私の存在

戒月冷音

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第106話

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文官の人達に聞くと、教えてくれたのはマルクス様だと、口を揃えて言った。
マルクス様は、自分の持っている情報を、皆と共有することを望んだのだ。
私のように、隠そうとするのではなく・・・

そう思った時、私はマルクス様に質問した。
「マルクス様は、日本の知識が、この世界をすごい早さで
 進ませることに、違和感はございませんか?」
すると
「俺は、あそこまではいかなくとも、ある程度、自分の持ってる知識で
 皆が楽になってもらえたらいいなと、思っただけだ」
と、答えた。
「でも、その知識は、突き詰めればその人の生活まで変えてしまうのに?」
「君の先生は、研究熱心だったからね」
「研究熱心で、片付けられても・・・」
「ミシェルは本当に、自分じゃなく周りの人達の事を、心配するんだね」
「ふ、普通では?」
「そうだね。普通・・・よりもっと、気を遣ってるよ」
「そうでしょうか?」
「うん」
そういってマルクス様は、目の前のヘンドリック様を見る。

「ミシェルは、今の兄上を見てどう思う?」
「嬉しそうです」
「だろ。それは、俺と同じものを使えたから。
 もし、ミシェルがもう無いとつっぱねて、箸を渡していなかったら
 あんな顔して食べてないよ」
確かに、そうだと思った。
私がマルクス様以外に知られたくないと隠してしまったら、ヘンドリック様はマルクス様を見ながら、残念と思うだろう。
そうすると、今の笑顔はなくなってしまう。
「だからあの笑顔は、ミシェルが作ったんだ」

目の前では、ヘンドリック様がカサンドラ様に、箸をお貸しして、使い方を説明している。
けれど、ヘンドリック様のようにうまくいかず、箸がずれてしまうために、つるつると面を滑らせているのだ。
「きゃあっ」
「カサンドラ、顔にかかってる」
「えっ!?どこですか?」
「ここ」
といって、頬をつつく。
そこをハンカチで拭き取ると、カサンドラ様はもう一度箸に挑戦した。
「も、持てましたわ」
「そのまま口に・・・」
パクッ
「あら?こちらの方が、スープが絡んだ分だけになるので、濃くならないのね」
「あぁ、そういうことか。それで味が違うと思ったんだ」
私は、そういって話している二人に、箸を一膳お渡しした。
「二人に、使ってもらいたいんだって」
マルクス様がそう説明してくれたので、私は頷くだけになったが、その後楽しそうに食べる二人を見て、なんだかほっこりした。

「それで・・・ミシェルの箸は?」
「これです」
そういって、袋から出したのは、ウサギの絵柄の箸。
「えっ!?こうやって、デザインできるの?俺も欲しい」
「マルクス、ちょっと俺にも見せて」
ヘンドリック様が、体を乗り出して聞いてくる。
「ミシェル、良いかな?」
「良いですよ」
そういって私は、ヘンドリック様に自分の箸を渡した。
「うぁっ!おれもほしい。カサンドラもいる?」
「私も・・・ですが、良いのですか?」
「大丈夫ですよ。これを作ってもらった時に、ある程度、習得しておりますから」
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