わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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24 過去との遭遇

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「そろそろ出るか」
「そうですね。ご馳走様です」
「美味かったか?」
「はい。食べすぎたぐらいです」

 オレンジの落ち着いた照明の下で食べる創作料理はどれも絶品だった。店の雰囲気も落ち着いていて、完全個室で周りの目も気にならない。久世社長曰く「いつ来ても間違いない」という和食ダイニングでの食事は思ったより話も弾んだ。

 もっぱら話していたのは私の方。今日に備えて色々と話題を考えていたのは正解だったみたい。だけど一番盛り上がった話はやっぱり――美容業界のこと。同業他社の商品について話していた時が一番会話のキャッチボールが続いた。

 久世社長ならではの視点も聞けたし、私も大好きなコスメのことになるとしゃべりっぱなし。だけど不思議なことに意見や感想が一致することも多かった。それだけお互い美容業界が好きってことかもしれない。

 ゆっくりと美味しい料理とお酒を味わって約2時間。久世社長の一声で店を出る。

 今日は料理に合わせて日本酒を飲んでいるので立った瞬間にふわりと頭が揺れる。普段日本酒は飲まないから、身体がびっくりしてるのかも。頬に広がる熱に無意識にぎゅっと椅子の背もたれを掴むと、自然な流れで背中に大きな手がそっと触れた。

「大丈夫か?」
「――っ、大丈夫です。すみません、普段日本酒飲まないから」
「そうか」

 お礼を言って、そのままエスコートされて店を出る。知らない内に会計を済ませてくれていたようで、こういうところほんとスマートで、大人の男性って感じがする。ちょっとズルいなんて思ってしまう私は、この人のいい所を見つけたくないみたい。

 だってこれ以上、この冷徹社長を知ったら――ますます気になっちゃう。
 
「一度部屋に戻るか?」
「いえ、大丈夫です。せっかくだからバーも行ってみたいです」

 ここのホテルの最上階にはバーがある。都会の夜景を眺めながら美味しいカクテルを味わえて、せっかくだから行きたいって言い出したのは私の方。バーの雰囲気に流されるのは目に見えてるけど、それでも貴重な体験のチャンスは逃せない。

「もうちょっと飲みたい気分なんです」
「わかった。――すまない。出ないといけない電話だ。そこのラウンジで少し待ってろ」
「わかりました」
 
 丁度ラウンジの前を通りかかった時、久世社長がジャケットの内ポケットで震えたスマホを取り出す。画面を見て、歩みを止めると短い指示の後、電話のために離れていった。
 
 誰からの電話かはわからない。だけど私は同業他社の社長秘書だから聞かれたら困る話も多いだろう。だから自然な流れで、私も返事のあと、ラウンジのソファに座る。シックなソファと控えめな照明、低く流れるピアノの音。

 いいホテルだけあって、ラウンジの雰囲気も素敵。丁度いい酔い冷ましにもなるし、久世社長が戻ってくるまでゆっくりと待ってよ。

 そう思いながら、窓の外を眺める。すっかり夜でバーからの景色は最高だろう。それこそ、部屋でも夜景が一望できるはず。

「どうしよう……私普通に楽しんじゃってる」

 美味しい食事も会話も……こうやってデートしてることも戸惑いはあるけどもう嫌じゃない。最初はあんなに嫌だったのに。たった数ヶ月で私は身体だけじゃなくて心も久世社長に奪われてる気がする。この後、どうなるか考えるだけで、身体の奥がじわりと熱くなるぐらい。

 そんなことを考えていると、ひとつの足音が近づいてきた。スマホを見ていた私の視界に入り込んだ革靴にてっきり久世社長が戻って来たんだと思った――だけど、聞こえた声に耳を疑った。

「――茉乃ちゃん」

 数年ぶりに聞く柔らかい声、革靴から視線を上げた私の瞳に飛び込んで来た人物に浮かれていた気持ちが、一瞬で氷のように冷めた。
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