わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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「……聞かないんですか?」

 零れた声は思ったよりも小さかった。
 どうして何も聞かないのだろう。いつもと違う態度に戸惑いを隠せない。だから……つい聞いてしまった。どうして何も聞かないの?

「いつもなら、すぐ怒ってくるのに……。なんか……ちょっと拍子抜けです」

 圭吾さんと話している時からずっと考えていた。どう説明しようかと。なのに、その説明は今のところ出番はなさそうだ。本当にそれでいいの? そう思ってしまうのは――“彼”が聞きたいんじゃなくて“私”が話したいって思ってるのから……なのかもしれない。

 ゆっくりと久世社長が振り返る。いつも通り読めない表情で私を一瞥すると、視線でソファへと座るように促された。拒むことはせず、私は久世社長の隣へと座った。ルームサービスのコーヒーを飲んでいた時よりも近くに座ると、久世社長の匂いと近くなる。圭吾さんとは違う香りに、強ばった身体から力が抜けていくようで。

 そっか……私、久世社長の隣にいると緊張するけど同時に安心するんだ。

「話したいなら勝手に話せ」
「……そんな言い方……!」

 ほんの少し素っ気ない言い方に下唇を噛む。胸が苦しいのは圭吾さんに会ったから? 弁解させてくれないから? それとも――久世社長に誤解されたくないから?

 わからない。感情がぐちゃぐちゃで、何から話せばいいかわからない。いや、話さなくていいんだけど……。そう言い聞かせても、動く唇を止めることが出来なかった。

「あの人は……昔付き合ってた人……です」
「……」

 どうして正直に打ち明けたのかわからない。知り合いですって言えば誤魔化せるのに……。けどこの人は私の気持ちを読むのが上手いから、きっとバレちゃう。

「付き合ってた……というか……。私は付き合ってるつもりだったんですけど、あの人はその……別に本命がいて。所謂私はセフレでした……。彼が結婚するって話を聞いて問い詰めたら、私が勝手に付き合ってると思ってただけってわかって、それで関係を終えました」
「……」
「私……あの人にとって都合のいい女だったんです。本命以外と遊びたいあの人にとって……だから……」

 こんなに詳しく話す必要なんてない。なのに、止まらなかった。胸に渦巻く負の感情に押し潰されそうになってぎゅっと指先を丸める。だけど、久世社長は黙ったまま沈黙を貫いている。

 だけど考えてみれば変な話だ。

 今隣にいるのは私を都合のいい女扱いしている――かもしれない人。その人に過去を打ち明けるなんてどうかしている。どうしてこんなに話してしまうんだろう。知られたくないのに、知ってほしい。

「前に言いました……よね? 『私は都合のいい女じゃない』って。あれは圭吾さんのことがあって……もうあんな気持ちになりたくなくて……」

 そこまで言ってまた唇を噛む。せっかく新色の口紅を付けているのに……こんな時でさえ、そんなことを考えてしまう。

 ちらっと視線を上げて久世社長の横顔を見つめる。すると、沈黙を保っていた彼がようやく口を開いた。

「――見る目のない男だな」
 
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