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1章
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「・・・・・・い、いや、俺こそすまん。出来が悪いのがいけねぇはずなのに、八つ当たりしちまった。はぁ、一条、俺も下位なんだから、疑われてもおかしくないんだぞ」
「あ、そうでしたね。全く視野に入れてませんでした」
盲点だったと言わんばかりにいってのける。
「じゃあ、立野君、図書券の贈与はあと1週間見送りにして、四月一日先生にミスがあったことを伝えてくれ」
「――了解です」
「大倉先輩は、これからちょっと残っていただけますね?」
大倉は頷き、他の役員を解散させた。
二人の空間になってから、大倉の隣に座り直す。「大倉先輩、改めて謝罪をさせてください」。
「ああ、もういいさ。ちょっと、いや、めちゃくちゃトラウマ残ってて、まだ怖いけど」
「僕がその状況を見てきたのに、一番してはいけないミスをしました」
「・・・・・・俺がもっと心が強ければ、なんてことないミスさ」
「いいえ、それがそうでもないんですよ。僕、ミスに気づいてから職員室に駆け込んだんですが、その道中で項垂れる人を何人も見かけました。去年までの圧政をよく知る学年でしょう。・・・・・・僕は何も知らないところから歯向かったので傷はそう深くない。けれど、先輩方のやつれ方が尋常じゃなかったのは今でも脳裏にしっかりと焼き付いているんです」
「だから、あの状況で強くいられる人はどこにもいなかったんです」大倉の背中をさする。
「柳瀬のことを理解して応援してくれる、懐の広い先輩が安心して学校に来られるよう、これからも尽力します。どうか、僕をこれからも信用・・・・・・していてください」
大倉はえずきながら涙を流した。
「柳瀬!!」教室にスライディングする勢いで駆け込むが、そこはもぬけの殻である。息を整える余裕ができてしまい、ゆっくりと柳瀬の席に向かった。
その席だけ椅子が引いてあって、使用感の残ったまま帰ったようだ。
ただでさえ、怨恨の念さえ感じる引き裂き方をした成績表の対応に追われ、大倉のフォローにも時間を費やした。決して怠ってはならない謝罪を丁寧にやっていたために、気づけば17時を回っていたのだ。
単純計算でも4時間は待たせてしまっている。柳瀬が律儀に待っていくれているわけがない。
こういう時、思わずため息をついて、会長である任を解かれたいと願ってしまう。
スマホを確認すれば、柳瀬と別れて30分経った時間に通知がひとつ。「先に帰ってる」。
後ろの席ゆえに、ほぼ全ての机の中には明日からの本格的な授業のために、教科書を置いていっている席ばかりだ。それに比べて、一条の座る席の中に手を突っ込んでみてもスッカラカンである。
これは、明日も空なのだろう。
夕刻を知らせる烏が落ちた気分をより感傷的にさせる。マンション付近になり、一条の階で誰かが腕組みをしている。鍵を忘れて締め出された状態のようだった。
然程気にもとめず、エントランスを潜り自分の階まで登ると、腕組みした男が顔を上げる。
「おせぇ。腹減りすぎた」
「柳瀬・・・・・・」
「膝枕してやったんだから、絶対飯タカるって決めてんだよ。これから食いに行くの面倒だからこのままここで飯を食わせろ。んで、泊まらせろ」
(柳瀬がお願いした・・・・・・! お願い、泊めてって!)
フィルター補正が効きまくって、もはや少女漫画の潤んだ瞳だ。
「遅れたことは謝んなくていいから。帰りに貼り出されたアレがなくなってたから、それ関連で動いているんだろうと思ってた」察しが良く気持ちを汲んでくれた。
「あ、そうでしたね。全く視野に入れてませんでした」
盲点だったと言わんばかりにいってのける。
「じゃあ、立野君、図書券の贈与はあと1週間見送りにして、四月一日先生にミスがあったことを伝えてくれ」
「――了解です」
「大倉先輩は、これからちょっと残っていただけますね?」
大倉は頷き、他の役員を解散させた。
二人の空間になってから、大倉の隣に座り直す。「大倉先輩、改めて謝罪をさせてください」。
「ああ、もういいさ。ちょっと、いや、めちゃくちゃトラウマ残ってて、まだ怖いけど」
「僕がその状況を見てきたのに、一番してはいけないミスをしました」
「・・・・・・俺がもっと心が強ければ、なんてことないミスさ」
「いいえ、それがそうでもないんですよ。僕、ミスに気づいてから職員室に駆け込んだんですが、その道中で項垂れる人を何人も見かけました。去年までの圧政をよく知る学年でしょう。・・・・・・僕は何も知らないところから歯向かったので傷はそう深くない。けれど、先輩方のやつれ方が尋常じゃなかったのは今でも脳裏にしっかりと焼き付いているんです」
「だから、あの状況で強くいられる人はどこにもいなかったんです」大倉の背中をさする。
「柳瀬のことを理解して応援してくれる、懐の広い先輩が安心して学校に来られるよう、これからも尽力します。どうか、僕をこれからも信用・・・・・・していてください」
大倉はえずきながら涙を流した。
「柳瀬!!」教室にスライディングする勢いで駆け込むが、そこはもぬけの殻である。息を整える余裕ができてしまい、ゆっくりと柳瀬の席に向かった。
その席だけ椅子が引いてあって、使用感の残ったまま帰ったようだ。
ただでさえ、怨恨の念さえ感じる引き裂き方をした成績表の対応に追われ、大倉のフォローにも時間を費やした。決して怠ってはならない謝罪を丁寧にやっていたために、気づけば17時を回っていたのだ。
単純計算でも4時間は待たせてしまっている。柳瀬が律儀に待っていくれているわけがない。
こういう時、思わずため息をついて、会長である任を解かれたいと願ってしまう。
スマホを確認すれば、柳瀬と別れて30分経った時間に通知がひとつ。「先に帰ってる」。
後ろの席ゆえに、ほぼ全ての机の中には明日からの本格的な授業のために、教科書を置いていっている席ばかりだ。それに比べて、一条の座る席の中に手を突っ込んでみてもスッカラカンである。
これは、明日も空なのだろう。
夕刻を知らせる烏が落ちた気分をより感傷的にさせる。マンション付近になり、一条の階で誰かが腕組みをしている。鍵を忘れて締め出された状態のようだった。
然程気にもとめず、エントランスを潜り自分の階まで登ると、腕組みした男が顔を上げる。
「おせぇ。腹減りすぎた」
「柳瀬・・・・・・」
「膝枕してやったんだから、絶対飯タカるって決めてんだよ。これから食いに行くの面倒だからこのままここで飯を食わせろ。んで、泊まらせろ」
(柳瀬がお願いした・・・・・・! お願い、泊めてって!)
フィルター補正が効きまくって、もはや少女漫画の潤んだ瞳だ。
「遅れたことは謝んなくていいから。帰りに貼り出されたアレがなくなってたから、それ関連で動いているんだろうと思ってた」察しが良く気持ちを汲んでくれた。
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