼んだことだろう。
貴哉はボクに姉のことを告げはしたけれど、部屋は残していくからここにいていいと優しいことを言いながら、終わらなかった時のために保険としてボクをキープしておいただけのこと。
世界が終わらずに日常に戻った時には平気な顔であの部屋に戻り、平気な顔をしてボクに姉を重ね、何も無かったように元の生活に戻るつもりなのだろう。
全てをリセットしてけじめを付けに行った彼女と、ボクの幸せを願ってひとりで終わることを選んだ大輝。
ボクのことを知っているのに貴哉を呼び寄せ義兄に嘘を吐いて自分の居場所を確保した姉と、姉の行動を知っているくせに見て見ぬ振りをしておいて、その鬱憤をボクで晴らし、終わらなかった時のために自分を蚊帳の外に置いた義兄。
ボクがひとりになることを知っていて姉を選び、それなのに保険をかけておいた貴哉と、大輝たちはうまく行っていると思っていたのにふたりの邪魔をして自分の居場所を確保しようとしたボク。
誰も彼もが自分勝手で、誰も彼もが自分本位で。
噂が無ければ知ることのなかった本性に驚き、自分の本性に羞恥を覚える。
自分だけが淋しいと、自分だけが悲しいと酔っていただけで、ボクがした行動だって貴哉や姉を責められるモノではない。
義兄の言葉で傷付いたと悲嘆に暮れたけれど、彼女と大輝が上手くいっていたらボクの行動は義兄の行動以上に最低な行為だ。
壊れた関係に追い打ちをかけるようなことを言った義兄よりも、上手くいっている関係にヒビを入れようとしたボクの方が罪深いかもしれない。
だけど、それがきっとボクの本心。
姉に連絡をして貴哉とボクの関係を告げることだってできた。
姉ではなくてボクを選んだのだと姉を傷付けることだってできた。
貴哉はボクとの関係を告げていないと言ったけれど、ボクから告げることだってできたのにそれをしなかったのは、貴哉との関係を家族に認知され、疎まれたくなかったから。
もしも貴哉との関係が両親や祖父母に知られてしまえばあの家にボクの居場所は完全になくなるだろう。
だから、姉を傷付けることを諦めた。
ただ、色々と諦めてばかりだったけれど、大輝のことは諦めたくないと思うし、家族がマイノリティを受け入れられないのならそれも仕方ないと思えるくらいに大輝を必要だと思っている自分に気付く。
終わっても終わらなくても大輝のそばにいたい。
大輝はボクの幸せを望んで何も言わなかったのに、ボクは大輝の幸せを望むことができずに邪魔をするつもりだった。
ボクだって貴哉のことを、姉のことを責める自覚はないけれど、それでも大輝との幸せを望み、口を開く。
「大輝はボクのこと考えてくれたのに、ボクは大輝の邪魔しようとしてんだよね。
でも、そんなふうに言ってくれたのが嬉しいしなんて、図々しいね。
ごめん」
このごめんはきっと、『諦められなくてごめん』だし、『幸せを願ってあげられなくてごめん』。
だけど、諦められなかったのは大輝も同じだと気付いたから。
だから、素直な気持ちを告げる。
「だけど、終わっても終わらなくても、ずっと大輝といたい………かも」
言ったそばから不安になり逃げ場を作ったボクに、真剣に話を聞いてきた大輝は「かもって、かもなの?」と笑う。
そして、「かもはいらないんじゃないの?」とその笑みに甘さを含ませた。
彼女の存在を知って、傷付くくらいに好きだった」
言えなかった気持ち。
言ってはいけないと思って押さえ込んでいた気持ち。
自分の想いを改めて口にしたせいか、顔に熱が集まるのを自覚する。きっとボクの顔は赤くなっているだろう。
もしも今日が最後の日なら、それならせめて好きな人と心を通わせたい。できることなら心を重ね、身体も重ねたいと思ってしまう。
最後になるとしたら綺麗事なんて言ってられない。
自分の想いを告げ、大輝の気持ちを知り、それなのに気持ちを抑えるなんて馬鹿げてる。
貴哉だって姉を選んだのだし姉だって貴哉を選んだのだから、貴哉が去り、パートナーがいない状態のボクと、彼女が去り、パートナーがいない状態の大輝が想いを遂げても誰かに迷惑をかけることはないのだから。
「オレだって、あの人と付き合うって言われた時に同性でもいいなら身代わりを見つける必要はなかったって後悔した」
そんな最低なことを言った大輝はボクの表情の変化に気付いたのだろう。
「あ、彼女はそのこと知ってたし、そのことで別れたわけじゃないから」
そう言うと彼女が出て行った時のやり取りを教えてくれる。
「彼女、紗凪に会った時にオレが紗凪のこと好きだって気付いたって言ってたよ。まあ、同性だし仕方ないよねって、それで自分を選んだ理由が分かったって」
「理由?」
「彼女を選んだの、紗凪に似てたからなんだ」
さらに最低なことを言った大輝に呆れながらも思い出したのは貴哉のこと。
彼女にボクを重ねた大輝と、ボクに姉を重ねた貴哉。
貴哉が本当は姉を想い続けていたことを思い知らされて傷付いたボクだったけれど、大輝がボクを忘れるためにボクとよく似た彼女を選んだという言葉はボクを喜ばせる。
そして、人の感情なんて所詮自分本位なモノなのだと喜ぶ自分に呆れてしまう。
「彼女、怒ってなかった?」
「全然。
怒るどころかその方が気が楽だって。
彼女は彼女で忘れられない人がいたから都合が良いって」
「でも…付き合ってたんだよね?」
「付き合ってたよ、結婚前提で。
たぶん、こんな噂が無ければそのまま、ね」
その言葉に傷付きそうになるけれど、あの噂が無ければ貴哉は姉の元に行かなかったはずだから、ボクと貴哉の関係も続いていたのだと自分に言い聞かせる。
ボクは自分だけが傷付いたと思っていたけれど、大輝だってボクの行動や言動で傷付くことだってあったのだろう。
そう考えると姉も、貴哉もそれぞれに傷付き、傷付けあっていたということだろうか。
ただ、貴哉が傷付くのは理解できるけれど、姉が傷付いたとは思えなかった。
「紗凪だってあの人がお姉さんのところに行かなければ、あのまま続いていたんじゃない?」
考え込んだボクに向けられた言葉に「そうだね、」と答え、彼女のことをもう一度思い出す。
「貴哉との関係が続いてたら大輝が彼女と別れたって言われても、だったらボクがって言う勇気はなかったかな。
大輝がボクのことそんなふうに思ってたことに全く気付いてなかったし。
きっと新しい彼女をいつ紹介されるのか怯えながら、何も無かったように過ごしてたと思うよ」
「うん、紗凪ならそうするだろうなって思ってた。だから、期待したくないから別れたことも言わなかったし。
あの人と別れて自分を選んで欲しいって言いたかったけど、紗凪の幸せを壊してまで自分が幸せになりたいとは思えなかったしね」
似た状況であっても違う選択があることに気付く。
パートナーを尊重してひとりを選んだ大輝と、パートナーを尊重せずひとりにさせることを選んだ貴哉。
彼女の状況を考えるとパートナーのいる相手に未練を告げにいくのはどうかと思わないこともないけれど、彼女だってこの噂が無ければそんな非常識なことはしなかっただろう。
それに、大輝の口ぶりでは玉砕して、その想いを消化して次に行きたいと言っているのだから口では強いことを言っていても幸せそうなその姿を見て満足するだけなのかもしれない。
その先の相手の選択肢に大輝が入ってちないことが不思議ではあるけれど、彼女は彼女でけじめを付け、次に進むことを選んだのだろう。
玉砕して淋しいと大輝の元に戻ってくることだってできたけれど、逃げ場所を確保したまま次へ進むことはできないと思ったのかもしれない。
姉が噂を利用して貴哉を自分の元に呼び寄せたのとは少し違うと思うのは姉にしても、貴哉にしても逃げ場所を確保しているから。
義兄の言葉を信じるとすれば姉は貴哉とボクの関係を知っていて貴哉を頼ったことになる。姉と彼女との違いはそのことを告げずに良い妻であり、良い母であり、良い嫁であるふりをして、自分の居場所を無くさないままに貴哉を呼んだことだろう。
貴哉はボクに姉のことを告げはしたけれど、部屋は残していくからここにいていいと優しいことを言いながら、終わらなかった時のために保険としてボクをキープしておいただけのこと。
世界が終わらずに日常に戻った時には平気な顔であの部屋に戻り、平気な顔をしてボクに姉を重ね、何も無かったように元の生活に戻るつもりなのだろう。
全てをリセットしてけじめを付けに行った彼女と、ボクの幸せを願ってひとりで終わることを選んだ大輝。
ボクのことを知っているのに貴哉を呼び寄せ義兄に嘘を吐いて自分の居場所を確保した姉と、姉の行動を知っているくせに見て見ぬ振りをしておいて、その鬱憤をボクで晴らし、終わらなかった時のために自分を蚊帳の外に置いた義兄。
ボクがひとりになることを知っていて姉を選び、それなのに保険をかけておいた貴哉と、大輝たちはうまく行っていると思っていたのにふたりの邪魔をして自分の居場所を確保しようとしたボク。
誰も彼もが自分勝手で、誰も彼もが自分本位で。
噂が無ければ知ることのなかった本性に驚き、自分の本性に羞恥を覚える。
自分だけが淋しいと、自分だけが悲しいと酔っていただけで、ボクがした行動だって貴哉や姉を責められるモノではない。
義兄の言葉で傷付いたと悲嘆に暮れたけれど、彼女と大輝が上手くいっていたらボクの行動は義兄の行動以上に最低な行為だ。
壊れた関係に追い打ちをかけるようなことを言った義兄よりも、上手くいっている関係にヒビを入れようとしたボクの方が罪深いかもしれない。
だけど、それがきっとボクの本心。
姉に連絡をして貴哉とボクの関係を告げることだってできた。
姉ではなくてボクを選んだのだと姉を傷付けることだってできた。
貴哉はボクとの関係を告げていないと言ったけれど、ボクから告げることだってできたのにそれをしなかったのは、貴哉との関係を家族に認知され、疎まれたくなかったから。
もしも貴哉との関係が両親や祖父母に知られてしまえばあの家にボクの居場所は完全になくなるだろう。
だから、姉を傷付けることを諦めた。
ただ、色々と諦めてばかりだったけれど、大輝のことは諦めたくないと思うし、家族がマイノリティを受け入れられないのならそれも仕方ないと思えるくらいに大輝を必要だと思っている自分に気付く。
終わっても終わらなくても大輝のそばにいたい。
大輝はボクの幸せを望んで何も言わなかったのに、ボクは大輝の幸せを望むことができずに邪魔をするつもりだった。
ボクだって貴哉のことを、姉のことを責める自覚はないけれど、それでも大輝との幸せを望み、口を開く。
「大輝はボクのこと考えてくれたのに、ボクは大輝の邪魔しようとしてんだよね。
でも、そんなふうに言ってくれたのが嬉しいしなんて、図々しいね。
ごめん」
このごめんはきっと、『諦められなくてごめん』だし、『幸せを願ってあげられなくてごめん』。
だけど、諦められなかったのは大輝も同じだと気付いたから。
だから、素直な気持ちを告げる。
「だけど、終わっても終わらなくても、ずっと大輝といたい………かも」
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