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30 サプライズの先に
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しおりを挟むゆっくりと振り返るとさっきまでパーティー会場にいたはずの久世社長の姿が飛び込んで来る。いつも通り、身なりを整えて、上質なスーツを着こなした完璧な冷徹社長。
華やかな会場の喧騒から切り離された静かな空間に、彼の存在だけが際立つ。
「パーティー……まだ終わってないんじゃ……?」
「あとは会社の奴に任せた。挨拶は全員終わったからな」
「そう……ですか」
どうしよう。予想外の展開が続いたせいか、目の前のベッドの上にあるものが気になるせいか、頬が熱い。ぷいっと久世社長から視線をそらしてしまったのもそのせい。
今、目が合ったら気持ちが溢れちゃいそう……。
だけど彼はそんな私に構わず近づいてくる。すぐにその声がまた近くなった。
「黒瀬」
「――~~っ!」
後ろから強く抱き寄せられ、腰を包む指先の熱に背筋がぞくりと痺れる。
「不満そうな顔をしていたな」
「だって……」
淡々と紡がれる指摘に込み上げる恥ずかしさに逃げたくなる。首を動かして、久世社長を見上げるとその冷たい瞳が私を捉えて、近づいた唇にそっと瞼を落とすのはもう必然的だった。
「――ん」
小さく零れた声を、優しい唇が塞ぐ。冷徹なはずの彼から落とされる口づけは、甘すぎて不似合いで――唇に広がるのは、さっきまで会場で口にしたシャンパンの余韻。
数秒の短いキスの間に私の身体はひっくり返されていた。正面から抱きしめられて、逞しい腕の中で上質なスーツを掴む。全身が久世社長の香りに包まれると心の奥にある小さな靄が薄くなった。
「嫉妬してただろ?」
「……別に嫉妬なんて……」
「本当か?」
「……う……っ」
どうしてこの人はいつも私の心を読んじゃうの? と、いうか……あれだけ挨拶などで招待客を持て成すのに忙しそうだったのに私の顔勝手に見てるなんてズルい。
扉を閉めて、しっかりと鍵を閉めて隠した感情を簡単に引き出される。まるでそれが当たり前のように。なんてずるい人。
「そんなことより……! あれ……なんですか?」
抱き着いたまま、ベッドの花束と小さな箱を指差す。
さっき彼はこれらを私へのものだと肯定したから久世社長お得意のサプライズなのはわかった。けど……毎回予想外過ぎてびっくりしちゃう。
久世社長の唇がまた動く。だけど、相変わらず淡々として、素っ気ない声。
「見たらわかるだろ?」
「わかるけど……どうして……?」
まるでなんてことない、と言わんばかりの声と表情。やってることは似合わないことばかりなのに、ますますズルい。
「開けてみるか?」
「いいんですか?」
「ああ」
手を引かれて、ヒールを脱いでベッドに上に腰を下ろす。2人分の重さにスプリングが弾んで、それから私は花束の横に置かれたリボンで包まれた箱に手を伸ばした。
「久世社長って……サプライズ得意なんですか?」
近くで見る薔薇は綺麗で深紅に染まった薔薇を無意識に数える。数えてみたけど途中でわからなくなった。意味があるのかもしれないけど、今はまだわからない。
最近の久世社長はサプライズ演出ばかり。こんな人だとは思ってなくて、意外……。だからつい聞いてしまった。
もしかしてロマンチストなのかも……と思ったけど久世社長は「サプライズは性に合わない」と即答した。
「どう反応するか分からないものを用意するより、予め聞いていた方が楽だろ」
「……じゃあなんで……?」
言葉と対応が本当に合ってない。
「好きじゃない」と言う割には……私の手は小箱の重みを感じている。それに――今日付けてるヘアクリップだってサプライズで貰ったものだ。
――全然、言動が一致しない。だからこそ……ずるい。
そっと久世社長の手が頬へと伸びてくる。顎を持ち上げられると触れるだけのキスで言葉を奪われた。近づいた距離にまたベッドが弾み、私の心も簡単に弾んだ。
「お前は好きだろ?」
「え……?」
「サプライズされると嬉しいタイプだろ? だからだ」
じっと瞳を見つめられると頬が熱くなる。なんなのこの人……? どうして……私のこと全部知ってるの?
この嬉しい感情だって当たり前のように読まれている気がして、ちょっと怖い。だけど……飛び跳ねたくなるぐらい嬉しい。
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