心、買います

ゴンザレス

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1章

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 昼休みは、全校生徒が開放感に包まれ、元気を取り戻す時間。朝の時間に返したかった一条の鍵を時間のある昼休みになって返そうと、教室を出る。今朝は時間ギリギリに登校し、挙げ句に普段なら素通りするような面倒にごとに足止めを食った。数時間前の回想が脳裏を過り、思わず通り過ぎる生徒たちから視線をそらす。

 一条のクラスまでは端と端の位置にあり、距離があった。その間、通り過ぎる生徒たちの視線を躱して一条のクラスにつく。用件だけ済ませるつもりだった。

「一条君! さっきの先生が言ってた李徴の心情のところ、いまいち理解できなかったんだよね、教えてくれる?」

 教室から見えるのは、柳瀬に纏わりつく一条ではなく、周りが一条に纏わる光景。先刻の授業は現国で山月記をやっていたらしい。

「ざっとこんな感じかな。でも、僕的には、李徴好きだな」
「ええ? 聞いてると自業自得じゃない?」

 周りと溶けこまずに自分の能力だけを信じた挙げ句に、傲慢さと自尊心を肥大化させ、虎になってしまったのではないかと語る李徴の話だ。そこに一条は持論を展開し始め、柳瀬は話の腰を折ることを躊躇ってしまう。

「李徴は自分の過ちに気づけてる。でも、まだそれに囚われてる気がするんだよね。それが、僕の友達にそっくりだと思ってね。甘え方を知らない、気の抜き方をしらない結末だと思うんだよ」

 「何が李徴だ。俺が李徴だとでも言いたいのかアイツ」踵を返し柳瀬は自分の教室へ歩みを進めた。渡しそびれた一条の鍵はポケットに入ったまま。
 「むしゃくしゃする」教室へ戻って昼食のカツサンドを口の中に放り込む。

「柳瀬・・・・・・むしゃくしゃしたときは、たくさん美味しいもの食べるに尽きるよ」
「だから、こうやってここのカツサンドを食ってるんじゃねぇか」

 柳瀬の座る席の前の椅子を後ろに向けて対峙する榊。柳瀬の周りはほとんど柳瀬より圧倒的に背格好が似たりよったりで、高身長である。「人よりたくさん食べてるのに、背が伸びないのはちょっと難儀だよね」こうして悪態をつけるだけの間柄で、柳瀬は校内で唯一つるむ友人だ。

「お前・・・・・・背が低いやつ全員にいいそうなこと言ってんじゃねぇよ、センスの欠片もない。ましてや、背が高くなって誰かに好かれたいとかないから、身長はマジでどうでもいい」
「ええ、柳瀬は難しいやつだなぁ、そんなこと細かいこと言って」
「――俺は」
「あーはいはい、ごめんね、俺が悪かったよ。お詫びに帰りに何か奢るからさ」

 「柳瀬がそうなったのは、柳瀬のせいじゃないからね、絶対。だから、俺を信用できないのも、人間が嫌いなのも、絶対、柳瀬がなりたくてなったんじゃないって分かってるから」視線を合わせない。

「ジョイプル」
「え」
「だから、ジョイプルでいい」
「あ、そうだね、放課後行こう」
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