二世帯住宅から冒険の旅へ

PXXN3

文字の大きさ
3 / 116

第3話 城下町

しおりを挟む
約束どおり日曜日にみんなでやって来ました、城下町。

じいちゃんがついて来ようとしたけど、先王がうろうろしたら騒ぎになるので縛って置いて来た。


「何年かぶりに来たけど、やっぱこっちの空気はいいな」

「排気ガスとかないからね」

「むかし城を抜け出したときのことを思い出してわくわくするわ」

「むかしってどれくらいまえ? あ、いいです」

「姫さま、俺から離れるなよ」

「はい、勇者様」

「はいはい、わかってた、オレ空気になるの」


二人は普通の庶民の服で変装しているけど、むしろ変に浮いている。

なんか見た目がキラキラしすぎてる。見慣れてるとわからないけど、比較対象があるとはっきりするね。


「わたしのことも忘れないで、トラ」

「あ、ペス」

「忘れてたでしょ、いま! しかも犬みたいな呼びかたしないで!」


えーっと、いまの王様が母さんの兄だから、オレの伯父さんで、ペスは王様の娘、つまり王女様で、オレのいとこだ。たしかまだ十三歳になってないはず。

ペスの本当の名前はプルジェスタみたいな感じだけど……オレには発音できない。というか子どものころからそう呼んでいるからいまさらだ。

オレたちが城下町に行くと言ったらついて来てしまった。かなり手馴れてる感あるな。オレは城から出してすらもらえないのに……。


「お、あそこにアクセサリー屋があるぞ」

「あら、新しいお店ね。行ってみましょう」


父さんと母さんはもうデート気分で浮かれている。完全に忘れられてるな。


「わたしたちもどこか行きましょう」

「ん? ああ、城下町案内してよ。ペス」

「しょうがないわね。デートの下調べくらいするものよ」


デートの予定でもなかったし、オレ城から出られないし、そもそもペスとデートしても意味ないし。


「なんか失礼なこと考えてたわね」

「さあ、行こうか。おいしいものを探しに」

「色気より食い気か。トラはブレないわね……」

「あれなに? 黄色くてもじゃもじゃしたの」

「グルジャヴァティェサプルシェントよ」

「……あれなに? 黄色くてもじゃもじゃしたの」

「もう一回聞き直すんじゃないわよ! 甘くてネバネバした果物よ」

「食べよう!」

「そのままじゃ食べられないわ。すりおろして団子にして茹でてから捏ねるの」

「めんどくさ! すぐ食べられるものない?」

「あの薄紫に緑と赤のボツボツが生えたの、トゥラムグフャーヴィチュランならそのまま齧り付けるわ」

「キモっ」

「あとはあそこの屋台で売ってるティレムサテュヴァの塩焼き、鳥肉ね、ならどう?」

「……鳥? 脚が六本あるように見えるけど」

「六脚鳥だもの当然じゃない」

「……よし、なんか小物でも見よう!」

「あら、アクセサリー選んでくれるの?」

「友達にお土産でも買おうかと」

「アクセサリー、選んでくれるの?」

「あ、はい」

「じゃあ、あっちにいいお店があるわ」


ペスの案内で小物屋を見て回る。あ、この首輪トンチンカンに似合うかな。


「ねえ。このネックレスどうかしら?」

「ん? それは似合わないよ、ってか小さすぎない?」

「小さい? ……トラ、まさかあなた……」

「え? トンチンカンはもっと大きいのじゃなきゃダ」

「ケルベロスの話してんじゃないのよ!!」

「ふぇ?! なんでいきなり怒ってるの?」

「あーもう、いいわ。トラにはちょっと早すぎたわね」

「えぇ……。あ、冒険者組合ってここにあったのか」

「ああ、トラはまえから冒険者になりたいって言ってたわね」

「冒険者になっていろんなとこに行ってみたいんだー」

「旅行じゃダメなの?」

「旅行? ……なにが違うんだろう?」

「わたしたち王族なら豪華な馬車で世界じゅう旅行できるわよ」

「魔物と戦ったり、ほかの冒険者とごはん食べたり」

「しないわ。護衛の騎士たちが戦うし、基本的に上級貴族意外と顔を合わせることはないわね」

「あー、そういうのやだなぁ」

「そうよね。わたしもたまにはこんなふうに自由に歩き回りたいもの」

「たまに?」

「…………たまによ」

「たまに」

「でも城下とほかの町じゃ勝手が違うし、まして外国じゃそんな自由与えられないわ」

「やっぱり冒険者になって冒険したいな」

「そうね。トラの言いたいことがわかったわ」

「友達誘って冒険者になろうと思うんだけど」

「わたしのことは誘わないのね」

「だってペスは王女様じゃん」

「そうよ。……勇者様は王女をさらって旅に出るものよ」

「人さらいとか犯罪じゃん」

「あなたのお父さまに言いなさいよ」

「勇者って微妙に言葉が通じないときがあるんだよな」

「大変ね、あなたも」

「わかる? 王女様も大変だよね、知らんけど」

「社交辞令で会話するのやめてもらえる?」

「オレの友達なら頭いいから魔法使いとかできる気がするんだよね」

「あなたも微妙に言葉が通じないときがあるから勇者になれそうよ」


そこに冒険者組合から出て来た全身銀色の鎧を着た男が声をかけてきた。


「君たち。あまり大きな声で勇者の噂話をしないでくれたまえ」

「へ?」

「は?」

「ぼくが王都冒険者組合の勇者ことブジャマ・ニコケタンさ」

「……なにこれ?」

「さあ? 庶民の子どもには勇者の真似をして遊ぶのが流行ってるって聞いたことがあるけど」

「おじさん、子どもなの?」

「……子どものごっこ遊びといっしょにしないでくれたまえ。ぼくは勇者なんだよ」

「勇者って任命されてたっけ?」

「今代はまだ生きてるでしょ。偽物よ」

「ぼくが偽物だって? お嬢さん、あまりバカなことを言うもんじゃないよ」

「バカなことを言ってるのはあなたよ。頭がおかしいだけならともかく、詐欺を働くようなら衛兵がしょっ引かれるわよ」

「頭のおかしい人に頭がおかしいって直接言っちゃダメだよ」

「君たち。一度痛い目に遭いたいようだね。勇者をバカにするとただでは済まないよ」

「へえぇ。それはそうかもね。ちょうどいいからお灸を据えてもらうといいよ」

「トラ、こんなとこでなにしてるんだ?」

「父さん、これが王都冒険者組合の勇者だって」

「ほう。真昼間から酒でも飲んでるのか?」

「なんだい。親子で疑うのかい? ぼくが勇者なのは見てわかるだろう」

「あらあなた。いまどき珍しいわね。勇者コスプレなんて久しぶりに見たわ」

「こす……?」

「ああそういえばたしかむかし子どもたちに流行ったことがあったよな」

「その生き残りなのかしら。おたくもこじらせると大変ね」

「よくわからないけどぼくのことをバカにしているね? これは成敗しないといけないね」

「へえ。剣を抜くつもりかい?」

「きゃあ、あなた、盗賊よ。こわーい」

「ふふ。君のことは命を懸けて守るよ」

「あなた……」

「頭がおかしいのはどっちかしら……」

「非常識って怖いね」

「あなたが言うの?!」

「あ、衛兵さーん、こっちです」


まあ衛兵というか護衛の近衛が最初から付いていたわけだが。

偽勇者は捕まってしまった。

本物に喧嘩を売るとか偽物の名折れである。出直してほしい。


「初デートを邪魔した恨みは晴らさせてもらうわ」


お忍びとはいえ王女に絡んだので厳罰が下されるようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

処理中です...