有って無き者

戒月冷音

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第106話

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薬を塗った後、しばらく腕を動かさずにいてもらうと、少し変色していた箇所が、もとの肌色にゆっくりと戻り始めた。
「サンドラ。これはどう言う状態?」
ルイが聞いてくるので、説明を始める。

「彼女は、花を摘みに行って、手の先から感染したの」
「手の先・・・」
「おそらく、花を握ったときに指に付いたのでしょう。
 そこから、毒の感染が広がった。
 あの花は、茎を握ると、弾けるように割れるの」
「茎が割れる?
 じゃあそこから、樹液と言うか花の液が出て?」
「その液から、毒が皮膚に染み込んだ」

「最初に染み込んだ場所が・・・今、変色している場所ですか?」
母親が、話しに入ってくる。
「そうでしょうね。指の内側で4本の指に、横に線が入っているから」
そう話している間にも、変色が薄まる。
「メイサから話を聞いて、直接塗るものを持ってきてよかった」
「メイサから・・・
 この薬を塗り続ければ、ライヤの毒は消えるのですか?」
母親はやはり、なおることを確認する。
しかし、
「この薬は、表面だけです。
 体の中まで染み込んでいますので、この飲み薬を
 飲んでいただくことになります」

私が説明していると、痛みから解放されたライヤさんが私を見る。
「女性・・・」
そして、ゆっくりと視線を横にむけ、ルイを見た。
その瞬間
「貴方が、私を助けてくださったのですね」
と、目をバッキバキに開き、変色した手を祈るように、胸の前で組むとそう叫んだ。

「えっ・・・」
ルイは、言葉をなくす。
「貴方、メイサの妹よね」
「メイサ?知らないわ。あんな薄情な人」
「薄情?」
「だってあの人、痛くてどうしようもなくなっている私をほおって、
 仕事に行くのよ。そんな人、姉じゃないわ」
「・・・そう。それじゃあこれで、治療を終わるわ」
「えっ!?なんで?さっきまだ、飲むのとか言って・・・」
「貴方、どうして私がここに来たのか、分かってるの?」
「私を助けに来てくださったのでしょう。こちらの方が」
「この人の事知ってるの?」
「?」
「知らないのに、媚を売るのね。
 貴方最低ね。お母様、このまま放置しますが良いですわね」
「えっ・・・ですが、まだ」
「貴方の娘、何故こんなに違うの?」

私は、母親の前に立ち、首をかしげて確認する。
「私は、メイサに頼まれたからここに来たの。
 けれど、治療する本人がこんな事を言うのなら、私はこれ以上
 手を貸さない」
「どうして?」

ライヤさんが、泣かしそうな顔を作って私に聞いてくる。
何故私に、そんな顔を向けるのか、私は理解できない。
私かここに来たのは、薬作りを手伝ってくれたメイサへの、褒美なのだ。
それを・・・
あんな言葉をメイサに向け、私ではなく、ルイに媚を売る薄汚い女に渡す気は、全くなかった。
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