私の存在

第14話

コンコン「失礼致します。ハリエットお嬢様。夕食の準備が整いました」
夕食を知らせるメイドが、お姉様を呼びに来た。
「分かったわ。ここにミシェルもいるから、一緒に行くと伝えて頂戴」
「ミシェルお嬢様と、ご一緒ですね。畏まりました」
そう返すとメイド戻っていく。

「さぁ、夕食に行きましょう。
　悩み事は、お腹の空いている時にしても、意味がありませんわ」
「？どうしてですか？」
「お腹が空いているといい案は浮かばないの。
　しっかり食べて、元気になってからの方が、いい案が浮かびやすいわ。
　これは、私の持論だけど」
ふふふっと笑いながら、お姉様が私の手を引く。
私はお姉様に笑い返しながら、追いかける…


前の生では、起こり得なかったこと。
両親に放置され、兄には無関心を貫かれ、姉のおもちゃだった。
だから兄妹と、こんなに楽しい時を過ごしたことがない。
兄と話したかった。両親に、自分の声を聞いてほしかった。
姉と沢山の事を話して、色々な事を教えてもらって、女同士で遊びに行ったり…
そんな事をしてみたかった。

それが…私が転生してから、知り得たこと。
お兄様に話を聞いてもらい、心配してもらったり、
お父様とお母様に、沢山お話をしてもらったり、
お姉様と2人でドレスを選び、着せ合いしたり…
私は此処に居て良いよ…と、言って貰える場所に、ようやくたどり着いた。


「着いたよ」
と言って振り向いたお姉様は、びっくりした表情をして
「どうしたの？ミシェル…」
と叫んだ。
するとその直後、食堂の中からバタバタと足音が聞こえ、バタンと扉が開くと
「ハリエット、どうした？」
「ミシェルに、何かあったのか？」
「ハリエット。ミシェル。どうしたの？」
とお父様、お兄様、お母様の順に飛び出してきた。
私はその状況にびっくりして立ち尽くしていると、飛び出してきたお母様が私をぎゅっと抱きしめた。

えっ!?
「ミシェル、どうしたの？こんなに泣いて…」
私、泣いてる？
そう思い動く手で顔を触ると、頬が濡れていた。
なん…で？
そう思った時、前世の家族の、無表情な顔が浮かび上がる。

あぁ…私はあの人達にも、今の家族のようにしてほしかったのかな？
同じ、3人目の子供でも、こうも違う家族の対応に、前世の私が悲しくなったようだ。

「お母様、驚かせてごめんなさい。
　お父様、お兄様、お姉様も…心配かけてごめんなさい。
　私、なんだか嬉しくなったゃって…
　皆が私の事大切にしてくれて、優しくしてくれて、嬉しいなって
　思ったら涙が出てきちゃった。
　何でか分からないけど、これは嬉し涙だよ。心配しなくていいよ」
私がそう言った瞬間、お母様の涙腺が崩壊した。

私に抱きついたまま、わんわんと泣き
「私もミシェルが、こんなに優しい子に育ってくれて嬉しい。
　ハリエットもアクイラスも、人を思い合う兄妹で嬉しい。
　私の大切な子達が、こんなにいい子に育って母は…」
と言った。それを聞いていたお父様は、ウンウンと頷きながら
「さぁ、メリー。
　そろそろミシェルを離してあげないと、プルプルしてるよ」
と、私の状態を母に伝えてくれた。
「あっ、ご、ごめんなさい」
「大丈夫です。お母様」
その後、母は父に支えられながら席につき、私はお兄様とお姉様に
　エスコートされながら席につき無事、夕食にありつけた。
夕食の時は、皆が楽しい話をしながら食事を楽しんだ。