アヤ取り

ゴンザレス

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「昼間から悪いな。俺も昇進だが、コイツも昇進したことだし、ジュースの一つでもついでやってくれねぇか」

 ホステスたちは始業前でも快く店内に案内してくれる。鴬にはありがた迷惑としか思えない。

(仁作まで、爺さんのように僕をいつまでも子供扱いするなんてこと……ないよね?)

 テーブルに仁作と鴬。その周りに仁作目当てのキャバ嬢が、今度こそと詰め寄る。
 すると、後ろから極悪な雰囲気を纏った男が来店したようだ。ボーイがしどろもどろの案内で、店内が若干凍りついた。
 そもそもまだこの時間は始業前のはずで、店内に関係者以外が来店してくる神経の持ち主は鴬の知る限り、アイツくらいだ。

「おうおうおうおう。自分んとこのシマだからって、そんな特権使っちまって良いのかぁ?」

 鴬と仁作はこの声の主を知っている。とくに、鴬は声の主が大嫌いだ。それは互いに同意するだろうと分かるくらいに犬猿の仲である。

「剛。お前も始業前どころか、他所の組のシマに無断で立ち行ってる無神経さは相変わらずだな」

 どっかりとキャバ嬢の隣に座り込んだ剛。仁作と然程変わらない体格で、憎さ倍増だ。

「なぁに、今更じゃねぇか仁作よ。今日はお前が若頭に就任したって風の噂を聞きつけて来たんだよ」

 「ネェちゃん、此処の一番高ぇの、今は始業前で開けられんだろうから、今度コイツが来たら開けてやってくれ。昇格祝いだ」剛が鴬を蔑ろにしていう。

「なんだ、気前がいいな」
「俺もつい最近、お前と同じポストについたしな」
「おお!! お前もか!!」
「俺はもともと獅子王の爺さんの跡取りだからよ」
「じゃあ、仁作と違って、将来のポストが約束されてたんじゃないですか。別におめでたいとかなくない? それに同級生ってんなら、就任時期が被るのも頷けるし」

 鴬が剛に白い目を向け、仁作を暗に持ち上げる。

 常盤組の家系図でいえば、仁作は養子縁組を組んでいるとはいえ、血の繋がらない兄弟だ。一方、獅子王組の剛は鴬と同じ会長の孫である。血の繋がった直系の孫が若頭に就任するのは想像に難くない。

 そして、獅子王組といえば、「実力至上主義」で有名だ。くわえて、絶対的な縦社会を形成しており、あそこだけ国籍が違うかのように治安が悪い。「実力」と「縦社会」という相反する2つが混在しているため、成り上がることは難しい上に、実力のないものはあっという間に切り捨てられる。

 故に、獅子王組の内部で暴力沙汰は日常茶飯事だ。

 それを揉み消せるだけの大所帯で、獅子王組を筆頭としたピラミッドは常盤組より遥かに巨大である。
 だから、巨大にする必要があったのだが、今では数多の組が獅子王の傘下に入っているので、小さなボヤくらいではトップは中々現れない氷山の一角だ。警察側からするなら、蜥蜴の尻尾取り程度にかならないため、「厄介者」として獅子王組に関連するチンピラ共を検挙していることだろう。

 まさに一昔前の極道の正統派を行く「常盤組」と、現代の極道の正統派を行く「獅子王組」とに二極化している。
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