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第一章 私と俺
第2話
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奥様が、姿を消した日。
その家の子供は、必死に母を探した。
その人は母とは呼ばせてくれなかったが、自分にとっては唯一人の母だった。
でも…どこにも居なかった。
だからたまたま居た、父上に聞いた。
「母はどこ?」
と。
すると父上は
「部屋にいるだろ」
と言うが
「居ない」
見てきたことを伝える
「台所」
「居ない」
「居間」
「居ない」
あまりに子供が、居ないと言うので
「確認したのか?」
と聞くと
「屋敷の中、すべて探した。どこにも居ない」
と答えられ、すぐに子供が入ったことのない、あの女の部屋を確認した。
すると、そこに置かれた手紙と、離縁届に気付く。
「何だ。出ていったのか」
そう呟いた途端、後ろでガタッと音がして、走っていく足音が聞こえる。
「子供を捕まえろ!」
主人の指示に従った使用人に、捕まった子供はわめき出す。
母に合わせろと。どこに行ったと。そして、お前のせいだと…
「何故?私のせいなのだ?」
と主が子供に聞くと、
「お前が母を苦しませるから、母は出ていった。
お前はこの家で、何もしない。全て母がやっていた。
使用人も何もしない。全て母がやっていた。
使用人は、金をもらって母をこき使った。
だから今日、誰も片付けていない。何もしない。
これから先、この屋敷は回らない。だから俺は、この家を出る」
「お前は出せない」
「お前の言うことは聞かない。
話したこともないのに、指図するな。
お前のことは、母に言われていたから、父上と呼んだだけだ。
父ではない。俺はお前を知らない」
この家の主人は、言葉をなくした。
確かに、あの女にこの子を預けてから一度も話していない。
自分はあの後から、この家にも一週間に一日しか帰っていない。
なのに何で、いつも本宅より綺麗なんだ?
書類も毎日処理してあったし、屋敷のすべての部屋が掃除されていた。
使用人達は、いつも笑って楽しそうにしていたし…
それを全て、あの女がしていた?使用人は何もしない?
何で?
そう思った時、手紙が目に止まり、読んでみて理解した。
彼女は結婚式の夜、言われた事で、この生活になったと書いてあった。
皆の前で言ったことで、お飾りでもない、ただの奥様という肩書を持った女という扱いをされた。
自分の事は自分でと言われ、食事も出ないこの屋敷がとても汚く見えたと。
だったら、下働き、メイド、侍女と全てのことを自分が知っていた為、誰もやらないなら自分がすればいいと思い、全て自分がやっていた事も書かれていた。
俺はすぐに、この家の家令を呼び出し問いただす。
「お前はここで、何をしていた?」
「?お屋敷の、管理ですが…」
「では何故、今日はこんなに埃っぽいんだ?」
「えっ!?えっと…」
「今までいつ来ても、誇り一つ無く片付いていた。
執務室に溜まった書類も、綺麗に整理されていたが、
今日は全くされていない」
「はぁ!?何で?」
「それは俺が聞くことだ。お前が管理していた…そうだろ」
「……」
「そういう、役職だな」
「…はい」
「それで?」
「……わ、私は何も…していません」
「どういうことか、説明しろ」
「奥様?が来られてから、私は仕事をしていません」
「何故だ?その能力に合わせた給料を出しているはずだ」
「あ、あの人が全部してしまうんですよ」
「全部?」
「俺の仕事も、侍女やメイドの仕事も…だからすることがないんです」
「それは逆だろ。お前が率先してやらなかったから、妻が動いた」
「はっ、妻?妻ですか」
「何だ?」
「御主人様が、妻と言うのがおかしいんですよ」
「何故だ。結婚したし、式も上げた」
「それだけでしょ。皆言ってますよ。奥様って呼ばすに、あの女でいいって」
家令のその言葉に、俺はキレた。
「おい。この屋敷の使用人全員集めろ。一人残らずだ。
一人でも逃げたらお前の責任だ。分かったな」
「はっ、はい!」
家令はすぐに走り出し、半刻かからない内に全員を集めた。
俺はその正面に立ち、
「お前ら、全員クビ。結婚式以降の給料を、すべて返せ。
返せなければ全財産置いていくか、首を差し出せ。良いな」
と叫ぶと、俺についてきていた本宅の執事長に
「ここを任せる。お前なら全て顔と名前を把握しているだろ」
「畏まりました」
「給料は…」
「最初に、この者たちを決めたのは私です。
全て覚えていますので、ご安心ください」
その言葉に頷いた俺は、その場を後にした。
その家の子供は、必死に母を探した。
その人は母とは呼ばせてくれなかったが、自分にとっては唯一人の母だった。
でも…どこにも居なかった。
だからたまたま居た、父上に聞いた。
「母はどこ?」
と。
すると父上は
「部屋にいるだろ」
と言うが
「居ない」
見てきたことを伝える
「台所」
「居ない」
「居間」
「居ない」
あまりに子供が、居ないと言うので
「確認したのか?」
と聞くと
「屋敷の中、すべて探した。どこにも居ない」
と答えられ、すぐに子供が入ったことのない、あの女の部屋を確認した。
すると、そこに置かれた手紙と、離縁届に気付く。
「何だ。出ていったのか」
そう呟いた途端、後ろでガタッと音がして、走っていく足音が聞こえる。
「子供を捕まえろ!」
主人の指示に従った使用人に、捕まった子供はわめき出す。
母に合わせろと。どこに行ったと。そして、お前のせいだと…
「何故?私のせいなのだ?」
と主が子供に聞くと、
「お前が母を苦しませるから、母は出ていった。
お前はこの家で、何もしない。全て母がやっていた。
使用人も何もしない。全て母がやっていた。
使用人は、金をもらって母をこき使った。
だから今日、誰も片付けていない。何もしない。
これから先、この屋敷は回らない。だから俺は、この家を出る」
「お前は出せない」
「お前の言うことは聞かない。
話したこともないのに、指図するな。
お前のことは、母に言われていたから、父上と呼んだだけだ。
父ではない。俺はお前を知らない」
この家の主人は、言葉をなくした。
確かに、あの女にこの子を預けてから一度も話していない。
自分はあの後から、この家にも一週間に一日しか帰っていない。
なのに何で、いつも本宅より綺麗なんだ?
書類も毎日処理してあったし、屋敷のすべての部屋が掃除されていた。
使用人達は、いつも笑って楽しそうにしていたし…
それを全て、あの女がしていた?使用人は何もしない?
何で?
そう思った時、手紙が目に止まり、読んでみて理解した。
彼女は結婚式の夜、言われた事で、この生活になったと書いてあった。
皆の前で言ったことで、お飾りでもない、ただの奥様という肩書を持った女という扱いをされた。
自分の事は自分でと言われ、食事も出ないこの屋敷がとても汚く見えたと。
だったら、下働き、メイド、侍女と全てのことを自分が知っていた為、誰もやらないなら自分がすればいいと思い、全て自分がやっていた事も書かれていた。
俺はすぐに、この家の家令を呼び出し問いただす。
「お前はここで、何をしていた?」
「?お屋敷の、管理ですが…」
「では何故、今日はこんなに埃っぽいんだ?」
「えっ!?えっと…」
「今までいつ来ても、誇り一つ無く片付いていた。
執務室に溜まった書類も、綺麗に整理されていたが、
今日は全くされていない」
「はぁ!?何で?」
「それは俺が聞くことだ。お前が管理していた…そうだろ」
「……」
「そういう、役職だな」
「…はい」
「それで?」
「……わ、私は何も…していません」
「どういうことか、説明しろ」
「奥様?が来られてから、私は仕事をしていません」
「何故だ?その能力に合わせた給料を出しているはずだ」
「あ、あの人が全部してしまうんですよ」
「全部?」
「俺の仕事も、侍女やメイドの仕事も…だからすることがないんです」
「それは逆だろ。お前が率先してやらなかったから、妻が動いた」
「はっ、妻?妻ですか」
「何だ?」
「御主人様が、妻と言うのがおかしいんですよ」
「何故だ。結婚したし、式も上げた」
「それだけでしょ。皆言ってますよ。奥様って呼ばすに、あの女でいいって」
家令のその言葉に、俺はキレた。
「おい。この屋敷の使用人全員集めろ。一人残らずだ。
一人でも逃げたらお前の責任だ。分かったな」
「はっ、はい!」
家令はすぐに走り出し、半刻かからない内に全員を集めた。
俺はその正面に立ち、
「お前ら、全員クビ。結婚式以降の給料を、すべて返せ。
返せなければ全財産置いていくか、首を差し出せ。良いな」
と叫ぶと、俺についてきていた本宅の執事長に
「ここを任せる。お前なら全て顔と名前を把握しているだろ」
「畏まりました」
「給料は…」
「最初に、この者たちを決めたのは私です。
全て覚えていますので、ご安心ください」
その言葉に頷いた俺は、その場を後にした。
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