短編集

いといしゅん

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世界の創成者

いといしゅんの思い

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意識が黒く染まったと思った次の瞬間、またあの場所に来ていた。
「やぁ、君の望み通り話を完結させたが気分はどうだい?」
そう言ったいといしゅんに対してただただ怒りが湧くが、
ここで怒鳴ってはさっきと同じ結果になることが目に見えているのでやめておく。
「最悪の気分だよ」
本当に最悪の気分だった。
冷たい死が迫るあの感覚はもう2度と味わいたくない。
しばらく無言が続く。
どれくらいの間無言が続いただろうか。
「君はさっきのエンドで本当にいいのかい?」
いといしゅんが唐突にそう問いかけて来た。
良い訳がないだろう。
あんな死の体験をして、さらに、のだから。
いといしゅんは俺の心を読み取り、
「それが、君の答えか」
と呟いた。
そして、いといしゅんは
「君の彼女への愛は本物のようだ。最後まで書き綴ってあげよう。君たちの幸せの物語を」
と宣言した。
それに対し、俺は疑問を抱いた。
「なぜ、僕の気が変わったのか疑問に思うかい?」
その疑問を解消しようとしてくれているのか、いといしゅんはそう問いかけて来た。
「教えてくれ!どうして、さっきあんな話を書いた?どうして、幸せの物語を創りなおそうとしてとしてくれた?」
俺がそう叫ぶと、いといしゅんは一拍置いてからこう告げた。
「世界の理に気づいたキャラは自分が愛したキャラが偽物と知り、愛は小さくなっていく。それを見ていて、いや、書いていて僕はただただ辛いんだ。だから、君の彼女への愛がどれほどか確かめるために、さっきのような世界を体験させた。やり方は少し強引だけどね。自分に死が近づいた時誰のことを想い続けるか。それを僕は見ていたんだ。しかし、君はその事実を知った今でも彼女を愛し続けている。だから、あれで僕は君たちの物語を最後まで書き綴りたいと思ったんだ。まぁ、君が書き手はただ話を書き綴ればいいっていう君の言葉が癪に触ったっていうのもあるけどね」
俺がその答えの膨大さに理解できずに困惑していると、
「愛は大切なものだ。人の生きる意味となる。それがない話なんて僕は書きたくもない。それだけのことだよ」
といといしゅんは簡潔にまとめてくれた。
「愛のある世界を僕は書きたいんだ……。さて、そろそろ時間だよ。君と彼女の幸せな時間を僕は書き綴ろうじゃないか。さぁ、楽しんでおいで、糸井修。これは君が幸せを感じるための話だ」
その言葉をいといしゅんが最後まで言い終わると同時に俺の意識は遠ざかり始めた。
遠ざかる意識の中で俺はいといしゅんにこう呟いた。

ーありがとうー

と………

--------------

そして、俺の意識は覚醒した。
周りを見れば、バスがこちらに向かって来ていた。
戻ってこれたってことか……
そして、俺はバスに乗り込みいつもの仕事場へ向うのだった。
柚月と共に生きる日常が幸せだと感じながら…

【世界の創成者 終】
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