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after that
紗凪 2
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大輝の言葉通り、貴哉との関係を曖昧にしたまま終わらせることもできた。
貴哉には弟のように可愛がってもらったけれど、仕事の関係がなくなると徐々に疎遠になっていったと伝え、あとは知らぬ存ぜぬを通すだけ。
そして、今回のことで《家族》なのに信じてもらえなかったことが許せないと伝え、距離を置くことを宣言して連絡を断ち、頃合いを見て絶縁状を送れば穏便にとは言えないけれど、それでも必要以上に傷付くことも傷付けることもなかったはずだ。
でも、このままボクが傷付かなかったのだと思わせたまま終わらせたくなくなってしまった。
ボクがどれだけ傷付き、どんな想いを抱えているのかを知らせたくなってしまった。
姉のせいで開いてしまった傷口を掻きむしり、その汚い傷跡を見せつけてやりたいと思ってしまった。
『何で?』
何に対しての疑問なのか、聞こえてきたのは母の声だった。
身代わりだと言ったことに対してなのか、家を出たことに対してなのか、要領を得ない言葉に苛立つけれど、「何でって、何が?」と自分でも驚くほどの冷たい声が出る。
『何がって、『貴哉が私に会いにきたの、知ってたってこと?』
母が何かを言う前に姉の言葉が重なる。
「知ってたよ。
貴哉から姉さんに会いに行くって、そのために仕事を詰めるって聞かされて、」
『どう思った?』
ボクの話を遮ったのは上擦った姉の声。
「どうって?」
『悲しかった?
悔しかった?
嫉妬した?』
確認のためか、間を開けてながら言った声は嬉しさを隠せていなかった。
ボクが悲しかったと、悔しかったと、嫉妬したと言うのを待ち望む棘を隠し持った言葉。ひとつでも肯定すればその棘はボクに絡みつき、ボクの傷跡を更に醜くするだろう。
「悲しいっていうか、独りで終わるのは嫌だとは思ったよ」
『ごめんね、ひとりにしちゃって』
「別に姉さんが謝ることじゃないよ」
『でも、紗凪のこと知ってて貴哉のこと、こっちに呼んだのよ?』
「それはまあ、姉さんらしいなって」
『私らしいって?』
「貴哉にもボクの悪口、たくさん言ってたみたいだね。
馬鹿だから家は継げないとか、家を継ぎたくないって言って自分勝手なことばかりしてるから汐勿の家は私が守るしかないとか」
少しニュアンスは違うかもしれないけれど、先に刃を向けたのは姉なのだからこっちだって容赦する気はない。
大輝は心配そうな顔をしているけれど、ボクの覚悟を悟ったのか、止めることはしなかった。
ただただ《大丈夫》とでも言うかのように、ボクの手を握ったまま成り行きを見守ってくれている。
『それ、貴哉が言ったの?』
「それ以外、誰から聞くの、こんな話。
凄いよね。
姉さんとそんな話、ボクしたことあった?」
『だって、家を出たのは事実でしょ?』
少しは動揺するかと思ったけれど、開き直りそう言うと『ちょっと黙ってて』と小さな声が聞こえる。これは母に対する言葉だったのだろう。
「だって、学生の頃から貴哉のこと連れて帰ってきてて、将来は家族になるなんて匂わされてればある程度の年になれば気付くよね、同居し続けるとどうなるかって」
『私は出てけなんて言ったことない』
「でも貴哉は家に入ってくれるとか、将来的にはこの家で暮らすとか、ボクが出てく前提で話してたでしょ?」
『別に同居だってできたし、私たちがリフォームしたみたいに紗凪の部屋作ることだってできたでしょ』
「ボクのこと目の敵にしてる姉さんと同居なんてしたいなんて思わないよね、普通に考えて。
貴哉だって優しくしてくれてたけど、それが気に入らなかったのかな、姉さんは」
『それ、どういうこと』
あの当時、家に連れてくる度にボクに勉強を教えてくれていたことに姉が不満を持っていたことに気付いたのは貴哉の話を聞いたからだった。
兄のように接してくれる貴哉に姉を重ねていた。こんなふうに姉が接してくれることを望んでいた。
貴哉がボクに優しく接してくれているうちに姉の態度が変わるかもしれないなんて、そんな淡い期待を抱いたこともあった。
だけど、姉はボクとは真逆のことを考えていたのだろう。
「貴哉がこの家に入ったらボクともっと仲良くなるのが嫌だったとか?
貴哉に勉強教えてもらった後で姉さんが教えてくれることあったの覚えてる?」
試しに聞いてみる。
ボクの勘違いだと思っていた、思うようにしていたことを掘り起こし、その悪意を再確認する。
「でも、ボクに教える時、わざと難しいやり方で教えてくれてたよね」
例えば答えは同じになるけれど、工程の違う解き方。
例えば簡潔にすることもできるのに、いくつも言葉を重ねた言い回し。
間違いではないけれど、試験の時には使うことのない解き方。
『応用でしょ?
間違えたことは教えたことなかったはずよ』
開き直ったその言葉で『貴哉の好意を当たり前みたいに受け入れるからそうなるのよ』と吐き捨てる。
母の顔は見えないけれど、その言葉を止めない時点で姉の味方をしているのと同じだ。
「姉さん、いつもそんなことしてたんじゃないの、ボク以外に対しても。
だから恨まれるんだって」
『恨まれるって、何よっ』
ボクの挑発に心当たりがあるのだろう。声から余裕が消え、ボリュームが上がる。
『だって、写真だっておかしいと思わないの?
貴哉とボクが写ってる写真なんでしょ、マンションの前ってことだよね』
それ以外の写真があるのかどうかは分からない。貴哉が《あの時》の写真を送っていた可能性だって無いとは言い切れない。
だけど義兄から聞かされた話と、母や姉の態度で《あの時》の写真ではないとその可能性を否定する。
もしも《あの時》の写真があったなら、ボクに確認しないまま《付き合って》いると認識するはずだから。
「貴哉と姉さんが付き合ってるって知ってて、ボクが姉さんの弟だって気付く人って、姉さんの友達か会社の人ぐらいしか考えられないんじゃないの?
家に送られてきたのだって、その人たちだったら知ってるでしょ」
『だからって、何で恨まれるの?』
姉のことを落ち着かせようとしているのか、『紗羅、落ち着きなさい』『紗凪、何言い出すの』と母の声が聞こえてくるけれど、それを無視して話を続ける。
「だって、そんなに何枚も何枚も写真を撮るのだって、簡単じゃないと思うよ。
毎日ふたりで出かけるわけじゃないし、決まった日にふたりで出かけてたわけじゃないからずっと見張ってたってことじゃない?
それか、興信所使ったとか。
そんな労力かけてたのに、貴哉やボクには何もコンタクトがなかったんだから、完全に姉さんに送るためだけに写真を撮ってたってことなんだよ。
たまたま貴哉とボクのこと見かけて写真を撮った。
その写真を姉さんに送った。
それだけでも意味分からないのに、何枚も何枚もだなんて、悪意しか感じないよね」
嫌々出たはずの電話だったのに、我慢しなくていいと思うと言葉が溢れ出し、楽しいわけではないけれど、高揚していく自分に気付く。
貴哉から姉の悪意を伝えられた時に自分の何が悪かったのかと落ち込んだりもしたけれど、結局は姉の問題であってボクにできることは何もなかったのだろう。
ボクの存在が気に入らなくて、ボクの存在を無いものにしたくて。
だから、汐勿の家を自分のものにするために望まれる自分を演出していたのだろう。
望まれる自分を演じるために不必要なボクを排除しただけのこと。
姉はきっと、全ての局面でそうしてきたのだろう。
だからきっと、姉に送られてきた写真は呪い返しのようなもの。
人に送った悪意が自分に返ってきただけのこと。
「姉さんのことだから、ボクにしてきたみたいに《他人》のこと、陥れてたんじゃないの。やたらとマウント取ったり。
普通、貴哉とボクが一緒にいたからって付き合ってるなんて思わないだろうし、写真だって撮らないよね」
話続けるボクに『何が言いたいのよ』と怒りを孕んだ声が聞こえてきたけれど、それに答えることなく続ける。
「だって、姉さんの知り合いでボクのこと知ってるのなんて地元の人か結婚式に出た人くらいだよね。
あそこで地元の人に偶然会うなんてことないから結婚式に出た人なのかな。
会社の人か、大学の頃の友達か、どっちか?」
思い当たる節があるのか、ボクの言葉で姉が息を呑んだような気がした。
貴哉には弟のように可愛がってもらったけれど、仕事の関係がなくなると徐々に疎遠になっていったと伝え、あとは知らぬ存ぜぬを通すだけ。
そして、今回のことで《家族》なのに信じてもらえなかったことが許せないと伝え、距離を置くことを宣言して連絡を断ち、頃合いを見て絶縁状を送れば穏便にとは言えないけれど、それでも必要以上に傷付くことも傷付けることもなかったはずだ。
でも、このままボクが傷付かなかったのだと思わせたまま終わらせたくなくなってしまった。
ボクがどれだけ傷付き、どんな想いを抱えているのかを知らせたくなってしまった。
姉のせいで開いてしまった傷口を掻きむしり、その汚い傷跡を見せつけてやりたいと思ってしまった。
『何で?』
何に対しての疑問なのか、聞こえてきたのは母の声だった。
身代わりだと言ったことに対してなのか、家を出たことに対してなのか、要領を得ない言葉に苛立つけれど、「何でって、何が?」と自分でも驚くほどの冷たい声が出る。
『何がって、『貴哉が私に会いにきたの、知ってたってこと?』
母が何かを言う前に姉の言葉が重なる。
「知ってたよ。
貴哉から姉さんに会いに行くって、そのために仕事を詰めるって聞かされて、」
『どう思った?』
ボクの話を遮ったのは上擦った姉の声。
「どうって?」
『悲しかった?
悔しかった?
嫉妬した?』
確認のためか、間を開けてながら言った声は嬉しさを隠せていなかった。
ボクが悲しかったと、悔しかったと、嫉妬したと言うのを待ち望む棘を隠し持った言葉。ひとつでも肯定すればその棘はボクに絡みつき、ボクの傷跡を更に醜くするだろう。
「悲しいっていうか、独りで終わるのは嫌だとは思ったよ」
『ごめんね、ひとりにしちゃって』
「別に姉さんが謝ることじゃないよ」
『でも、紗凪のこと知ってて貴哉のこと、こっちに呼んだのよ?』
「それはまあ、姉さんらしいなって」
『私らしいって?』
「貴哉にもボクの悪口、たくさん言ってたみたいだね。
馬鹿だから家は継げないとか、家を継ぎたくないって言って自分勝手なことばかりしてるから汐勿の家は私が守るしかないとか」
少しニュアンスは違うかもしれないけれど、先に刃を向けたのは姉なのだからこっちだって容赦する気はない。
大輝は心配そうな顔をしているけれど、ボクの覚悟を悟ったのか、止めることはしなかった。
ただただ《大丈夫》とでも言うかのように、ボクの手を握ったまま成り行きを見守ってくれている。
『それ、貴哉が言ったの?』
「それ以外、誰から聞くの、こんな話。
凄いよね。
姉さんとそんな話、ボクしたことあった?」
『だって、家を出たのは事実でしょ?』
少しは動揺するかと思ったけれど、開き直りそう言うと『ちょっと黙ってて』と小さな声が聞こえる。これは母に対する言葉だったのだろう。
「だって、学生の頃から貴哉のこと連れて帰ってきてて、将来は家族になるなんて匂わされてればある程度の年になれば気付くよね、同居し続けるとどうなるかって」
『私は出てけなんて言ったことない』
「でも貴哉は家に入ってくれるとか、将来的にはこの家で暮らすとか、ボクが出てく前提で話してたでしょ?」
『別に同居だってできたし、私たちがリフォームしたみたいに紗凪の部屋作ることだってできたでしょ』
「ボクのこと目の敵にしてる姉さんと同居なんてしたいなんて思わないよね、普通に考えて。
貴哉だって優しくしてくれてたけど、それが気に入らなかったのかな、姉さんは」
『それ、どういうこと』
あの当時、家に連れてくる度にボクに勉強を教えてくれていたことに姉が不満を持っていたことに気付いたのは貴哉の話を聞いたからだった。
兄のように接してくれる貴哉に姉を重ねていた。こんなふうに姉が接してくれることを望んでいた。
貴哉がボクに優しく接してくれているうちに姉の態度が変わるかもしれないなんて、そんな淡い期待を抱いたこともあった。
だけど、姉はボクとは真逆のことを考えていたのだろう。
「貴哉がこの家に入ったらボクともっと仲良くなるのが嫌だったとか?
貴哉に勉強教えてもらった後で姉さんが教えてくれることあったの覚えてる?」
試しに聞いてみる。
ボクの勘違いだと思っていた、思うようにしていたことを掘り起こし、その悪意を再確認する。
「でも、ボクに教える時、わざと難しいやり方で教えてくれてたよね」
例えば答えは同じになるけれど、工程の違う解き方。
例えば簡潔にすることもできるのに、いくつも言葉を重ねた言い回し。
間違いではないけれど、試験の時には使うことのない解き方。
『応用でしょ?
間違えたことは教えたことなかったはずよ』
開き直ったその言葉で『貴哉の好意を当たり前みたいに受け入れるからそうなるのよ』と吐き捨てる。
母の顔は見えないけれど、その言葉を止めない時点で姉の味方をしているのと同じだ。
「姉さん、いつもそんなことしてたんじゃないの、ボク以外に対しても。
だから恨まれるんだって」
『恨まれるって、何よっ』
ボクの挑発に心当たりがあるのだろう。声から余裕が消え、ボリュームが上がる。
『だって、写真だっておかしいと思わないの?
貴哉とボクが写ってる写真なんでしょ、マンションの前ってことだよね』
それ以外の写真があるのかどうかは分からない。貴哉が《あの時》の写真を送っていた可能性だって無いとは言い切れない。
だけど義兄から聞かされた話と、母や姉の態度で《あの時》の写真ではないとその可能性を否定する。
もしも《あの時》の写真があったなら、ボクに確認しないまま《付き合って》いると認識するはずだから。
「貴哉と姉さんが付き合ってるって知ってて、ボクが姉さんの弟だって気付く人って、姉さんの友達か会社の人ぐらいしか考えられないんじゃないの?
家に送られてきたのだって、その人たちだったら知ってるでしょ」
『だからって、何で恨まれるの?』
姉のことを落ち着かせようとしているのか、『紗羅、落ち着きなさい』『紗凪、何言い出すの』と母の声が聞こえてくるけれど、それを無視して話を続ける。
「だって、そんなに何枚も何枚も写真を撮るのだって、簡単じゃないと思うよ。
毎日ふたりで出かけるわけじゃないし、決まった日にふたりで出かけてたわけじゃないからずっと見張ってたってことじゃない?
それか、興信所使ったとか。
そんな労力かけてたのに、貴哉やボクには何もコンタクトがなかったんだから、完全に姉さんに送るためだけに写真を撮ってたってことなんだよ。
たまたま貴哉とボクのこと見かけて写真を撮った。
その写真を姉さんに送った。
それだけでも意味分からないのに、何枚も何枚もだなんて、悪意しか感じないよね」
嫌々出たはずの電話だったのに、我慢しなくていいと思うと言葉が溢れ出し、楽しいわけではないけれど、高揚していく自分に気付く。
貴哉から姉の悪意を伝えられた時に自分の何が悪かったのかと落ち込んだりもしたけれど、結局は姉の問題であってボクにできることは何もなかったのだろう。
ボクの存在が気に入らなくて、ボクの存在を無いものにしたくて。
だから、汐勿の家を自分のものにするために望まれる自分を演出していたのだろう。
望まれる自分を演じるために不必要なボクを排除しただけのこと。
姉はきっと、全ての局面でそうしてきたのだろう。
だからきっと、姉に送られてきた写真は呪い返しのようなもの。
人に送った悪意が自分に返ってきただけのこと。
「姉さんのことだから、ボクにしてきたみたいに《他人》のこと、陥れてたんじゃないの。やたらとマウント取ったり。
普通、貴哉とボクが一緒にいたからって付き合ってるなんて思わないだろうし、写真だって撮らないよね」
話続けるボクに『何が言いたいのよ』と怒りを孕んだ声が聞こえてきたけれど、それに答えることなく続ける。
「だって、姉さんの知り合いでボクのこと知ってるのなんて地元の人か結婚式に出た人くらいだよね。
あそこで地元の人に偶然会うなんてことないから結婚式に出た人なのかな。
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