あきの切り札

海夜。

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【第三話】こどく。

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 山々の間から太陽が顔をのぞかせる。キラキラと輝きながら、世界に朝の知らせを運んできた。

「おはようございます。朝食の用意ができましたよ。」
ただいま朝の6時。少し浮かれた足つきで、風希は「朝食ができた」と紅葉を起こしにかかる。
「ん"ん"~………う"ん。」
最初は、布団をすっぽりと頭まで被り抵抗していた紅葉だが、しばらくして諦めたのかのそのそと布団から這い出てきた。
だがまだ頭が回っていないようで、シパシパと瞬きをしつつ、頭を振り、目をこすってなんとか睡魔と戦っていた。
「お…はよぉ…………ふぁ……。」
「おはようございます。顔、洗ってきてくださいね。」

やっと覚醒した紅葉は言われたとおり顔を洗い、服を着替えて、居間に向かう。
「おはよう。」
戸を開け、挨拶をする。
「あら、やっと来たの?お寝坊さん。」
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」
愛季はもう来ていて、風希は膳を運んでいた。
朝食は、焼き鮭と卵焼きと味噌汁…所謂和食であった。ご飯はふっくらと炊き上げられ湯気を立てている。
「「「いただきます。」」」

「そうだ。紅葉、貴方結局どうするの?」
朝食後お茶をすすりながら雑談の中で、愛季が紅葉に話をふる。
「どうするって?」
「昨日言ったでしょ?私と行くか、この家…風希のとこに残るか。」
愛季の質問に紅葉はキョトンとしていたが、呆れ顔で説明され、「あっ」と気がづいた。それから、少し表情が曇り
「考えたよ。でも、どうするべきなのかわからなかった。愛季についていったら愛季に迷惑をかけるし、ここに残ったら風希に迷惑がかかる。俺は、どうしたらいいのかな。」
と言う。暫し沈黙がその場を支配した。
「僕は、迷惑だとは思いませんよ。」
最初に口を開いたのは風希だった。ふわりと少し笑い。紅葉の不安を和らげようとする。
「そうね。私も迷惑だとは思わないわ。それに、これは『どうするべきか』じゃなくて『どうしたいか』の問題なのよ。」
次いで口を開いた愛季は、紅葉の瞳をまっすぐ見つめ堂々とそう話した。
「そっか。ありがとう2人とm………」



ガシャンッッッとなにかが割れる音がした。
「えっ!?何?今の音………。」
「家に貼っていた結界が……割れた音です……!!」
と、あまり表情を動かさない風希が目を見開き少し震えた声で、でもはっきりと言った。
「はぁ!!?嘘でしょ!!?」
愛季はガタッと飛び上がり
「結界って……前、風希が守ってくれたやつ?」
一周回って冷静になったのか、紅葉は見当違いなことを風希に聞く。
「そうですね。種類は違いますが似たようなものです。とりあえず、ここから離れましょう。侵入者はこちらに向かっているようなので。」
律儀に紅葉の質問に答え、風希は居間に置いてあった刀を手に取り立ち上がった。
「まさかここで振る気じゃないでしょうね。」
「念には念を………です。」

「なぁ、何で侵入者の位置がわかったんだ?」
紅葉、愛季、風希の3人は居間を後にし、長い廊下を静かにでも急いで、移動する。
「『探知結界』を使いました。」
「探知結界?」
「はい。結界とは元来、『界を結んで空間を区切り、良くないものを防ぐもの』なんです。それを応用して、この家には2種の結界を張っていました。一つは『固定守護結界』文字通り守るための結界です。もう一つは『探知結界』守ることには向きませんが、区切った空間の内側で起こったことすべてを把握できます。」
風希は内緒話をするように小声だが、詳しく説明した。
「で?侵入者は誰よ。」
「大蛇でした。おそらく蠱毒の呪いかと………。」


「………こちらの居場所、把握されてますね。」
十分程家の中をぐるぐると移動しながら相手の出方を伺っているとやにわに風希がそう口にした。
「これだから呪いは………。誰が狙いがわからないし………。」
はぁ、と愛季が心底面倒くさいといったようにため息を付く。
「というか家の中にいていいの?外に逃げたほうがいいんじゃない?」
と、不安そうに眉を下げながら紅葉は弱音を吐く。
「外は探知結界の範囲外になってしまうんです。」
「相手は野生の獣じゃなくて、呪いなのよ。逃げればいいってものじゃない。」
「強いものだと距離を無視して呪われますからね。」
「そっか。」

それからしばらく膠着状態が続いたが………。バンッッッ!!!!!!と言う大きな音とともに、しびれを切らした相手が襲ってきた。
「外に逃げます。」
「走りなさい!!」
このままここで暴れられれば家ごと潰されると判断した風希と愛季は、紅葉を連れて廊下を走る。

ガッと音がして紅葉の体はガクッと下に揺れる。グルンと世界が回転した。
紅葉の体は中に放り投げられていた。バッと下を見る。大蛇の大きく開かれた口はもう目の前だった。バクンと紅葉は………丸呑みにされた。

「斬ります。」
凛とした声が静かに響き渡った。
眩い光が駆け抜けたような気がした次の瞬間、大蛇は一刀両断されていた。
斬ったのは風希。その瞳は、いつものように光がなく、いつも以上に冷たかった。
「紅葉!!」
再び空中に投げ出された紅葉を抱きとめたのは愛季だった。

「このっっっ……!!大馬鹿野郎!!!!」
バチンといい音が響く。紅葉は愛季に平手打ちされた。風希と愛季の活躍により無傷で戻った紅葉の頬はじんじんと痛み少し赤くなった。
「ごめんなさい。」
半泣きの愛季にこってり絞られた紅葉は素直に謝罪する。
「大事なくてよかったですね。」
冷たい水で濡らしたタオルで紅葉の腫れた頬の手当の準備をしながら、温かな瞳で風希は2人のやり取りを見つめていた。

「あっ、そうだ。俺、風希のとこにいようと思う。」
「僕のところですか?」
「うん。俺は知識も能力も何もわからないから…ちゃんと知りたい。それに、独りだったら寂しいでしょ?」
「……あんたが決めたのなら止めないわ。」




「独り………そう…なのでしょうか…………?」
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