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第二十話:最終決戦。
30最終決戦。
しおりを挟む袖元から箱を取り出すと、中から注射器を取り出す。
「割れておらんようだな。……これで、こちらは片が付いた」
青龍に注射を刺しながら、今鏡は深い溜息を吐き出した。
殺して良ければもっと楽だったのにと腹の中で思う。
けれど、この期に及んで一瞬でも自我を取り戻した青龍に、少しばかり好感を抱いていた。
彼があの瞬間、自我を取り戻していなければ、朱雀は今頃どうなっていた事か。
面白いモノでも見るように目を細めて今鏡は笑う。
「ザックン、ココちゃんに温めて貰おう?ココちゃーーーん!おーい!たーすーけーてー!」
ブンブンと手を大きく振ってこちらへ歩いてくる九重に助けを求めてみる。
走る気はさらさら無いらしい。
「貴様は突然走り出して、何をしているんだ。貴様に縄を付けるべきだった」
「犬じゃないよ!!それよりココちゃん!ザックン温めて!衰弱してる!返事もしてくれないよ~」
突っ立ったまま腕組をして傍観している九重の袖を引いて、七曲がオロオロと朱雀の額に手を当てる。
「貴様が話す間を与えないだけじゃないのか?」
仕方ない、と言わんばかりにその場にしゃがむと、九重は朱雀の手に触れた。
「狐火」
九重の生み出した炎を、朱雀の身体は吸い込むように吸収する。
「わぁ!やっぱりザックンの源って炎なんだね~。熱くないのかな?」
「炎の神獣が炎で火傷などするわけがないだろう?衣服は別だが」
「あ~。それで手からなんだね。服の上からだと燃えちゃうから。真っ裸にするわけにはいかないもんねぇ~」
どこかしみじみと七曲は九重と朱雀を見た。
「それで、向こうは片が付いたのか?」
九重の問に七曲は今鏡と青龍へ視線を向ける。
ぐったりと弱った青龍が縛られ転がされていた。
「決着付いたんじゃない?大天狗サマ~!終わったー?」
「針は刺したぞ」
今鏡が空になった注射器を二本見せる。
「青龍が正常に戻れば、問題無いのかなぁ?」
う~ん、と七曲は悩ましそうな顔をした。
「ひとまず、楓、だったか?あやつに使役して貰っておけ。呼び出したのはあのセイフとか言う男だろ?また何かしら影響を受ける可能性が否めない」
九重の言葉に七曲はすくっと立ち上がると、今鏡のところへ歩き始める。
「だって。かーくんとこ行こっか!ザックンはココちゃんが看ててくれるだろーし」
七曲が青龍を担ぎ上げると、今鏡はそのあまりの長身に目を瞬いて見上げた。
「貴様はえらく背丈が高いのじゃな」
「えっへへ~。良く頭をぶつけるよ~。あ、じゃあ、かーくんとこ行って来るね~!ザックンよろしくー」
そう明るく声をかけると、七曲と今鏡は楓の元へと向かった。
「騒がしくてすまない」
「……はぁ、問題、ない。……助かった。感謝する」
薄っすらと瞳を開けた朱雀は、細くそうお礼を口にする。
その唇は徐々に赤さを取り戻していく。
「青龍をこちら側へ置ければ、大洪水は免れるな」
「ああ。後は、あの方舟を燃やすだけだ。……ふぅ。もう、大丈夫だ」
ふらりと立ち上がった朱雀は、九重から数歩距離を取ると、自分の身の周りを炎の渦で囲う。
炎が治まった頃には朱雀の服も髪もすっかり乾いていた。
「よし。お前は……方舟の方を任せた。私は、この洋館に誰も居ないのを確認したらここを燃やす」
「ああ、分かった」
互いにやるべき事を成すために、二匹はその場を後にした。
◇◆◇
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