私の存在

第140話

「これを、どうやって出すの？丼？それともこのまま？」
マルクス様はやはり、出し方を聞いてきた。
多分そのままだと、味が濃いのだろう。

「おまんじゅうの生地で挟んだ、角煮マンにしようかと」
「あぁ、それならちょうどいいと思う。
　そのままだと味が濃いから、この味を薄めるものがほしいなと
　思ったんだ」
「そうなのね。よかった」
「でも、これを食べていると、マイが食べたくなるよね」
「そう言うと思って、握っておきました」
「にぎ･･･は？まさか、おにぎり？」
「はい。のりがないから真っ白の塩･･･じゃなくエン握りです。
　どうぞ」
私が、お皿に並んだエン握りを差し出すと、マルクス様は近くにあった椅子を持ってきて座り、すぐにひとつ取り、がぶりと食らいついた。
「うまいっ！この後に、角煮を食べると･･･」
そう言って角煮を食べ、またおにぎりを頬張る。
それを繰り返している間に、おにぎりが5つ、マルクス様のお腹に消えていった。

やっぱり男性は、沢山食べる。
マルクス様が居なければ、私はこんなに楽しく、日本の料理を作ることはなかっただろう。
「どうかした？」
モグモグと口を動かしながら聞いてくる姿を見たら、吹き出しそうになった。
それを回避するため顔をそらすと、片手におにぎり、片手にフォークに指した角煮を持って席を立ち、追いかけてきた。


しかし、
「マルクス様･･･」
こればっかりは、元日本人の私が、許すことはできない。
「お行儀が悪すぎます。王子が取る行動ではありません」
「あ･･･」
その後マルクス様は、すすすっと席に戻ってから、マイ握りと角煮を置いて
「ごめんなさい。調子に乗りました。
と言って頭を下げた。
 「食べている時に席を立つのは、こちらでもダメな行為のはずですよ」
「はい。以後気を付けます」
「次にやったら、食べているものを片付けますからね」
「それは嫌だ。嫌だから、絶対にやらない」
「そうしてください」

私はそう言うと、作業台に行き、お湯を準備し、簡単なミンソ汁を準備し持っていく。
「味噌汁･･･」
「ミンソ汁です。日本名で言っては、皆さんが混乱しますよ」
私の言葉に回りを見回したマルクス様は、やっと料理長や他の料理人達が居ることに気づく。
すると、マルクス様は食べるのを一旦やめて、両手で顔を隠し
「俺いま、スッゴい恥ずかしいこと･･･してた？」
と聞いてきた。
「･･･はい。皆様の居る前で、はしゃぎ過ぎておられました」
「だっ、だって、角煮･･･って聞いたら、止まるわけがない」

その気持ちは、分からないでもないですが･･･

「日本食は、美味しいですから」
私の言葉に、調理場に居た全ての人が頷いた。
どうやら、ここの料理人達の胃袋も、掌握してしまったらしい。