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番外 クリスマス
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本編から数か月後の話。
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城下町は冬支度のための買い出しでにぎわっていた。
キゥミュィァマェントゥ王国の冬はそれほど寒くならないので、冬でも大きく生活環境が変わることはない。
それでも寒い日にはそとに出たくないし、おうちで家族と暖かいものを食べて過ごしたいのだ。
この寒い時期には普段遠くに住んでいる家族や親戚も集まって過ごす風習がある。
どちらかというと城下町から田舎に帰る人のほうが多いのだが、逆に帰ってくる王都出身の人たちもいるのだ。
いつもより出入りが激しくなるため、お土産物などを求めて買い物客も増え、人でごった返している。
それに周辺の町の人たちも特別な食事のためになにか豪華な食材がないかと城下町まで出てくる。
単にひと際にぎわうお祭り騒ぎに乗じて遊びに来る者もいるが。
そこに今年は人目を集める新商品が売り出され、噂を聞きつけた人々が例年になく集まってきて異常な熱気を持っていた。
精緻な絵で彩られたクッキーに、色とりどりのクリームで美しく飾られたケーキ、カラフルポップなキャンディー、パステルカラーの綿あめ、見たことのない色の食べ物や飲み物が並べられた一角が『王太子の手作り』というインパクトで打ち出されているのだ。
「なんだこれ……。通りが埋め尽くされてる」
「どっから湧いてきたんだろ、この人たち」
「ちょっと予想外の人気ですね。モョオブォン様がこんなに注目されるなんて人生に一度じゃないでしょうか」
「なにげにひどい」
「さすがに王様になるときにはもうちょっと注目されるだろ。……されるよな?」
「あのさ、きみたちわたしの扱いちょっとひどすぎないかな?」
「あのクッキーはさらに芸術度上がってるよね」
「庶民でもなんとか買える値段にしたからな。特別感があるし売れるよな」
「この時期の雰囲気に合わせた暖かい色の組み合わせもすばらしいですね」
「ほ、ほめられているな」
「こんなに混み合ってるのにいい席で上から眺めるのってなんか悪いね」
「トラ様の立場としては当然のことですよ」
「まあ王族があのなかに紛れるのはヤバいよな」
「わたしがあのなかに紛れたら一生見つけてもらえないだろうな」
「ご歓談中失礼いたします。お待たせいたしました。スペシャルパフェでございます」
「おお~! すごいきれい」
「時季外れの果物がふんだんに使われていて豪華すぎる」
「これはちょっと高価ですが、庶民でも食べられる廉価版もありますし、買い出しで疲れたところにカフェを開くというのはとてもいい考えでしたね」
「結構お客さん入ってるみたいでよかった」
「わたしが発案したわけでも作ったわけでもないのになぜ『王太子の手作りパフェ』なのかわからないが……」
「トラ様とタツ様のおかげでこの店も繁盛しております。ありがとうございます。それではごゆっくり」
「向こうではそんなに珍しくもない光景なんだけど」
「特にこの時期はこういうイベントが付き物だからな。ケーキと揚げ鶏食べたり」
「その組み合わせはちょっと重くないかい?」
「鶏の丸焼きとかあるとパーティー感あるよね」
「本来は七面鳥なんだろうけど」
「顔が七つもある鳥がいるのかい?」
「ティレムサテュヴァの丸焼きでもいいのでしょうか?」
「パーティー仕様でいろいろ飾ると豪華になると思うぞ」
「あとはいろいろ好きなごちそう集めて……ろーすとびーふ、ピザ、グラタン、オムライス、すし、カレー、ぎょうざ、お好み焼き……」
「後半がちょっと王族とは思えない内容になったな」
「聞いたことがないがどんな料理なんだ?」
「楽しければいいんだよ。イベントなんだから」
「ところでそれはなんのイベントなんですか?」
「ん? なんかの誕生日? お祝いするの」
「国によっては一か月くらい飾り付けてパーティーするらしいぞ」
「国王とか歴史的偉人かなにかでしょうか?」
「なんとなくお祝いしたい気分でパーティーとか開いて浮かれたいだけのイベントだよ?」
「本来は違うけどな。でもだれも意識はしてない」
「ちょうど理由もなく集まって騒いでるこの状況に似ているということかな」
「ちょうど理由もなく集まって騒いでるこの感じが似てるんだよね」
「なるほど。さすがはトラ様」
「わたしだけ別の次元にいるんだろうか……」
「せっかく『王太子の手作り』イベントなんだからモブも来ればよかったのにね」
「なんだか忙しいらしいぞ」
「クッキー職人やってたからかな?」
「あの装飾を施せるのはモブ様しかいませんからね」
「ほ、ほめられてる……いや、流されないぞ。わたしはここにいるからな!」
「うわ、びっくりした」
「モブ、いつのまに忍び込んだんだ?」
「モブ様、突然現れて叫ぶのはお行儀が悪いですよ」
「やっと見てくれた。わたしは最初からいたよ。というか四人で来ただろう?」
「なんかモブって認識できなくなる呪いかなんか持ってる?」
「話してるうちに意識から消えていくんだよな」
「影の適性がありますね。うらやましいです」
「ええっ? そんなことあるのか? ……あるかも」
「知らないうちに結構盗み聞きしてるんだよね」
「してないぞ。人聞きの悪い」
「あれ? モブどこ行った? あ、いた」
「かなり注意して見ないとすぐ見えなくなりますからね」
「え? そんなに見えていないのか?」
「もうちょっと目立つようにしてほしいよね。保護色着るのはやめてさ」
「よく見ると赤と緑と金銀の服なんですが、なにに溶け込んでるんでしょうか?」
「あーあれか」
「あれだね」
「配達員」
「ひと晩じゅう子どもたちにプレゼント配る人」
「こんな派手で奇抜な格好で影に忍んで夜なかに子どもたちに気づかれないように家屋に侵入してプレゼントを配る? どんな特殊訓練を積んだ人なんですか?」
「モブならたぶんできるよ」
「奇抜な……格好……」
「子どもたちに王太子の手作りプレゼント配ろうよ」
「白い袋用意しようか」
「王太子に配達員やらせていいのかな?」
「すでに実行する段階に進んでいる??」
「雪が降らないからそりじゃなくて馬車だね」
「馬車に鈴を付ければいいか」
「王都内ならひと晩で配れるだろう」
「影の補佐を付ければ大丈夫でしょう」
「この店の企画もそうだが、わたしの関わらないところでいろいろ決まっていく」
「あとはモブに……あれ? いなくなった?」
「気づかれないうちに逃げよう」
王太子の手作りプレゼント作戦が実行されることはなかった。
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年末年始 12/29~1/5 は一週間連続更新します。お楽しみに!
感想、お気に入り追加お待ちしてます!
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城下町は冬支度のための買い出しでにぎわっていた。
キゥミュィァマェントゥ王国の冬はそれほど寒くならないので、冬でも大きく生活環境が変わることはない。
それでも寒い日にはそとに出たくないし、おうちで家族と暖かいものを食べて過ごしたいのだ。
この寒い時期には普段遠くに住んでいる家族や親戚も集まって過ごす風習がある。
どちらかというと城下町から田舎に帰る人のほうが多いのだが、逆に帰ってくる王都出身の人たちもいるのだ。
いつもより出入りが激しくなるため、お土産物などを求めて買い物客も増え、人でごった返している。
それに周辺の町の人たちも特別な食事のためになにか豪華な食材がないかと城下町まで出てくる。
単にひと際にぎわうお祭り騒ぎに乗じて遊びに来る者もいるが。
そこに今年は人目を集める新商品が売り出され、噂を聞きつけた人々が例年になく集まってきて異常な熱気を持っていた。
精緻な絵で彩られたクッキーに、色とりどりのクリームで美しく飾られたケーキ、カラフルポップなキャンディー、パステルカラーの綿あめ、見たことのない色の食べ物や飲み物が並べられた一角が『王太子の手作り』というインパクトで打ち出されているのだ。
「なんだこれ……。通りが埋め尽くされてる」
「どっから湧いてきたんだろ、この人たち」
「ちょっと予想外の人気ですね。モョオブォン様がこんなに注目されるなんて人生に一度じゃないでしょうか」
「なにげにひどい」
「さすがに王様になるときにはもうちょっと注目されるだろ。……されるよな?」
「あのさ、きみたちわたしの扱いちょっとひどすぎないかな?」
「あのクッキーはさらに芸術度上がってるよね」
「庶民でもなんとか買える値段にしたからな。特別感があるし売れるよな」
「この時期の雰囲気に合わせた暖かい色の組み合わせもすばらしいですね」
「ほ、ほめられているな」
「こんなに混み合ってるのにいい席で上から眺めるのってなんか悪いね」
「トラ様の立場としては当然のことですよ」
「まあ王族があのなかに紛れるのはヤバいよな」
「わたしがあのなかに紛れたら一生見つけてもらえないだろうな」
「ご歓談中失礼いたします。お待たせいたしました。スペシャルパフェでございます」
「おお~! すごいきれい」
「時季外れの果物がふんだんに使われていて豪華すぎる」
「これはちょっと高価ですが、庶民でも食べられる廉価版もありますし、買い出しで疲れたところにカフェを開くというのはとてもいい考えでしたね」
「結構お客さん入ってるみたいでよかった」
「わたしが発案したわけでも作ったわけでもないのになぜ『王太子の手作りパフェ』なのかわからないが……」
「トラ様とタツ様のおかげでこの店も繁盛しております。ありがとうございます。それではごゆっくり」
「向こうではそんなに珍しくもない光景なんだけど」
「特にこの時期はこういうイベントが付き物だからな。ケーキと揚げ鶏食べたり」
「その組み合わせはちょっと重くないかい?」
「鶏の丸焼きとかあるとパーティー感あるよね」
「本来は七面鳥なんだろうけど」
「顔が七つもある鳥がいるのかい?」
「ティレムサテュヴァの丸焼きでもいいのでしょうか?」
「パーティー仕様でいろいろ飾ると豪華になると思うぞ」
「あとはいろいろ好きなごちそう集めて……ろーすとびーふ、ピザ、グラタン、オムライス、すし、カレー、ぎょうざ、お好み焼き……」
「後半がちょっと王族とは思えない内容になったな」
「聞いたことがないがどんな料理なんだ?」
「楽しければいいんだよ。イベントなんだから」
「ところでそれはなんのイベントなんですか?」
「ん? なんかの誕生日? お祝いするの」
「国によっては一か月くらい飾り付けてパーティーするらしいぞ」
「国王とか歴史的偉人かなにかでしょうか?」
「なんとなくお祝いしたい気分でパーティーとか開いて浮かれたいだけのイベントだよ?」
「本来は違うけどな。でもだれも意識はしてない」
「ちょうど理由もなく集まって騒いでるこの状況に似ているということかな」
「ちょうど理由もなく集まって騒いでるこの感じが似てるんだよね」
「なるほど。さすがはトラ様」
「わたしだけ別の次元にいるんだろうか……」
「せっかく『王太子の手作り』イベントなんだからモブも来ればよかったのにね」
「なんだか忙しいらしいぞ」
「クッキー職人やってたからかな?」
「あの装飾を施せるのはモブ様しかいませんからね」
「ほ、ほめられてる……いや、流されないぞ。わたしはここにいるからな!」
「うわ、びっくりした」
「モブ、いつのまに忍び込んだんだ?」
「モブ様、突然現れて叫ぶのはお行儀が悪いですよ」
「やっと見てくれた。わたしは最初からいたよ。というか四人で来ただろう?」
「なんかモブって認識できなくなる呪いかなんか持ってる?」
「話してるうちに意識から消えていくんだよな」
「影の適性がありますね。うらやましいです」
「ええっ? そんなことあるのか? ……あるかも」
「知らないうちに結構盗み聞きしてるんだよね」
「してないぞ。人聞きの悪い」
「あれ? モブどこ行った? あ、いた」
「かなり注意して見ないとすぐ見えなくなりますからね」
「え? そんなに見えていないのか?」
「もうちょっと目立つようにしてほしいよね。保護色着るのはやめてさ」
「よく見ると赤と緑と金銀の服なんですが、なにに溶け込んでるんでしょうか?」
「あーあれか」
「あれだね」
「配達員」
「ひと晩じゅう子どもたちにプレゼント配る人」
「こんな派手で奇抜な格好で影に忍んで夜なかに子どもたちに気づかれないように家屋に侵入してプレゼントを配る? どんな特殊訓練を積んだ人なんですか?」
「モブならたぶんできるよ」
「奇抜な……格好……」
「子どもたちに王太子の手作りプレゼント配ろうよ」
「白い袋用意しようか」
「王太子に配達員やらせていいのかな?」
「すでに実行する段階に進んでいる??」
「雪が降らないからそりじゃなくて馬車だね」
「馬車に鈴を付ければいいか」
「王都内ならひと晩で配れるだろう」
「影の補佐を付ければ大丈夫でしょう」
「この店の企画もそうだが、わたしの関わらないところでいろいろ決まっていく」
「あとはモブに……あれ? いなくなった?」
「気づかれないうちに逃げよう」
王太子の手作りプレゼント作戦が実行されることはなかった。
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