世界が終わる、次の日に。

佳乃

文字の大きさ
87 / 128
that day

大輝

しおりを挟む
「だけど、終わっても終わらなくても、ずっと大輝といたい………かも」

 付き合いがそれなりに長いせいで、紗凪がグダグダと考え込んでいることには気付いていた。
 自分の気持ちをどこまで話すべきか、周りの人間がどんな気持ちで動いていたのか。
 オレの気持ちを、自分の気持ちを。
 考えて考えて自分の気持ちを告げたものの、オレがそれを受け入れなかった時のことを考えて最後に逃げ道を作ったのだろう。

「かもって、かもなの?」

 一生懸命言葉を選ぶ紗凪にこちらも真摯に向き合っていたけれど、その言葉についつい笑みがこぼれる。
 これだけオレの気持ちを告げたのだからもっと自信を持てばいいのに、それなのに逃げ道を作る紗凪が可愛くて、それ以上にオレを信じてくれないことが憎らしくて「かもはいらないんじゃないの?」と続けたけれど、オレを信じきっている紗凪はオレが何を考えているかなんてまるで分かってないだろう。

「オレと一緒にいればいいんだよ。
 ずっとここにいればオレが守ってあげるから」

「守って欲しいわけじゃ、「守るから」」

 本人が守って欲しいわけじゃないと言っているのに【守る】と言うのは傲慢かもしれない。
 だけど姉に傷付けられ、家族の中での居場所を見失い、やっと見つけた居場所をオレに無くされ、逃げ込んだ先で再び姉に傷付けられ捨てられた。
 捨てられただけでも傷は深いのに、やっと落ち着いたと思った時に義兄に抉られた傷を癒すためにはオレが守るしかないとその気持ちを伝える。

「守るから。
 だから、ずっとオレのそばにいて」

 紗凪の目を見て一言一言ゆっくりとそう告げる。そして、「もっとちゃんと話そうか」とソファーに誘う。
 テーブルを挟んだままで話すことは可能だけれど、距離を縮め、関係を進めるためにはテーブルは障害物でしかない。
 オレの意図に気付いたのか少しだけ戸惑いを見せた紗凪だったけれど、それでも誘導されるままにオレの隣に座る。肩が触れそうで触れないその距離は、紗凪の期待の表れだと思っていいのだろうか。

「話って?」

「そんなの、口実に決まってるし」

 そんなの紗凪だって分かっているのだろう。そっと肩を抱き寄せれば様子を伺うように顔を上げるため、当たり前のように唇を重ねれば抵抗することなく受け入れてくれる。

 紗凪もオレも、もう我慢する必要がないのだから躊躇うことは何もない。

 角度を変えながら何度も唇を重ねるけれど、もっと紗凪を感じたくて膝に乗るように促す。隣に座る紗凪の足に手をかけて誘導すると跨るように座る紗凪が可愛くて仕方がないと思ってしまう。

 オレに比べれば小さくて華奢だった紗凪だけど、貴哉とのことが影響したのか以前に比べ一段と華奢になったように思える。貴哉から餌付けされるように食事を与えられ、一緒に住んでいた頃よりも健康的に見えたけれど、今は病的とまでは言わないけれど、不健康に見えてしまう。
 ただでさえ貴哉と姉の仕打ちに傷付いていたのに義兄に追い詰められ、精神的なダメージを与え続けられているのだから仕方がない。

 だから、守らないと。

 甘やかして甘やかして、オレがいないと生きていけないと思えばオレのそばから離れるなんて考えられなくなるだろう。

 紗凪がオレに跨ったことで密着した身体が熱を持ち始める。

 唇を喰み、舌でなぞり、誘うように開いた口に舌をねじ込みたい誘惑に駆られるけれど、紗凪の思惑を無視して唇に、歯列に舌を這わせる。
 それがもどかしいのか自分から伸ばしてきた舌に気を良くしてそれに応えるように舌を絡めてみた。
 舌を絡め合い、紗凪の顔の方が下にあることを利用してオレの唾液を流し込む。

 身体を密着させてオレの匂いを移し、唾液を流し込み身体の中に侵食していく。

 飲み込むことのできない唾液が口から溢れるのを見てもっともっと紗凪を汚したくて、夢中でその口内を犯し続ける。
 見ていない映画が流れていなければ、部屋中に水音が響き渡っていただろう。

 触れたいと思いながら諦めるしかなかった紗凪が腕の中にいるだけでも身体が熱を持つのに、その口内を犯していると思うとその熱を抑えることができない。

 紗凪と一緒のベッドで眠った時のままの服は緩いスウェットで、その主張が伝わるのか居心地の悪そうな様子を見せるのが可愛くて、ソレを意識するように腰を抱え込み身体を密着させる。紗凪だってその気になっているせいで、デニム越しにその熱が伝わってくる。

 腰を押し付け合い舌を絡ませ、その感触を、その匂いを貪るように味わい服の中に手を入れようと試みるといつの間にか首に回されていた手を解き、俺を押し退けようとする。

「ダメ?」
 
 唇を離し、目を合わせて聞いてみる。
 少し息が上がった紗凪は合わせた目を逸らすようにオレの胸に顔を埋め、「ここじゃ嫌だし、シャワー浴びたい」と囁くような声で告げる。

「でもオレ、こんなだよ?
 紗凪、いい匂いだし」

 そう言って腰を押し付ければ「昨日、シャワー浴びてないし、………だし」と途中から声が小さくなってしまう。

「何?」

「だから、………準備、しないと」

 恥ずかしそうにそう言った紗凪の言葉で異性との行為とは違うのだと気付き、「じゃあ一緒に、」と言ったら紗凪に叱られてしまった。

「そんなの、無理だってば。
 それに、大輝が見て引かれでもしたら立ち直れない、」

「………興奮することはあっても引かないと思うけど、でも紗凪が嫌なら今日は待ってるよ」

 シャワーを浴びている間に気が変わるのが怖いけれど、紗凪の気持ちを尊重してこのまま待つと伝えると安心した様子を見せ、「待っててね」と自分からそっと唇を重ね、逃げるように浴室へと向かった。

「なにこれ、可愛すぎるだろ、」

 紗凪からのキスに驚き、その姿を見送ってから正気に戻り思わずそう呟く。
 このままここで待つべきか、ベッドで待つべきか考えてどちらのベッドを使うべきかと悩む。どちらのベッドも大きさは変わらないけれど、よくよく考えればオレのベッドを使ったのはオレだけじゃない。
 もちろんカバー類は彼女がいなくなってから何度も洗っているけれど、洗ってあるからといっていいわけではない、と思う。

 今から新しいカバー類に変えるべきかと悩み、カバーを変えたところで同じなのではないのかと考えるけれど、紗凪の部屋の簡易的なベッドでは居心地は良くないだろう。
 
 学生の頃は彼女だって何人か変わったし、彼女だってオレが初めての彼氏というわけではなかったけれど、誰かと同じベッドを使わせたり使ったりすることを気にしたこともなかったし、気にもならなかった。
 だけど今、そんな些細なことを気にするほど紗凪には居心地よく過ごしていて欲しいと思っている自分に驚く。同棲していたと言っても彼女の都合で一定期間実家に帰ることも度々あった。だけど、この家で生活を共にしていたという事実がそうさせるのだろうか。

 新しいカバーはあっただろうかと考えて、新品のカバーは馴染みが悪いかもとまた悩む。

「難しい顔して、どうしたの?」

 いつの間にかシャワーを終えた紗凪が悩むオレにそう声をかけ不安そうな顔を見せるから、気になったことを率直に聞いてみた。

「オレの部屋でいい?」

 そう聞いたオレに驚いた顔を見せた紗凪は「ダメなの?」と困った顔を見せる。

「えっと、ベッドが、その………」

 どう伝えるべきか考えるけれど上手い言葉が見つからず言い淀んだオレに、「何考えてるのかなんとなく分かるけど、今更じゃない?」と紗凪が呆れた顔を見せ、言葉を続ける。

「彼女と一緒に選んだとか、彼女のために選んだとかだと嫌だけど…変わってないでしょ?」 

 一緒に住んでいた期間が長いのだから当然だけど互いの部屋を行き来することもあった。きっと、その頃の部屋と比べているのだろう。確かにカバー類は買い換える時も同じものを選ぶため紗凪が知っている頃と変わっていないはずだ。
 そう思うとカバー類を変えたいとも選びたいとも言わなかった彼女は、オレとの具体的な将来のプランなんて考えていなかったのかもしれない。
 
 彼女との生活を送る時に新たに揃えたものもあったけれど、彼女のために増やしたものはひとつも残っていないことに今更ながらに気付く。
 残っているのは同じ物がいくつもあっても邪魔だからと言って置いていった調理器具ぐらいのものだ。それだって拘って揃えたものではなくて必要に応じて揃えていった物で、そう言えばカレーを作る時に紗凪がいた頃に無かった調理器具を躊躇なく使っていたことを思い出し、自分の考えすぎだったのだと安心する。

「それに、大輝のベッド、安心できたから」

 恥ずかしそうにそう言った紗凪だったけれど、意を決したように「だから、大輝の部屋がいい」と言ってオレの手を引いた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

明日はきっと

ノガケ雛
BL
本編完結 11月5日から番外編更新 番に捨てられたΩが、幸せを掴んでいくお話です。 ツイノベで公開していた分です。 タイトル変更しました

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

処理中です...