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第二十話:最終決戦。

31最終決戦。

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「……いい加減にしてよ。ただでさえ裸体に布巻いた人達縛って転がしてんのに。増やすとか」


楓はあからさまに顔をしかめて七曲を見た。


「ごめんねぇ~。でも、彼を今開放してあげられるのかーくんだけだからさぁ~」

「開放?」


怪訝けげんそうな顔をする楓に、七曲は良い笑顔で答えた。


「そう!彼、青龍は政府の男に呼び出されたでしょ?でも使役しえきはされていない。だから、かーくんが彼を使役して。男の呪縛から解き放ってほしいんだ!」


「……俺、別に中二病とかじゃないから。そんな言い方されてもやる気に満ち溢れたりとかしない」

「ヤダヤダやる気出してーーーー!!」


七曲は青龍を抱えていない方の手で楓の胸倉を掴むと前後に揺さぶった。

一緒に来た今鏡は飽きたのか、疲れたのか。

近場の手頃な木に登ると、羽休めをしている。

説得はおしゃべりな七曲に任せるのが無難なのだろう。


「青龍がこちら側にくれば向こうの手札を一つ潰したも同然じゃな」


雪音がふむ、と考え込むように呟いた。

さすがにそれを聞けば、楓も嫌だとは言えない。

長い溜息を吐き出して、楓は神鳩かみばとに手を差し出す。

何も言っていないのに、神鳩は何も書かれていない御札と筆ペンを手渡した。


「ほう、アンタのところも筆ぺんなのじゃな」

「墨ヲっていたら、遅いと……怒ラレタ」


しょんぼりする神鳩に、雪音は少しばかり哀れに思う。

けれども確かに、さっくり終わらせたい気持ちも分からなくはない。


「ねぇ、リュウくん起きてる~?あのね、あの政府の男から開放したいからさぁ、御札おふだに名前書いてよ。ね?お願い」


七曲が両手をパン!と叩き合わせて、縄で縛られ転がされた青龍の目の前に正座してお願いをする。

苦しそうに浅く呼吸を繰り返している青龍は小さく頷いた。


「わ~!ありがとう!じゃあ、コレに名前書いて~!あ、その前に縄を解くね!」


縄を一旦ほどき、その手に御札と筆ペンを握らせる。

抵抗はしなかったが、手が震えて思うように書けないようだ。


「なんか、無理やり感が否めない風景なのは気のせい?」

「気のせい、気のせい!」


楓がなんとも言えない気持ちになっている中、隣に立つ七曲がケラケラと笑って楓の背中を叩いた。

青龍はなんとか血印まで押すことができ、楓のサインによって青龍を楓の使役下に置くことが出来た。


「これで、とりあえずは政府の男の魂胆を一つ潰したわけか」


楓が自分のサインをした御札をしみじみと眺める。


「さぁて、じゃあ今度こそ、紗紀ちゃんを護りきってこの戦いに終止符を打つとしようかね~」

「七が言うと締まりが無いな」


いまいち盛り上がりに欠ける、と雪音が切り捨てた。


「ヒドイ……。あ、ココちゃんだ!おーい!」


ぶんぶんと大きな手を振ってお出迎えをする。

彼の後ろに朱雀の姿は見当たらない。


「あれ?ザックンは?」

「館の中を一通り確認した後に館を燃やすそうだ」

「元気になったようで良かったよ。じゃあボクらは方舟はこぶねに向かいましょうか!」


七曲は大きな満月を指差してそう言う。

七曲、雪音、九重、今鏡が方舟はこぶねへと向かい、楓、神鳩、青龍はその場に残り人間を守る事となった。


 ◇◆◇


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