きずな食堂へようこそ!

猫田ちゃろ

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安心できる場所(後編)

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きずな食堂に通い始めたショウタは、少しずつ心を開いていった。サトウさんやオーナーのコバヤシさんは、いつでも彼の話を優しく聞いてくれる、信頼できる大人だった。
また、きずな食堂に通ってきている子どもたちともどんどん打ち解けることができ、同い年のナオキやユウカ、タモツとはよく会話も弾んで楽しい時間が過ごせた。
中でもきずな食堂に誘ってくれたタモツには感謝の気持ちしかなかった。

ある時、食事を終えたショウタは、なぜ自分をここに誘ってくれたのかとタモツに聞いた。

「ショウタが助けを求めてるんじゃないかって、思ったから」
「そんな風に見えた?」
「うーん……きずな食堂に来てるとさ、みんな色々あるしね……なんとなくわかるって言うか」

父親はショウタの体の見えるところに痣を作ったりはしなかった。蹴ったり踏みつけてくるのは主に背中や臀部で、腹部もたまに。
近所の人は音や怒声で気付いてはいるだろうが、わざわざ声を掛けてくることもなかったし、自分から今まで誰かに話したこともない。だからショウタが親から暴力を受けているとはタモツも知らない。が、ショウタが無言で出しているSOSを察知してくれたのだ。

「ショウタくん、何か困っていることがあったらいつでも話してね。私たちはみんな、君の味方だから。」

ことある毎に掛けられるサトウさんのその言葉にも、ショウタの心は少しずつ解けていった。彼はタモツやサトウさんたちに、自分の家庭のことを打ち明ける決意を固めはじめた。

ショウタの母親は家での状況に悩み、苦しんでいた。夫の暴力は日増しに激しくなり、体がすくんでショウタを守ることができない自分自身に失望していた。

ある晩、ショウタは父親が眠ったのを確認したあと、ひとりで片付けをしている母親に話し掛けた。

「お母さん、僕は今、きずな食堂っていう子ども食堂に行ってるんだ。そこのみんなは、大人の人も友達も僕のことを気にかけてくれてる。」

母親はショウタの帰りが最近遅いことには気付いていたが、何が父親の刺激になるかわからないので、何をしているのかを聞いたりはしていなかった。
晩御飯も適当にコンビニで買ってきているものだとばかり思い込んでいた。あまりにも息子の行動を把握できていなかったことに、改めて母親失格だとショックを受けた。

「みんな僕の味方だって言ってくれた。僕はその人たちを信じる。」

その話を聞いて膝から崩れ落ち嗚咽を洩らした。彼女もまた、限界はとうに過ぎていた。誰かに助けを求めたいと思いながらもどうすれば良いかわからず、勇気が出せずにいたのだ。

ショウタはサトウさんに家庭の状況を打ち明けることを決心した。

次の日、虐待を打ち明けられたサトウさんは深くうなずき、真っ直ぐにショウタを見つめて言った。

「ショウタくん、勇気を出して話してくれて本当にありがとう。私たちができることを一緒に考えよう。」

サトウさんときずな食堂のオーナーのコバヤシさんは、すぐに児童相談所に連絡を入れた。
ショウタがひとり保護されても、母親の身が危険だ。区役所にも相談をして、女性と子どもを受け入れる保護シェルターを紹介してもらった。

緊急を要すると、ショウタと母親はすぐに避難出来ることになった。身を隠している間に、警察が介入するという。

「色々お世話になりました」

避難する前に、ショウタは母親ときずな食堂に寄って挨拶をした。
怒り狂った父親が探して追いかけてくる恐れがあるため、暫くは登校も外出もしないつもりだった。

「お父さんのこと解決して、落ち着いたらまたいつでもご飯を食べに来てね」
「サトウさん、コバヤシさん。本当にありがとうございました。信じて、良かった。」

警察や児童相談所が父親に話をしても、簡単に態度を改めることはないだろう。ショウタの戦いはまだスタート地点に立ったばかりだ。
けれど彼は、きずな食堂がある限り負けることはないと確信していた。
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