【完結】一緒なら最強★ ~夫に殺された王太子妃は、姿を変えて暗躍します~

竜妃杏

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5.オフィーリアの過去 ~絶望~ 

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*後半、残酷なシーンが含まれております。
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* * * * * * * * * * 







 仕事の合間を見つけては妻の元を訪れていたオズウェルが来なくなってから、もう数ヶ月経っていた。悪阻が酷い時期はとうに過ぎ、もう臨月間近となっているにも拘わらず、夫は姿を現さない。



「ハンナ? オズは今日も執務よね? 後でお部屋にお伺いしてはダメかしら?」 



 一目会いたいと、ハンナに夫の予定を確認してもらおうと声をかけるも、彼女は穏やかに微笑んで首を横に振った。


 
「妃殿下、ここ最近、隣国との関係があまり思わしくなく、殿下もその調整に追われているそうです。寝る間も惜しんで方々に出かけておいでとか。宰相閣下からも、今は妃殿下のお体を最優先にするようにと仰せつかっております」

「そう。大変なのね」 



 隣国との条約改定の項目を見直すのが忙しい、辺境への物資輸送のルート開発が忙しい、新しい港を作るのに忙しい。すぐに判る嘘を並べ立て、夫が自らの元を訪れなくなった理由。それがリリスとの逢瀬を楽しむためのものだとオフィーリアも判っていた。 



 はじめのうちは周りの皆に心配をかけまいと気丈に振舞っていたオフィーリアだったが、その心労もピークをとうに超えてしまった。 


 ある日、窓から見える庭園の向こう側から、オズウェルとリリスの楽しそうな笑い声が聞こえて来た瞬間、彼女を支えていた細い何かがポキリと折れた。それからというもの、オフィーリアは耐え切れずに、ひとり涙を流す日が続いていた。 


「オフィーリア様、そんなに思いつめられては、お腹のお子にも良くございません。温かいココアをお持ちしますので、それをお飲みになってゆっくりとお休みになって下さい……」 



 ハンナが、夜遅くなっても中々寝付こうとしない彼女を心配して声をかける。 


「そうね。ありがとう。そうするわ」 



 すでに臨月に差し掛かろうとしている彼女の下腹部は、大きくせり出してきている。そのお腹をゆっくりとさすりながら、ハンナが準備してくれたココアを飲もうと手を出しかけた時、部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。


「オズ?」
 

 夜遅くオフィーリアの部屋を訪れたのは、しばらくぶりに顔を見せた夫のオズウェルだった。久しぶりに夫が来てくれたという喜びを胸に抱いたのもつかの間、彼の普通ではない形相と、後を追うように連れて来られたハインツの姿に驚き、ただ事ではないと息をのむ。
 


「リア!お前がまさかこんな女だとは思ってなかったぞ!この裏切り者っ!腹の子はこいつの子だろうっ!」
「は? 何を言ってるの?」

 

 オズウェルが手を後ろに縛られたハインツを徐に突き出す。

 

「殿下!違います!私と妃殿下はそのような関係ではありませんっ!」
 


 ハインツが必死に訴えかけるも、オズウェルは鬼のような形相で彼を睨みつけては足蹴にした。

 

「とぼけるなっ!妃の腹の中の子の気と、貴様の気が同じだと聖女が言うのだ!彼女が嘘をいう訳がないだろう!二人で私を騙して、陰で笑っていたのだろう? チッ!忌々しいっ!」

「オズ!違います!この子は本当にあなたの子です!神に誓って嘘ではありませんっ!」
 



 オフィーリアとハインツが揃って否定する姿に、オズウェルはリリスの言っていたことが正しいのだと思い込む。そして、まるで悪魔にでも魅入られたような恐ろしい形相で自らの剣を抜いた。
 


「オズっ、本当ですっ!信じてください!」
 


 そんなオフィーリアの叫びも虚しく、オズウェルは抜いた剣でためらいもなく彼女を切りつけようとする。
 


「オフィーリアっ!!」

「妃殿下っ!」
 


 咄嗟に駆け出して彼女を守ろうとしたのは、護衛でも誰でもなく、彼女の侍女であるハンナだった。オズウェルの剣はそんなハンナの首を容赦なく切りつけ、彼女は首元から血を吹き出してそのまま倒れこむ。
 


「ハンナっ!!」

 

 自分を守ろうとした血塗れのハンナを抱きしめ、オフィーリアは涙を流す。しかし、それだけでは気の済まないオズウェルは、そのまま剣の矛先をオフィーリアへと向けた。
 


「ちっ、小賢しい侍女め!まぁ、どのみち殺すつもりだったから良いか」

 

 その言葉を聞いて、夫が既に正気ではないと悟った。  


「あなたは、リリスに入れ込んだ挙句、私よりもあの女の言う事を信じるのですか? だから邪魔になった私を、腹の子もろとも消そうというのですか!」

「はっ!自分の不貞を棚に上げ、何を偉そうなことを言う!」

「不貞をしているのは、あなたじゃありませんかっ!」

「ええい!うるさい!うるさい!うるさいっ!」
 


 発狂したオズウェルは、涙を流しながら訴えるオフィーリアに再度切りつける。そして切られたオフィーリアが信じられないと言うように大きく瞳を見開いた瞬間、今度はその腹に思い切り刃を付き刺した。
 


「あぁっ!うそっ、わたしのっ、赤ちゃんっ」
 


 オズウェルが抜いた剣の先から、おびただしい量の血液と体液が流れ出る。全身から流れ出る生ぬるい感触に涙を流しながら、オフィーリアはまだ懸命に子供を守ろうと必死にお腹を抱え込んだ。
 


「いや、うそっ、だ……れ、かっ」

 

 そして守り切れなかった小さな命に想いを馳せながら、徐々に意識を遠のかせる。 


 消えゆく意識の中で、愛する夫の手で殺される無念と、夫をそそのかし、この惨劇を巻き起こした元凶であるリリスに抱えきれない恨みを抱く。扉のすぐ横で、ひっそりと気配を消しながらも口元を歪に釣り上げ嘲笑う彼女の顔が見えた。

 

(許せない。絶対に、許せない!)

 

 このままでは死ねない。死んでも死にきれない。怨霊になってもいいから恨みを晴らしたい。彼女が生まれて初めて感じた激情だった。そして彼女が息を引き取るその瞬間、赤子がいたはずの腹からまばゆい光が溢れ出した。その光は瞬く間に広がり、王宮じゅうを覆う。
 


「なっ、何事だっ!」

 

 辺り一帯を覆う眩しい光が治まったあとには、無残にも殺されたオフィーリアの侍女の亡骸だけが残されていた。
 


「リアの遺体がっ、ない?」
 


 不思議なことに、オフィーリアと胎児の亡骸が忽然とその場から姿を消していた。

 

 



 
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