心、買います

ゴンザレス

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1章

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 週明けの昼休みはどのクラスも気だるげな生徒が蔓延っている。
 昨日までの楽しい休日から現実に引き戻されたことに現実逃避でもしている者が多い中、榊は華の金曜日のようなテンションで「唐揚げどうだった?」と聞いてくる。

「・・・・・・うまかったよ。米のおかわり5杯もして米びつの米の消費に貢献してやった」
「そ、そりゃ大貢献だ。いつも思うけど、バケモンだよな。その食いっぷり」

 昼時にパンを買い込んで、それを全て食べしまおうというのだから榊の頬の引きつり方も尋常ではない。

「柳瀬」
「うぉ、一条どうした」

 窓側に座る柳瀬を見下ろし声をかけた後、弁当を差し出した。

「僕の予想通り、またパンを大量に買って。どうせ、パンなんかお腹にたまらないですぐ空腹になっちゃうんだから、僕の作った弁当でも食べな」
 
 周囲の声に榊が反応して、地獄耳を持ったつもりで傾聴する。不良と生徒会長という相容れない肩書きから、力関係をどう捉えているのかを知るためだ。
 柳瀬は、幾秒かの沈黙を作った後、悩んだふりができたところで、あくまで仕方ない、と言った風で受け取った。

 それに気を良くして、にんまりと微笑えめば、さらに周囲からの奇々怪々とした視線が突き刺さる。それもそのはずで、カースト制度を撤廃したのは去年の終わり頃で、同学年や上級生は忌まわしい過去がしっかりと根付いている。表面上は生徒同士の歪み合いがなくなり、自由な学校へと変身を遂げた。
 しかし、ヒエラルキーの上位にいた者たちは上位である報奨がなくなり、下位の人間と同等としか見てもらえなくなるのだ。ただでさえ、不良というジャンルの人間は、世間一般的にも疎まれやすい。そこに高慢なヒエラルキー上位の人間が強制的に下位の人間と同じ立場にさせられたのだから、不良に対しては如実に嫌悪や排他的な視線を送ってくる。

 居心地の悪さを訴えない柳瀬を見ながら、榊は一条を一瞥した。

「・・・・・・柳瀬、それ返すのいつでもいいから」

 「柳瀬、5時間目サボろう。それもって屋上で食べよう」榊は周りに高圧的な視線を飛ばして威嚇する。

「榊、そこまでしなくて大丈夫だ。俺は打たれ強い。というかこういう見た目していればそうなるって分かってやってんだから、自業自得だ」
「・・・・・・かもしれないけど、不良みたいな無害な少年にも向ける視線かな、アレ」
「ふっ、お前何で俺と友達やってんのってくらい、おかんだな」

 「分かった、5時間目の授業の分は俺が責任持って理解してお前に教えてやる。ほら、行くぞ」男性用のドデカイ弁当を片手に席を立つ。一条が去ると何事もなかったかのように、会話も視線も散り散りになった教室を出る。

 屋上で昼飯を再開し、弁当をつつく。
 「んぅま」この一言を発してから、米が半分に減るまで、柳瀬から言葉を発することはなかった。
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