二世帯住宅から冒険の旅へ

PXXN3

文字の大きさ
75 / 116

第70話 魔導都市の宿

しおりを挟む
「それで、これが魔法がまったく使えなくても自立して動作するように改良してさらに超小型化したイヤリング型翻訳魔道具だ。どうだまいったか」

「これは外国での諜報活動に役立ちそうですね。小さな声を聴きとれるようにもできますか?」

「盗聴しようとすんな」

「これを着ければ翻訳されるってこと?」

「そうだぞ。着けてやる」

「ん。んぅ? なんか変な感じ」

「俺の言ってることは聞こえるか?」

「日本語だよね?」

「じゃあこれは?」

「あれ? クマモト語なのに日本語に聞こえる? いや同時に聞こえる?」

「わたしの言葉はどう聞こえますか?」

「いつものエドさんの言葉に日本語版エドさん吹き替えが重なってる」

「ぐるう?」

「チョコちゃんはいつもといっしょだね」

『わたしの話してることはわかりますか?』

「おわ、サツマ語とクマモト語と日本語が重なって聞こえる」

「あれ? 虎彦はやっぱちょっと特殊なのかな? 俺だと日本語ひとつにしか聞こえないんだけど」

「わたしにはキゥミュィァマェントゥ語にしか聞こえませんね」

「なんかいっぱい混ざってて混乱するよ」

「んー、ちょっと調整してみる」

『トラくんは研究しがいがありますね』

「トラ様を研究対象にしないでください」

『そうですよ。わたしが先に勇者様の話を聞くんですからね』

「いやそれも……」

「勇者の話?」

「あ、それは」

『タツ様も勇者様の国からいらしたんですよね? 勇者様の話をしましょう三日ほど寝ずに』

「とりあえず学院資料館に行ってからにしましょうか」

「学院?」

「むかしの勇者関連のものがあるらしいから見たらなにかわかるかなと思って」

「へえ、そんなもの残ってるんだ」

『勇者様の倒した魔王四天王の一人ですけどね』

「魔王? 四天王?」

「あ、あー! その話はあとでゆっくり説明するから」

『わたしが説明しましょうか?』

「いえ、今日の宿に向かわなければなりませんので」

「おお」

『なんならわたしの家で朝まで』

「あ、それじゃあ失礼しますね」

「なんでそんなに急ぐんだ?」

「辰巳、ちょっとだけ黙って」

「ええ……?」


*****


「ふう、一時はどうなることかと」

「逃げきれたね」

「なにから逃げてるんだ……」

「あれは魔王より手ごわいかもしれませんよ」

「魔王が顔見知りみたいな言いよう」

「そ、そんなわけないじゃないですか」

「それでどこに向かってるんだ?」

「宿を手配済みなのでそこに向かいましょう」

「いろいろ隠さなくなってきたな」

「ぐるる」

「チョコちゃんは辰巳たちが魔道具の研究してる間お昼寝してたのか」

「ケーキいっぱい食って寝たら太るぞ」

「ぐう」

「どの口が言うって」

「あ、ここですね。着きましたよ」

「おお、なんだこれ。さっきの塔とはまた違う方向性だけど、やっぱ塔なんだな」

「デカいねえ」

「ここがこの都市で一番快適な宿だという評判だそうです。なぜか上の方の階がいい部屋とされているようです。トラ様たちも抵抗はないようですので、失礼ながら最上階をとらせていただきました」

「おお、最上階」

「王侯貴族か」

「王族だけど」

「宿の人の反応もそんな感じだったそうです。不思議ですね」

「まあ単純に上の方が眺めがいいだろうし、コストもかかってるから高くてしょうがないんだよな」

「逆にえらい人は二階以下にしか住まないっていうクマモトルールのほうが不思議だよ」

『ようこそユシワルシャゼンシデの塔へ』

「ほんとにここで合ってる? ここが一番快適な宿なの?」

「ん? なにか問題あったか?」

「いや名前がなんか」

『お客様は帝王コースでご案内させていただきますね』

「コースってなんだ?」

「最上階をとったらそうなったみたいです」

「たぶんサービスがよくなるんじゃない?」

『そのとおりです。当宿でできるかぎりの最上級のおもてなしをさせていただきます』

「VIP待遇か」

『それではさっそくお部屋にご案内いたします』

「何階?」

『二十四階でございます』

「さっきのひとつ上だね」

『え? ほかの塔の二十三階にいらしたんですか?』

「さっきまで魔道具師組合長と会ってたからな」

『さ、さすがでございますね。この都市に住むものでも二十階以上に上がることはめったにありませんから』

「へえそうなんだ」

『(本物だ。これは本物の王侯貴族だ……)こちらの昇降魔道具へどうぞ』

「そういえばさっきの味噌タルタルカツ丼結構おいしかったよ」

「なんだそれ? 合うのか?」

「たまごと油増量って感じ」

「うまそうに聞こえないな」

『(なんだこの人たち。昇降魔道具にもビビらないで雑談してるぞ?)こちらの魔道具は特別製でして地上から最上階まで五分ほどで到着いたします』

「え? そんなにかかるの?」

「窓があるわけでもないのにそんなにゆっくりされてもな」

『(窓? 昇降魔道具に窓??)』

「全面ガラス張りのやつよくあるよね」

『(全面?! ガラス張り?! よくある?!?)』

「こっちではこれが普通なのか?」

『(普通?! 特別製っていったでしょ?!)』

「五分もかかるならなにか案内とかしたほうがいいんじゃない?」

『え? あ、すいません。ええといつもは昇降魔道具の説明をさせていただくのですが』

「え? なにを説明するの? ただのエレベーターなのに」

『え??』

「え??」

「虎彦、ただ昇ったり降りたりする以外になんか変わった機能があるのかもしれないじゃないか。よし聞こう。説明してくれ」

『あ、いえ、ただ昇ったり降りたりする魔道具です』

「え? なにを説明するの?」

「虎彦、やめて差し上げろ」

『……まもなく二十四階に到着いたします。足元に気をつけてお降りください』

「ある意味めずらしかったね」

「普通一分かからないよな」

『(王侯貴族、怖……)』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...