有って無き者

戒月冷音

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第3話

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『…い。おい。気付けよ。おいって…』
ん?誰?
『あんただろ、俺を起こしたの』
起こした?
『封印、解除しただろ』
封印……あっ!?

気付けば私は、真っ白な世界にいた。
「ここは?」
『ここは、意識の世界』
「意識?」
『あんたの、頭ン中とでも思って…』
「それで貴男は?誰なの?」
『俺はアイルーク。
 もともと、あんたの中に居たんだけど、あんたの母親に封印された』
「何で?」
『だって、生まれて数カ月の赤ん坊が、こんな喋ったらおかしいだろ』
「それは怖いわ」
『間違えて、1歳ぐらいの時に顔出しちまってな。そん時に』
「どうして、出てきたの?」
『多分…ここに来てすぐの時で、どうしていいか分からず?
 なんかしたら、表に出た感じ?』
「そう…それでお母様が、封印したのね」

『あんたの母親が、言ってた。
 大きくなって封印が解けたら、カサンドラを助けてあげてって。
 それまで、ゆっくりお休み…って言われた後から、ずっと寝てたよ。
 封印を解いたあんたが、カサンドラで、合ってる?』
「えぇ、カサンドラ・ミルティアと申します。
 侯爵家の長女で、明日、第3王子殿下に嫁ぐために家を出ます」
『ミル、ティア…公爵?伯爵じゃなかったか?』
「私が生まれる前に陞爵(しょうしゃく)しました。その何十年前かにも…」
『だから公爵なのか』
「伯爵の頃を、知っているのですか?」
『知ってる。その頃俺は、伯爵に世話になった』
「えっ…お世話に?では貴男は?」
『俺は正式に言えば、アイルーク・ジュート。
 王位を継いだのは、一番上の兄貴だ。
 俺は8男。しかも腹違いだし、身分も低い』
「最後の方は、関係ないわ。
 貴男が王家と血が繋がっているのは、事実だもの」
『今は、体がないけどね』

「それで、何でこんな姿に?」
『俺にある記憶は、親父が死ぬ寸前に、精神移動の魔法を王妃が発動させた』
「無くなる、寸前に?」
『王妃は、親父を溺愛していて、俺の見た目は親父の若い頃にそっくりだった。
 だから、俺の精神を追い出し、親父の精神を俺の体に入れたら、
 親父は死ぬことなく、自分の側にいてくれると思ってた』
「それ、成功したの?」
『してない…と思う』
「どうして…そう思うの?」
『…そのへんの記憶ははっきりしないが、俺の体…というか、俺のほうが
 力が強かったから反発したんだ。
 そしたら俺は、いつの間にかこれと似た世界に居て、俺の体は
 王妃の眼の前で一気に老化した」
「あぁ…反した力の反動で、肉体から魔力がすべて抜けたのね」
『今はそう言う事になってるのか』
「えぇ。たまに、戦場で起こることだと聞いているわ。
 防御結界を張っていた人や、回復を担当していた人が、突然老化して無くなるの」
『そうだったのか…』

私はこの場所で、時間が許す限りアイルークから話を聞いた。
そして明日、目が覚めたら私は王家に引っ越すと伝えると、アイルークはそうかと言ったきり話さなくなった。
私はその後、その場から引き戻される感覚を覚えて目を閉じると、次に目を開けたのは自分の部屋のベットの上だった。
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